人生修正パッチって出ないかなとか言ってたらバグだらけだもんねーって笑顔で言われた瞬間、仕様ですって答えるしかなかった自分が今は大好きです!
さてさて、物語も中盤に差し掛かってようやくそれらしい事件が。
アーティファクトには解除制限っていうのがかけられていて、レベルⅠからレベルⅤまであるんだそうです。え?そんなの当初計画にあったのかって?さぁ、どうなんでしょうねぇ。
しつこいくらいですけど、たぶん萌たん×三咲たんが大好きです。二人の掛け合いはなごむように作ってありますが、実際どうなんでしょう。ARTIFACTERではぶっちゃけ、主人公陣最強設定で物語は進むのでそこら辺の掛け合いはないかもしれない?強い主人公が安定しているほうが物語は楽に進むんですねっ!
あー、戦争とか戦いとかない物語を書きたい。とはいえ機械兵装をアーティファクトとしているので武器は戦うためのものなんですよねっ。
さてそんな話はさておき、敬介の妹ラブが加速しています。そして大津が恵美ラブなのに本人はまったく気付かないお約束な状況。むしろ大津×千石の男同士のアツい話が入ってなんだかよーわからん。
収拾つくのか?折り返し地点、です。
二人してリビングに戻ると、恵美が「説明して?」という視線を敬介に投げかけていた。
「千石は公共物連続爆破事件の捜査をお前としたかったけど、昨日解決したからキャンセルしようとしたらしい」
「えー」
恵美が不満そうな声をあげる。準備に時間がかかっているのだろうし、予定が反故されたことによって時間が無駄になってしまったことに不満なのだろう。
「でも別件で調査したいことがあるからって協力して欲しいそうだ」
「別件?」
「うん。俺もニート卒業して一時的に隊長主席とは別行動の調査をすることになったから、恵美と同じ目的になると思うんだ」
敬介がそう言うと恵美が両手を合わせて瞳を輝かせた。
「うわっすごい!無職じゃないの?」
「ああ、一応政府民間共同の第三セクターに配属、そこの課長を務める事になった」
敬介が詳しい事を省きながら恵美に説明する。
「アーティファクト関連…?」
危ない場所なんでしょう?と恵美は先ほどまでの喜んでいた表情を一瞬で曇らせる。
「ああ、心配するな」
「無理だし」
恵美がそっぽを向いて頬を膨らませる。DM現象を調査するという話ならば、あの危険なゴーストや化け物の中を行動する事になる、と聞いて誰が心配しないで居られるだろうか。
「俺はアーティファクトを悪用していたり、人を傷つけるために使っている連中を調査するのがメインになると思う」
「待って、それってどっちにしろ危ないじゃん」
「お前もそれを調査するために千石と手を組んだんだろ。一緒だ。俺はお前が参加することを許可した覚えはない」
「あ、だから萌ちゃんも?」
敬介の先ほどの発言を思い出して恵美が納得する。
「ああ…今日は明雄のところに行ってちょいと千石とさなえを俺の課に配属させてもらうために話を付けて来る。京はさすがにもう定職についてるから勧誘出来ないのが残念なんだけどな」
敬介がそう言うと、恵美が首を傾げる。
「私もお兄ちゃんと一緒に行ける?」
「…」
敬介はそう言いだすだろう、と確信していたことを尋ねられて、恵美の顔を真っ直ぐに見る。
「言っちゃ悪いが、千石やさなえは特別だ。人が死ぬのを目の前で見たりしているし、それで心を痛めないというわけじゃなくても、それなりに覚悟は出来ている人間だ。萌だってそうだ。俺は出来れば恵美にそんな目に会ってほしくないし、危険な目に合わせたいと思う兄でもない」
敬介が本音を言うと、恵美は「そっか」と複雑そうな顔をした。
心配してくれるのは嬉しいが、自分だけ蚊帳の外に居る様な気がして恵美は素直に喜べなかった。
「俺の課はチームとしては前衛的なチームになる。十三機関十三課、特捜クルセイダーズはアーティファクターやその他の脅威に対して直接的な手段で応じることが多々あるはずだ」
「その他?」
恵美が首を傾げると、敬介は言うべきか迷う。
