俺のターンで、最初から最後までクライマックス☆
『お~いっ、加奈ちゃん。・・・か~な~ちゃ~ん。』
ふむ、返事が無い・・・ただの屍のようだ。
俺は念の為、鎧を前後にガシャガシャと大きく揺さぶった。中では、ゴンゴンと加奈が頭を打ちつける音が響くものの、ピクリとも動く気配が無い。間違いなく、中で気絶しているようだ。
持ち主が意識を失った場合、鎧の行動権利は魔剣である俺に移行する。・・・まぁ、それを見越してたから、この鎧を薦めたんだけどね。だって、俺が勝手に動きたい時もあるし。
「た、た頼むッ!助けてくれッ!!」
切羽詰った男の声で、俺は竜が現れていた事を思い出した。横に目をやると、竜の爪にでも掠められたのか、肩口から血を流している男が青い顔で身体を震わせていた。木々の後ろに身を隠している数人の男達の姿も、皆同様にボロボロで体力も尽きかけているようだった。
だが、俺は断る。縋りつくような視線が集中しているが、痛くも痒くも無い。
ぶっちゃけ、面倒なんだよ。小汚い男共を助けて、俺に何のメリットがある?そうだろ?・・・だって、巨乳で可愛い女の子がいない。この際だから、将来が楽しみな幼女でもいい、男装のスレンダー美人でも、獣人の雌でもいい。猫耳とか、兎耳とか・・・・。
とにかく、俺のモチベーションがオッサンじゃぁ、上がらねーんだ☆
「助けて・・・助けて下さいッ!!何でも出来る事ならする!!!」
やる気ゼロの俺の気配を察したのか、男が必死になって喚く。後ろに転がっている男達も、口々に助けを請い始めた。
「何でもしますッ!!助けて下さいッ!!!」
俺は弱々しい男共を見回して、それに答えるかのように力強く頷いてみせる。もちろん、お前らその言葉を忘れるなよ?の意味を込めてだが。
グギャォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――ッ!!!!
今までのやり取りで、俺が殺る気になったのを見計らったかのようなタイミングで竜が咆哮を上げた。意外と空気が読めるヤツらしい。
ビリビリと咆哮が空気を振るわせ、殺気が濃厚な霧のように辺りに広がる。横の男が、絞められた鶏のような悲鳴を上げたのと同時に、俺は竜に向かって走りだした。
『よぉ!こっちの竜は、喋んねーの!?』
頭上から振り下ろされた爪を剣でかわし、俺は竜に向かって怒鳴った。ギョロリと血走った目が俺を映して、獲物を甚振れる悦びに、嬉しそうな光りを湛える。
俺の世界の竜は、喋る。ちなみに、聖なる生き物認定されてて、神の次に偉くて、一人称が「我」とか上から目線の喋り方がイラッとくる存在で・・・・正直、いつかブッ殺してやろうと思ってた。
勇者イジメるな、森林破壊するな、真面目に魔王倒せとか、マジでウザイ!!お前、俺のオカンかよ!?ってぐらいにウザイ。24時間監視してるストーカーだしな。
この世界に召喚された時は、一瞬焦ったけど、置いてきた勇者の事考えたらスゲェ笑いが止まんなかったわ。神とか、聖竜とかマジ焦ってんじゃね?ざまぁ!オカン聖竜、ざまぁ!!
笑いすぎて五月蝿かったのか、召喚したジジイには速攻放置されたな。・・・・あれには、マジで殺意が湧いた。
巨木より太い尻尾が、地面を抉りながら足元を掠める。俺はそれを踏み台にして、勢いよく跳躍した。叩き落とそうと振り上げられた羽根を紙一重でさけ、適度な力で切りつける。
ギャオオオオンッ―――!!!
