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通学路を歩行者天国と間違えている小学生が急増しているようです。

いえね、通学路上に家があるわけですよ。仕方ないからゆっくりと走っていると、目の前でくそふざけたお子様が挑発してきたり、車の前でわざとしゃがみこんで動かなかったりするわけです。大変困るというより、疲れる。田舎の子供ってちょっと知能指数低いですよねーっていう話です。

幸い、中学生にもなると自分で判断して脇にそれて「おはようございます!」とかあいさつしてくるんですが、これはこれでビビる。全員が全員ではないのですが、免許を持っているっていうだけで、交通法規上はこちらのほうが熟知しているので黙ってますが、歩行者免許っての取らせたほうがいいんじゃねーの?って思いましたとさ。


今回はそんな愚痴ですが、話の内容的には新しい流れに入り込んでいくようです。

ではまた

 十三機関本局 第四ブリーフィングルーム

 日曜日 八時三十分


 警察の捜査会議、というところか。


 恵美から見ればそんな印象を受ける様な部屋と人員配置だった。


 こちらに向かい合うようにして並ぶ最奥部に一列の長い机があり、敬介、萌、儚が座り、それに相対する形で五列の長テーブルが設置され、敬介たちの背後には巨大な液晶ディスプレイが壁に嵌め込まれている。


 くそ朝早くから招集、しかもこっちは高校生か…。


 千石は眠たさにかまけて悪態を思いきり隠しもせずに敬介を睨む。眠いせいで機嫌が悪いと思われるだろうから、別に気にもしなかった。


六人横並びになることが出来るテーブルに左側二人、中央二人、右側二人と強制的に組まされているようで、全員が緊張した顔をしていた。


この山奥まで八時半までに集合する事はだいぶ難しく、全員が眠たそうな顔をしていたりしている中で、昨日からここに詰めていた千石たちは楽なほうだったのだろう。


中央最前列には恵美、三咲が座っていて周囲をきょろきょろと見回している。次の席には恵美の後ろに翡翠が座っていて何か気にならない様な顔をしている。その隣に座るべき萌は最前列でこちらを見ていた。


「これってなんなんだろうな」


 ざわつく部屋の中で千石は自分のパートナーに指定されているさなえに話しかける。


「左側が優秀なパイロット候補生の一期生で、中央が前からアスタリスク改めエスティスの正パイロット、次がジェネシス。私と千石さんはサンライズブルーの正パイロット。後ろの二人は単座型に改良されたウォレス二型改とウォレス鎮圧兵装型改め、ウォレス強襲型のパイロット候補生ですわ」


 さなえに説明されて千石は驚いた。


 あの発表からたった一日でここまで準備を進めて来た辺り敬介らしいが…見たところ全員が妙に若い。十五から十八、つまり自分たちと同い年くらいの未成年ばかりだった。


「全員揃ったな」


 敬介が手を叩くとざわめきがシンと静まりかって、敬介は頷いた。


「発表された通り、パワードアーマーのパイロットを一般人公募することになった。競争率はより高くなるはずだ」


 敬介がそう言うとしばらくざわめきがまた起こった。


 パワードアーマー隊のパイロット候補学習は発表されるよりもかなり前から進められていたらしい。千石はその事を察すると、左列の一番前の少女二人が面白くなさそうな顔をして恵美と三咲を睨みつけて要る事に気付いた。


「質問です!」


 千石の後ろにいる男子が手を上げながら立ち上がった。


 嫌な予感がしやがる…。


 千石がそう思うと、その予感は見事に的中した。


「成績トップだった俺とディナがなんで四番目に座っているのか、正式な回答が欲しいんです!」


 千石が振り返って立ち上がった少年を見上げると、生意気そうな面構えをした少年は千石を睨みつけていた。


 へぇ…良い顔してるぜ。


 千石が睨み返してもひるむことなく、こちらを見下ろし続けている少年に敬介が「座れ」と声を上げると少年は渋々と着席した。


「お前たちはパワードアーマーのために訓練して来たが、そこに座っている五人と萌隊長は別の機体に搭乗する。適性が厳しく限られる特殊な機体だ」


 敬介がそう言うと、全員がざわめく。


「副座式コントロール形式、神機ジェネシス、エスティス、サンライズブルーはサバイバーであるアーティファクターか、アーティファクトを人間でありながら使える資質と、特殊な条件が必要になる」


 敬介の言葉は千石たちも驚かせた。


「機体に選んでもらえなかった奴が文句を言わない」


 萌が静かな声でそう言うと、シンとまた室内が静まり返った。


「この中に…私に戦闘で勝てる者はいるのか?」


 萌が立ち上がって全員の表情を伺い、敬介は黙って萌のその発言を許可していた。


「私に勝てると思う者は挙手しろ」


 萌の冷たい、小さな身体で無表情に言い放った威圧感のある言葉に誰もが黙って周囲を見回す中、手が五本上がった。


 恵美、三咲、翡翠、千石にさなえだ。


「千石もー?」


 萌が先ほどまでの威圧感が一気に収められて、普通の少女に戻り不満そうな顔をすると、千石はふんと鼻を鳴らした。


「もう負けねぇっつーの」


 千石がそう言い放つと三咲がくすくすと笑い、千石はがくりと肩を落した。


「まぁ…その五人は他の奴より強いことは確かだな。局内じゃそこそこしか成績を出してないがね」


 敬介が話を進めようと助け船を出すと萌が頷いた。


「私に勝てると思わない奴が、どうして私と同じ部隊にいられるの?って言う話。気持ちの問題じゃなくて、私が危なくなった時に私よりも弱い人は絶対に私を助けることなんて出来ない。私は…今手を上げた五人を選出理由した理由はそこ。きっとすぐに私に追いつくと思う」


