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闇鍋なんて懐かしいことをしていた従妹の友人たちの席に参加したら、従妹を箸でつかんだ。腹を壊す覚悟で食べようとしたらその前に毒を吐きやがった。

少し遅れました。

ここからなんだかよくわからないけど、マスィーンがいっぱい出てきます。ロボットとか書けないのに、戦闘機とかもうね。エアコンバット?なにそれ、おいしい?

ゲームは好きなんですけどね。兵器関係とか詳しくないんです。


少しずつ敬介の核心部分には近づいているような気がしますが…はて?

原案さんの病気が快方に向かっているらしく、相変わらずすーぱーな電波を発信しています。今回のお話は三回書き直しさせられました。イメージと合わない?らしく、ご指摘いっぱい。

恵美と敬介って何なの?むしろこれからどうなるの?と執筆者である私もよくわかっていませんが…なんとかなるでしょ。

終わりが見えない。こんだけがんばっても物語が始まってからまだ二カ月も過ぎてないとかどんだけー?自体はリアルタイムに進行中、みたいな感じらしいですよ?

 フォクシー族の村 地下サンクチュアリ 閉鎖区画B3F

六月の第二週 金曜日 二十一時丁度


状況としては最悪だった。


 三咲とさなえは最深部から平原に降りた。先ほどまであったゾンビたちの襲撃もそこではさっぱりとなくなり、大きな噴水を見つけた三咲が興奮気味に水面を覗いていた。


「こんなところに噴水があるタイプのサンクチュアリは報告されたことがありませんでしたが…」


 さなえもその噴水を見上げて茫然とした。


 高さ二十メートル程の大きな石造りの噴水は大きな皿を重ねて要る様に見えた。一番上の小さな皿から水が噴き出して、左右の高さの違う皿を伝って一番下の皿に流れ込み、目の前の半径五十メートルほどの池に流れ込んでいる。明らかに巨大なその構造に三咲だけではなくさなえも違和感を感じていた。


 なぜこんなものがこんなところにあるのか理解できない。


 さなえはぐるりと一周回るだけでだいぶ疲れてしまったが、三咲は腰ほどの高さのある壁に乗り出して水面から水底を覗き込んでいた。


「さなえセンパイ!すごく綺麗ですよ!」


「へぇ…」


 さなえは三咲の隣から水底を覗き込むと確かに水は澄んでいて、大分深そうだな、と思った。底が見えないのだ。


「なんかありますよ?」


 三咲が水面を指差すと、さなえははっと息を呑んだ。


「パワードアーマー…」


 水の中に沈められているその頭部は確かに青色の装甲を持った人型の装甲をした兵器だった。


「パワードアーマーってなんですか?」


 三咲がさなえの方を向くと、さなえの行動に目を丸くした。


 さなえは池から距離を取って、池に向かって全力疾走を始める。


「ちょ!飛び込むつもり…」


 最後まで言い切る前にさなえがひょいと池の淵を飛び越えて綺麗に入水て行く。まるで水泳選手が飛び込む様なその光景に三咲が慌てる。


「え?まじですかー?」


 自分は泳げない…。


 三咲がきょろきょろとすると地震のような地響きと沢山の足音が聞こえて来た。


「誰か来る」


 三咲が身構えて左手に大きなベルの装飾の付いたスティックを顕現させて握り、意識を杖に集中させる。


「どけええええっ!」


 ミーアの声が響いて上で爆発音と銃声が響き、三咲は慌てて生命の集う場所に通じている梯子の方へ走って鋼鉄のドアを開くと階段の上からミーアが「とうっ!」と声を出しながら飛び降りて来る。高さにして十メートルほどもあるその高さから落下して普通の少女ならば骨折などで耐えられないはずだったがミーアはひょい、と三咲の目の前で着地して三咲を見上げるなり安心したように微笑んだ。


「大変だよ!上で闘いが始まってる!」


「ミーアちゃん!危ないから勝手な行動をしないで!」


 二人が同時に口を開くとミーアがしゅんと小さくなり、三咲は首を傾げた。


「えっと…急にいなくなって戻って来て…上でまた闘いが始まってるってどゆこと?」


 三咲が尋ねるとミーアが「えっとね」と小さな声で呟く。


「デミヒューマンの特殊な能力で、私たちは大切な人と気持ちを通じ合える事が出来るんだ。離れていても言葉を使わないで…気持ちを届けるっていうのかな」


「便利だね…」


 今更、何を聞いても驚きはしないが、ようはテレパシーの様な事が出来るらしい。


「便利じゃないよー。大体のいる場所がわからないと使えなかったりするし、チャネリングしてる間に余計な事を考えちゃうとそれも相手側に伝わっちゃうから結構大変なんだ」


 大変、と言われても三咲は実際にそれをしたことがないから今一実感がわかないが…。


「アレイにまた闘いが始まったから気を付けろって言われて、びっくりして外に出ちゃったらけっこう大変な感じだったんだ…。アレイとか三咲ちゃんの仲間さんたちが鉄砲とか持ってたくさん森の中で…死…んでた…」


「本当に?」


 死んでた、という言葉に三咲が青ざめるとミーアは何度も頷いた。


「私の仲間もたくさん死んじゃってたし!巨人はもう出て来てないみたいだけど、こっちにたくさん銃を持った人たちが来てるから逃げよう!」


 ミーアの言葉に三咲はさなえの方を見て、ミーアの手を取って噴水の方に走る。このままではここも危ない。


 アーティファクトはここにはなかったのだから、最小限の戦闘を行って外に出て銃三機関の前線本部に逃げ込めば安全なはずだ。


 三咲は池の底を覗き込むとさなえが丁度水面に上がって来ていた。


「みさちゃん、パワードアーマーを動かすから離れてください」


「さなえセンパイ、そんなことしてる場合じゃないですよ!外で戦争が始まってて、なんかいっぱい死んじゃってるらしいです!こっちにも人が来てるみたいで…」


「あら、じゃあ急ぎましょうか…ミーアさんもいるのか…」


 さなえはミーアに気付くとミーアがきょとんとする。難しそうな表情をしているさなえは息を整えてもう一度水の中に潜って行く。


 水温が低い…。さっき無理し過ぎたかも。


 さなえは胸部コクピットハッチから内部に入ってハッチ閉鎖を素早く行う。


 ハッチ閉鎖…ジェネレータ起動…。システム再起動…言語システムアップデート…。


 ハッチが閉鎖するとコクピット内に入り込んでいた水が排出されてさなえはふぅと息を吐く。


「アーティファクターの搭乗を確認しました」


 言語パックの訂正されたものを先ほど携帯電話から送信させたものが適応されているらしい。敬介の神機プログラムアップデートは完ぺきだった。表示されている文字が次々と変換されて行く。


