間違えていることを間違っていると言える人になりなさいって言われて間違えを指摘してみたら、人の上げ足をとるんじゃないって言われた。学習したことはたくさんあった!
何度も言うけどサブタイトルと本編はあまり関連はないよ?なんでこんなタイトルにしたかって?いろいろあると思うんだ。
前書きも前話のあらすじ書こうと思ったけど、もう一回見てね!って言えば済むと思ったんだ。
ウケ狙いだったらもうちょっと真剣に考えるけど、そこそこ適当に生きているから一生懸命ってできないんですね。
えっとそろそろ最終章入口ですね。まぁ一部目の最終章なんですけどね。すかいなりーずのほうはしばらく放置するかも。けっこうアレ、全体的に長いんで。予定は未定ですけど。
まったりしたの書きたいね。まったり、ゆったり、ほのぼのとしたの。
バトル書けないくせにバトル好きなんですよ。
何の話だっけ…。あ、最終章に入るんだね。ではどうぞ。
恵美はレベルがどうの、と萌が言い残したことが気になった。
学校のある街の駅ビルの中へと三咲に連れられて、千石と大津が最後尾からさなえ、恵美、三咲を眺めている。
「なんか…俺たち絶対場違いな店だと思うんですよ」
「まぁなぁ。明らかにな」
店の中に入って三咲が「こっちこっちー!」と叫び、周囲の男どもが三咲を見てからこちらを見て明らかに舌打ちしたのを見て千石が顔を顰める。
「やっちまうぞオラ」
千石が小さい声で睨みつけると、男たちが慌てて視線を逸らしてどこかに行ってしまう。
さなえ、恵美、みさきはそれぞれ好みの人間がいたらもろ手を上げて喜ぶタイプの人間だ。それ故にこの三人と歩くと絶対に何かあるとは思っていたが…千石は軽く舌打ちする。
「めずらしいっすね、千石さんがあんな小物にイラつくなんて」
「そんな日もあるわな」
大津に言われて千石が店の中に入って行くと、店員が「え?」と言う顔をする。
ケーキバイキング、ね。
大津は今日の目玉メニューのようなものを見て失笑する。自分とは無縁だと思っていた可愛らしい店の内装に、いかにも女の子ウケするようなメニューが並んでいて、千石と大津は着席してもケーキを取りにいくこともなく黙ってそこに座っていた。
平日昼間だから人が少ないかと思えば学生やセールスレディのようなスーツを着た女性たちもやって来ている。千石は平和なんだなぁ、と思わず呟いたほどこの駅ビルは平和そのものだった。
つい先ほどまで自分たちが銃を握っていたことなど誰が知るだろうか…。
「先輩?怖い顔してましたよ?」
大きなプレートのような皿に小さなケーキを十四種類も乗せた三咲が千石の前に座る。
「そんなに怖い顔してたか?」
千石がにこりと笑ってみせると、三咲は怪訝な顔をする。先ほどまで睨みつける様な目をしていた人間だとは思えない。
「こーんな顔してました」
三咲は眉間に人差し指を当てて「むー」と怒った顔をして見せるが、それはそれで可愛い顔をしている様にしか見えなかった。
「千石さんと大津くんは何も食べないの?」
恵美とさなえが三咲の左右に座ると、対面に座る大津と千石は顔を見合わせる。
「いやー、あの列に入るんだろ?」
見事に女性しかいない列に入るのは気が引ける、と大津が項垂れると恵美は納得した。
「変なところでデリケートっていうか…」
「失礼だな」
大津が腕を組んで不機嫌そうに言うと、千石も同じ気持ちで頷く。
「シ・エスタって有名なパティシエ三兄弟のお店で、人気がありますからねぇ。それもイケメンらしいです」
三咲が人差し指を立てて「ここポイントなんです」と真剣に言う。
きゃーとひときわ大きな歓声が上がると、白い清潔感のあるエプロンを付けた男が厨房と思わしきスタッフルームから出て来て、まっすぐにこちらに向かって来る。
「あ、イケメン店長です…って」
三咲がこちらに来ている事に驚くと、店長が千石の前で頭を下げる。
「千石さん、お久しぶりです」
「おー、お前だったのかよ」
千石が片手を上げても店長は頭を下げたままじっとしていて、頭を上げようとはしない。
「なぁんだ、先輩のイケメン仲間だったんですねぇ」
三咲が「つまんなーい」と唇を尖らせる。一気に親近感が沸いたのか、三咲はケーキを素手で掴んで頬張ると、幸せそうな顔をしていた。
恵美とさなえも同じように更に取って来たケーキ三つを見下ろしてから、嬉しそうにそれを口にする。
甘いものが好きなのは女性共通、なのかもなぁ、と大津は恵美を見て思う。