 萌がはっきりとそう言うと、萌は千石を真っ直ぐに見つめていた。


「期待してるわ」


「そりゃどうも」


 千石が片手を上げると萌は黙って着席して、敬介に視線を送ると敬介が頷いた。


「ちなみに、パイロットは順次、出来上がった機体に搭乗して行く事になる。ここ本局は本部移転に伴い、上級司令部となるが国内で発生した地方部隊が対処できない事態に緊急で発進する機構を備える事が決定している。高速機動隊として任務に赴く事があるはずだ。全員、訓練に励め…それでだ」


 敬介が長い説明を始めて室内が暗くなり、ディスプレイに色々な画面が流されて行くのを千石は眺めながら首を傾げた。


 儚が途中で退席して行き、その代わりに夢が着席した。


 高速機動隊と称された自分たちは国内にとどまらず世界全てを網羅しているが、それがどうやって行われるのかは説明されないまま、話が終了する。


 結局のところこれからの配置やこれから行われるオペレーションの無いまま、全ての講義が終了したところで、恵美、三咲、翡翠、千石、さなえのメンバーだけが残る様に伝えられた。


 他のメンバーたちが五人を異様な目で見て去って行く。


 知らない人間が突然、自分たちの上に立つというこの状況に疑問を持つ事は致し方ない事なのかもしれないが、それ以上の理由で自分たちが標的にされているような気がした。


「これで私たちは、目標とされるべき立場に立った、と言う事になるわけですね」


 さなえが緊張気味に言うと敬介と萌が自覚をしているさなえを見て顔を見合わせる。


 気合やらプレッシャーやらは神機機構ユニットに影響を与えるのではないだろうかと考えられているために全員の心理的なチェックも行わなければならず、敬介がその担当を夢と儚に一任しているために夢か儚が必ず常時行動を共にする必要があった。


 儚と夢のパイロットシステムを全ての機体に登録するためにシロップを強要し、その危険性は認知されている者の二人が快諾した事でオペレーション自体が万全の態勢で行えそうだったが、敬介にとっては少しばかり不安要素があった。


 恵美、三咲、千石の関係とその思考ベクトルがどうあってもひとつ方向にまとまりそうにない。神機システムはユニットとして存在しているためにその個体同士がリンクする機能を保有している可能性があり、サンライズブルーがジェネシスとリンクした際、付近に存在していたエスティスのコードをオートリーディングしたことが発覚している。


 条件としてはこれから考察する必要があったが、高度なブラックボックス化されたシステムはこれからもチェックし続ける必要がありそうだった。


「他の連中の事は気にしなくていい。奴らはパワードアーマー専門だからな。こっちはアーティファクト戦専門だ。で、ブリーフィングだ」


 敬介が口元だけで微笑み、千石は確信した。


「敬介さん、このタイミングでブリーフィングってうちらはDM現象やクリーチャーのファイタイプに対応するために組織された特捜十三課ですよね」


「そうだ」


 千石の言葉に敬介が首肯する。


「ブリーフィングもない状態で緊急出撃することが基本の俺たちが、事前状況が真っ白なこの状況でブリーフィングなんて、こっちから動くってことですよね」


「察しが良いわね」


 夢がさすが千石、と微笑む。


「これを見てください」


 目の前の大型ディスプレイにマップが表示され、簡易な等高線が表示され、平原が表示され街から少し外れた拡大された十三機関のCSTベースが表示された。


「CST、イングリの文字でアルファベットという奴らしい。うちらはそれを使う」


 敬介がそう言うとマップの右上にCSTという文字が刻印されていた。


「十三機関の六課にはCDTが、十三課にはCSTが配備され、彼らは十三課の訓練を受けています。六課長の教官は大部隊指揮権限を保有していますので大体は恐らくあちらが動かす事になると思います」


 萌の言葉を聞いていると萌が携帯電話を開いた。


「作戦決行まで残り時間、五時間」


 萌が淡々と報告する。十七時に行動を起こす。恵美たちは室内の時計を見上げて緊張した。


「うちらのCST、クリーチャースィーパーチームと名付けられた攻撃部隊は少数精鋭だが数は少なく、下手に被害が出ると面倒な事になる。そこで六課のCDT…クリーチャーデストロイチーム、殲滅部隊の方に舞台に上がってもらう」


「どういうことでしょうか」


 さなえが嫌な予感がして敬介を見つめると、敬介はにやりと笑った。


「当面の敵は…独自路線でユグドラシルレポートの収集を行っているアマテラスになった。誰にも公表していないが、CSTはクリーチャースィーパーチームと銘打っているが、本来はクリアシークレットチーム。ユグドラシルレポートを追うためのチームになる」


「…なんだってそんな。俺はてっきりDM現象に対応するための配備だと思ってたんですけど」


 千石は敬介の目的の一端を知って唖然とする。当初の目的とはずいぶん変わってしまった様な気がする。


「いや、DM現象に対応するためのチームであることは変わりないんだ。ただ、対応するだけなら六課だけで十分なんだけど、あれは抑止にはならないだろ」


 敬介の物言いに千石は感じていた。確かに後手に回るだけでは抑止にはなっていない。対応は出来ているかもしれなが、抑止となると話は別だった。


「確かに、抑止ってのは先手を打つもんですね。で、今回はその抑止に回ると?」


「無理だな。自然現象の様にDMは発生している上に範囲を広げている。DM現象を抑止するために必要なのは、DMを根本的にどうにかするしか方法はない。その為に必要なのはなんだ?」