「緊急起動、システムチェック開始」


「完了、起動に問題ありません」


 女性の合成音声が答えるとさなえは全てのシステムを起動するためにコクピットディスプレイに表示されて行く文字をタッチして行く。


「近くに存在する神機との互換システムを起動して」


「神機ジェネシス、神機アスタリスクの存在を確認しました。敵味方識別信号を受信しています、ジェネシスの識別信号は十三機関、パイロット翡翠、萌。一等アーティファクターと確認しました」


「自機を十三機関、特捜十三課のIFF信号に設定」


「コンプリート」


 早い。


 さなえはこの機体のシステム展開の早さに驚いた。ロットエクシードではこうはいかないだろう。起動だけにけっこうな時間を要するOSだったはずだが、この機体のOSは何千年も前に作られたものとは思えないほど早かった。


「起動システムチェックオールコンプリート」


「起動開始、ジェネレータをマキシマム」


 さなえは後部コクピットで息を吸い込み目を閉じると、ばちんと全身に軽い電流が走った。自分の全身の神経が制御システムに探索されて、さなえは目を開いた。


「十三機関所属、特捜十三課サンライズブルー、さなえ…起動します」


「こちら十三機関、特捜十参加隊長主席、敬介。起動確認をこちらでも認識した。三咲を回収して一度ミーアを本部に送ってくれ。彼女には全てを伝えなければならない。全員、生きて帰って来い」


 敬介の顔がフルビュースクリーンに表示されてさなえは安心した。


 なぜこの人と繋がっているだけでこんなに安心するのだろうか。


 さなえはそう思いながら息を吸い込んで機体を浮上させた。


 おっき…ぃ。


 三咲はさなえが浮上させたその青い機体を見上げて唖然とした。


「巨人だ!」


 ミーアはさなえが動かしているであろうその機体にそう叫んだ。


 左手に全長六メートルをすっぽりと隠してしまう様な大きな盾を持ち、右手に大型の百五ミリビームライフルを構えていて、スマートなフォルムの背後には六本の赤紫色のラインレーザーが浮かび上がり、空気を振動させて浮遊していた。


「みさちゃん、前のコクピットへ」


 コクピットハッチが開いてビームライフルの銃口が三咲の目の前に向けられ、三咲はミーアの手を掴んでその上を走って腕を駆け上がり、胸部コクピットに滑り込んだ。


 さなえは女性像から入って来れる場所に何人かの兵士の姿を確認して、ハッチを緊急閉鎖すると同時に二人が隙間を抜けて頭から入り込んだ。


「うわ…なにこれっ!」


 三咲が驚き周囲を見回していると、さなえの足元から前にシートがあるのを発見してそれに座り込むと腰と背中がシートに引っ張られて身体が固着される。座った瞬間、全身に電流が流れて涙目になると、パイロット認証確認と目の前の小さなディスプレイに文字が表示される。


「サブパイロット認証…火器管制と姿勢制御?」


「全部こちらでやります。とりあえずミーアさんを抱えてください」


「ミーアっ!おいで!」


 切羽詰まったさなえの緊張感が伝染しているのか、三咲がミーアに言うとミーアが狭いコクピットの中をするすると移動して小さな三咲の腕の中に入り込み、三咲はミーアをしっかりと抱えた。


「あれは敵?」


 三咲がコクピットの中から外の映像を見て首を傾げると、兵士二十数名が一斉にこちらに砲火を開始する。


「敵でなくても今はこちらが無事に脱出すればいいだけですっ!」


 サンライズブルーの右腕が大きく動き、ビームライフルが発射された。長い光線の照射時間で一気に命の集う場所まで焼き払い、そのまま水平に平原をレーザービームを走らせると、一気に中が真っ赤に燃え上った。


 容赦ないさなえの攻撃で恐らく敵は全滅しただろう。


 三咲は愕然としているとミーアが茫然と外を見ていた。


「なに…これ」


 自分の仲間がまさかこんな巨人と戦っていたとしたら…勝てるはずもないではないか…。


「みんなっ!」


 ミーアが三咲にぎゅっと抱き付くと、三咲はさなえを見上げた。


「そこまでしなくても…」


「しないといけないんです…これは戦争です」


 さなえは右腕を掲げるようにビームライフルを空に向けて発射すると大きな穴が開いた。空まで貫通した様なその威力に三咲が驚くと、サンライズブルーがその急造されたトンネルに突っ込んで一気に地表に出ると、コクピットに警告音のアラームが鳴った。


「え?」


 三咲が警告されている方を見ると、高度四百メートルまで自分が上がっていて暗闇の中に所々に火の手が上がっていて…その赤い薄暗さの中から白煙が走った。


「さなえさん!携行ミサイルランチャー歩兵二、確認!接近警報!」


 三咲に警告される前にさなえは既に回避行動を始めていた。サンライズブルーが上体を捻る様にして着弾の瞬間に二発を回避する、と右腕をすぐに森に向けて薙ぎ払いの攻撃を行う。


 重武装歩兵三、脅威高と表示されていた敵だったその反応が消える。


「反応消失、索敵を再開」


 サンライズブルーの合成音声が素早く砕索敵を開始すると三咲はHQと表示されている地点に気付いた。距離二千五百。


「本部に行ってミーアちゃんを降ろしますよ」


 急加速。外の景色が後ろにすっ飛ばされる様に見えるのに三咲たちには衝撃が余りなかった。急加速すれば感じられるはずのあの重力加速度が全く感じられない。


「優秀な子ですね…」


 さなえは満足したように獲得したサンライズブルーを称賛する。


「外に出たの?」


 ミーアが不安そうに外の様子を眺めると、三咲は所々に転がっている動かない人の姿を見てぞっとした。


「自国軍だけ…ではないようですね。迷彩服を着ていますが市販で売られているものを来ている兵士たちが多い。敬介さんは軍隊を動かした…?」


 さなえも下の様子に尋常ではない事態を感じて様子を伺う。アスタリスク兵は既に統率の執れた反撃などしておらず、ここに奮闘しているようにしか見えない。それを国軍が追いかけ駆り立てている。