恵美を信頼していないわけではない。恵美は余計な事は口にしないということも知っている。
「第三セクター十三機関はDM現象に対応を特化している組織で…その八課…隊長主席率いるセイントナイツ隊の二番隊、六番隊が有能だが危険思想を持っている傾向がある。それの抑止も兼ねている。人間対人間、しかもアーティファクトを使った戦闘行為に発展する可能性もある。俺はお前を…人と殺し合うような真似はさせたくない」
敬介が正直に言うと、恵美は愕然とした表情をしていた。
なんと言葉をかけていいかわかっていないような、そんな顔。
思想が違って武器を持てば、人は必ず争う。
人の命は思想よりも重たくはなかった。その現実を生きている人間の何割が知る事になろうか。敬介はそれを思うと、恵美が直面している事実は重た過ぎる様な気がした。
「私もアーティファクターなら…出来ることしたい」
「俺はお前に人を傷つけるためにアーティファクトを渡したわけじゃない。俺はお前が…お前自身を守るための盾として武器を渡したつもりだった…」
だが…所詮武器は盾には成り得ない。武器は所詮武器で盾には成り得ないことを承知の上での言葉に恵美はそれを真っ直ぐ受け取ってくれた。
それでも人間はやはり…愚直すぎるのだろう。
「私、協力したい」
恵美の言葉に敬介は「そう来るよなぁ」と呟く。恵美は読まれていたと思いながらも、敬介がそれくらい先読みできない人間ではない事を知っていて、敬介の次の言葉を待つ。
しばらくの沈黙。
互いに視線を下にして、顔を見ない。
戦力として恵美を評価するなら、今後の働きに十分期待できる上に現段階でも十分通用出来るだろう。ただ…家族としてそれを認めていいのだろうか。戦闘に参加するなと、家族だからと特別扱いするわけにもいかない。
揺れた。
激しく揺れる心情に敬介が戸惑う。
DM現象に対して人であることを忘れたはずだった。
それなのにどうしてここまで恵美一人で揺れるのか…。
「私、エリア指定されて気付いた。みんな不安なんだよ。自分の家が、家族がいなくなるんじゃないかって思って不安なんだ」
大津の父親が息子を探した。自分を犠牲にしてまで探し回っていた。
あの日学校に残った生徒を迎えに来た両親が自分たちの子供を見て喜び、被害に会った子供の両親は泣き崩れていた。
誰かが悲しんでしまうような世界だった。
だからこそ恵美は、誰も悲しまないように少しでも誰かのためになりたいと思った。
力があるのだから、そうしたかった。
「お兄ちゃん、家族っていいよね。だから私はたった一人の家族まで失いたくないんだ」
「…俺もそうだ」
敬介もそう思っていた。
恵美は敬介を思うとじっとしていられないのだろうし、敬介も恵美を思うと危ない事をさせたくはなかった。
「安全じゃないんだよ、どこも…」
今すぐに出せる答えじゃないのかもしれない…。
恵美はそう思うと立ち上がった。
「考えておいて。私は自分だけでも行動するから…」
「ふざけるなっ」
敬介が思わず力いっぱいテーブルを叩くと、恵美がびくっと肩を震わせた。
「独善的な行動をしてもお前が持っているのは武器なんだ!個人の正義は通用しないっ!」
「お兄ちゃんが独善的じゃないかっ」
恵美が叫んだ声がかすれている。
「私だって…私だって悩んで出した答えなんだっ!お兄ちゃんが私を心配してくれるのは嬉しいけど!それが正しい事だなんて思えない!」
「なんだって…?」
敬介が面食らった様にソファに深く座り、恵美はリビングのドアに手をかける。
「今まで隠してたんでしょ…。私に心配させないように、危ない事してたの。ニートだって言って夜出て行って、遊んで帰って来たふりしてさ。証券取引の通知書が郵便物に入ってた。あれだって生活費稼いでたんでしょ。お父さんもお母さんもいないのに、私がこんな自由に生活出来たのだって…お兄ちゃんががんばったてたんじゃない」
恵美の震える声に返す言葉が見つからなかった。先ほどまで威勢よくまくしたてていた恵美の声がだんだん弱くなり、今にも泣きそうになった。
