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途中打ち切りみたいだけど仕方がない!

 学校 一年生

 六月の第三周 月曜日の十時丁度


 体育館の中でドッジボールの体育の授業を受けて、三咲はため息を吐いた。白い体操服に黒いスパッツを履いて、鈴を首に巻いていて先ほど注意されたが、父の形見ということで許してもらった。常時身に付けているようにと言われたのだが…ウソを吐くのはやっぱりいい気分でもなかった。


 授業は女子側の体育教師が休みだったので、男女混合での体育となった。ともなれば女子が負けるに決まっている。柔らかいボールのせいで速度がでないボールのために、確かにルールは公平になっているのかもしれない。


 女子も男子も楽しそうにボールを投げる中、三咲はぼーっとしていた。


 センターラインで敵陣とのぎりぎりの位置で立っていると意外と気づかれないもので、ボールが目の前を行ったり来たりしているのを眺める。


 忙しそうだなぁ…。


 女子が二個のボールを持って男子が必死に避けている様を見て三咲がくすくすと笑う。男子としての可愛いプライドなのか、負けたくないと必死な形相で逃げ惑う男子たちが子供の様にはしゃいでいる。


 一球避ければ大声を出して自己アピールして、他の男子たちも騒ぎ、女子は女子でやっちゃえーと外野が…。


 外野多っ!


 三咲がふと気付くと男子六人、女子三人の状況になっていて明らかに自分たちが負けていた。


 十五体十五のバスケットコートを使用しているこの状況で、女子がボールを投げても届かない状況が多い、ということらしい。


「三咲…ばらすぞ」


 教師に言われて三咲がどきっとすると、三咲がまだ内野選手である事を黙っていた教師がにやりと笑う。嫌な感じはしないが三咲は渋々コートに立つと男子たちが目を丸くする。


「おまっ!休んでたなっ」


「卑怯だぞ!」


 外野と内野から同時にボールを投げられて三咲はくるりとその場で回転して二つの弾を避ける。


「…はぁ?」


「後ろに目がついてんぞー!」


 男子たちが騒ぐ中、女子たちが「いいぞ三咲っ!」とか「全滅させろー」とか叫び始める。


 同時に背後からと前からを狙っているのか、パスを外野、内野に回されて女子たちがきゃーきゃー逃げる中、三咲が内野中央で欠伸をして立っていると目立つのかまた敵内野からと三咲から見て右外野からボールがすさまじい勢いで飛んで来る。


「ぅー、私ばっかり…」


 敵内野側のボールを左手で掴み、右外野に背を向けたまま腕を背中の方に回してボールを掴みキャッチすると、男子たちがシンと静まり返り、女子たちから嬌声が上がった。


「うわー」


「すっごーい!」


 教師もさすがに驚いているのか、唖然として三咲を見ている。


「ぼーんっ」


 三咲が右腕のボールを男子に当てるとボールが跳ね返って自陣に戻って来て他の女子がそれを拾い上げ、男子は左腕のボールが無くなって居る事に気付いた時には女子外野からボールが背中に当てられていた。右腕でボールを投げるのと同時に腕を背中に回して、高いループパスを行い、三咲の投げた方に集中している間に女子外野にパスしていた。


「つまんない…」


 昔は楽しかった体育の授業が今は何となくつまらなかった。


 目立ち過ぎた三咲が集中攻撃を受ける中、アクロバティックに全て回避していく中、三咲は自分のせいなのかもしれない、と何処となく感じていた。


 一度だけ、恵美にアーティファクトを使用したまま体育や部活をすることは卑怯なのではないか?と思った事を口にしたことがあったが、恵美やさなえはそれを聞いてアーティファクトのレベルをゼロにすればいいと言っていた。


 恵美の場合は部活で使用する時はただの洋弓として使っているし、矢もカーボンのものを使うためにその性能を発揮したりしてはいないらしい。身体強化を与えるレベルもⅠからスタートするのだから、そうすればいいと言われていたが、三咲にとっては元々の身体能力の高さが起因していて、今自分の状態がほんとうにゼロなのかどうかもわからなかった。