「警告、携行ミサイルランチャー接近、数二」


 AIの警告に三咲が腕を伸ばして両手でグリップを握って目を閉じる。


「ガーディアンベル起動!」


 サンライズブルーをすっぽりと収める球体が出現してミサイルが壁面に直撃して霧散し、サンライズブルーは無傷のままその場に滞空していると、歩兵の銃弾が装甲で弾けた。


 その程度の大きさの弾丸など恐れる事はないとさなえは周囲の検索を開始する。


 三咲はコクピットの中で両腕を伸ばしてグリップを握っていると、妙に懐かしい様な感じがした。ずっと昔にも同じように、こうしてこの場所に座っていたような気がする。


「アーティファクトの顕現化が行える機体。神機、アスタリスク、ジェネシス…サンライズブルー、カラミティ…全部で十三機ある神機のうち…五機が眠りから覚めた」


 三咲が虚ろな瞳で呟くと、さなえが三咲の異変に気付いて下のコクピットを覗き込む。


「みさちゃん?何か言いましたか?」


「さなえさん…ARKシステムってなんですか?」


 三咲に尋ねられてさなえが目を細めた。敬介と自分しか知らないアークシステムを口走った事でさなえは敬介の仮説が現実になったことを理解した。


「人類…人工削減計画…。テラフォーミング…移民計画…」


 三咲がコクピットディスプレイの下にあるキーボードを叩いてサンライズブルーに入力されている情報を検索する。言語パッチを当ててしまった事がさなえにとって痛恨の失敗であったと後悔すると、ミーアが首を傾げる。


「三咲…どしたの?」


 必死の形相でキーボードを叩く腕の中にいるミーアが首を傾げると、三咲は青ざめた顔をしたまま、ミーアに告げた。


「DM現象は人類削減計画の第一歩だった…。デミヒューマン計画…人類近似生物によって人類は正常遺伝子を保てなくなり、そのデミヒューマンを禁止した。これが…アルカナ歴ゼロ年…。デミヒューマンと遺伝子を交配したデミヒューマンとのハーフ民族を狩るためにDMを用いた削減が開始…」


「みさちゃん…一般人であるあなたがそれ以上の情報を閲覧することを禁止します。もう一度言うわね…」


 さなえが静かに警告しても三咲は聞く耳を持たずに検索を続ける。


「三咲…あなたを拘束、監禁します。今後一切、社会情勢に関わる事を禁止し、あなたの人権の一切を剥奪します」


「え?」


 三咲はさなえが何を言っているのか理解できない様子でコクピットを見上げると、目を見開いて硬直した。さなえのいつも笑顔を絶やさない優しい表情は微塵にも感じられず、氷の様な視線がこちらを見下ろしていた。


「敬介さん…ユグドラシルレポート…やっぱり神機に隠されていたわ。守りの鈴に解除キーが割り当てられていたと推測したあなたは正解だった。これからミーアを廃棄、三咲を連行します」


 三咲とミーアはさなえが何を言っているのか全く理解出来なかった。


「さよなら。デミヒューマン」


 さなえは静かにそう言うと自然な動作で、まるで握手を求める様に左手で拳銃を握ってミーアにポイントすると、ミーアが反応する前にドンと発砲音が響いた。


 三咲は自分の身体に暖かいものが流れて来て叫ぶ事さえ出来なかった。


 自分の頭上からさなえを見上げていたミーアの身体がだらりとコクピットディスプレイに倒れ、三咲は頭半分から上が無くなっている少女の顔を直視して、その場で意識を失ってしまう。


「守りの鈴…ガーディアンベルは人間が人間のまま直接使える様にした改良型のアーティファクトだ。サヴァイブした人間が使うアーティファクトやゴースト化から復帰した人間が使うアーティファクトとは種類が違う、そう推測した敬介さんはやはり、正解だったわけですね」


「そう言う事だ。ミーアはデミヒューマンだ。下手に暴れられたら困る。処置は正しい」


 オンラインになっている敬介の顔がコクピットディスプレイに表示されて、さなえはふっと微笑んだ。


「人類削減計画って…なんですか」


 機体を動かして十三機関本局へ向かいながらさなえが尋ねると、敬介は一瞬だけ躊躇した。


「推測…ではあるが、背景はこんな感じだろうな。世界大戦時下、その影響を受けて人類がその国家単位である活動を行えなくなった時、労働力や兵力の代わりになる存在を作り上げようとした。人間と同じものを使い、人間と同じように考え、人間に服従する生命体。それがデミヒューマンだ」


「取り換えが効くパーツを作りたかったわけですか」


「そう言う事になる」


 敬介の言葉にさなえはなるほど、と納得した。多くの技術は廃棄、紛失、隠匿されているこの時代でデミヒューマンが生まれた理由としては十分で、技術もあったはずだった。


 神機と呼ばれるこの機体が実在しているのが何よりもの証拠だった。


「俺がサバイバーになる前にはユグドラシルレポートを完成させていたが、ネットワークに拡散して隠匿したらしいがね…。恐らく全てがそれに記録されていたんだろう」


「そうかもしれませんね。それも推測にすぎませんが…。DM現象が人類削減計画と呼ばれるものに繋がった経緯を推測できますかね」


 さなえがコクピットディスプレイで詳細を見下ろしながら尋ねる。スタンドアロン状態のシステムは敬介や十三機関へあ送信されていないはずなので、敬介はこれを閲覧する事はできない。


 賢者、敬介の推測はどこまで確信に迫るのか。


 さなえはそれを知りたかった。


「デミヒューマンと交配した人間は…新しい何かを生み出してしまったんだろう。遺伝子欠損をした人類、というものだろうが、それが進めば世界的に種の保存法則が崩れてしまうことを恐れて、人類は一つの手段を講じた」