「私だって子供じゃないんだ。気付かないわけがないんだ。だけどなんて言えばいいの?これからもよろしく、とか笑って言えないし…ねぇ…どうしよう」
恵美が独り言のように続ける。
「どうすればいいのかな。私、守られてばっかりでさ。何かすればお兄ちゃん心配するでしょ?恵美は自分のことだけを考えろって言ってくれてるけど…もうそれだけじゃやだよ」
恵美がリビングから出て行き、敬介はため息を吐いた。
「あんなこと言われてりゃ、世話ないなぁ」
敬介はスーツに着替えてウォークインクローゼットからフルフェイスヘルメットを手に取り、家を出てガレージに入る。
大型バイクのエンジンを始動させると小気味いい電子音が響いた。
「オートパイロットモードオフ、オートバランサーオフ、シャッターオープン」
敬介が命令するとバイクの安全装置が解除されてガレージのシャッターが開く。
「モーターリミッターオフ、航行補助システム、追突制御プログラムオフ」
全てのシステムをカットしてアクセルを開くと回転数が上がり、敬介はガレージから飛び出した。
暴走に近い運転をして六道真極会の明雄邸に向かう。
千石とさなえを借りるために昭男のところに向かう。
さなえは昨日の段階で了解を得て要るし、千石は既に敬介に預けられていると言っても実の娘を借りようと言うのだ。もう一度しっかりと挨拶しておかなければならなかった。
ピピっとヘルメットの中に内蔵されているスピーカーから音声通信の着信が入り、インパネに表示されているスピードメーターや回転数の下にインフォメーションが流れて京の名前が表示される。
「後続から高速で接近する車両が一台あります。注意してください」
そのインフォメーションを読むと、大型バイクが並走する。
時速百八十キロで二台のバイクが並走した。
「家に来る予定だったんだろ?」
京に尋ねられて敬介は「ああ」と返す。
「さなえを敬介に預けるって親父が聞いて、お前をぶっ殺してやるって言ってたけど、千石が必死になだめてようやくおさまった。全くお前の無謀な考えで俺たち一家がてんやわんやの大騒ぎだ、どう責任取ってくれるんだ?」
冗談交じりで笑いながら言う京に敬介は「すまん」と苦笑する。
そうなることは目に見えていたのだが、京も指して気にしていないようだった。
「ヤクザを顎で使いやがって…お前いい死に方しねぇぞ」
「ヤクザに言われたくねぇっと言いたいところだが、感謝してるよ」
二人が赤信号をジャンプしてパスして、着地と同時にハイタッチする。
「頼むぜ、相棒」
「ああ、任せとけ」
敬介は京に直接話を出来たことで、昭男邸に行く必要がなくなり、そのまま本局のある山間部へのルートへ切り替える。
京に相棒、と呼ばれて安心した気がした。
本局地下駐車場に敬介が滑り込むと、教官と萌がそこで待っていた。
「無茶な運転しやがって」
教官に言われて敬介はヘルメットを外して萌にそれを渡すと、萌が大事そうに両腕でヘルメットを抱える。
「隊長主席、萌を預かります」
「今まで通り教官でいい」
教官が苦笑すると敬介も苦笑する。
「地下三階フロア、特捜十三課フロアが解放されている。使え」
「はい」
敬介が返事をして一階のエントランスに入り、指紋認証と網膜パターン、声紋パターン認証を再実行する。
二年前のデータとあまり変わっていなかった。
エレベーターに乗って地下三階フロアに到着すると広い廊下の左右に一課から十二課までの課長クラスが整列していて、敬介に対して右手で拳を作り左胸に当てる敬礼を行う。
敬介が同じように返すと全員が起立した状態で敬介が通り過ぎるのを待った。
敬介がオフィスに入ると十三課の隊長クラス八人が既にデスクに着席しており、敬介が入室すると同時に敬礼する。敬介は一番奥から入口に向かっている自分の席に座る。
視界に隣の机が目に入って、そこに花が飾られているのを見て、敬介はため息を吐いた。
「全員、敬礼止め!着席」
敬介の号令に全員が着席する。