 本当にアーティファクトレベルがゼロ…未使用な状態なのか敬介に尋ねたところ、確かに守りの鈴は機能を停止していると敬介が言ってくれていたのだが…。


 背後からボールが飛んで来るのが見える。どこに誰が居るのかわかるって…どういうことなんだろう。


 ここ最近、身に着いた事でもあるのだが、人との距離や動いている物と自分との相対速度などが直感に近い勢いで感じられるようになっていた。


 恵美もそれを感じているらしく、神機エスティスに乗ってから特にそうだと言う。身体が…目が、バランス感覚が増大したと言う事になるのかもしれない。


「ゲームセット!女子チームの勝ちっ!」


 体育教師が叫び、三咲がふと気付くと女子たちが三咲に集まってもみくしゃにされていた。


「にゃ?うぉっ!なんだ?」


 三咲が慌てると最後に残った男子が大仰に上を向いて悔しがっていて、他の男子たちが「よくがんばった!」などと言っている。


「三咲すごいよっ!男子全滅!」


「へ?あ、そう」


 三咲は無理して作り笑いを浮かべると、次のゲームが開始された。


 無意識のうちにボールを取って投げていたらしいが、三咲にとってはどうでもいい事だった。


「早く終わればいいのに…。平和って退屈…」


 三咲は自分でも気付かない内にそう呟いていた。



 ◆◆    ◆◆


 学校 一年生

 六月の第三周 月曜日の十時丁度


 委員長の拓実と千登瀬が最近おかしい。


 萌がそう言いだして恵美と大津はちらりと二人の様子を覗き見る。


 自習と拓実の文字で書かれた二文字がホワイトボードで輝いた瞬間、教室は一気に無法地帯と化してなおこの状況になっているのは対して珍しい事でもなく、世界史の谷山は病弱なので今日も学校に来ていないという話だ。


 まだ三十前で紳士的で優しい谷山が居なくて喜ぶ生徒はいないが、困る生徒もいなかった。ただそれだけの話。


「おかしいって何がだ」


 大津が恵美と萌に自分の席を占拠されて不機嫌そうに言うと、恵美は二人にばれないように二人を指差した。


 教室の話題は昨日の国営放送の話題で持ちきりになっていたが、恵美たちにとっては既知だったことで興味なしで、この学校からも数名がパイロット候補生として予備員として参加することになっているらしい。


 正パイロット候補人員から外れたと言う事は、学校が終わった後に集合して教程を行うと言う事らしいが…。それで果たして本当に使えるのかどうかは疑問視されている。


 準パイロットであってもパイロットはパイロット、世界平和のために闘うと豪語している生徒も少なくなく、ニュースやマスコミは必ず十五分は最低でも番組内で訓練の内容などを紹介しているために社会的な好感度もあるとして、今や軍隊よりも注目を浴びている正義のヒーローと言ったところだろうか。


 これからは隠すことなく作戦に参加できる。


 恵美と萌はそれだけで十分メリットがあることだったのだが、公の場で自分たちが正パイロットであることは黙っていた。授業中に作戦参加命令が下った場合、携帯電話の待ち受け画面の一つである身分証を提示しなければならないのだが…十三機関特捜十三課、パワードアーマーエスティス正パイロットの文字が入っている恵美と同じくしてパワードアーマージェネシス正パイロットの文字が入っている萌では正直な話、厄介さは際立っていて、大津大輔も同じだった。


「そう言えば、敬介さんに勝った事になるみたいだな。お前ら」


 大津が聞いた話を口にすると萌が渋い顔をする。ここには勝った組と負けた組がいる。


「うん、不慮の事態も戦闘中だったら絶対にないわけじゃない。私たちが狙撃を受けたのを回避出来なかった方が悪い」


 萌が事実だからと淡々と負けを認めると恵美は首を傾げた。


「勝ったとは思ってなかったけど、拾ったって感じかなぁ。でも狙撃ってなに?」


「正式発表はセントラルパニッシュメントのみに行われる予定だったけど、大津もきっと恵美を乗せる事になったりして状況が分からないと困るから、通達が行くと思うよ」


「今知りたいって感じがするんだけどな」


 ちらちらと三人は拓実と千登瀬のほうを盗み見ながら話を進める。


「あの主砲発射装置はサンクチュアリの砲撃だったと見て間違いないそうだよ」


「サンクチュアリ?砲撃?」


 大津が驚いて大きな声で叫ぶとクラスメートたちが大津に注目する。


「…」


 大津は明らかにしまったと顔を顰めるも既にもう遅い。萌が「この人、嫌い」と小さな声で言うと大津が「すんません」と項垂れる。


「でも不思議なのは…発射ポイントに急行したさなえ、千石、夢はそこに何もなかった事を確認してるの。基地から四キロ離れた地点の地上から二キロの位置から発射されたツインノズルタイプのレーザー照射機だと推定したよ。だけど、そこには何もなかった。レーザー兵器の減衰を考えるとすごく強力」