「味はどうかな?」
マロンケーキを頬張った三咲に店長が尋ねると、三咲は「ぐーっ!」と親指を立ててみせると店長は満足したように頷く。
実際三咲は次々とケーキを女性とは思えない勢いで平らげているので味を見ているかどうかもわからないが、胸ポケットからメモ帳を取り出して先ほど食べたケーキのデッサンを素早く行い、その隠し味と思われる材料まで明記していった。
「こんな感じかな?」
三咲が満足そうに言うが、さなえは普通は食べる前にデッサンするものじゃないのかしら?と疑問に思うも、三咲は半分ほど平らげてから一気にそれを書き上げていた。
「どれ、見せてごらん」
店長が三咲のメモを覗きこむと、三咲が胸を張った。
「正解。千石さんの弟子ですか?」
店長が千石に尋ねると「いや、三咲の特殊能力みたいなもんか?」と首を傾げる。
まるで美術部の様な精細画とパティシエのような細かいレシピに恵美もメモを覗きこんで目を丸くする。
「いや待って、なにその弟子って」
恵美が思わず尋ねると、千石が苦笑する。
「千石さんはうちに融資してくれているのと同時に、優秀なパティシエなんですよ。ケーキを焼かせたら俺たち三人よりもうまいくらいです」
「プロに言われたくはないけどな」
千石は謙遜するように言うと、三咲が目を輝かせた。
「千石センパイ、オンナノコに持てる要素いっぱい持ってるんですねっ!」
「どんなだ」
千石が素早く突っ込みを入れると、さなえがにこにこと無言で千石を眺めている。
「私、初めて聞きましたけど…?」
「極道モンがパティシエの真似事…と失礼。ケーキを焼くのが趣味なんて言われたら、ハクがつかねぇんですよ…」
千石はさなえに言い訳するように言うと、さなえは「へぇ」と呟く。
「さなえさんって結構、嫉妬深いんですか…?」
三咲が興味心身に千石とさなえの顔を交互に見ると、店長が誰かに呼ばれて頭を下げて立ち去って行った。
「そ、そんなことないですよ」
さなえが慌てて否定すると千石はふっと鼻で笑う。誰がどう見てもさなえの嫉妬深さは明白だった。恵美が苦笑すると三咲は仕切りに首を傾げている。
「そ、そう言えば強化合宿の件ですけど、恵美さん出席できそうですか?」
さなえが慌てて恵美に尋ねる。話逸らした、と全員がさなえを見ると、さなえが一気に紅茶を呑み干す。
さなえは知っている事だが、DM現象に対して何かあった場合、恵美は敬介の指示に従って動く必要がある。その為の質問に恵美が困った様な顔をしていると、千石が察した。
「原則学業優先だから問題ないはずだぜ」
「何の話です?」
千石に三咲が尋ねると、千石はにやりと笑う。
「大人の話」
「えー」
仲間外れはやだーと三咲が頬を膨らませると、大津がバイキングコーナーを指差す。
「アップルパイ焼き上がったみたいだぜ?」
「お、ぜひ調査せねばっ」
「俺も行くか」
大津が小走りでバイキングコーナーに向かう三咲を追いかけながら小さく胸を叩く。三咲の事は任せておけ、ということらしい。千石は両手を合わせて拝むように「すまん」と小さな声で言うと、大津は嬉しそうな顔をしていた。
「じゃあ参加出来ます…」
恵美はどこか言い難そうにそう言うと、さなえは小さく頷いた。
「これから恵美さんも忙しくなるでしょうから…あまり無理にとは言えませんが…」
さなえも心配してくれているようだが、恵美にとってそれは大きな問題でもあった。
アーチェリーを続ける事が出来るかどうか、と言うよりも、成績が良いから練習に参加もせずに試合にだけ出させてもらおう、などという考えは甘い様な気がしていたのだ。
「正直な話、敬介さんは俺やお前をあまり戦力に換算してないような気がするんだよな。身勝手に動く可能性がある恵美、組織力があってたまたまアーティファクトを持ってた俺。どっちもアテにしてないって感じだ」
それはそれでも面白くはないが…どこか恵美は安心した。千石の言うとおり、形式上だけのゼロ隊に加盟しているだけならば、これ以上…人をどうこうしなくてもすむ。
「大人の話は終わりましたか?」
またプレートのような皿にケーキをてんこ盛りにして返って来た三咲が不満そうに言うと、大津が困った様な笑みを浮かべている。大津は千石にコーヒーを差し出して座ると、三咲が皿のケーキをやけ食いし始める。よほど仲間外れにされていると思っていてそれが気に入らないようだ。
「そもそもなんで日曜日来れなかったんです?さなえセンパイが恵美センパイの代わりに連絡してくれましたけど…ひょっとして…」