「その手段、とは?」


「ディープミストによる遺伝子欠損人種の廃絶」


 敬介が断言すると、さなえはもう笑う事しか出来なかった。


 おかしい。


 まるでおかしい。


 さなえがくすくすと笑うのを見て敬介が怪訝な顔をしている。ここで笑っている自分を敬介はどう思っているだろうか?とさなえは考えたが、すぐにその考えもなくなった。


「正解です、敬介さん。あなたはまるで見て来たかのように正確に言い当てている。なぜです?なぜわかるんですかっ!」


 さなえの激昂に敬介は沈黙した。そしてその沈黙がしばらく続いた。


「さなえ…」


 敬介が静かにさなえの名を呼び、さなえは次に敬介から飛び出すはずのとんでもない発言を覚悟した。


「所詮人間のすることなど、多寡が知れていると思わないか?」


 さなえは確かにその通りかもしれない、とどこか敬介の言っている事が理解できるような気がした。


「それぞれの正義を抱えて、やることは所詮同じなんだ。限界まで追い詰められた人間はその行為が正しいのか間違っているのかなど判断せずに、妄信し実行する。クローン技術の倫理的な観点や、新しい生命を創り出すことへの禁忌など簡単に吹き飛ぶ。それがこのディープミストを生み出した」


「デミヒューマンの増加に伴い、人類の出生率は急激に落ちた。男子出生率の低下、女性の男性化が進み…出産率から出産後の生存率が下がって行く」


 さなえはデータを読み出すと敬介は頷いた。


「デミヒューマンの男児出生率はどうだ?確認してみろ」


「男児出生は年間…四から五。世界で確認されている男児のデミヒューマンは数えるしか存在しないのに対して…男児一としたデミヒューマンの女児の数は比率にして四百五十倍?」


「そうだ。男性がデミヒューマンの女性と交配した場合、確実に出産が行われている数字になるはずだ。つまり…」


「女性は不必要化した…」


 さなえは現実を叩き付けられて目の前が真っ黒になった。


「現在残っているデミヒューマンの子孫系列はDM現象で高確率に死亡する。ゴースト化してサークルになって消え、クリーチャーになっては人間に倒されているからな」


「と、言う事は…サバイバーになった私や恵美さんは…」


「純血種の人間であるという証明だ。ただ残念なことにゴースト化した人間やサヴァイブ処理を受けた人間は…」



 ◆◆   ◆◆

 十三機関 特捜十三課隊長主席執務室

 六月の第二週 金曜日 二十二時丁度


 敬介は言うべきかどうか悩んで、さなえだからこそはっきりと言うべきだろうと判断した。


「純血種であるが故に、その子供の出生率は極めて成功率が低い…。今のままではね」


 敬介が断言すると、さなえは俯いてから覚悟をしていたように頷いた。


「厳しいですね。女性に対してそれは少しばかり厳しい言葉です。でも私がその突破口を見出そうと研究していた事も敬介さんは教えてくれた」


 今のままでは…とはそういう意味だ。


「さなえ…前線から撤退を命ずる。お前は三咲、千石、大津を率いて神機回収を行え」


 さなえはそれを聞いて失笑する。


 どこが前線撤退なものでしょうか…。最前線、回収戦線に参加すると言う事は、死に物狂いで神機を回収しなければならないはずだ。


「アスタリスクデータが抽出された可能性は少なからずある…。むしろ百パーセントだと考えた方がいいだろう。正規特捜十参加、八番隊隊長に任命する」


「八番隊隊長、承諾しました」


 さなえが頭を下げて受諾すると敬介は神妙な顔をしていることにさなえは気付いた。


「不安なんですね…。神童と呼ばれ、その後天才と博士、教授など言われ…賢者に到達したあなたがなぜここに来て…何かに臆しているんですか?」


 怯えている。さなえには敬介が何かに恐れているようにも見えた。


「さなえだけには言っておく…。鳳凰寺恵美は二人いる」


「ユグドラシルレポート断章を記録したのは…敬介さん、私が継続して書き続けた」


 ピーっと机に備えられたインターフォンが鳴って敬介がボタンを押して通話を開始する。


「敬介隊長主席、恵美がアスタリスクを奪取して到着しました。捕虜二名も連行しているとのことです」


 隣室で本を読んでいた萌の声に敬介はさなえに視線を送る。


「わかった。恵美を連れて来てくれ」


「わかった」


 萌が向こうからインターフォンを切断して、敬介は怪訝な顔をした。


「普通は上司から切るのを待つものですけどね」


 さなえも萌の相変わらずの常識の欠如具合に苦笑すると、敬介は「あー、そういう教育してやってくれ」と冗談交じりでさなえに頼んだ。


 ◆◆   ◆◆

 鳳凰寺家

 土曜日十時丁度


 恵美の家に招待されたヴァネッサは久しぶりに一般家庭の家屋に足を踏み入れた様な気がして落ち着かなかった。


 あの後、すぐにクァリス先導でダクト内を移動してラボに出て、そこのラボ区画からアスタリスクを発見して強引に格納庫の壁を恵美の月影弓砕覇で撃ち抜いて外に出ると、戦闘は完全に終わっていた。


 そうして十三機関本局まで移動して事なきを得たわけだが…。むしろ格納庫に降りてからの方が問題だった。


 敬介による尋問…と言うより話し合いはすぐに決着が付いて、ヴァネッサはすぐに身柄を解放され、クァリスとウォレスは十三機関本局で身柄を預けられている形になっているが、軟禁状態、というのか結構自由に施設内を歩き回れているらしい。