「不可視フィールドとか使って見えなくしているとかじゃなくて?」


 恵美が尋ねると萌は首を左右に振った。


「見えなくても、その場所にはあるはずでしょ?でも、なかったからないの」


「え?あ?」


 大津が意味が分からずに首を傾げると恵美は苦笑した。


「透明だろうと、なんだろうと触って見ればわかるってこと。でも触ってもなかったんだから無かったんでしょ」


「あ、あー」


 大津は適当に返事をして恵美は分かってないな、と呆れる。


「でも敬介お兄ちゃんを攻撃したってことは私たちは絶対に許すわけにはいかない。これはわかるよね?」


「十三機関特捜十三課のトップを攻撃したってことは、十三課全てを敵に回した上に、その下部組織も敵に回したってことになるのかな?」


 恵美が首を傾げると萌は頷いた。


「みんな冷静そうな顔をしてるけど、基地の人たちは結構頭に来てるみたいだよ?特に航空戦闘機部隊の教官たちはね」


「そんな風には思えなかったけどなぁ」


 昨日夢から連絡があってオルトスという男性と朱莉沙という女性の二人の教官と話をしたが、二人からは三人をお願いしますと言われただけだった。


「イーストロジアであるここに基地を移設する可能性があるみたい」


「ん?ここじゃない」


 恵美が首を傾げると萌が頷いた。イーストロジアと呼ばれるクレーター跡地でもあるこの場所に航空基地を建設するともなれば…場所は自然と限られて来る筈だ。


「この近くにあるカリッジ荒原があるからそこにするみたい。前の基地は空軍に明け渡して最新設備を導入したマルチランウェイにするって」


「空の事はわからないけど…どういうこと?」


「円状のランウェイを三つおいて、三つの大きな円を作るってこと。ランチアップカタパルトって恵美が前に乗った奴も配備するのと同時に…マスドライバーを装備するみたい」


「マスドライバーってなに」


 大津が首を傾げると萌がため息をついてホワイトボードの前に立った。


 届かないらしく萌は大津に何かを懇願する様な目で見て、大津は萌の脇に両手を入れてひょいと萌を持ち挙げてやった。


萌は自習と言う文字を消して絵を書いていく。橋脚のようなものを書いて真っ直ぐに伸びるレールを描き、空に向かって伸び始めたところで線を切る。


 大津と恵美は萌の後ろでそれを見て首を傾げる。


「ここに飛行機を乗せて飛ばすんだって。敬介お兄ちゃんが言ってたけど何に使うのかよくわからない」


「ここに来て空軍方面を強化したってことは何かあるんだろうな。宇宙に」


 大津の予想は確かにそうなのかもしれない。


「アーティファクトで飛べる高度限界って結構早いわよね。航空戦闘機みたいに早くとか飛べないし」


「私たちは応用して使ってるだけだし、恵美の飛翔刃六重奏のエネルギーを展開して足場を作って駆け上がる方法だって正しくは飛んでないでしょ?」


「うん、六枚の飛翔刃から六角形の足場を作ってそれを飛ばしてるだけだから、私はちょと飛んでるうちに入らない。飛んでるのは翡翠とお兄ちゃんと…三咲ちゃんかな?」


「三咲はちょっと特殊なアーティファクト使ってるからね。それよりもアマテラスがフォクシー族の村を完全に殲滅したって話は聞いてる?」


「降ろすぞ」


 いつまでも抱えてられないと大津が萌を教壇の上に置くと、萌は両足をぶらぶらさせながら恵美を見つめる。


「いや…でもあそこには六課が展開していたはずよね?アマテラス側にだってそこまで戦力があったとは思えないし」


「教官とアレイさんが行方不明。プラントは十三課の四番隊が回収したけどひどい状況だったみたいだよ?再生処理不能状態。廃棄処分だって」


「とことんデミヒューマンを人間扱いしないのね」


 萌に恵美が不機嫌そうに言うが、萌に当たっても仕方がない。


「最近恵美、敬介お兄ちゃんに何か言われてない?」


「なんで?」


 恵美が問い返すと萌は言い難そうにホワイトボードの絵を消そうとして背伸びをし、大津が呆れてまた萌を抱え上げる。


「儚隊と瑪瑙隊が今日、動くよ。作戦立案は十三機関の局長」


「局長ってだれ?」


「翡翠…翡翠・ディナ・アルフォート」


 大津が驚きすぎて萌を離すと萌はすとんと両足で着地して不満そうな顔をしたが、恵美がくすくすと笑って二人は恵美を見た。


 何がおかしいのかさっぱりわからない。


「ディナ・アルフォートですって?あの子、翡翠・ディナ・アルフォートなのね?」


「え?うん…そだよ」


 豹変した恵美に萌が怯える様に肯定すると、大津は萌を抱えて少し恵美から距離を置いた。クラスメートたちも恵美から発せられている妙な雰囲気に黙りこみ、静寂の波紋が教室に広がった。


 恵美がはっと気付いて空笑いをして自分の席に着くと携帯電話をいじり始め、萌がその隣に座る。


「どしたの?恵美」


「翡翠・ディナ・アルフォート。どこかで聞いた事がある名前なの」


「翡翠は自己紹介しているはずだから、別に聞いた事があってもおかしくないよ?」


「うん…そうじゃなくって見た覚えがあるのよ」


「王家公爵の娘だよ?聞いた事があるはずだ…よ?」


 萌がはたと気づいて自分の携帯電話をいじりはじめる。当初支給された時はかなり扱い難い様子だったが今では自分の物にしているのか、恐ろしいほど十個のキーを素早く叩いていた。


「萌ちゃん、瑪瑙の正面を向いてる顔写真とか探してくれてる?」


「うん、そう言う事だろうと思って選定してる。でもいい画像がない。警備保障局のデータリンクを実行中」


「こっちは翡翠のデータを取得に成功。そっちに送るけど管理できる?」


「コンピュータか何かがないと出来ないよ」


「仕方ないな。学校の視聴覚室にでも行ってみよう」


 恵美と三咲が立ち上がって教室から出ようとして、大津が怪訝な顔をする。


 拓実と千登勢はいいのか?