三咲が言葉を遮る。
「最近、うちの街で起こってる変な噂と関係があるんじゃないですか?」
三咲が尋ねると、恵美と千石が顔を見合わせる。
「変な噂、ですか?」
さなえが尋ねると三咲が「うん、変なんですよぉ」とケーキを一つ頬張る。
「DMが出て来て、十二時を回ると一度、霧が晴れるっていう噂で…本当かなぁと思ったら昨日、霧が晴れていたんですよ。すっごく綺麗な星空で、十分くらいしたらすぐにまた霧が出ちゃって慌てて窓を閉めたんですけどね…。で、その霧が晴れている間に人魂みたいのを見たっていう話しが続出してるんですよ」
三咲がぶるっと身震いして、大津が首を傾げる。
「三咲も何か見たのか?」
「はい…見ちゃいました…」
三咲が頷くとごくり、と恵美は生唾を飲み込んだ。
「火の珠みたいなのがふわーって私の目の前で止まって、しばらくしたらどっかに飛んで行っちゃったんですよ。うちの…お、お父さんが私を庇ってすぐに窓閉めてくれたんですけどね…」
また思いだしたのか、三咲はぶるっと身体を震わせる。
「誰か通ったんじゃないのか?」
大津が首を傾げると、三咲はぶんぶんと首を左右に振る。
「うち…マンションの六階ですよ?」
「確かにそれじゃあ窓の向こうに人は歩けないなぁ。まぁそういうことが出来るびっくり人間なら別だけど」
千石がすっ呆けると三咲が「ですよねぇ」と同意する。
「それにしても三咲ちゃん、良く食べるわね」
恵美が二十個以上のケーキを平らげた三咲を見て唖然とする。四号ホールケーキ三個なら毎日でも食べられる、と中学時代に豪語していたことを思い出したが、まさか小さな体にそこまで入るとは思わなかった。
その後、買い物に洋服屋、本屋を一緒に巡って十七時になり三咲が先に帰りの電車のホームへ向かう。千石たちとは反対方向で、大津も母親の病院に行く、と姿を消した。
「しかし…女の買い物はなげぇ」
千石がそう言うとさなえが「そうでしょうか、普通ですよね?」と首を傾げる。
「それよりも三咲ちゃんの話です」
さなえが真剣そうに言うと、恵美は「え?ああ」と興味がなさそうに頷く。
「変な話だけど、三咲譲ちゃんが見たって言う火の珠?も気になるよな。DM現象が短い間だけ晴れて、その間を狙った様に現れる、なんて」
「でも変よね、DMが晴れる、なんて話は聞いたことないし」
恵美が「うーん」と人差し指を唇に付けて悩むと、さなえも頷いた。
「三咲さんの街はDMに覆われる事になってから早五十数年が経過していますからね」
「そうなんです?」
恵美が驚くとさなえが頷いた。
「父がこの街だけずっとDMに襲われなかった方がおかしいのだと言っていました。私の進学もそのために考えられたんですから…」
なるほど、と千石が納得する。かわいい娘に出来るだけ不自由をさせないように、とした父の計らいなのかもしれない。
「屋敷のある街もまだDMにやられてないからな。なんか変な条件みたいなのがあるのかもな…」
「でもそんなのお兄ちゃんがとっくに解明してるはずだよ?あの人そう言うのには強いから」
恵美がそう言うと千石もさなえも「そうだろうなぁ」と頷く。
「三咲ちゃんの口ぶりですと…昨日の夜に突然晴れた、というわけではなさそうですね」
さなえが呟くと恵美はそうなの?と首を傾げる。
「完全に霧が晴れる、という話は今までに聞いた事はありませんでしたけど…恐らく霧が薄くなったりしていたのではないでしょうか?そして、三咲ちゃんもそれを確かめたくて外を見たら、偶然霧が晴れていた、と」
「そこら辺は何とも言えないけどな。ただ霧が晴れたのは昨日が初めてっていうのは本当の話だぜ?今朝の朝刊に出てたからな」
千石の言葉に恵美が目を丸くする。
「なんだよ、俺が新聞なんて読まないと思ったのか?」
恵美は「はい、思いました」などとは言えずに空笑いすると、さなえが失笑する。
「思いませんよ、普通は。でも毎朝父と千石さんに新聞を取られて私は帰ってから見るんですけどね」
「一緒に見るか?」
千石が尋ねるとさなえが並んで同じ紙面を見る様子を思い浮かべて顔を紅くする。
先輩かわいい…。
恵美はそう思うと千石が「赤くなってんじゃねーよ」と笑う。
「恵美には悪いんだけどさ…俺、敬介さんに戦力外って思われてるのいやなんだよね。今夜三咲の街に出て見ないか?俺が車だすから」
「組の車を使ってくれて構いませんよ。あと、私も付いて行きます」