「DMの研究と、それに関係するゴーストやクリーチャーの研究。その為にはその結果を記録していると言われているユグドラシルレポートを発見すること」


 さなえが敬介の求めた回答を口にして敬介は頷いた。


「正解。んで、クァリス、ヴァネッサ、恵美にアマテラスに戻ってもらう」


「あたし?」


 恵美が驚いて自分を指差しながら敬介に尋ねると、敬介は首を横に振った。


「いや、恵美は恵美だけどな」


「儚か」


 千石が前に恵美が誘拐された時に使った手段を思い出した。アーティファクト蒼月海面模写で恵美の姿になってアマテラスに入り込めばいい。


 そこで千石はふと気付いた。


 恵美を逆に調べようとしてるのかもしれない。


 敬介がここに恵美を置いて恵美の身代わりを置くことを恵美当人に知らせる事で得られる事があるのかもしれない。


「…恵美、いいな?」


 敬介は少し間を開けて恵美に尋ねた。


「別に構わないけど、儚さん危険じゃないの?」


 自分の役割を今更他人に明け渡す事になると思うと少し心外だったが、決定事項なのだろうと思うと諦めるしか無く、恵美がぶっきらぼうに言うと敬介は頷いた。


「儚がヘマをすることはまずないだろうな。それは正直な話…お前たちより信頼できる」


「それは能力としてですか?それとも、人として信頼しているんですか?」


 敬介は三咲に尋ねられて驚いた。思わぬところから思わぬ言葉が飛んで来た。


「そうだね…どちらか欠けているような人はいらない。俺はそう思っているよ」


 敬介がそう言うと、今回の夢が嬉しそうに微笑み、萌は携帯電話をいじり始めた。


「んじゃ、ブリーフィングだ。本日…」


 敬介がブリーフィングを始める。今回の作戦は演習、という形を取る事になる。高速移動が可能な戦闘機の真上に増設する形で神機三機を固定、現場へ急行できる航空戦闘機を使用した移動の演習だ。


 翼にしがみ付いて旋回飛行を行い、その後パージアウトされた後に三十分間のフロートエンゲージを行う。自由飛行だが実際は背後に取り付けられたフライトユニットを使用した空戦をイメージしたトレーニング、と言う事だ。


 訓練の内容を受けて恵美は納得した。


 前回、航空戦闘機で無理やり空に上げらたことに対しての対策なのかもしれないが、三十分間しかバーニアフロートが維持できない上に、急加速などをすればバッテリーユニットのイオンプラズマスラスターがフロートを維持できなくなり…墜落する。


 パージアウトからクリーチャーをせん滅するまでには三十分…いや二十分が戦闘限界になる。


 ブレイク完了後はまた航空戦闘機に戻らなければならないのだが、これがまた至難の業であるとしか言いようがない。


 相対速度の差が大きい航空戦闘機を傷つけない様にマウントするなど本当に可能なのだろうか。


「ちなみに、三号機に恵美、三咲ペアの神機エスティス。二号機に翡翠、萌のジェネシス、一号機にさなえ、千石のサンライズブルーがラインディングすることになる」


 敬介の言葉に萌が首を傾げた。夢も敬介の言っている事に疑問を感じているようだ。


「あの…敬介隊長。予備機体を含めてラインディング機体は八機あるけどパイロットは二人しかいないわ。後は訓練生だけで…」


 予備のパイロットを実戦で入れるわけにはいかないのでは?と夢が警告する。


一番機のエスティスはフロート機だからな、最悪ラインディング出来なくても構わない。パージアウトまでしてくれればいい、とは言えない。


敬介はそれを察してしまわれないように考えていると敬介のポケットの中に入れてあったPDAがコール音を鳴らした。


丁度いいタイミングだった。


「今回は顔合わせの意味もあってね。他の連中も別室で顔合わせしているはずだ。航空戦闘機は多目的戦闘戦闘機、全天候全環境対応、宇宙にも出られる。まぁ説明は後で、パイロットを紹介しようか」


 敬介がPDAに「入っていいぞ」と言うと三人の真っ赤なパイロットスーツを来てヘルメットを左腕に抱えている人間が入って来て、千石と恵美はなお驚いた。


 最初に入って来たのは利樹で、続いて癒杏、最後に入って来たのは大津大輔だった。


「ファイティングバードはセントラルパニッシュメント隊の神機輸送、および制空権の確保を援護する。一番機搭乗の隊長に任命されたことを…」


「利樹さーん、かたい事はいいの」


 敬介が挨拶をしている利樹にそう言うと、利樹は不満そうな顔をする。


「ファイティングバードはデルタ翼形式のステルス性能を極限まで高めた機体だ。残念ながら神機を乗っけるとそれも意味がなくなるが、双発の強力なブースターはそれでもマッハ四を軽く超える速度まで加速できる。翼上部にも増加スラスターを付ける事で宇宙まで上がれる設計にはなっているがメテオカーテンが邪魔だ。今のところその必要はないだろうな」


 敬介に言われて神機パイロットたちが唖然とする。


「大津てめぇ!顔出さないと思ったらそっちもやってたのか!」


 学校にも顔を出さず、組の方にも我がままを言って顔を出していないと聞いていた。大津の組長は大津を庇っていたが、千石にとっては面白くない事だったが…。まさか航空戦闘機の練習をしていたとは思えなかった。