 様子がおかしいと言っていた二人に大津が視線を向けると、二人は既に教室にいなかった。


「おろ…優等生くんが教室からエスケープなんて…らっきぃ」


 恵美と萌を追いかけるようにして大津が教室から出て階段を降りると、職員室から恵美と萌が出て来て鍵を握っていた。


「視聴覚室に行くけど、大津君は来る」


「…俺はパスで。なんで翡翠と瑪瑙の二人の顔を調べるんだかわからねぇし、興味ねぇわ」


 大津が手の平を振ってじゃあなと二人から離れる。


「あの二人は、元が同一人物かもしれないの」


「…はぁ?」


 恵美に言われて大津が首を傾げて振り返ると、冗談を言っている様には見えなかった。


「翡翠と萌のほうがそれだったら顔立ちも背格好も似てるだろ?体格だって…」


 大津が萌をじっと見て萌が頬を紅くすると恵美が視線の間に割り込む。


「はいはい、女の子の身体をじっとみない。大津くん、飛行場に行くと思うけど気を付けて。最近変だよ」


「お前に言われたくない、と言いたいけど確かにこの強行作戦はおかしいな。千石さんからも警告されてるよ。訓練飛行場に行くけど、俺はちょっと気になる事があるからそっちを探ってみたいんだ」


「気になる事?危ない事はしないでね」


 恵美に心配されて大津は呆れた。内偵というばれたら誰も助けに来れない様な状況に何度も首を突っ込んでいる恵美に心配される道理はない。


「大輔、何か分かったら教えるから」


 恵美がそう言って萌の手を取って廊下を進んで行く。


「大輔…か」


 初めて名前で呼ばれた気がする。


 大輔はそう思うと学校から出て電車に乗り、一時間以上をかけて訓練飛行場のある駅に降りる。駅の利用者は訓練飛行場関係者のみで大津はそこに止めてあったネイキッドバイクのエンジンを始動して訓練飛行場へ急ぐ。


 十五分前に指定のシャトルバスが出ているが、大津の様に自分の移動手段がある人間は

まず使わない。


 国道の様に広い道路を飛ばして訓練飛行場のゲートで携帯電話を開いて身分証を確認させるとゲートが開いて中に入る。隠してはいたがゲートの人間は銃を所持しているし、ゲート周辺と垣根にはセントリーガンが配備されていたはずだ。


 六道真極会の京たちは今もアーティファクターを保有している無法者を追いかけているが成果が上がっているのかどうかは分からない。


 一般協力によるアーティファクトの確保は順調、と前に報告があったのだから恐らく六道真極会なのだろうが、必要経費がかかり過ぎていると言われていたので運営資金確保もしっかりとしているということだろう。


 自分のロッカーに学校の制服をぶち込んで、パイロットの制服に着替えると基礎体力の講習を受けていた生徒たちがロッカールームに入って来て大津を見て驚いていた。


 ファイティングバード正パイロットを目指している彼らからして見れば憧れの制服だろう。大輔はそう思うとジャケットの前ジッパーを開けたままだらしない格好で出て行くのが憚られてジッパーを上げて外に出て行くと全員が大輔に敬礼していた。


「…ふん」


 廊下に出て大輔はロッカーのドアに中指を突き上げて鼻で笑う。


「うっぜぇな…。ちょっと前までは腫れ物扱いだったのによ。こうも周りの見る目が変わるもんかぁって、考えているのかな?」


 大輔はびくっとして声をかけた人物を見ると、オルトスが苦笑いしていた。


「あ、教官殿。今のは見なかった事に」


「はは…まぁみんなにバレないようにやってくれよ?模範パイロットの大津大輔君」


「今の連中、練習生ですか?」


「ああ、今日付けで配置された練習生だね。高校生くらいの子がけっこう募集して来るんだ」


「そすか…」


「管制室に用があるのかな?」


「フライトプラン提出したいんで」


 大津が黒色の携帯電話を掲げて見せるとオルトスは頷いて先を歩く。


「プラントがあるから働かなくても生活できる。政府の支援を受ける事が出来るから仕事をしない。仕事をしないから何をしていいか分からない。だからこういう場所に人が集まるのかもしれない、か」