ここに揃っている隊長クラスは十三課解体と同時に様々な部署に転属していた者たちがまた戻って来ていた。十八歳から二十六歳までの男女八名。隣の次席の席は空っぽのままだった。
萌がそこにちょこんと座ると、全員が怪訝な顔をする。
次席が補填されたという話は聞いていない全員は萌の姿に唖然とする。
「あ、みんな気にしないでくれ。こいつは次席じゃない。かわいいだろ?目の保養だ」
敬介が萌に微笑むと全員が「なんだよそれ」と苦笑いする。
「敬介隊長主席、あとは任せる」
「はい」
敬介が教官に返事をすると教官が出て行くが、誰も敬礼をしない。
十三課のクルセイダーズは独立隊であり、敬介が最上で他は追従するのみだと考えられているので当然だった。
責任は重い。
敬介は心地良いプレッシャーを感じたが、隊長クラスの面々は嬉しそうにのびのびしている。形にとらわれないモビルチームであること。それが敬介の信条だった。
チーム間としてのチームワークは求めていないが結果的にそうなればいい、という独自の考えに賛同する様な連中がここに集まっている。
「休日出勤手当って出るかねぇ」
敬介が最初にそう呟くと全員が「あはは」と笑い、会議が始まった。
◆◆ ◆◆
学校のある街の駅
土曜日の十時三十分
恵美は予定よりも少し早く付いた待ち合わせ場所、すーぷすたんど、という店で千石を待っていた。
様々な種類のスープが置かれている変わった店だが、いろいろとおいしいものがあったり、季節で変わるメニューが人気のある店だった。
ダイエットにちょうどいい、とクラスメートが話をしていたのを聞いていたが、生憎恵美はダイエットに興味はなく、あまりここに来た事はなかったのだがコーンスープがカップに注がれていて、その味に満悦していた。
千石が時間通りに店に入ってコーヒーを受け取ってから二人掛け席に座っている恵美の前に座る。
「待ったか?」
冗談っぽく千石はお約束の言葉を口にすると「だいぶね」と恵美が冗談で返す。
「う…すまない」
千石が申し訳なさそうに言うと恵美は「冗談ですよ」といいながら、千石の頬に付いた引っかき傷のような爪痕を見て注目していた。
「さなえさんに?」
「…よくわかったな」
千石は頬を左手でさすりながら言うと、恵美は苦笑する。
「デート、なんて紛らわしい言い方するからですよ」
「だなぁ。で、ちび譲ちゃんは?」
千石は確か敬介さんに一緒に行動するって言われてたんだけど、と言うと恵美は「後で来ると思いますよ」と返す。
「昨日の連続爆破事件の犯人、残念なことになったらしいな」
「そう…なんですね」
恵美がそう言うと、千石は小さく頷いた。
「詳しい事は聞いて居ませんけど、やっぱりそういうことなんですね。アーティファクターは危険なんですね」
「うちとしてはそんなものを持った人間にうろちょろされると困るってんで協力するんだけどね」
確かに千石の様な存在の連中にとって、武器を持った一般人など危なっかしくてしょうがないのかもしれない。
「十三機関の話は聞いたか?」
「うん。千石さん招集されるんだってね」
「おや、俺はてっきり恵美も招集されると思ってたよ」
千石に言われて恵美は「私は…」と言葉に詰まらせる。
「敬介さんが可愛い妹を出すわけないか」
そう言われて恵美はぐっと膝の上で拳を握りしめる。千石にまでそう言われていてなぜか悔しかった。
「クルセイダーズ隊長主席直下、パニッシュメントが再結成される可能性が高いって噂だ」
その噂、を千石の組織が入手した、ということはその界隈では有名な話なのかもしれない。どんどん敬介、という存在が遠く、大きくなって行く話を聞いていると、どこか非現実的な感じがして来た。
「教官っていう男…萌を送り迎えしてた時から気になっていたんだけど、あの人は八課広域対応のセイントナイツ隊長主席だそうだ」
「うん…その話は聞いたけど…」
「あのちび譲ちゃん、昨日の夜わかったことではそのセイントナイツの隊長主席直下、ガーネットホークスの個人技能最優秀成績者だったらしい。ゴースト処理数も化け物…ゴーストの上位存在だって言うクリーチャーの撃破数も軒並み、セイントナイツ隊長主席の次で、次席確実とまで言われていたらしいけど、敬介さんの下についた」