『あり?・・・・マジで喋れねーの?』
身体を捻って牙を避け、振り向きざまに再び斬りつける。デカイ図体が小さく震え、切り口から血が滴っていく。竜は益々怒りで目を血走らせ、鼻息荒く俺に襲い掛かってきた。
これでも俺は結構手を抜いている。何せ瞬殺とか、場が盛り上がらないだろ?なにせ、俺は世界が認める勇者の剣だからな。そこらの野良竜なんざ、負ける気がしない。
あ~っ、なんだか弱い者イジメみたいになってるな。イジメなんてそんな、楽しく無い・・・・・・・・・わけがないじゃんッ!すげぇ、スッキリ☆
ギャウッ!!ギャオオオンッッ!!!
『何言ってんのか、わかんねーよッ!!』
突き立てた剣に力を入れ、グリッと肉を抉るように水平に薙ぐ。横一線に赤い線が浮かんだと思うと、竜の悲鳴と生暖かい飛沫が散る。
あれほどまでに殺意にギラついていた竜の目に、本能的な恐怖が滲みだすのを感じて、俺は何だか愉快になった。そして同時に、やはり俺は剣であると自覚するわけだ。
鞘に収まっているだけが剣では無い。抜き身の刃で獲物を切り刻む綺羅の一瞬こそ、俺が在るべき姿なのだと。腹の奥底から込み上げてくる感情に、堪らず狂喜乱舞する。
『煩せぇーから、さぁ・・・・・・死ねよ。』
ギャギャォォォォ――――ッ!!
傷だらけの身体を引きずって飛び立とうとした竜の首を、俺は渾身の一撃で刎ね飛ばした。
カッと極限まで目を見開き、涎と血を吐き出した竜の首は、真下にゴロンと転がり落ちてジワジワと紅い血溜まりを広げていく。それから少しの間を置き、首を失った身体はズズンッと地面を揺らし、土埃を上げて派手に倒れ込んだ。
頑張った俺を褒めて欲しい。もちろん、可愛い女の子限定だが。
血で濡れた剣を振り、風圧で汚れを飛ばして鞘に収める。幾分かスッキリした気分で、俺は放心している男の傍までゆっくり歩いた。
「・・・あぁ。」
目の前で起こった事が信じられない、といった表情で男が呻き声を上げる。しかし、近づいてきた俺を確認すると、何度がドモりながらも礼の言葉を口にした。
「・・・あっ、ありがとうございます。お陰で、助かりました。」
木々の後ろで隠れていた他の男達も、竜が事切れた事を確認すると、駆け寄ってきては口々に喋りだした。
「ありがとう!!ありがとう!!」
「信じられないッ!古龍種を、たった一人で倒せるなんてッ!!!」
「どこのギルド所属の方ですか!?護衛とか請け負ってもらえるんですか!?」
「アンタ凄げェ!!マジで凄ぇよ!!!」
「ありがとうございます!!助かりました!!」
「凄い腕じゃァ!!ワシらの商隊の護衛をしてもらえんか!?」
うん、ウザイ☆
血塗れでボロボロのオッサンにハーレムとか。・・・マジ勘弁。
俺は大きく2回手を叩くと、男達の視線をこちらに向けさせた。
『助けたんだから、お金と食べ物と服一式ちょ~だい。』
俺のゴホウビ発言に、男共は一様に「えっ?」という顔をした。うむ、キモイ。
彼らは俺が、「困っている人を助けるのが当たり前ですから。気にしないで下さい。」とか後光を背負って言うとでも、思っていたのだろうか。
見返りもなく人を助けるって、そんな聖人君子で勇者的なヤツなんて普通いないでしょ?・・・・って、あり?俺、確か勇者の剣?だった・・・・ような気がしたな。
『俺>>>【超えられない壁】>>>竜>>>>>>>>>アンタら。・・・この意味わかるよね?』
「・・・・・・はい。」
『あのね、誤解されないように言っとく。恐喝じゃないよwww』
「・・・・・・はい。」
『助けてもらったら、感謝するよね?俺は感謝の言葉よりも、物量で感謝を表してもらいたいだけだよwww』
彼らの目が「そんないい難い事を、サラッと言うなよ・・・。」と訴えていたが、些細な事なのでスルーしておく。俺は両手を前に差し出して、更にアピールしてみた。
剣がチートです。