「すんません、千石さん。本当は俺もそっち側にいたかったんですけど。こっちに回されちゃいました」


 千石が頭を下げると、大津はため息をつく。


「移動するぞ」


 敬介に言われて全員が室外に出てバスに乗り込んだ。



 ◆◆    ◆◆

 十三機関 CST管理航空基地

 日曜日の十時三十分


 恵美と三咲は航空管制室に通されて自分の立っているタワーの高さに驚いて、そこから見える途切れている道路を見てなお驚いた。


「ひろーい」


 三咲が茫然としていると、恵美は首を傾げた。


 アスファルトで作られた道を見渡させるこの建物はヘリポートなどに置かれているものだと聞いていたが、ヘリポートの何十倍も広い滑走路と呼ばれるそれに何の意味があるのか分からなかった。


「まずは試験フライトを見てもらおうか」


 敬介がそう言うと、五から八番の機体ハンガーからデルタ翼の航空戦闘機が外に出た。


 管制塔の管制官が何かやりとりを始める。


 敬介、萌、夢、千石、さなえ、利樹、癒杏、大津に恵美と三咲は窓からその様子を眺め、翡翠は管制官の隣に立ってシステムを見下ろしていた。


「ランウェイって言うんだ」


 縦横無尽に引かれたラインと不規則な形をしている滑走路を指差して大津が恵美と三咲に説明する。


「状況や風向きなどの条件でどのランウェイを使用するか判断され、パイロットはその指示に従って…」


 大津がしている間にも上部に跨って伏せる様な形で搭乗しているパワードアーマー、ロットエクシードを搭載したファイティングバードがランウェイ上で横並びに三機並ぶ。


「専門用語満載、しかもイングリ形式でふりぃやり取りだ。覚えるのに苦労したけど、ここからが本番だな」


 フルスロットルでブースターを起動した一機目、五番機が滑走路を滑り始め、空に上がって行く。続いてすぐに六番機まで発進して、七番機が滑走路を走り始めるも八番機が遅れている。


「八番機が遅れてる理由は?」


 恵美がようやくランウェイに入った八番機を指差すと、大津が頷いた。


「ああ、あの子はえっと…。十二歳の女の子で成績は優秀なんだけどな…作戦とかあんまり聞かない子…」


 大津が困った様に言うと、管制官が何やら後ろで叫んでいる。八番機がランウェイに入ると同時にバーニアを最大噴射して、七番機がランディングシークエンスを完了する前に空に上がってランディングギアを上げた。


「うっほーい、ぶつかるぞー」


 千石が他人事のように言うと、八番機が七番機を下から追い抜かして上昇して行く。


「またやりやがった。高度制限無視、速度制限無視、スクランブル発進命令出てないのに…」


 大津が頭を抱えると八番機の機体が旋回してこちらにまっすぐ降りて来る。


「ぶ、ぶつかるコースだよ…ねぇ」


 三咲が一歩後ろに下がると、恵美は月影弓砕覇を展開して光の矢を番える。撃墜は可能だが…跡形もなくと言うと気が引けた。


「大丈夫だ」


 目の前をエルロンロール、機体を回転させてパイロットがこちらに笑顔で手を振って右から左へと通り過ぎて行くと、窓がびりびりと震えた。


「…あの子、後で怒られるんじゃない?」


 三咲が胸を撫で下ろしながら呟くと、恵美は苦笑した。


「どっかの誰かさんに似てるんだよ、あいつは」


 敬介も報告は上がっていたので彼女の存在は知っていたようだった。


「恵美さんも確かパワードアーマーで似たようなことしてましたね。機体ハンガーから出る時、前転してその勢いで倒立、捻りを加えて前転宙返り、ロンダードしてバック宙返り…でしたっけ?」


「あ、えー?しりませーん」


 さなえに言われて恵美がすっ呆けると、敬介はため息を吐いた。


「エアコンバットマニュービングならここにいる三人と同等なんだけどな…。問題が多すぎてうちらに推薦出来なかったんだよ。あいつは…空が好きだからな」


 敬介が言うと萌がうんうんと頷く。


「この訓練、嫌いなんですよねぇ」


 大津がそう言うと利樹と癒杏までも嫌そうな顔をして空を見上げていた。


「まぁ…一番重要で一番神経を使うと思うけどな」


 敬介が三人が嫌がる理由もわかると空を見上げていると、パワードアーマーがパージアウトされ、その場に滞空し、戦闘機が旋回してくると今度はラインディングと呼ばれるパワードアーマーを空中で搭乗させた。


 繰り返し、繰り返し、何度もその機動を行っていて見事なものだったが、失敗すれば衝突することもあり得る。空中で衝突すれば墜落は目に見えている上に、パワードアーマーのパイロットも自分の姿勢を真っ直ぐに飛び乗れるようにしなければならないために身長に行っている様だった。


「脚部を正確に機体に開いているドッキングスポットに嵌めてやらないといけない。両手で掴むのは翼の後ろにあるフックがある。それを握れ。まぁ自然体で立っている状況でつま先を穴に入れて、両手で掴む感覚だな。エスティス機は両足のつま先が無いから腕二本で支える事になると思うが…まぁそこら辺は問題ないだろ」