「萌ちゃんは元々、お兄ちゃん大好きだから、教官も手放したのかな」
敬介も萌に目をかけている節があるし、今でも時折二人で行動しているのが気になってはいたが、そう言うことだったらしい。
知らない事ばかりだな…。
恵美はそう思うとどれだけ自分が敬介を知らなかったのかが露呈した気がしてもやもやが更に積る。
「恵美、お前は敬介さんのところに行かないのか?」
「え?」
恵美はそう言われてきょとんとすると、千石は「うーん」と唸る。
「ダメって言われても付いて行くくらいの覚悟がないと、きっとあの人は絶対に認めてくれないぜ?俺とさなえさんも前、無理やりついて行ったら渋々承諾してくれたんだ。いっちょ派手に暴れてやろうぜ?」
千石の誘惑は恵美にとってとても甘美に聞こえた。
敬介に認められるような働きをすれば、敬介に認めてもらえる。
恵美はそうなのかもしれない、と思うとやる気が出て来た。
「こんなこと言うと、敬介さんや京の兄貴に怒られると思うけど、俺や恵美が認められるにはそれしかないんだ。だから、やろう」
千石がにこり、と微笑むと恵美は頷く。
「実は昨日の事件の真相を聞いて来た。アーティファクターが二人、三咲ちゃんの街で潜伏していて、敬介さんたちが保護しようとしたアーティファクターの二人をやっちゃったらしい。それを探そう」
「うん」
千石と恵美が席を立って駅で移動する。三咲の通っている家の場所は聞いていたが、けっこうな距離があった。
毎日電車でこれだけの距離を移動するとなると大変な様な気がしたが、三咲は自分から希望してここに進学して来た、と言うのだからその意気は称賛に値する。
自分だったら、と思うと遅刻は必須だった。
千石と恵美が駅に降りると、駅の一角が立ち入り禁止になっていて警察官がうろうろしていた。
「犯人は捕まったんじゃ…?」
恵美は話がおかしいと首を傾げると千石が頷く。
「敬介さんが殺害されたって言ってたってことは別件だろ。今朝の新聞やニュースは?」
「ん…見てない」
怒っていたので見てなかった、というのが正しい。恵美は正直に言うと千石が呆れたように肩を竦めた。
「この駅、爆破事件に巻き込まれたらしい。捜査していた一連の事件との関連性を調べている、って警察は発表したけどすでに関係ないって話は上に伝わってるだろうね。うちのモンが調べた情報だと、公共物連続爆破事件の捜査本部はもう解散してるらしい」
「なるほどねぇ」
警察の内部情報が簡単にではないのだろうが、外部、特に表向き上はあまり仲がよろしくない千石たちの組織に渡っているのも問題なのだろうが、恵美はあえて気にしなかった。敬介に関係している人間たちが常識では測っていけないということはもう痛いほど感じていたのだ。
「今日はどうするの?」
「ん、まぁ適当に聞いて回ろう」
「どこを」
適当に聞いて、という言葉に恵美は嫌そうな顔をする。まさか、とは思うが…。
「聞いて回るぞ」
「えー」
明らかにそれは時間がかかり、見込みの薄い感じがする。
◆◆ ◆◆
三咲の住む街の外れにある湖畔
土曜日の十四時二十分
恵美が座っているベンチの前で千石が道行く女性に声をかける。
「ねぇねぇ、ちょっといいかな?」
二人組の女性は一瞬だけ面倒そうに後ろから声をかけられて驚いて千石を見るも、千石の雰囲気に顔を真っ赤にする。
顔はいいんだよ、顔は。
恵美はそう思いながら話をうまく進めて行く千石を眺めてため息を吐いた。
少しはデートと言って期待した自分が馬鹿だった。
「メグ、ほれ」
「うにゃ?」
恵美が後ろからチョコレートとアイスがトッピングされたバナナクレープを差し出されて驚くと、大津が苦笑している。
「大津くん…」
「よっと」
ひょいと大津はベンチを乗り越えて恵美の隣に座る。大津は少しばかり痩せた様な気がした。
「千石さん…ナンパしてんの?」
傍から見てそう見えるのか、大津が怪訝な顔をしている。千石のイメージとしてはそういうことをしないイメージが大津にはあった。