 寛大なのか、何かの計算なのか相変わらず分からない敬介の思惑。


 恵美は恵美で土曜日で学校が休み、と言う事でまだ隣で眠っている。


「そう言えば…」


 敬介の研究室と言う空き部屋には入らない様に、と恵美に言われていた隣室が気になってヴァネッサは隣で寝ている恵美に気付かれない様にそっとベッドから抜け出した。


 人と一緒に眠るなどと言う事をしたのは何年ぶりだろう、と苦笑すると、恵美が寝返りを打って布団が肌蹴る。


「…もう」


 そっと布団をかけ直してからヴァネッサが部屋から出て、隣の部屋をノックする。


「ヴァネッサ、入りな」


 敬介の声が聞こえてヴァネッサはどきっとした。そっと中を見て閉じるはずだった部屋の住人がその向こうにいるとは思ってもみなかった。


「私だってよく気付きましたね」


 ヴァネッサがドアを開けて中に入ると、ベッドとパソコンが四台も並んでいて、他には何もない殺風景な部屋で敬介が回転椅子を軋ませて入口の方に向いた。


 開いている三つの椅子が気になった。木で出来たアンティークな椅子は背もたれが大きく、腕を置くアームレストなどが装飾されている、綺麗なロッキングチェアだった。


「ノックの感覚が恵美よりも遅い。何か悪い事をしようとしていた人間がする音だった」


「そんな、悪いことなんて…」


 ヴァネッサがポーカーフェイスで微笑んで見せると、敬介は「いいさ」と片手を上げた。


「この隣の部屋ではアーティファクトを試験的に作ろうとしていたり、アーティファクトを解析する部屋だ。この部屋には前までアリス、ベル、キャロルがいた。アンドロイドだな」


「アンドロイド…完全自立思考型の人型兵器ですよね」


 ヴァネッサがアリスの座っていた椅子に腰かけると、敬介は頷いた。


「そうやって、彼女たちも座っていたんだよ」


 三脚並んでいる椅子のうちの真ん中に座ったヴァネッサが周囲を見回す。


「DM現象について…色々研究なさっているんですよね」


 敬介は沈黙で肯定をし、ヴァネッサはふぅと息を吐いた。


「聞きたい事はたくさんあるんですけど、答えてくれますかね」


「ん、まぁいいけど。例えば昨日の夜の事か?」


 敬介は昨日の夜にヴァネッサ、クァリス、恵美が強奪して来た神機アスタリスクを格納した際に、格納庫で発生していた戦闘は確かに不思議だった。


「三咲とさなえのパワードアーマー格納庫での事件は、さなえがデミヒューマンの少女を戦術処置を実行したことでさなえに食ってかかったんだよなぁ。知ってる側と知らない側の人間がぶつかったんだ」


「どちらがどちらでしたっけ」


「小さい方が三咲、お姉さんのほうがさなえだな。三咲はアーティファクターだけど特殊でね」


 敬介がコンピュータのキーを叩いてディスプレイを指差した。


「こいつをさなえが任務上の機密保持のためにデミヒューマンのフォクシー族、ミーアを一時的に機能不全にしたんだ」


 ヴァネッサは敬介の後ろに回ってディスプレイを見て、口元を両手で抑えた。


 頭部の上半分が爆発した後の様な生々しい傷跡を見てヴァネッサは気分が悪くなった。


「デミヒューマンの再蘇生構築培養液に漬けてあるから、二、三日すれば元に戻る。一応三咲にも伝えたんだけどな…さなえもそれを知ってるから額を撃ち抜いたんだが…」


「デミヒューマンの再蘇生構築培養…そんなシステムはずっと前に停止されて…」


 ヴァネッサが驚くと敬介はふんと鼻で笑った。


「コミュニティーが主体でロストテクノロジーを主に扱ってるからな。そっちとも色々面識があるんだ。だから実行できる」


「コミュニティーレベルセブン、ですか」


 ヴァネッサも本国の軍内部で噂を聞いた事があった。多国籍に渡って色々な支部を持ち、七つのコミュニティがそれぞれ特殊な知識を持っているという出資金の出所が不明の変わった連中だ。


「敬介さん…レッドアラート、デフコンスリー受信してますけど…」


 六枚あるディスプレイのうち、一番左の画面に文字が恐ろしい勢いで流れ、黒い背景が赤く明滅していた。


 フェーズワン、出撃命令。


「あれ…ランデブーポイントが空軍基地になってますけど…」


「あー超高高度から一気に落下しながら空中で…ってマジかっ」


 敬介がメインディスプレイに命令文を回して、文字を素早くスクロールさせる。


「まじぃ…ヴァネッサ隣座ってくれ」


「え?あ、はい」


 ヴァネッサは椅子を引っ張って敬介の隣に座り、目の前にあるキーボードの上に手を置く。


「最新型ですね…」


「一級品しか使わないの。出撃メンバーの抽出と出現したクリーチャーの判定を手伝ってくれ。全ての観測地点のコードを調べてハックしてもかまわん」


 敬介の指示を受けてヴァネッサはにこりと微笑み、右二枚のディスプレイを自分専用に切り替える。


「タイプファイ型、未確認みたいですよ?六課四隊が空に上がったみたいですけど…バードストライクで任務を離脱してるな…」


「空戦ユニットなんて使えるんですか?」


 ヴァネッサがディスプレイに表示されている大気圏の範囲が狭い事狭い事…。


 高度四十キロ以上の高さは全てデッドエリア。アルカナ歴前からある航空戦闘機を運用しているのはそれ以上の高さが飛べなくなってしまっているからだ。それを改造して航空までアーティファクターを運び、人員をパージして重力自然落下中に攻撃を行うダイレクトアプローチ方式を執っているのだが…。


「俺たち…空戦なんてした事ある奴いたっけ?」


 敬介がヴァネッサに尋ねると、ヴァネッサは知りません、とはっきりと答える。


「くそったれ…オンライン頼む」


「誰に」


 ヴァネッサが通信システムを起動して全員のPDAを選択しようとして手を止めた。


「俺、恵美…萌…あとコンディションスティの一覧を…」


「全員活動中ですよ。パワードアーマーの軍事演習に参加中です。地上部隊ですから航空基地にはいません。上がれない状況らしいですけど」


 ヴァネッサがオフラインの各個人がどこにいるのかを把握して敬介のディスプレイに回すと、敬介は頭を抱えた。


「通信です…教官さんから」


 敬介はうんざりしてコンタクトオンすると、教官の顔がメインディスプレイの上の一回り小さなディスプレイに表示された。


「フェーズワン出てるだろうが!何をしている!」


「教官とこのがバードストライクなんて間抜けなことをしなけりゃ良かったんですよ。こっちの各部隊は別行動中。動けるのは俺と恵美と萌だけでその上…空戦教程なんて受けちゃいねぇんだ」