 大輔が呟くとオルトスが怪訝な顔をする。


「君みたいな人がそんなことを考えるとは思わなかったよ、って言ったら若い世代に嫌われちゃうのかな」


「いや、オルトス教官の言う通りだと思いますよ。結局、今日が楽しければいいって連中がプラント保有国家は多くなり、プラントのない国では働きたくても就職口がなくて荒れる。これが現状だって知ったのはつい最近です」


「…なるほどね。自分の居場所を見つけるのが不器用な人間が居場所を持て余している時代なのかもね」


 オルトスが管制室のドアを開けて大輔を中に招き入れると数人の管制官が忙しそうに作業を行っていた。


「今飛んでるのは何機ですか?朱莉沙教官殿」


「実弾を積んだ状態で哨戒行動の訓練中よ。って大輔君じゃない」


 朱莉沙が気付いて大輔が苦笑する。


「三番機までの正パイロットはもう卒業生として教務を受ける義務はないのに、熱心ねぇ」


「飛行時間と筋トレとか色々やることがあるんすよ。候補生のシャリアは?」


「お気に入りの子なら今哨戒訓練中よ。ほら」


 窓から外を指差されて大津がその先を見るとファイティングバードが空を四機編成で駆け抜けてた。


「隊長機、か?」


「候補生の中では一番上よ。あら?悪い事考えてる顔してない?」


「うちの隊長の影響が映ったかな」


 大輔がそう言うと朱莉沙は「誰のことかしらね」とCICの作業に戻ると大輔は肩に手を置かれてどきっとした。


「…おい大輔、一人前になった瞬間色々と言う様になったな?」


「うへ…敬介さん」


 大輔が振り返ると敬介がにやりと笑っていた。


「化け物じゃないすか?すぐに治して来るなんて」


「アーティファクトのお陰だよ。まぁぶっちゃけぶち抜かれた瞬間死んだと思ったけどな」


「死ぬンすか?敬介さん…」


 大輔はずっと思っていた事を口にすると敬介は苦笑した。


「で、お前は恵美からシャリアに乗り換えるのか?」


「どこからそんな情報を…」


 大輔が呆れると敬介は「冗談だよ」と笑い、PDAを操作した。


「シャリアか…腕はいいがマニュアル通りの戦術しか行わない、テキストの見本の様なマニューバコントロールが売りだが…エマージェンシークイズでの正答率は十二パーセント。話にならないね」


「エマージェンシークイズで十二パーセントならいいじゃないですか。まともに空も飛んだ事ない連中が実戦の戦闘機動や操作方法を聞かれて答えられるだけすごいと思いますよ」


「お前はエマージェンシークイズに『気合』って答えてその場で逆立ちしたまま三十分間残りの授業を受けさせられたそうだな」


 敬介がその様を想像したのか苦笑すると大輔は頭を掻いて照れた。


「敬介さん。恵美と萌が翡翠と瑪瑙のことを調べてますよ?これについてコメントは?」


 翡翠と瑪瑙の言葉が出た瞬間、敬介は目を細めた。


「翡翠と瑪瑙が同一自分物じゃないかって言うなら、半分正解で半分不正解」


「おりょ、隠すつもりないんですね?」


「隠すも何もすぐわかることだ。骨格やDNAのシンクロパーセンテージは九十九コンマ八六。初期サヴァイブ計画の実験隊が翡翠・ディナ・アルフォートだ」


「朱莉沙教官が聞いてますけどいいんですかね」


 大輔がちらりと朱莉沙の表情を伺うと、朱莉沙は何も気にしていない様に作業を続けていた。


「お前は何か勘違いしているな。ここは組織だ。そして…ここにいる者に限って言える事は、俺の全てに従う」


「へぇ?どうやって?」


 大輔が挑発するように敬介に尋ねると、敬介は周囲を見回して息を吸い込んだ。


「ここに大津大輔は来ていない」


 たったそれだけの声で全員が一度作業を止めて、再びすぐに作業を開始した。


「何言ってるんだ?朱莉沙教官?」


 大輔が朱莉沙に話しかけても朱莉沙は大輔を完全に無視して作業を続行している。


「大輔、フライトプランをオルトス教官に提出するんだろ?出してこいよ」


 敬介が意地悪そうに言うと、大津はオルトスの作業しているテーブルの前に立って携帯電話を机の上に置いた。


「オルトス教官、三番機の使用許可を戴きたいのですが…」


「…」


 オルトスはいつもならすぐに事務手続きをしてくれるはずだったが、今回は様子が違った。大輔などいないように書類整理を始め、キーボードを叩きながらディスプレイを見つめている。