「フロートタイプだから?」


 恵美が敬介に尋ねると敬介が頷いた。


「大津が無茶な機動をしなけりゃ恵美の感性でなんとかするだろ」


「うわー、そう言うことね」


 恵美がやれやれと頭を振ると大津が苦笑した。


「振り落とされんなよ?」


「飛べるからいいの」


 恵美の可愛げのない返答に大津は「ふん」と鼻を鳴らす。航空戦闘機のように持続した高速軌道は出来なくても、竣発で加速する事は可能だった。


「じゃあ、うちらも出るぞ」


 敬介がそう言うと翡翠が真っ先に管制室から出て行く。


 敬介と夢はそこで一番機から三番気が出て来るのを待つと、夢は不安そうな顔をしていた。


 それもそのはず、恵美、三咲は訓練経験がない。


 敬介はそれを知っている上で行き成り空に上げようとしているのだ。しかも高度四十キロで狭められた狭い空を、だ。


「敬介くん、どうしてこんな無茶を?」


「無茶じゃないんだよ。恵美、三咲は思っている以上に曲者なんだ。訓練も動かし方も知らないはずのそれらを見ただけで動かせるように、しかも完璧で俺たちが思い付かない様な方法で実行して来る。これが何を意味しているかわからないが、無茶をさせ続けて見たい」


 敬介が愉快そうに夢を見ると、夢はその顔に唖然とした。


 その為に昨日中から神機三機をこちらに送り込み、機体をセットしていたとは思えなかった。


「無茶です、シミュレーションも行わず行き成りなんて…」


「今の恵美ならたぶん大丈夫だな」


「大丈夫って、どこにそんな根拠が…」


 敬介の指示には基本的に逆らう事が出来ない。訓練の中止を提案しても却下されるだけだろう。


 敬介に口を挟めるのは次席代理の萌だけだが、萌がそんなことをするようなことはまずないだろう。


 夢は儚が前に漏らしていた事を思い出して焦燥感が胸の内に湧き上がった。


 今の十三課は敬介のワンマン状況に他ならない。誰もこの部隊を止める事が出来ずに、方向を一点に定めたら突き進んでしまい、それが間違いだと気付いた時には全てが遅いかもしれない。


 儚はそんな懸念を前に自分に漏らしていた。


 敬介が間違えなど犯すはずはない。夢は自分でもそう思っていたし、今までそうだったと敬介に信頼をしていたが…。ここに来てあの五人に対しての態度に夢は何か違和感を感じていた。


 高校生に…託し過ぎている。まだ若く、確かに能力や才能はあるかもしれないが、何か

急ぎ過ぎている様な気がしていた。


 敬介の狙いが分からない。


 夢が焦っていると一番機から三番気が空に上がり、その後しばらくして成功の第一報が入った。


 何度も失敗することなく、パージとラインディングを可能にしている恵美に夢は恐ろしいものを感じた。


「夢、恵美は今、ラーニングしているはずだ」


「学習…ですか?」


 ここからでは見えない訓練の様子に夢は首を貸してた。


「そうだ…。恵美はクリーチャーファイタイプだ」


「…サヴァイブ処理を施した、と言うあれですよね?」


 夢は話しに聞いていたと頷くと、敬介は苦笑した。


「DM現象は人間よりも下位であるはずのデミヒューマンと交わった劣悪種の人類を抹消するために使用が始まった古代のクリーンナップ作戦であることがサンライズブルーのメモリーから解析された結果で分かった。が、DMのクリーンナップ作戦は失敗に終わった。ゴーストと呼ばれるそれらになったデミヒューマン混合種が発生したからだ」


「…ゴーストはそういうものだった、ということですか」


 ゴーストの正体が分かったところで意味がない。デミヒューマンとの混合種が一体どのようにして分布し、誰がそうなのかなどデータにないのだから、混合種だけを特定してDMから遠ざければいい、と言っても簡単には行えないはずだった。


「ゴーストから生まれたサークルやゴーストそのものが一か所に集まってクリーチャーが発生することも分かっているが、これが何を意味しているのかも分かった」


「どう言う事、でしょうか」


 十三課の実働ユニットである自分にはまだその報告は入っていなかった。夢は敬介が語る事に耳を傾けると、敬介が苦笑した。


「それは追々だね。夢、こっちに」


 敬介と共に管制室を出て別室に移動すると会議室に瑪瑙が既に入っていてモバイルコンピュータをいじっていた。


「敬介、夢さん。あと三日くらいで完成すると思いますよ」


 瑪瑙がコンピュータのディスプレイを敬介と夢に向けると完成予想図と表記された巨大な塔が映し出された。


 六角柱の巨大な建物が島を元にして真上に伸びて行く映像が時間の経過と共に上へ上へと延びて言っている。


「現在、一千五百階で高さは四千二百メートル。まだまだ上に伸ばしてどうするつもりなの?」


「四千メートル越え?とんでもないね。そんなの何のために建設してるんですか?」


 夢がその高さを想像して青ざめる。もしその現状最上階で作業している人間の立場になると気が気ではない。現在世界で最も高いと言われている首都のユーディロタワーが八百メートルと言われているが既にその五倍以上の高さに到達している。


 どうするつもり、何をするのか…か。


 当たり前の問いに敬介は小さく息を吐いた。


「メテオカーテンとDMに対応する施設だ。超高空まで到達し軌道エレベーターとして宇宙に上がる!」


「え?」


 敬介の笑みに夢が驚嘆する。翡翠の隣に座ってコンピュータを操作して内部構造などを徹底的に調べようとしたが建築物には無知で何もわからない。が…この建設規模は明らかに人知を超えていた。