「受けていなくても…萌とお前なら動けるだろうが」


「ああ…了解した」


 敬介がコンタクトをオフラインにして立ち上がるとキーボードの前にあるPDAを片手に取った。


 敬介がドアを開けると恵美が大きな口を開けて自室から出て来た。


「緊急出撃のコール出てるけど、出撃はどこ?」


「俺と萌だ。あと二人出撃する予定だったけど…空に上がるからな」


「空ぁ?」


 恵美が素っ頓狂な声を上げると、敬介は苦笑した。


「空戦ユニットがない理由はメテオカーテンのせいなのに…空に上がるの?」


「航空部隊の純粋火力でクリーチャーが殲滅出来るわけないからね。高度四十キロ以上を飛べない航空戦闘機は軍事的にも利用価値があるのかと言われていて…そんなことはどーでもいいかぁ」


 敬介が空笑いして恵美は「ふーん」と流し眼で敬介を見る。


「私とヴァネッサは?」


 言うと思った。


 敬介がばりばりと頭を掻くと、恵美がにやりと笑った。


「時間が無いんだっ!」


 敬介が逃げる様にして階段を下りて外に出て行くとバイクの音が聞こえて走って行ってしまう。


「めーぐみ。出るなら着替えて」


 ヴァネッサが敬介の部屋から出て来るとニヤリと笑い、恵美もヴァネッサの意思をくみ取ってにやりと笑い、部屋に戻って素早く着替えを行い、青い戦闘服に着替える。ヴァネッサも荷物の中から緑色の戦闘服を着用する。


 ジャケットスーツにタイトスカートの二人組がガレージに出て、ヴァネッサがシートにまたがって電子キーを回すと音声入力画面がコクピットディスプレイに表示され、よっこらしょっと後ろに跨った恵美がディスプレイを覗き込む。


 ネイキッドタイプのバイクで最もヴァネッサが馴染んだタイプの車両に安堵していたが…問題が発生した。


「あー、セキュリティロックかかってるんだね」


 恵美はバイクからひょいと降りて、ディスプレイを強引に引っ張り上げるとがちゃりとディスプレイが外れた。ねじを使わない嵌めこみ式のパネルを裏返して、左胸のポケットからケーブルを引っ張り出して携帯電話とディスプレイパネルを接続する。


「おっけぃ」


 恵美が携帯電話とケーブルをポケットに戻すと電磁モーターエンジンが始動する。


「何したのよ」


 ヴァネッサが泥棒みたいな人ね、と呆れると恵美がヴァネッサの後ろのシートに跨った。


「ガレージオープン!」


 恵美が叫ぶと家族認証でガレージのシャッターが開く。


「まぁいいわ。敬介さんの後を追いましょうか」


「ナビゲート、トレース敬介」


 恵美がヴァネッサが嵌め込んだコクピットディスプレイに指示すると、地図と敬介車両の位置がビーコンで表示され、ヴァネッサが右手を捻ってアクセルを開く。


「ノーヘルだぁ…」


 恵美がはたと気付いたが、ヴァネッサは意に介さず大型バイクを加速させる。


 敬介さんが気付かないわけないだろうけど…。


 ヴァネッサがその心配をしていると、すぐにバイクのコクピットディスプレイにコネクティングラインの文字が表示され、鳳凰寺敬介の名前が表示された。


「どうしよ…」


「出た方がいいかもね」


 恵美がげんなりとするとヴァネッサが左手でパネルをタッチすると敬介の顔が表示されるが、こちらを見ていなかった。それもそのはず、敬介は今運転しているので、ディスプレイに表示された下から映し出される顔が映し出されているのだ。


 指向性スピーカーから敬介の声が聞こえた。


「楽しくツーリングする時はルールを守って楽しく行いましょう」


 ヘルメットをしていないこちらをちらりと見て敬介が不機嫌そうな口調で言うと、ヴァネッサが苦笑する。ディスプレイについた指向性マイクに恵美がヴァネッサを押しのける様に叫んだ。


「ふざけてんじゃねーわよっ!こっちだってアーティファクターだよっ!なんで出させてくれないのさっ!」


 恵美が暴れてヴァネッサが慌ててハンドルを動かすと、車両が揺れて恵美はヴァネッサにしがみつく。


「危ないからっ!」


 ヴァネッサが抗議しても恵美は不機嫌そうに頬を膨らませている。


 出撃させてくれないことの抗議に敬介はしばらく沈黙していた。その理由がヴァネッサにはわからないわけでもなかった。


 あの作戦内容を思い出すと身の毛が弥立つ様な思いがするのだ。


「高度三十八キロまで戦闘機のウェポンベイに括りつけられたカプセルに乗って、放り出されるんだぞ…。自由落下中にクリーチャーと戦闘して、落下地点でパラシュートを開いて撃破出来なかったらまた上がるんだ。しかも…」


「洋上で、ですよね」


 敬介が続けようとした声をヴァネッサが遮る。


「クリーチャーの存在は世界的にも発表されていない。陸に接近される前に上がっては落ちるを繰り返すんですね?」


「それ以外の方法がないんだ。パワードアーマーは海上戦なんて想定してないからな…」


 敬介が苦肉の策である事を口にすると、恵美は「えー」と想像して青ざめた。


「何その馬鹿みたいな作戦」


「馬鹿みたいでも仕方がないだろ」


 恵美に敬介が答えると、恵美は「じゃーがんばってねー」とぱたぱたと手を振るとヴァネッサが「おいおい」と小声で突っ込む。先ほどまでの威勢の良さはどうしたと言うのだ。


 ヴァネッサが路肩にバイクを止める。まだ市街地なので下手に止めて置くと危ないのだが、ここまで来て帰るという選択肢を執るのかとヴァネッサが不遜な顔をした。


「ヴァネッサ、航空戦闘機…てなに?」


 恵美が首を傾げると、ヴァネッサは自分のPDAを取り出してその画面を見せる。


「ジェットエンジンを使って揚力を確保して爆弾を付けて空を飛ぶ兵器の事。高い隠密性と高度な火器管制を行う…」


「へー」


 恵美が画面を見て生返事する。


「これで、どうするって?」


 恵美があえて尋ねるとヴァネッサが次の画面を表示すると青い空に隕石群がいくつも降り注いでいる中を飛行する戦闘機の姿が映し出された。


「空に上がるの」


「ばっかじゃーん。こんな鉄の塊が飛ぶわけないってばー」


 何言ってるのヴァネッサと大笑いする恵美にヴァネッサが顔をしかめた。


 確かにアルカナ歴に入ってからというものの、有人動力飛行の運用はヘリのみとなり、ジャンボジェット機と呼ばれた民間人を移送することも世界的に禁止され、ジェット航空機の運用は秘密裏に行われるだけのものとなった。


