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腐っても16歳のうら若き乙女



 ゴクリ、と私の喉が鳴った。決して美味そうな物を目の前にしたとか、そういった類では無い。恐怖に慄いた生理的現象が発動した結果である。


 私の手が止まったままなのを、男とカバ子が気付いたようだ。くぅ、視線が痛い。食べたく無い。食べたくは無いのだが、断れる雰囲気ではない。そんな状況を作り出してしまった自分と世界を呪いながら私は覚悟を決めて、水草をフォークで巻き取った。女は度胸ですよ。


 大丈夫、大丈夫。根拠は無いけど、きっと美味しいよ?カバ子があれだけ美味そうに食べてたじゃないか。ダイジョウブダヨー、ウマイニキマッテルヨー。コレ、オイシイヨー。

可能な限りの自己洗脳を施し、自分を騙しながら口元に運ぶが、コツンとフォークが兜に当たる。すっかりまるっと忘れていたが、今の今までずっと勇者の鎧を装着しっぱなしだった。


 頭の先から爪先まで漆黒のプレートアーマーで覆われていた私は、町では随分浮いていた事だろう。不審者扱いされても仕方なかったんだな、と今更に納得した。テヘペロ♪トカゲ男サン、ゴメンネ~☆

 おっと、思考が逸れてしまった。決意が鈍らないうちに兜をずらして、下からフォークを差し込む。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おぇ。」


 正直、薄々感づいていたよ。

 ヌメヌメして、生臭くて、不味い。苔の生えた沼の水?みたいな味がする。やっぱり人間の食べ物じゃありません、ありがとうございます。

喉の奥からせり上げてくるモノをなんとか堪えつつ、私は水を求めて首を回した。飲み込めないよ、水無しで。このままでは辛い。とても、辛い。


 丁度いいタイミングで、私の横を通っているウエイトレスのトレーに、水が入ったグラスが乗っているのを発見して手を伸ばした。誰のかは知らないが、こっちの方が緊急にヤバイ状態なのだ。いや、本当に切実ですから。

 ひょいっとグラスを掴むと、中身を一気に飲み干した。


「ちょっと、それっ!!!」


 鷹娘が非難の声を上げたが、すでに遅い。私は飲み干したものが純度の高い酒である事を身をもって体験し、悶えている最中である。胃と喉が焼けるように熱く、アルコールの独特の匂いが鼻に付いた。苦しさに喉を押さえ、片手でバンバンとテーブルを渾身の力を込めて叩く。


「・・・・何!?まさか、毒!!?」


 カバ子が、私の急な荒ぶり具合に顔色を変えた。その言葉を聞いた鷹娘が、冤罪だとばかりに顔色を変え、首をブンブンと横に振って叫ぶ。


「ちょっ!!・・・ち、違いますよ!!ただのお酒ですよっ!!!」


 ただの酒でも、こちとら大ダメージなんだよぉぉぉぉ!!!

 体力ゲージが赤くなるほどガシガシ消耗してく中で、私は声に鳴らない思いを叫んだ。“お酒は二十歳になってから”のキャッチコピー通り、16歳のチキンで品行の良い私はまだ飲酒という冒険行為に望んだ事がなかったのだ。


 初めての飲酒が、度数の高い酒の一気飲みである。

 急性アルコール中毒にならなかった事は幸いだが、ここで胃の中をブチ撒かない不動の根性を誰か褒めて欲しい。まぁ、そんな行為をすれば被害にモロに遭うのは私なんですけどね。


 気を紛らわす為に叩いていたテーブルが、バキリと鈍い音を立てて二つに割れた。私も驚いたが、回りの客たちも驚いたようだ。ザワザワとしていた店内が一瞬静まり、和やかな雰囲気から一転して剣呑なものになる。が、私にはそんな周囲の出来事は些細でしかない。


「・・・くぁwせdrftgyふじこlp!!!」


 腐っても16歳のうら若き乙女。胃から込み上げてくる不快物を吐き出さないように悶え、ひたすら己自身と戦っていた。心頭滅却すれば、火もまた涼し。落ち着け、落ち着くんだ私よ。心の持ち方一つで、いかなる苦痛も苦痛とは感じられなくなるはずじゃないか。


 無念夢想の境地に立つのだ。・・・立つんだ、私ぃぃぃぃぃぃ!!!


 リングのコーナーで、眼帯をつけたオヤッサンがタオルを片手に私を励ましてくれている。そんな優しさに触れた気が、した。

 私って・・・全く単純なんだな。我ながら、つくづく嫌になったよ・・・。強くなるぜ、オヤッサンの期待に沿えるようにな。力石にも、負けねぇよ!!!!


 脳内のオヤッサンに向かって拳を上げて叫び、私は燃え尽きたように意識を手放した。




誤字脱字があれば、申し訳ないです。

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