 まっすぐに空へと延びる完成予想図はまるで…。


「まるで…バベルの塔だよ、これは」


「すごいのは上だけじゃないわよ」


 夢に瑪瑙が答えると、左から割り込んでキーボードを叩き見せると地下にもだいぶ深い構造になっていた。


「待って…待ってよ…。これ島じゃないの?」


 夢がその構造を見て唖然とする。海抜ゼロメートル地点を貫く形で地下が掘り進められ、まるで大地に刺さる巨大な杭のように…。


 そうだ、杭だった。


 この星に空からまるで杭が打ち込まれた様な設計。そして現在地下も建設が同時に進められていた。


「これをいつから建設していたの?」


 夢が尋ねると、翡翠がふふ、と意味深な笑みを浮かべた。


「二年前からよ。鳳凰寺敬介の全ての英知を詰め込み、そして世界で獲得した財貨をすべてつぎ込んで作った塔よ」


「なんでそこまでするの?敬介くん…?」


「質問攻めだな、夢」


 敬介は少しばかり面倒そうな表情を浮かべると夢は黙り込んでしまう。敬介の眼を見るとどうしても恐ろしくなった。氷の様な無感情な瞳で見下ろされて儚が委縮しているのを見て瑪瑙は夢が可哀想な人だと思えて来た。


 夢も儚も…可哀想な人形なのね。


 瑪瑙はそう思うと自分もいつそうなるのかわからなかった。ただ、彼女たちは知らない。知らずして今の状況に…。


「ニルヴァーナに全てのアーティファクターを集め、DM現象に対して特化した組織を集約する」


 敬介が宣言して瑪瑙が頷いた。ニルヴァーナ、それがあの島の名称だった。


「既にレベルセブンコミュニティー全ては鳳凰寺敬介の立案に同意、合意を持って移住を完了している」


「ま、待って下さい。どれくらいになるのか分かりませんけど…収容された人数をどうやって管理統率するの!」


 夢が不可能だ、と抗議するのも無理はなかった。あの島に収容した人数が増え続け、膨れ上がれば衣食住…特に食べるものに困るはずだった。


「先日、解決方法を見出したばかりだよ…」


 敬介がそう言うと夢は最近の事件を思い出した。


「デミヒューマン集落の…プラント!」


「正解」


 敬介が夢の物分かりの良さに笑顔を作り、瑪瑙はその敬介の顔を見てキーボードを叩いた。


「小型のプラントだったけれど、十分に使用可能だったわ。当面はそれに困らない。プラントはプラントと共鳴する。その結果分かった事は…このまま海底に突き進んで行けば超大型プラントと接触するの」


 掘り進められたシュミレーションが進み、目標地点に到達する予定まで残り十五日となっていた。


「周囲からも物資を補給していたが、この大型プラントと接続することで共振現象が得られて、大型プラントは地下を、小型プラントは地上から空までエネルギーを送り出す事が出来る。そして大型プラントは小型プラントへ出力を供給することで、通常プラントと同じかそれ以上の出力を得る事が出来るはずだ」


「そんな使い方があるなんて知らなかったよ…。各国のプラントラインを使えば…」


 夢が考えたことは各国のプラントを繋げば、世界は…特に小型の国へのエネルギー配給も可能になり争いが無くなるということだった。


「ニルヴァーナをモデルケースとして世界にエネルギーラインを完了させれば、戦争がなくなる!すごいですよ!」


 夢が興奮気味に敬介に詰め寄ると、敬介は奇妙な生き物を見る様な顔をして硬直していた。


「夢、あなた大丈夫?」


「…え?」


 瑪瑙に心配されるような口調で尋ねられて夢が茫然とする。自分が何か間違えた事を言っただろうか?と考えるが世界平和を実現できる敬介の考えに間違いがあるとは思えなかった。


「この人、本当にわかってないの?」


 瑪瑙がやれやれと敬介に尋ねると敬介は「らしいな」と呟く。


「儚はすぐに気付いて賛同したぞ?」


「儚と一緒にされるの嫌だって…言ってるのわからないの?」


 強気に夢がそう言うと瑪瑙はきょとんとしている。瑪瑙から見て夢と儚は仲がいい様に見えていたし、同じ孤児院で育った関係だから親しいのだとばかり思っていたがそうではなさそうだった。


「アーティファクターを一か所に集めてDM現象に対応する場所は確かに必要だったはずだけど、今まではクリーチャーの出現も規模も小さいものだったから各国は足網を揃えようとしなかった。だけど大型クリーチャーが前のホワイトアウトプランに刺激されてDM以外の範囲に出現する様になる可能性があるって…」


 最後の方は消え入りそうな声で夢が口を閉ざす。


「ホワイトアウトプランって…あのアーティファクトは何なの?」


 使い方を一歩間違えれば大量破壊殺戮兵器にも成り得るそれに夢がふと尋ねる。


「君に知る資格はない」


 敬介がそう言うと瑪瑙は頷いた。


「敬介くん?そろそろ時間よ」


「そうか」


 敬介が腕時計を見ると外でランウェイにランディングする接地音とブレーキ音…そしてバーナーの音が聞こえた。


 ファイティングバードの着陸音で滑走路に無事戻って来た音だ。窓から外を見ると神機ジェネシスを乗せた一番機が…機種を上げた。エアブレーキを解除してフラップを下げると同時にアフターバーナーを全開で発射させて、素早く離陸して行くと同時に基地内にけたたましいブザービートが連続して流れる。