「あの…オルトス教官」


 大輔が狼狽してもう一度オルトスに話しかけようとして、敬介がくすくすと笑った。


「いじめるのはやめだな。オルトス、受領してやれ」


「はい」


 オルトスが携帯電話をケーブルでつないで大輔に携帯電話を差し出し、大輔は「そーゆうことかい」と携帯電話をいじってフライトプランを提出する。


「まぁ俺の一言で全員がそれに従う組織ってわけだ」


「翡翠・ディナ・アルフォートと鳳凰寺敬介の命令には絶対、ってことっすね?」


 大輔がここに来て博打を打つとオルトスが顔を上げた。


「大輔くん、君は優秀なパイロットだ。余計な詮索はあまり感心しないよ」


 オルトス教官もグルってことか。


 大輔はそう思うとますます恵美と萌が調べている詳細はわからなかったが、キナ臭い感じがして来た。


「大輔、お前は保身ってことを知らないな。まぁ、そういう連中が十三課に集まって来る訳なんだけど、翡翠・ディナ・アルフォートが十三機関の局長であることは課長クラスと実働部隊の隊長、副隊長クラスまでしか知らない。口外しないように」


 敬介に警告されて大輔は頷く。



「萌はなんで知らなかったんだ?名目上ではあんたの次だろ?」


「萌には必要ない情報だからな。萌と翡翠は互いに剣を奪い合う関係だ。萌、恵美の行動に規制がかかっていないのも局長の命令だった」


「理由は?」


「ニルヴァーナ計画に付随する。これ以上は非公開だ」


 敬介が腕を組んで口は開かないと言外に言うと、大輔はため息を吐いた。


「セントラルパニッシュメント隊は現在の人員構成は?」


「お前を含めて、恵美、萌、儚、夢、翡翠、三咲、さなえ、千石、癒杏と利樹だ。オブザーバーに翡翠とヴァネッサだ」


「オブザーバーってのはいい加減だな。翡翠・ディナ・アルフォートは敬介さんの上に位置するんじゃないのか?」


「大輔、デフコンレベルⅠの詳細を述べよ」


 オルトス教官が口を挟んで大輔は怪訝な顔をする。


 デフコン、防衛準備態勢を意味する略語でレベルⅠは最高水準を意味する。


 十三機関の持つそれは国家ではないがそれに準ずるものがあった。


「デフコンⅠ、コックドピストル」


「コックドピストルとは?」


 オルトスがキーボードを叩きながら冷めた視線をディスプレイに注いでいた。


「拳銃で言えば撃鉄を起こしてホールドした状態、引き金を引くだけで発射できる態勢。内容は十三機関の総力戦を想定した態勢であると共に…アーティファクトによる戦略哨戒を二十四時間随時行う事」


「戦略哨戒の内様は?」


 オルトスに淡々と尋ねられて大輔は両目を閉じた。


「哨戒活動とは趣が異なり…戦略哨戒は大量破壊兵器や大量破壊可能なアーティファクトを搭載して、いつでもそれが実行可能にすることです」


「それとは?」


「大量破壊兵器の使用、前項大量破壊兵器と同等のアーティファクトの使用」


 オルトスは満足したように頷くと、敬介も納得したように頷いた。


「六課の教官と俺、そして翡翠のうち二人の意見がデフコンⅠが発令されている間に、その使用の許可が下りた場合、十三機関は世界に対して攻撃権を持つ」


「なんだよそれ…反対する国だってあったんじゃないのか?」


「十三機関が何を保管しているか知っているから世界政府は何も手出しできなかったんだよ」


 敬介がオルトスの机に腰掛けると、オルトスは邪魔そうな顔をしたが敬介は気にかけもしなかった。


「持ってる物ってユグドラシルレポート断章っすか?」


「まぁ正解かな」


 敬介が立ち上がって窓から外を見ると四機編成の機体がランディングして滑走路を滑って行く。


「世界の関係とか、大人の面倒なことは大人に任せてくれないか?」


「恵美や萌がどんどん先に進もうとして首を突っ込んでいるから、敬介さんたちはそれを必死に止めようとする。そうすると恵美たちはそれに気付いてどんどん先に首を突っ込んで行くんだ。止まらないっすよ、あのお転婆さんは」


 自分ならば気になったとしても放置しておくことを、恵美はそう思わないらしい。


 大輔に言われるまでもなく敬介たちもそれは危惧していた。恵美の好奇心は生まれ付いてのものなのかもしれない。


「そう言えば大輔は三番機のパイロットになってどうだった?」


 話を変えられて大輔が怪訝な顔をする。


「パワードアーマーにあんなに固執してたのに、航空戦闘機に鞍替えして才能あったなんて、どういう気分なんだろうなって思ってさ」


「嫌味っすねぇ。その言い方だとパワードアーマーの才能が全くなかったみたいじゃないですか」


「結果は聞いてるよ。パワードアーマーの実力も十分にある。熟練度で言えば下手な軍隊よりも上だろうな」


 敬介はしっかりと自分を放置せずに見て居てくれた事に大輔は感謝した。そうでなければ今、自分はまたここにいなかっただろう。恵美たちと行動を共にしなかった時間、パワードアーマーとファイティングバードの訓練を先行して行っていた自分だからこそ、今こうしてこのコントロールタワーにいられるのだ。


