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届いた声


 3


 一人にさせて、と陸人は言った。

 彼も、今どこかで一人で泣いているのだろうか。




 泣きやんでからも、僕はそこから動かなかった。動きたくなかったし、陸人を待っていなければと思ったから。

 でも、陸人が戻って来てからどうすればいいのかは、わからなかった。

 本当にどうしたらいいんだろう。

 そう思ってため息をついたとき、



「おい博明」



 びっくりしてぱっと顔を上げた。

「陸人!」

「待たせたな」


 陸人は―笑ってそう言った。


「陸人、僕…」

「あ、悪いけど、先にここ出ようぜ。なんか病院っているだけで気がめいってさあ…。お前だってもう話すこと話したんだろ?」

「う、うん」

 話すことと言っても、陸人から聞いた話はしゃべるわけにはいかないので、歩いていたら友達が倒れていた、としか言っていない。連絡先も聞かれたが、陸人が携帯電話を持っていたらしくて、僕に聞いたのは確認程度、という感じだった。

「あ、でも、陸人の家の人とか来たとき、僕がいないとまずいんじゃないか? やっぱりいろいろ聞かれるだろうし」

「あー大丈夫。今俺の家族海外旅行中だから。連絡受けてもすぐには帰って来れないよ」

「そっか…」

 自分達がいない間に家族が亡くなるなんて―と、また暗いくなりそうになったが、

「とりあえず行こうぜ」

と陸人が歩き出してしまったので、とりあえず今は考えないことにした。

 一度、死んだ陸人がいる部屋を振り返って、僕も歩き出した。




「陸人、どうするんだよこれから」

「どーするかねえ…」

 僕らは今、とりあえず僕の家のある方向へ歩いている。最初にどこかへ行こうと言い出したのは陸人だったが、特に行きたい場所はなかったらしい。

 よく知っている道を、ゆっくりと進んでいた。

「んー…どーしよーか」

「何かないの? あ、その、ぶつかったバイク探すとか」

「探すって言っても、特に特徴なかったしなあ、あのバイク。つか、あんまり興味ないわ」

「え…そうなの?」

「ああ。それよか、しなきゃいけないことがあるから」

「しなきゃいけないこと?」

「だからお前にも協力してもらいたいんだけど…って、おい博明」

「何?」

「周りから変な目で見られてるぞ」

 はっとして辺りを見回した。いつの間にか僕らは近所の商店街に来ていて、周りには人がいっぱいいた。今陸人が僕にしか見えていないのだということをすっかり忘れていた。すれ違う人々が、僕のことをチラチラと見ては知らないふりをして通り過ぎていく。完全に変な人扱いだ。

 失敗したな、と僕は少し小さくなった。

「博明、お前携帯持ってるか?」

と、陸人が聞いてきた。僕はそれに、なるべく小さな声で、しかもなるべく口を動かさないようにして答えた。

「持ってない」

「そっか、さっきもおばさんに救急車呼んでもらってたもんな」

 そう、僕はクラスで唯一の、携帯電話を未だに持っていない中学生だったのだ。けれども、この春休み中に親に買ってもらう予定になっている。いわゆる高校デビューというやつだ。

「でも…それがどうかしたの」

「いや、前に読んだ本でさあ、小説なんだけど、主人公が幽霊の女の子としゃべるときにさ、携帯使ってたんだよ」

「…なんで?」

「ほら、周りからは電話の相手と話してるように見えるだろ」

 なるほど、と僕は感心した。早めに携帯買っておけばよかったな。

 すると、陸人が服のポケットから携帯電話を取り出した。

「持ってたほうが便利だと思うぞ。…あ、死んでも携帯って使えるんだ」

「え? ほんと?」

「メールとかちゃんと読めるぜ。携帯も幽霊になったってことなのかな…。ふーん、変なの」

 陸人は携帯をいじり始めた。

 携帯電話も幽霊…じゃあ本当の、というか本体の携帯電話は、陸人のポケットの中で壊れてしまったのだろうか。

 と、急に陸人は、どこかに電話をかけ始めた。

「ちょ、陸人?」

「実験実験。繋がったらすごくない?…あれ?」

「どうしたの? 陸人?」

「ちょっと待って。

 なあ、満流? 満流だよな? お前、俺の声聞こえてんの?」

 ミツル…?

 思い出した。

 井本満流。違うクラスだったけど、今年卒業した生徒の中に、その名前があった。全然接点はなかったけど、陸人はこの子と知り合いだったんだ…。


 じゃなくて、


 通じてる? その子の電話と、この電話が―?



「博明! 今から満流ん家行くぞ!」

「え? で、でも僕その子としゃべったことない…」

「大丈夫、博明も一緒に行くって言ってあるから! もしかしたらあいつも俺のこと見えるのかもしれない」

 そう言って陸人は走り出した。

 なんだか今日はよく走る日だ。暑いのに…。

 でも僕は陸人について走っていった。


 だって、もしかしたら今度こそ、陸人の助けになれるかもしれないから。




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