 空軍でさえ、ジェット戦闘機の運用を行う時は必ず民間人の目に映らない様に行うし、そんなものを飛ばした時点で各国は一気に緊張状態になる。


「この翼の部分に私たちが乗るフライングシェルって呼ばれるカプセルみたいのをぶら下げて、空中でパージして私たちはその中から飛び出して…聞いてる?」


 恵美が想像しているのか、がたがたと小さく震えている。


「おーい、どーせ言ったって聞かないんだから、癒杏にもうスクランブルかけたからなっ!」


 敬介が勝手な事を言って通信を切ってしまい、ヴァネッサが苦笑する。


「もう待ったなしだね…」


「やーだー、やだやだー」


 恵美がじたばたと暴れるのを無視してヴァネッサがアクセルを吹かすと、急加速されて恵美がヴァネッサに抱き付く。


「時間が無いって言ってたでしょ?急ぎますっ!」


「ゆっくりでいーのっ!」


 恵美がヴァネッサの頭をぼすぼすと叩きながら叫ぶと、ヴァネッサはため息を吐いた。


 なんなのよ、この子…。


 ヴァネッサが呆れながらもバイクを航空基地に突っ込ませると、既に敬介と萌が青いバトルスーツに着替えて背中にボンベなどを搭載したバックパックと推力装置を背負っていた。二枚の翼が付いた小型のジェットエンジンを搭載した飛行パックで、恵美とヴァネッサもそれを受け取って装備する。


「ゴーグル」


 ヴァネッサにゴーグルを手渡されて恵美がそれをかける。


「このボンベって、どう使うんだろ」


 恵美が首を傾げると萌と敬介が一人ずつ丸いカプセルの中に入り込んで、カプセルごと車両でけん引されてどこかに行ってしまう。恵美とヴァネッサはカプセルの行く末を見ると逆カナード翼の航空戦闘機の真下まで運ばれた二つのカプセルが兵装ハンガーに取り付けられた。


「あんな形になるんだ…ってなによ…」


 恵美とヴァネッサが装備を口にボンベマスクを装着して、ベルトを後頭部で止めると、戦闘機そのものがジャッキアップされて六十度の角度に機種が傾けられ、そこに大型の台座のような車両がバックで滑り込んだ。


「ロケット発射台?」


「ランチャーカタパルトだ」


 若い整備のお兄さんが恵美とヴァネッサの後ろに立つと、説明を始める。


 ロケット発射台って何…?


 ヴァネッサからして見れば恵美の口走った言葉の方が気になった。


「利樹って人がパイロットだな。あの人の経歴は知らないけど凄腕なんだろ?」


 若いお兄さんはツナギを来ていて緑色のキャップをかぶっていて、利樹の事を恵美に尋ねるが、恵美はそんな話は知らなかった。


 そう言えば…ヘリも利樹さん操縦して…。


「恵美恵美、ゴーグルにヘッドセット付いてるよ」


 ヴァネッサが気付いて恵美に知らせると、恵美はゴーグルのベルトに付いているインナーヘッドホンを左耳に差し込み、マイクを伸ばした。


「こちら利樹、セットスタンバイ、コンプリート」


 利樹の声を久しぶりに聞いて恵美がコクピットを見ると、利樹がこちらに親指を立てていた。恵美も親指を立てて見せると、利樹が敬礼して真正面を向いた。


「こちらラプターワン…って飛べるかこいつ…。まぁいい…とりあえず準備完了した」


「確かに不安だわねぇ」


 ヴァネッサが愚痴ると、利樹の機体と管制塔が何やら難しいやり取りをしていた。


 今時珍しいジェットがマキシマムパワーで噴射されると同時にカタパルトが機体を一気に空に押し上げる。


「ランウェイいらないんだ…」


 ヴァネッサがへーと呟いていると、すぐに二人分のカプセルが到着して恵美とヴァネッサがそれに乗り込む。


「えっと…シートじゃないんだ」


「出来るだけ空力抵抗を抑えるためにね。うつぶせになって中央のシートに抱き付いてくれ」


 恵美は言われるままにシートに跨ってから頭を下げてうつぶせになると、馬に必死にしがみ付いている様な気分になった。


「腕を少し伸ばせばレバーみたいのがあるからそれ握って」


「はい…」


 恵美は整備のお兄さんに言われるままに返事をすると、ハッチが閉じられてごくりと緊張した。頭を上げると外が見える様になっているがそれがまた恐ろしい。けん引車両がバックで近づいて来て、頭上で何やら接続する様な音が聞こえて来て、恵美は更に緊張した。


 眼前の車両がいなくなると、今度はピッチアップの車両がバックで入って来て、カタパルト発射台も兼ねたその車両の上で恵美は空を見上げる形になる。


「恵美さん、ヴァネッサさん。二番機は私がパイロットを務めさせていただきます」


 インカムから癒杏の声が聞こえて恵美は驚いた。


「癒杏!あなた大丈夫なの?」


 恵美があのおずおずとして常に自身が無さ気だった少女の姿を思い出して不安になる。これらか飛び立つパイロットが今までの様におじおじとしていてはこちらも不安だ。


「大丈夫ですよ。私は元々空戦専門ですから。飛行回数は五百を超えています」


「ベテランね…よろしく頼むわ」


 ヴァネッサは何も知らないので癒杏に軽い口調でそう言うと、またよく分からないやり取りを癒杏が始める。


「カタパルトチャージを確認、行きますよっ!」


 ごうっとカプセル内にバーニアの音が響き、瞬間的に恵美は全身に力を込めると一気に空に駆け上がった。ゴーグルに表示されるHUDに現在高度と水平計が表示され、高度の数字がみるみる内に上がって行く。