「損な役回りを押しつけ続ける事になるかもしれないがいいか?」


「ええ、大丈夫です。部隊も所属も肩書も要らない。俺はそういう方が合ってるんですから」


 大津大輔。


 彼の飛行経歴は全て表舞台に公表される事はない。


 恵美が誘拐され、恵美たちが脱出した後、敬介たちの脱出作戦が組まれた。その時の制空防御作戦。作戦名、ライトニングは国境付近に存在する航空ヘリ部隊の基地を単機で壊滅的被害を与えるという制空権を無視した作戦で、撃墜されれば命がない状況で彼は見事に完遂して見せた。


 同時期に発生してた十三機関特捜課の作戦、アリス、ベル、キャロルの実用を初めて行った作戦においては、アマテラスのクリーチャー培養施設を空襲、対空砲火、SAMを撃破。攻撃ヘリの撃墜を十四機行い、強襲ヘリの制空援護を行っていた。作戦名、バーンナウトはその後敬介たちを国境外まで脱出させることになったが、航空基地から同航空戦闘機が八機飛来し、初めてのドッグファイト戦になった。


 残ミサイル二、空対空ミサイルを予備に積んでいたが、ガンで七機落し、敵隊長機をミサイルで仕留め無事帰還。航空戦闘機を保有する事は世界条例で禁止されているために公にならない空の戦いだった。


 既に利樹、癒杏からは「エース」と呼ばれている大輔はそれでも自分の功績を無暗に人前では口にしなかった。


 次に大輔が参加した作戦はオペレーションホワイトアウトの発射地点指示ブイを投下、人の出来る限り少ない場所と的確な爆撃ポイントを指定するために、ファイティングバードのサイレント飛行を実行、任務成功。アフターバーナーを使用しない無音飛行を初めて成功したが、完全静穏が不可能だった場合は爆音で戦場を駆け抜ける必要があった危険度の高いミッションだった。


 敵機がいつ襲撃してくるか分からない状況下で恵美たちの脱出を確認、その他のメンバーの脱出を見届けて空域を脱出、利樹に救援要請をしたのも空から大地を見ていた大輔の功績だったことは敬介と翡翠以外は知らない。


 対大型クリーチャーの海上迎撃に出撃した事もあった。アーティファクトでなければ致命傷を与えられない状況でのクリーチャーを現代兵器のみで撃墜する。そんな無茶な作戦を執り行う。敬介、萌、恵美、ヴァネッサが空を飛んでいた同時刻に、違う場所で大津は単機で極音速飛行を実行、物量作戦を展開していた。


 基地から三千二百キロ地点を飛行していた大輔がクリーチャーを目視で確認、連絡を入れると出撃できる機体が存在しない事を知らされてからのピストン攻撃を実行。三時間半に及ぶミサイル百二十六発の攻撃によりクリーチャーを撃破して、基地に帰還した大輔は駐機すると同時にその場で失神してしまうほどの激務を完遂していた。