「スクランブル!スクランブル!ランディングバード全機はロットエクシードの搭載作業にかかれ!」


 基地内に流されている警報に夢が驚くと同時に爆発音が響く。


「ロットエクシード…搭載完了時間は約五分」


 敬介が冷静に瑪瑙を見ると、瑪瑙はコンピュータのキーボードを叩いて基地の状況を調べようとすると全てのアクセスが拒否されてしまい両手を上げた。


「お手上げね」


「どいてっ!」


 夢が瑪瑙のコンピュータを自分の前に引っ張るとキーボードを勢い良く叩く。


「大丈夫なの?この人」


 先ほどまでの思慮のない行動に敬介は頷く。夢は情報関係に卓越した人間だ。


 簡単にセキュリティーパスをブレイクして夢は基地の状況を確認する。


「CICが沈黙?理由は…これか」


 基地の近くに潜んでいる…パワードアーマー?ウォレス二型とウォレス鎮圧兵装型…なんで?


 夢が敬介の顔を見つめ、敬介は黙って夢を見つめ返す。


「これって…廃棄完了した機体なのでは?」


「言っただろ?三人がまたアマテラスに再潜入するって、こちらとしても多少被害を出さないと駄目なんだ」


「だって今朝は六課がその担当で私たちは…」


 関係ないはずだった…。


 本当にそうなのか?


 情報に入って来るパージアウトした直後にファイティングバードが次々被弾して中破し緊急着陸して滑走路が騒がしくなり、ロットエクシードたちはウォレス鎮圧兵装型の圧倒的火力の前に押されて行く。


 たった二機の…ウォレス二型と鎮圧兵装型に押されている。こちらが出撃しているロットエクシードは六機…そして神機が三機だったはずだ。


 敬介のPDAが着信、敬介がPDAを片手に取る。


「お兄ちゃん!CICから返事がないの!どうすればいいの?」


 特殊回線である敬介と恵美の神機エスティスからの通信だった。上位プロトコルである通信方法は他に妨害されない。


「敵機のECMだな。サンライズブルーがECCMを起動するまで待て…と言っても…」


 やりすぎだヴァネッサ…。


 敬介はヴァネッサの行っているECMに頭を悩ませる。ロアナードは小国でありながらも戦術的な優位性を保っていたのはその強力な電子機器にあった。


 情報戦や電子戦に強いロアナードだからこそ、ロットエクシードに対抗できるようにとしているウォレス型を生産着手することが出来たのも事実で、現状ロットエクシードは電子妨害を受けてうまい事動けていない様子だった。


「ECCMの起動完了!敬介さん!聞こえますか?」


 PDAに着信、サンライズブルーのさなえからだ。当たり前だ。


「こちらサンライズブルーコントロール千石です!敬介さん、ウォレス型が動いてるぞ!」


「逃走を始めました!」


 千石とさなえが交互に叫ぶように状況を報告して来る中、夢はコンピュータに映したCICシステムからレーダーを抜き取って表示するとウォレス型二機が遠ざかって行く。


「なんで?なんで戦闘に参加しなかったの?萌ちゃん…翡翠ちゃん…」


 三咲の声が通信に入り、三咲と翡翠の通信が繋がる。


「ECMで敵味方信号が完全にダウンしていた状況で、ジェネシスが動くとどうなるかわからないわけではないでしょう?」


 翡翠の落ち着いた声が敬介のPDAのオープンスピーカーから響く。


「何言ってるかわからないよ!はっきり私にもわかるように説明してよ!」


 三咲が叫び出し、恵美とさなえが慌てて三咲を止める声が聞こえる中、敬介は呆れた。


「とりあえず全員、帰還しな」


 敬介が指示をしてPDA回線を切ると、夢がCIC画面をオフにする。


「残った滑走路は二本、ロットエクシードは中破がかなりの数にのぼり、ファイティングバードも結構な損害が出ていますがかすり傷程度。パワードアーマー、ファイティングバードの両パイロットに死者は出ていないようです。怪我人はかなりの数に上り、まだ怪我の具合はわからない、だそうです」


 まだ情報収集を行っているだろうが、夢は先ほどまでの情報をまとめて報告した。


 これだけの被害で済んだ、というのは楽観的。これが本当の敵だったとしたら、こちらはほぼ全滅、壊滅。


 敬介はそう思うと防衛のプランをもう一度立て直す必要性があると判断したが、その様子を見ていた瑪瑙が渋い顔をしていた。彼女も同じことを考えているはずだ。


「作戦決行は十七時だったはず。なぜこんなに繰り上げたのか説明していただける?」


 瑪瑙が不満そうに敬介に尋ね、敬介は「時計読み間違えたんじゃないのか?」とすっ呆ける。


「これがあの三人だけに知らされていた作戦だったんだね…。だから儚たちは先に準備に取り掛かっていた」


 途中退席して自分と変わる様に言っていた儚の行動にようやく納得して夢は奥歯を噛む。


 自分たちをまた騙す様な時間を繰り上げると言う行動を行った敬介に対して部隊内から不満の声が上がり始めている事も事実だった。敬介の行動は天才ゆえの気まぐれだと誰もが言っていたが、命が関わって来る事にも平気でその気まぐれを起こす。