「まぁちょっとね。大津くんは元気?」
学校にも来てないので尋ねると、大津は「身体は鍛えられてるかな」と苦笑する。
「私が言うのもなんだけど、あまり無理しないでね。お父さんの事…残念だと思ってる」
大津は父親の事を口に出されて複雑そうな顔をする。
「ああ見えて親父はやっぱり親父だったんだなぁって思ったよ。まぁ、家族残して死んじまうような馬鹿野郎だ。俺のせいだから責任は感じてるよ」
だから千石に頼んで組入りしたのだろうか?と思うと恵美はそれも馬鹿げている様な気がした。母親が今も入院していて、京と千石が大津の家族の面倒を見ていると言うが本当にそれだけでいいのだろうか。
「千石さんも大津くんも、構成員ってやつなんでしょ?」
「ああ、千石さんが何やら動いてるって聞いて、頼み込んで手伝おうと思ったんだけど、千石さんは恵美さんとデートしてます、ってさなえ姐が言ってて…何事かと」
大津がこちらに来て様子を見て安心した、とは口にしなかったが、千石の様子を見て明らかにデートではないことがわかった。
「恵美っ」
千石が何人目かの女性に声をかけてこちらを見ると、女性は「女の子連れてるんだ、馬鹿じゃない?」と言って怒って何処かに行ってしまう。
恵美は「なんで私が睨まれるのよ」と落胆すると大津が苦笑する。
「…大津。てめぇなにしてやがる」
いきなり低い声と冷たい視線を大津に向ける千石に恵美がゾクっと背筋を凍らせた。心臓を直接鷲掴みにされるような感覚、というのはこう言う事を言うのかもしれない。
大津は勢いよく立ち上がって、両足を広げて両膝に両手を乗せて頭を下げた。
「へいっ、親父に言って千石さんの手伝いをさせていただきたく存じまっ」
千石の鋭い蹴りが大津の顎にヒットして大津がベンチに座らされるように腰を落として、更に勢い余って後ろに転げて大の字になるも、すぐに大津が立ちあがってまた頭を下げる。
「てめぇ大津…ふざけるんじゃねぇ。お前いつから山之内におめぇの意見言える立場になったんだ?コラ」
「いえ、どうしても自分はっ」
「ああ?」
千石がひょいとベンチを飛び越えながら飛び膝蹴りを入れて着地し大津の胸倉を掴む。
「なぁ大津よ。お前はいつから俺に文句言えるようになったん?」
「文句なんてそんなっ」
恵美は二人の様子におろおろしながら二人の顔を交互に見るも、明らかにあの仲の良かった二人とは別物になっている。
友人が…組織に入るとこうも変わるものなのだろうか…。
恵美はそう思うと切なくなった。
「俺は…っ!千石さんに命を預けたいんですっ!他の人に俺はっ」
「じゃあ死ねよ」
千石が冷たい目で見下ろすと大津が顔を上げてきょとんとする。恵美も千石の口から出た言葉に耳を疑った。
「っ!」
恵美が千石の肩を叩き、振り向いた千石の左頬に恵美の右拳が真っ直ぐ叩き込まれる。ガツンっとアーティファクター特有の身体強化された拳の直撃音が響き、千石の頭が跳ねるも千石も同じくアーティファクター特有の身体の頑丈さで脚を踏ん張って立ち止まる。
「ふざけないでっ!死ねなんて簡単に言っていいわけがないっ」
「メグ…」
大津が恵美の唖然とする。千石を殴った。それだけで恵美が重大なことをしでかしたことにぞっとする。大津にはそんな度胸などない。
それでも…俺は千石さんの命令なら…。
大津はポケットに入れていたナイフを両手で逆手で握り、自分の胸に突き刺そうと腕を伸ばした。
「大津くんっ!」
恵美がそれに気付いて左足を軸にして身体を回転させながら右足で大津の手を蹴っ飛ばす。音速の蹴りが手に直撃したにも関わらず、大津はナイフを離さず地面に転がる。このまま自分の胸にナイフを突き刺されたりしたら困る、と恵美はナイフの刃を踏み付けて固定する。
「大津、俺を殴ったこの雌を殺せ」
千石の命令に恵美が一歩跳躍して大きく二人から距離を取る。
頭に血が上っている恵美に冷静な判断は出来なかった。来る奴を落す。今はそれしかなかった。
死ねって言ったり、死のうとしたり…なんなんだっ!
