初めまして異世界☆
作者は初心者です。
「やっぱ無理だったわ・・・。ワシ、頑張ったし。もういいよね?」
目の前のジジイ魔術師は、面倒そうに言い放った。
しかも、全く悪びれた様子など微塵も感じさせ無い横柄な態度で。
「・・・・おまッ!!!!」
怒りで腸が煮えくり返るという経験を、今した。そう、たった今。穏やかな人生で、コレほどまでの怒りを感じた事がなかった。うっかり憤死してしまいそうだ。
あまりの怒りで、目の前がチカチカする。
「ゴラァァァァァァァァァァァ!!!ふざけんn・・・。」
ジジイの胸倉を掴み上げようとした手が、行き場を無くして虚しく空振りする。
ハッとして辺りを見回せば、先ほどの魔術書で埋もれた小汚い部屋ではなく、鬱蒼と覆い茂る森の中だった。クェッ!クェッ!と鳥の声をボンヤリと聞きながら、あまりにも急な展開にポカーンと口を開けたまま、しばらく突っ立った。
『異世界トリップ』という言葉はご存知だろうか。
王道的テンプレだと、『魔王出た!!→勇者呼べ!!→召喚!!→勇者キターッ!!!→世界救って!!』ってヤツですよ。齢16歳にして、若干の中二病を煩っていた私は、この展開に正直胸がトキメキましたよ。ええ、ついに私の時代が・・・とか。
しかし、私が召喚されたのは・・・手違い。と言うか、間違い?イレギュラー?
勇者でもなく、巫女でもなく、神子でもなく、結婚相手でもなく、ただ偶然に召喚されただけでした。えっ、何ソレ的な展開ですよ。呼び出され損ですよ。
そもそも生物が異世界を超えるというのは、魔術的にも不可能らしく、在り得ない事らしいのです。
私を召喚したお爺さんは、ポックリ逝くんじゃないかってぐらい酷く興奮して(性的な意味は無い)召喚とはどういった事なのかを饒舌に語りだした。
元々、私の世界には魔術?が根本的に存在しないので、説明はチンプンカンプンです。物質は粒子になって・・・とか、異世界の壁と時空の壁の違い・・・とか、物質総量転化のなんやら・・・とか。これって拷問ですよ的な演説を召喚されてから3時間、死にたくなるぐらい延々と聞かされましたよ。
もう、頭パーンで意味 ワ カ ラ ナ イ。
すんげぇ長い話を端折ると、思いついた試しにウサギを異世界に転移してみたら、あらビックリ!!なぜか私が召喚された☆との事。
こんな理不尽な状況に置かれても、すぐに行動に出れない日本人の性が恨めしい。やっと私がこの世界に召喚された経緯を理解できた頃には、すっかり怒るタイミングを逃してしまった。
「お前さんの世界の物が欲しい。異世界とやらに興味があっての・・・。」
目の下に隈をつくった爺さんが、玩具に異常に執着する子供のようなギラついた顔でそう言う。
その瞬間、アホな私でも理解しましたよ。
―――この人が欲しくて呼び出したモノは、異世界の有機物ではなく、異世界の無機物なのだと。
戦争を知らない子供で、平和ボケと呼ばれる民族の私といえども、右も左も分からない異世界で何でもかんでも快く「おk!!」とは言えませんとも。
私は、状況によって「だが断る!」と言える日本人なのです。
「まぁ、ケータイとか持ってても使えないし・・・あげますよ。」
私の手にある携帯電話と音楽プレイヤーを、今にも掻っ攫いそうな爺さんに警戒しつつも、念を押すように言葉を付け加えた。
「・・・ただし、条件があります。」
まず、一つ。元の世界に生きたままで帰還させる事。これ大事。
二つ目。この世界にいる間は、衣食住を責任持って面倒見る事。
三つ目。危険な目に遭わせない。この世界での保護者的な役割をする事。
本当に大切な事なので、24回も言ったよ。言って当然の権利だと思うし、何せこっちは被害者です。
繰り返し念を押すように言ったら、爺さんは最後の方はウンザリした顔してた。けど、私も生きるのに必死ですからね。何度でもいいますよ?・・・何度でもね。
そんなワケで、私の異世界ホームステイが始まった。
が、初日から前途多難だった。
「お腹が減ったんですが・・・・。どうしたらいいですか?」
「・・・・・・。」
「台所、勝手に使ってもいいですか?」
「・・・・・・。」
「あの、聞いてます?」
「・・・・・・。」
「トイレって、何処?」
「・・・・・・。」
「寝る場所、何処でもいいの?・・・・・・・・・適当にしとくよ?」
「・・・・・・。」
上記でお分かりいただけただろうか。実際の会話の一部であるが、残りは割愛する。
渡した携帯電話を片手に、爺さんは分厚い本から顔を上げようとしない。いくら私が耳元で怒鳴ろうが、泣こうが喚こうが、全くの無視である。
完全に自分の世界に引きこもった爺さんの背中を見つめ、疲れ果てた私はスゴスゴと引き下がるしかなかった。
のほほん、異世界をスローライフ☆などと思っていた私の目論見は、悲しい現実の前に崩壊した。
お腹が減って台所に行ったのはいいが、食材置き場の中に食べたら死ねそうなキノコとか、謎の液体に漬かった目玉のビン詰めとか、腐ったナニカとかが平然と紛れ込んでいるのだ。
初日は怖くて何も口にせずに過ごす羽目になった。
近所の家にでも救助してもらおうとドアから外を窺うと、明らかに肉食ですよと言わんばかりの牙の生えたポニーっぽい生物が、涎を垂らしながら徘徊していたので、外に出るのを断念。
完全に孤立無援なう。
誤字脱字ありましたらゴメンナサイ。