 恵美が前を見ると街がすぐに小さくなって、一面真っ青な海に変わった。


「恵美、初フライトはどうだ?」


 敬介の声が聞こえて来て、恵美は「え?」と我に返った。


 すごく…綺麗な世界だった。


「飛ぶってすごいね…」


「神機アスタリスクの飛行ユニットが再現できれば、もっと上まで飛べるぜ。まぁこんな爽快感は味わえないだろうけどな」


 敬介がそう言うと恵美はぞくりとした。


「それって…すごい」


 恵美が妙に期待するような声で呟き、ヴァネッサは苦笑した。


 慌てふためいていた少女が今ではこんなにも落ち着いているとは信じられなかった。


「タリホー、エンゲージ」


「わかんないってば!」


 恵美が叫ぶと目前に巨大なくらげのようなものがふわりふわりと浮いていた。


「高さ約四十五メートル、幅三十メートルだ。触手の様なものを振り回して来るぞ」


 敬介がそう言うと癒杏が「ラジャー」と答えると恵美は海面に何かを見つけた。


「下に空母が待機しています。戦闘タイムをオーバーしたらパラシュートを開いて回収タグボートに乗り込んでください。装備を整えてまた空に上がります。その繰り返しで」


 癒杏に言われて恵美は「りょーかい」と答え、ヴァネッサが「らじゃー」と答えると、がつん…と音が聞こえて恵美の視界が一気に開けた。


「…う…そだああああっ!」


 射出されたカプセルが一気にエアロックを解除してバラバラに分解され、その中で恵美は空に放り出されていた。


 全身を殴る様な突風を身体に感じて、恵美がくるくると回転しているのを見てヴァネッサは「まぁそうなるよね」と両手両足を伸ばして風を真正面に受けながらクリーチャーの方を向く。敬介、萌の位置はもっと自分たちよりも巨大なクリーチャーに近いのは敬介が遠距離攻撃の手段を持たないからだろう。萌も断罪剣黒牙を握って…クリーチャーの傘の様な部分の上に乗っかってバスバスと剣を突き刺し、萌を狙った触手が伸びて来るとそれを裁いていた。


「上に乗るの…?あの二人は…」


 ヴァネッサが有り得ない光景を目の前にしながら、自分のアーティファクトを両手に握って腕を伸ばしたまま両手を合わせて雷撃を放つ。


「いーやああああっ!」


 恵美が叫びながら何とかバックパックのスラスターを使って水平を保ち、頭を上にしてクリーチャーを見ると、ふっと小さく息を吸い込んだ。


 落ち着け…。


 恵美は左手に嵌めたグローブのアーティファクトから月影弓砕覇を高速展開して狙いを定めながら隣にいるヴァネッサを横目で見る。自分の射線に割り込まれたら目も当てられないが、ヴァネッサは海面に頭を向けたまま雷撃を何発も放っていた。


 さすが正規軍人…。動揺しないのかぁ…。


 ヴァネッサと攻撃するまでに時間を要した自分の差を思い知りながらも、恵美は二度とこんな思いをしたくない、と左手でストリングを引き絞った。


 一本の光の矢がまっすぐと直線的に放たれる。


 大気を切り裂く轟音が響き、高度十四キロ地点を飛んでいるのに海面が大きく裂けた。


「え…なにその威力っ」


 ヴァネッサが山でも簡単に消し飛ばしそうなその威力に目を丸くして雷撃を中止する。


 敬介、萌はチカっと空で何かが輝いたのを確認して、クリーチャーの上で足を止めた。


「あ、死んだなこりゃ…」


 恵美の放った矢を確認して敬介が茫然とすると、萌が「えー」とつまらなさそうな顔をする。


「言ってる場合じゃないですよ!逃げてください!」


 ヴァネッサの声がインカムから響いて、敬介は萌の襟首を掴んで走って海に飛び込むと、背後で矢が豆腐を射抜くように簡単に貫通して、直径五メートルもの大穴を開けて空に消えて行く。


「おーぅ」


 敬介が仕留めたな…と萌を抱き寄せながらそう思うと、クラゲ型のクリーチャーが膨張して爆発した。


「ぬああああっ!」


「わーっ」


 敬介と萌が爆風に煽られながらもパラシュートを開いて回収ボートに乗り込むと、萌がむすっとしている。


「恵美のアーティファクト、危険すぎるよ」


「…恵美の意思を受けるからな。クリーチャーやっつけてやる!って意識が強ければ強いほど、威力が上がる…。まぁ身内のことも考えて欲しいもんだ…」


 敬介がそう言うと、恵美とヴァネッサが海面に浮いているのを見つけて回収すると、作戦は一応成功、と言うことで恵美は安心した。


「普通は何回も上がって倒すもんなんだけどねぇ…。一回で仕留めるってすごいことなんだぜ?」


 敬介が恵美を褒めると、恵美はじとりと敬介を睨んだ。


「今度から人の話を最初に聞いておけばいいと思うよ…」


 ヴァネッサが苦笑しながら恵美にそう言うと、恵美はツンとそっぽを向いた。


 まさか空高くまで上げられて、あとはがんばれと放り出されるのが作戦だとは思っていなかった。ボンベとゴーグルは役に立ったが、姿勢制御のパックはあまり役に立たないのだと直前になるまで知らなかった。ふわりふわりと空中遊泳でも出来ると思っていたのが恵美にとっては大誤算で、結局はゆっくりと落ちるのか真っ直ぐ落ちるのかの違いだけだった。


「…もう、やだ」


 恵美が泣きそうな声を上げると、萌が「ふっ」と暗い顔をして鼻で笑う。


 上空では二機の戦闘機が頭上を旋回して、優雅に飛行していた。

で、まぁ、従妹を箸でつかんだわけですよ。

「腹壊さない?」と聞いたら「頭壊れてるんじゃなーい?」と言われました。周りの子たちはなぜか期待しているような声できゃいきゃい。お前らが呼んだから何かと思ったら、作戦だったらしいです。

いや、そんなもんだよね?うん。


次回から少しペースが遅れそうです。今回も少し遅れてしまいました。申し訳ありません。

なにせ原案さん、病院にPC持ち込んで原案作ってるらしいです。もはや野生のプロだとチームメンバーが言ってましたが、野生のプロってなんだ?

そして、この話はどこに進んでいくんだ?スーパーロボットなのか?DM現象どーなった?と思ったら、なんかまた出てくるらしいです。

怒涛のたたみかけのように真相があらわになりそう。こっちはそうなると大変なんです。

では次回。

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