「でもヤクザ、首になっちゃいましたけどね」


 大輔がヤクザ首になるような人間ってどんななんですかねぇと苦笑いする。


「失礼しますっ!」


 シャリアの声が管制室に響いて全員がシャリアの顔を見ると、シャリアは大津の顔を見て頭を下げ、そこから入ってこようとはしなかった。


 管制区画はパイロットが足を踏み入れるべき場所ではない、という考えが一般的で、入室が許可されていなければ入る事は許可されていない。


「大輔、お前の実績は今、あいつらに引き継がれてる。兵器としてのバトルプルーフはお前の行動で評価が変わったんだからな」


 実戦において兵器的な信頼を獲得した。


 空が不要だと言われるようになった現代で、空に憧れるシャリアたちのような人間に空を与えられることになったのだ。


「あ、あの…」


 シャリアがパイロットスーツのまま入口でおずおずとしている。


「行ってやれ。後…どっちか選べよな」


 敬介に背中を押されて大輔は苦笑すると片手を上げて入口に立っているシャリアを見下ろす。


「今日は予定開いてる?」


「はいっ!」


 シャリアが目を輝かせると大輔はシャリアの変わり様に通路を歩きながら、スキップをするように歩くシャリアに不思議な感覚があった。


 極音速飛行に突入して最初は怖がっていたシャリアが仕切りに左右を見て、メテオカーテンの真下を通過した時、彼女は何かを見つめていた。


 宇宙を見上げる彼女は何かを追いかけている様にも見えた。


 対人戦闘、なんてものは俺たちに任せておいて、こいつらはもっと高く飛んでもらいたいな。


「大輔くん、鳴ってるよ」


「お?」


 ポケットの中で携帯電話が鳴って大輔がそれを手にするとシャリアが携帯電話を見て目を輝かせる。


「うわ、ケータイだ!近くで見るの初めてかも!」


 興味津々で手の中の携帯電話を見ているシャリアに大輔はPDAを常時携帯しているシャリアたちの方が特殊なんだけどな、と思いながらもメールをチェックする。


 恵美と萌からで翡翠と萌に関する情報だった。


「シャリア、そう言えば授業あるんじゃないのか?」


「え?あ、はい。とりあえず到着されたということだったので、挨拶にと…」


 シャリアが敬礼して大輔は「じゃあ授業の後でね」と言うとシャリアが頷いて廊下を走って行く。


「…そんなことのために俺だったら絶対こねぇぞ」


 シャリアの真っ直ぐさに呆れて、廊下の窓に腰掛けて大輔が携帯電話を耳に当てると恵美が電話に出た。


「授業はしっかり受けろよ」


 呆れる様に大津が言うと、恵美が何か電話の向こうで叫び出した。あんただってさぼってるじゃない!とか自分のことはいいのか!とかそんなもんで、相変わらずの恵美の対応に大輔は受話口を少し離して適当に相槌を打った。


「で、さっきの話なんだけど…」


「敬介さんに全部聞いたよ。サヴァイブ計画の初期段階で全く同じ体組成を持つ人間が必要だった、そうだ」


「そ、そうなんだ」


 恵美が電話の向こうで激しく動揺すると大輔はふと気付いた。


「お前も…サヴァイブ処理を受けたサバイバーって言ってなかったか?」


「そ、そうなんだよね。困ったなぁ」


 今にも泣きそうな声を聞いて大輔は茫然とした。


 サヴァイブ処理。翡翠と瑪瑙。じゃあサヴァイブ処理を受けた夢と儚はどうなんだ?


 それよりも…恵美がサヴァイブ処理を受けた時期が気になった。


 二年前。全てがそこに集約しているのではないだろうか。


「恵美、お前気づいたんだろ?」


 大輔が恵美に尋ねると、大輔は音声をオープンスピーカーにしながら両手をゆっくりと上に上げて、後ろの人物に振りかえらずに視線を送る。


「私がもう一人いる可能性があるんだよね。大輔くん、私が二人いて、私が眠っている二年間の空白を埋めていた私がいるかもしれない」


「そうだったとしたら、メグ…。知りたいか?もう一人の自分がどうなっているのか」


 大輔が尋ねると、しばらく恵美は何も答えなかった。諮詢していたのか、悩むには確かに辛いものだろう。


「俺からの警告なんだけど。きっとアマテラス側にもう一人のお前がいると思うぞ。儚さんがお前の姿になって再潜入したのはそういう意味だと思う。ちなみに今、敬介さんがこの会話を聞いている」


「大輔!お兄ちゃん、大輔を殺さないでっ!」


 恵美の声が廊下に響き渡ると、敬介は右手に握った拳銃の銃口を大津の後頭部に向けていたのを降ろした。大津はゆっくりと振り向くと敬介は銃口を向けたまま困った様に笑っていた。


「殺すつもりはないみたい、だけどな。ちょいと俺たち知り過ぎたみたいだ」


 大輔はそう言うと恵美との回線をシャットダウンする。敬介は目で歩け、と指示を出し、大輔はコントロールタワーから遠ざかる様に歩を進める。


 恵美に殺すな、と言われて敬介は悩ましい事だと思えた。


「殺さないで、か。恵美も知ってるんだな。知り過ぎた人間は消される。そんな世界を見て来てしまったってことか」


「少なくとも十三機関は元々、武器を持って組織を作った時点で軍事的な側面を持つ組織だったわけだろ?」


 大輔が尋ねると、敬介はその背後で頷いた。背中に向けられている銃口が背中をさすっているようで大輔は気が気ではなかったが、撃たれる事はないだろうとどこかで直感していた。


 敬介に行く場所を指示されながら廊下を歩き、ロッカールームに入ると敬介が銃を降ろした。


「大輔、お前に拳銃携行許可を与える。そっちの訓練もしておいてくれないか?」


「…話の流れが良く分からないけど…メグを…恵美を撃てってことですかね?」


 大輔が返すと敬介は頷いた。


「粗方…察しはついていると思った。お前は恵美をずっと見ていたんだろう?」


「時間にしちゃ、あんたの十分の一にも満たないかもしれないけれどね」


 大輔が苦笑すると敬介は頷いた。


「お前になら出来る。俺に出来なかった事をしてくれ」


 敬介は握っていた銃を手の中で回転させて、大輔に拳銃を差し出す。グリップを向けられて大輔はそれを受け取った。


「慣らしはオジキに言われてやってたからそれなりには出来ると思いますけれど…」


「地下射撃場を使ってくれて構わない。許可は俺が出す」


 敬介はそれだけ言うと、悔しそうな顔をしてロッカールームから出て行った。


 自分が出来なかった事をしてくれ。


 大輔はその言葉にはっきりと頷いた。


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