 危険すぎる思想。


 誰かがそう言っていた事を思い出す。


「組織が大きく鳴り過ぎると、必ず不穏分子が入り込む余地が生まれる。その排除を行っているだけだ」


 敬介は夢の表情を察して口にした言葉はそれだった。


「不穏分子…?」


「ここ数日で組織を格段に大きくする事は危険性を孕む事になる事はすぐにわかるよな?」


 敬介が説明を始めて、瑪瑙がコンピュータのキーボードを叩いた。



 ◆◆   ◆◆

 基地内

 同時刻


 不意に開かれた指定チャンネルに全員がスピーカーから流れて来る敬介の声に耳を傾けた。送信者は瑪瑙。


 恵美と三咲は駐機してコクピット内でその声に傾注していた。


「この音声…俺たちだけにしか送信されてないぞ?」


 神機コミュニケートラインで千石が発言して恵美が納得した。瑪瑙は自分たちだけにこの通信を聞かせていた。


「結局のところ、組織の拡大は思わぬところで足元をすくわれる事になりかねない。どこかでふるいにかけるないし選別する必要性があるんだ。まぁ今回の作戦ではあの二機を撤退させるまでが試験だった」


「どう言う事?」


 敬介の声の後に夢の声が入った。


 敬介お兄ちゃんと夢さんの会話、かぁ。


 恵美は盗み聞きをしているようで落ち着かないが、二人の会話が気になった。


「十三機関という組織は軍事や政治とは隔離されていると言っても、まるで監視を付けていないわけではない。それくらいは理解していると思う」


「え…うん。だけど今回の作戦で何を調べようとしたの?」


 この襲撃も作戦のうち?


 恵美は先ほどの襲撃に首を傾げる。確かにヴァネッサたちは今日、アマテラスに再内偵するためにする手筈だと知らされていたが…この時間であるとは聞かされてはいなかった。


「CST内部にアマテラスに内通している者がいれば…襲撃の時間に合わせてこちらにダメージを増やす作戦が練られていたはずだ。そうすれば怪我人どころではなく死者が増えていた可能性もあった」


「可能性のために襲撃時間を早めた…?」


「そうだ…最善の策を取る。こちらは戦闘経験が少ない人間ばかりでどうしても手薄になる」


「おかしいよ?だってそれじゃあ…六課の方にこの作戦の方針は伝えられてない?」


 夢の言葉に萌と翡翠は納得した。


 ジェネシスのコクピット内で翡翠はくすくすと笑う。


「翡翠、どう言う事?」


 翡翠の声に気付いた恵美からの質問に、翡翠は確信を持って答える。


「元々、六課になんて賢者は何も伝えて居ないのよ。これは十三課のみの判断で独自に行っている作戦。六課は…いいえ、十三機関はアマテラスに内偵を送り込む作戦は愚か、ひょっとしたら、自分たちが神機を擁していることも報告していないはずよ?」


 翡翠の自信たっぷりの物言いに萌が渋い顔をして、翡翠は正解か、と心の中で確信した。


「そうかもしれないわね…」


 翡翠は思わぬところからその声が発せられて驚いた。


 恵美が翡翠に同調するかのようだった。


「敬介お兄ちゃんは結構自分で勝手に判断する事が多い。組織としてそれは…都合が悪い事なのに結構、素通りされていると思うの」


「恵美、いいところに気付いたわね。どうしてそう思ったの?」


 翡翠が恵美に尋ねると、恵美は諮詢することなく即答した。


「アマテラスに内偵したり、ロアナードに内偵した時と協力した時に感じられたのは、統率された組織っていう感じだった。私は敬介お兄ちゃんの指示に従っていたから息苦しいと感じていたけど、たぶん向こうが本物の組織なんだと思う」


「こっちの…特捜十三課はどういう感じだったんだ?」


 千石の声に翡翠は目を閉じる。


「自由奔放だけど…監視はされている感じ。でも何か違うの。人に見られているって言うか、要所要所だけ抑えられていて、そのせいで行動が一定の方向に操作されているような…」


 恵美が言い淀むと千石が鼻で笑った。


「おいおい、恵美がそう言い出したら俺たちなんてレールの上を歩いてる様なものじゃないか。お前っと失礼」


 千石は前に恵美をお前と呼んで嫌な顔をされたことを思い出して訂正する。


「恵美の行動は俺たちの予想の斜め上を行っていて、敬介さんは恵美に監視をつけたくらいだぜ?」


「あ、そうだったんだ」


 千石に恵美が驚き、さなえはため息をついた。


「おバカ…」


 明かさなくてもいいことを明かした千石が気まずそうに唸る。


「ま、まぁ昔の話なんだけどな。で…まぁそれは置いておいて、恵美が実際に行動を起こした後に敬介さんに報告してもけっこう後手に回っていて手を出せない状況が多かったってのも事実なんだぜ?」


「じゃあ聞くけど…手が出せない状況って誰が判断したの?」


 恵美に言われて千石が黙り込む。


「賢者の指示を待っていたのよね。あなたたちは」


 翡翠が千石の代わりに推測を口にすると全員が沈黙した。沈黙は正解だ。翡翠が考え得る現状では、ここにいる自分以外は全員が恵美の監視に当てられていたはずだった。


「賢者敬介…ね」


 翡翠はふふ、と笑うのを萌は下部シートから見上げていた。


高い買い物?でもなかったけど出費がかさむ!

自分で香水を作りたいと言われまして、道具を誕生日プレゼントとして送ってあげました。自作香水って流行ってるわけでもないようですが、何かの影響を受けたんでしょうね。

三角フラスコとかは必要ないようですが、メスシリンダーとかピペットとかをそろえてあげました。小さな研究室みたいな感じに…。まぁいっか。

一生懸命作っている姿を後ろから見ていると、その真剣な姿がまた…。最近なにかに真剣になれたかな?と思えるくらいでした。


それでは次回。

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