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学園迷宮で会いましょう  作者: 夜行
第1章
13/109

12、パーティは進むよ、どこまでも




 2階の罠で最初の広間に強制転送された三人は、もくもくと迷宮を潜っていた。

 もう二度とでっぱりに惑わされたりしないと心に誓った効果なのか、あれ以来、二度ほど出くわした宝箱の中身は、至って普通のポーションと毒消しだ。


 粛々と進む内、階層が深くなるごとに新しい魔物も出現。

 戦闘回数も増え、三人は何度もゴブリンと巨大蛙と大口鼠と麻痺効果のある胞子を飛ばす動き回る茸と戦った。

 蛙は単体で出現するので、前回と同じ方法で倒したが、5階層から出現するようになった麻痺胞子茸については、初戦闘時、杖で殴った際に飛び散った胞子でオーリアスがうっかり戦闘不能に陥る。

 慌ててグレゴリーにオーリアスを守らせ、マリエルがちまちまと茎の部分を刻んでなんとか事なきを得たが、冷や汗をかいたのは間違いない。

 時間はかかるが、茎の部分だけを攻撃すれば胞子は飛ばないということがわかったので、以後の戦闘は割と楽にはなった。麻痺効果も軽く、少し休んだだけで回復した。


 ちなみに6階では、小部屋の天井から紐、という、遊び心をくすぐられるものに遭遇。

 しかし、でっぱりを押したことによって齎された苦い経験から、三人はそっと小部屋の外へ出て、この(トラップ)を回避した。


「……引かないぞ。おれは絶対に、引っ張ったりしない」

「わかってますよ、そんな力説しなくても」


 紐を睨みつけるオーリアスに、マリエルとグレゴリーは顔を見合わせる。

 この紐を引いたからといってまたあんな罠が発動するとは思わないが、危ない橋は渡らないにこしたことはない。


「よっぽど悔しかったんですね、オーリ」

「見ただろ!? ルーヴの奴爆笑してたぞ!」

「オレノ担任モ、笑ッテタ……」

「わたしの担任のガランド先生も笑ってましたよ」


 悔しさが再燃したらしい撲殺魔女を、まあまあと宥め、ほんの少しばかり、引っ張ってみたかったという気持ちを抱きながら進んだ7階層に到達してすぐ、醜犬族(コボルト)の集団に襲われた。

 少し時間はかかったものの、盾で守りながら魔法で先制し、動きが鈍ったところで撲殺、惨殺するといういつものパターンで乗り越える。


 ちょこちょことこまめにポーションを使い、時にマリエルの治癒魔法で手当てされつつ、やっとここまで来たが、怪我は治癒できても装備品は直せないので、さすがに武器も防具もくたびれた感がある。ここに来るまでに幾つかのパーティとすれ違ったが、皆かなりぼろぼろになっていたから、三人はここまでかなり上手く進んできている方だろう。


 8階に到達すると、グレゴリーの天敵、二つ目玉(アイズ)の集団がわらわらと出てきたが、三人は危なげなく戦いを進め、ふよんと宙に浮かんでいる最後の目玉と視線を合わせないようにして殴り落としたオーリアスは、ほっと息をついた。


「オレ、催眠カカラナイ。コレ、凄イ!」

「しばらく鑑定してもらうの忘れてたけどな」

「ちょうどグレゴリーくんと会って、そのごたごたで完全に頭から飛んでましたもんね」

「思い出して本当によかった……」


 8階に来てからというもの二つ目玉ばかりが湧くので、思い出さなかったらどうなっていたことか、とオーリアスとマリエルはぞっとする。

 実習の真っ只中、やっとのことで8階までたどり着いた挙句に、またよいよい踊りだされてしまったら泣くに泣けない。

 二つ目玉の催眠攻撃という魔の手からグレゴリーを守ることができたのは、偏にアイテム『魔狼の牙』のおかげだ。

 

 グレゴリーが首からかけているペンダントの先の牙。

 それは二人がいつぞや、迷宮の宝箱から見つけた牙だった。

 手に入れてすぐ、グレゴリーと出会い、その後のごたごたで数日すっかり存在を忘れていたのだが、いざ鑑定してもらうとこれがなかなか役に立つアイテムだった。


 ジョブによる装備制限は特に無く、装備すると魔法耐性が上がるというこのアイテム。

 正直、魔女も僧侶も魔法耐性が高いし、二人には特に必要ない。だがグレゴリーには必須のアイテムだった。

 なぜなら、グレゴリーに見せてもらったステータスカードの魔法耐性値は、なんとほぼゼロ。

 この数値ならあのかかりやすさも納得だと戦慄した二人は、いそいそとグレゴリーに牙を装備させ、二つ目玉と戦ってみた。結果、普通より少しかかりやすい、くらいまで耐性が上がったことを確認できたので、実習にももちろん装備させて挑んだのだ。

 それも念の為、二つ目玉に遭遇したらグレゴリーは守備に専念、距離をとってなるべく全体を見る事によって視線が合う確立を減らしての戦闘だ。

 これを手に入れていなければ、とっくにグレゴリーは踊りだし、三人はクリスタルを使うはめになっていたことだろう。


「そういえば、悲鳴があまり聞こえなくなりましたね」


 一度強制帰還罠に嵌まって広間まで戻るはめになったが、あの時、広間にはけっこうな数のパーティがいた。

 全部が同じような罠で飛ばされてきたとは考えづらいから、あのパーティたちはすでにクリスタルを一つ消費している可能性が高い。

 その調子でクリスタルを消費すれば、すぐにパーティメンバー分を使いきってしまうはずだ。

 オーリアスたちがたまたま上手くここまできているのだとすれば、8階層までたどり着いているパーティの数は、思ったよりも少ないことになる。

 6階層まではぼつぼつ自分たち以外のパーティも見かけたのだが。


「一番進んでるパーティって今どこなんでしょうね?」

「まさかもう10階まで行ってはいないと思うけどな」

「オレタチ、一度戻ッタ」


 時間をロスしていることは確かなので、なんともいえない。


「悪くない位置にいるとは思うけどな」


 時間を無駄にできないので、さっと落ちたアイテムを拾い、歩き出す。

 次は9階、新手の魔物が出てきてもおかしくない。

 気を引き締めて進んでいく三人の耳に、段々聞きなれてきている悲鳴が聞こえた。


「うわあぁっ!?」

「ダニイィィル!」

「うわー!? ダニールが落ちたぁ!」

「う、嘘だろ……どうすんだよ!?」


 近い。

 今まで他のパーティがアレなことになっている現場に出くわさなかったので、彼らがどんな事態に陥って悲鳴をあげているのか知る由もなかったが、今回の悲鳴はとても近い。

 このまま進むと、恐らく現場に出くわすはずだ。


 顔を見合わせて進んだ三人の前に、小部屋、そして立ち尽くす男子生徒が三人現れた。



 

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