恵美が奥歯を噛み締めると、千石がもたもたしている大津にため息をついた。大津はよろよろと立ち上がってナイフを恵美に向けたが、突っ込んで来る様子はない。
いつまで立っても来ない大津を見て、恵美が一歩、一歩と千石に近づく。
千石は恵美に目もくれず大津を見下ろしていて、今にもアーティファクトで大津に手を上げそうだった。
俺はお前に人を傷つけるためにアーティファクトを渡したわけじゃない。
敬介の言葉が脳裏で過ぎる。
そうだ…アーティファクトは弱いものを傷つける武器じゃない…。
恵美はふっと肩の力を抜くと千石を睨み付ける。
「千石さん…私には男の人の社会がわからないけれど…死ねって命令したり、殺せって言ったり…そんなの私は認めない」
「うん、俺も嫌いだ」
千石が苦笑すると、恵美と大津が「え?」とその場で棒立ちになる。
「色々上下関係ってのがあんのよ…。大津得物しまえ。お上が来るぞ?」
千石が言うと大津がナイフをすぐにポケットに戻してまた頭を下げる。
「大津、俺に付いて来い」
「ありがとうございますっ」
大津が泣きそうな声で声を上げると千石は恵美を見た。
「こいつの命を救ったのはお前だ。そして俺の無礼を詫びよう。申し訳なかった」
千石が頭を下げると、恵美は「えー」と唇を尖らせる。全く意味がわからなかった。
「メスとか言ってすまん。身体で払おうか?」
「え…んりょしておきます」
恵美が顔を引き攣らせて二歩下がると、千石は「もったいない。いいものなのに」と自分の身体を見る。冗談交じりなのだろうが、さすがに洒落にならない。
千石はちらりと大津を見る。まだ頭を下げているが、本当に喜んでいるのだろう。
千石は大津の覚悟を知りたかった。自分の命を投げ打ってでも自分に従う覚悟があるのか知りたかった。大津も極道だ。自分の目上が誰かに殺されれば、そのまま仕返しをしなければならない。その為に得物を持っている事は知っていた。それで自分の胸を刺そうとした腕を恵美に蹴り飛ばされても落す事がなかった…。本気で自分を刺そうとしていなかったら、あの時点でナイフはどこかに吹っ飛ばされていただろう。
二つ目は自分が恵美に殴られたことで、偶然発生したことだった。これも確認するにはちょうど良かった。自分が命を預ける存在が誰かによって手を出されたら、それの反撃をしなければならない。それがこの世界の常識で、大津は見事恵美に得物を向けた。
とは言え千石は大津がそのまま何も考えずに恵美を刺そうとしていたりなどとしたら、その場で大津を殴り殺していた。恵美は大津にとって命の恩人であり、その恩人をどんな命令があろうとも刺すことは仁義に反するからだ。
義理と人情はそれに相容れない。
「関係には俺が言っておくよ…。俺もしばらくは肩身が狭くなるかなぁ」
「山之内はお前みたいな元気がいいの入って喜んでたんだぜ?まぁこうなるだろうって最初から言ってたけどな。時期が来たら山之内に返すぞ。あいつにも面目ってもんがある。この面汚し野郎」
千石がばんばんと大津の肩を叩くと、恵美は「もうやだ」と項垂れる。
「でよ、恵美と同じグローブを付けた奴が二人、男と女だったらしいけど、近くで見たらしいぞ?そいつも俺と同じ質問をしたらしい」
千石に言われて恵美は首を傾げる。
「紅い珠を付けたアクセサリーをつけた人を見た事がないかって尋ねられたらしい。俺と全く同じ尋ね方だったから記憶に残ってる、ってよ」
千石がそう言うと大津が「それって変じゃないですか?」と首を傾げる。
「ああ…見た感じ年齢は二十四、五の男と十七、八の女だったらしい。男の方は指輪に紅い宝石をつけた指輪を中指に嵌めていて、これと似たようなの、だと言った。女はなぜか左手に銀色の棒のようなものを持っていて、そわそわしたような感じだった、ということだ」
「指輪に銀の棒…アーティファクトかしら」
恵美もその様子からただならぬものを感じた。普通の人間は指輪を嵌めても銀の棒は持ち歩かない。女の方はアーティファクトを所持している可能性がある。
「すんません、千石さん。そっちの話よりも先に山之内さんから千石さんに伝えたい事があるんです…」
大津が申し訳なさそうに話の腰を折って、千石を見る。千石は小さく頷くと、大津は恵美を見て「悪いけど…」と言葉を濁した。
