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泣き虫だった君に


  6


「あ、ちょっと、博明!」

 俺が呼び止めたのも聞かずに、博明は部屋を出て行ってしまった。階段を駆け下りる音がする。

「ああもう…」

 俺の為なんだとは思う。確かに俺は美桜に謝りたいし、最期にちゃんと話したい。でも―。

「…まだそこにいるのか? 陸人」

と満流が言った。携帯越しに俺は答える。

「…ああ」

「行かないのか? 博明、呼んでるぞ」

「…満流」

「ん?」

「なんで、幽霊っていうものが存在するのか…、お前はどう思う」

「…この世に未練があるから」

「…そうだよな」

 陸人ー、と博明が呼んでいる声がした。すぐ行くからと言ってから、俺はまた満流のほうを向いた。

「…俺の未練っていうのは美桜に謝れなかったこと。だから俺は、死んだけどここにいる。でも、未練がなくなったら、その幽霊が存在する理由はなくなるんじゃないか?」

 満流は、俺の言いたいことがわかったらしい。

「それって…」

「美桜に会えたら、俺はきっと消える。」



 迷っていた。


 陸人に会って、満流としゃべって。


 生きていた頃と同じように過ごして、



 まだここにいたいと思い始めていた。



「この携帯も俺と同じように幽霊なら、俺が何かを食べなくても存在していられるのと同じように、こいつも充電しなくてもいつまでも使えるんだろう。それなら、きっとまたいつでもみんなと話せる。俺が消えない限りは」

「…そうだな」

「お前はどう思う」

 満流は息をのんだ。

 わかっている。こんなこと満流に聞いちゃいけないと。

 泣き虫で寂しがり屋の満流が、俺に消えてほしいなんて言うはずがないから。

 


 俺は今博明を裏切って、


 満流に甘えようとしている。



「満流…」


「だめだよ」


 強い答えだった。


 俺ははっとして満流を見た。


「だめだろ、そんなこと…陸人自身が決めなきゃ。佐倉に会うことが、お前の最期の望みなんだろ? 最期の望みを捨ててこのまま居続けるのか、それを叶えて…いなくなるのか…それはお前以外の誰にも決められないよ」

 満流は泣きそうだったけど、泣いてはいなかった。

「満流、お前さ…」

「ん?」

「…いつの間にそんな強くなったんだ?」

「な…っ!」

 顔が真っ赤になっている。おかしい。

「やっぱお前ツンデレだな」

「ツンデレゆーな!」

 ははは、と俺は笑った。

 まさかこの世にいる間に、こいつに諭される日が来るとは…もう生きてはいなかったけど、そう思った。

「陸人ー! どうしたのー?」

「あーすぐ行くー」

 さすがにこれ以上博明を待たせるわけにはいかないか。

「じゃ、満流。俺行くわ」

「ああ…わかった。俺は一緒に行っても仕方ないよな。何もできないし」

「…そうだな」

「電話、切るよ」

「うん。…今までありがとな、満流」

 満流は電話を切った。たぶん、最後の言葉は聞こえただろう。長くはないけど、一番伝えたかった言葉。

 ありがとう。

 振り返ったら、後ろから声をかけられた。

「陸人、お前には、今も俺の声が聞こえてるんだよな。

 今までありがとう。

 でも、陸人。

 お前が佐倉に一番言いたい言葉は、本当は謝罪の言葉じゃないんだろ?」



 …さすが幼馴染。

 考えてることはお見通しか。


「…さよなら陸人」

「…さよなら」


 本人には聞こえてないはずだけど、俺は最後にそう言った。



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