「…私の前で言いたくない事?言えない事?」
恵美が明らかに不機嫌そうに言うと、千石は「どっちもかもしれないねぇ」とすっ呆ける様な口調で言った。
「それでも食ってろよ」
千石が未だに持ち続けているバナナクレープを指差すと、恵美は「そうだねぇ」と言いながら二人から離れる。
また蚊帳の外、かぁ。
だんだん腹が立って来た。苛々している時は甘いものが良いと言うが、恵美はクレープを一気に頬張って紙の包みをコンビニのゴミ箱に放り込む。
お兄ちゃんはとは喧嘩して、デートとか言って結局連れ回されて、わけのわからない任侠モノ見せられて…わかったことはアーティファクターが二人この街に居る事…。
恵美は自分の知らない街を一人でほっつき歩いても何も面白くなかった。
「ん…」
ずっと感じていた違和感があった。ふと足を止めて周囲を見回す。
人も少なくない、高いビルもある。この街は学校の近辺では都市部でアミューズメントもたくさんある場所だった。
それなのに感じる違和感は、街の大きさに対して人の数が少なすぎることだった。
緑が多い街と言えばそうなのかもしれないが、変なところで空き地が広がっている。それもぽっかりと草原が広がっていたり、湿地帯が広がっているのだ。
都市計画をする上でそれはありえない、めちゃくちゃな位置関係で、貯水池にすらなっていない。
おかしい。
恵美はそう思うと携帯電話の地図機能を開いて範囲を拡大する。
拡大、拡大と操作して都市部全体が把握できる地図になると、違和感の正体にたどり着いた。
無作為にクレーターの様に何か所も穴の様に空き地が広がっているのだ。意図的に誰もそこの土地に手を付けていないようで、マップ上に五か所の大きなクレーターが存在している。先ほどの湖も綺麗な真円を描いていたので恵美はずっと違和感を感じていたのだ。
半径五百メートルから二キロメートルにも及ぶ、地図上のクレーター。この都市部の中心部に位置する先ほどの湖もそれと形が酷似していた。
マップ上では私有地となっているものや、行政管理地域と表示されている。
「なんだろ」
恵美はもう一度湖に戻ろうとすると、こちらを見下ろす男性が真後ろに立っていた。
「え?」
腹部に激痛を受けて恵美の脚が崩れる。
「だ、大丈夫ですかっ!」
男性が声を上げると周囲の人がこちらを見ている。薄れゆく景色の中、恵美は周囲の人間に助けを求めようと声を上げようとしたが声が出なかった。
「すぐ病院に連れて行ってあげますからねっ」
女性の声が聞こえて、恵美は目を閉じた。
男は恵美を抱えて車の後部座席に連れ込み、女子高生がすぐ恵美を奥にやってドアを閉める。男は運転席に飛び乗ってエンジンをかけ、一気にアクセルを踏み込んだ。
「癒杏、そいつもアーティファクターだ。気を付けろよ」
「わかって…います」
ルームミラー越しに左目に大きな傷のある浅黒い男がそう言うと、後部座席に座っているセーラー服を来た大人しそうな印象の少女が答えた。
「外せない…っ」
癒杏は恵美のアーティファクトを拳から外そうとしたが、まるで身体の一部の様にくっ付いて離れなかった。
「死ぬまで自分の意思以外じゃ外せないらしい。目が覚めたらこれを使え」
運転席の男…宮川利樹がスタンガンをぽいと後部座席に投げて如月癒杏はそれを手に持って小さく震えていた。
「その震えは罪の意識でなくてアーティファクターを討てる武者震いだろうな?」
冷静に利樹に言われて癒杏は諮詢するように視線を泳がせる。車は先ほどまでの急発進からは想像も出来ないほど周囲の車の流れにそって運転されていた。
癒杏は利樹の言葉を無視して眠っている恵美の顔を見下ろした。
「この人殺しちゃうの?」
「場合によってはな…」
癒杏はその言葉に息を呑む。
「だって…仲間になってくれるかもよ?」
「だから場合によっては、と言っているだろう?俺たちに賛同してくれるとは思えない。そいつは十三機関の人間かもしれない」
男は恵美を一瞥すると、今ばれては困る、と一人で呟いていた。
おとなしい子を書くのは苦手ですねー。嫌いですねー。何を考えてるのかわからない女の子って怖いですよねー。被害妄想ですねー。
実際あまり口を開かないおとなしい子が実はすごい子っていうギャップがあるのは結構好きだったりするんですけど、それはあえて使わない方向で。