さなえが断固として付いて行く事は譲らない、という顔をして千石を見ると、千石はやれやれと頭を振る。
「さなえ…お前に何かあったら俺はどうしていいかわからなくなる」
「ぅっ!」
真顔でさなえと千石が見つめ合い、恵美が一歩後ろに下がると、千石は「どういう反応だよっ」と後から恥ずかしくなったのか慌てると、恵美は「いいえ、なんでもー?」と苦笑する。
「そ、それでもですっ」
さなえが断固として譲らない姿勢を取ると、千石は「俺の傍から離れるな」と恥ずかしいセリフをもう一度言う。
恵美にして見ればうらやましい話だった。
「ったく…。恵美も敬介さんに適当にあしらわれて面白くないだろ?」
千石にはそう言われるが、恵美は敬介が自分が危ない事をすることをひどく嫌うのを知っている。
「お前…ちび譲ちゃんに負けてるんだぜ?」
「…」
恵美が黙っていると千石はため息をついた。
「俺は…あのちび譲ちゃんにマジで負けてるし、敬介さんのために行動したいのにはぐらかされてるなんて、ごめんだ」
本気の言葉に恵美は「えー」と唇を尖らせる。
「俺は行くよ。この街で起こっている事、三咲譲ちゃんの街で起こっている事、それが全部DM現象っていう一括りの出来ごとだと思うんだ」
「なんでそんなにDM現象を追いかけるんですか?」
恵美が執拗なその姿勢に首を傾げると、千石は小さく頷いた。
「俺もさなえも…ゴースト化してサバイバーになった。子供ころや小さい時の記憶は薄ぼんやりと残ってるんだけど…なんかこう、はっきりしないともやもやして駄目なんだ」
千石がそう言うとさなえも同じなのか頷く。
「私が何をして、どうして生き残ることを許されたのか、知りたいんです。アーティファクトまで使える力は一体、何のためのものなのかも…」
さなえがそう言うと、恵美はアーティファクトを頭の中で思い浮かべた。
「お前は知りたくないのか?自分がどうして生き残ったのか、なんで今も生きているのか…」
「考えたことないよ」
恵美が正直に言うと、千石は頷いた。
「それでもやっぱり…萌ちゃんがどうとかじゃなくて、お兄ちゃんに相手にされないのはちょっぴり寂しいかな」
恵美が微苦笑すると、千石は「決まりか?」とたずねた。
「うん、私も一緒に行く。何が出来るかとかわからないけど、お兄ちゃんたちは今、隣の国とかのことで忙しいと思うから…」
恵美は少しでも兄に手伝えるなら、と思うと自然とやる気が出てきた。
「敬介さんに言うのはなしだぜ?俺たちだけで十二時前後の霧が晴れる原因を突き止めてやろう」
千石に言われて恵美が「うん」と頷くと、さなえも小さく息を吐いた。
「ゴーストや化け物…の対処も考えなければならないんですよね」
「化け物はクリーチャーって言うらしい。十三機関のデータベースに色々なタイプのクリーチャーが記録されてた。アーティファクターには滅多に近づいて来ないらしいけど…用心は必要だろうな」
千石の緊張した面持ちに恵美もゆっくりと首肯する。
「あれは…けっこうヤバい感じがするんですよね。なんか…意思があるような、ないような」
「え?」
さなえは恵美の言葉の真意をつかみ切れずに首を傾げると、千石は「そうなのか?」と尋ねる。
「わからないですけど、そんな感じがしました」
恵美の直感、だろうか。千石はその言葉を胸に置いておく事にした。
「とりあえず、今日の夜…さなえさん、恵美の家知ってる?」
「部員名簿で確認してあります」
千石は「じゃあ家に迎えにいくわ」と言うと、千石とさなえが電車に乗り込む。
恵美も家に急いで夜出発する準備を行おうとして足早に帰宅すると、男物の靴と女の子の小さな靴が綺麗に並べられている。いつもの敬介ならば脱ぎ捨ててあるので意外だなぁと思いリビングに入ると、敬介と萌が普通の顔をしてソファに座っていた。
「お帰り」
「え、あ、ただいま」
あんな事があって離れ離れになっていたはずなのに、普通に帰宅の挨拶をされて恵美がきょとんとして萌の隣に座ると、萌は分厚い本を膝の上に置いた。
「今日から萌も一緒に住む事になったけど、かまわないよな?」
「え、いいよって…うん」
恵美は千石の「恵美よりも萌がアテにされている」という言葉を思い出すと、萌をまじまじと見てしまう。
この小さな身体にとんでもない戦闘能力があることが初めて不思議に思えた。
「どうして二人とも無事だったの?」
萌のほうが…という言葉を打ち消すように敬介に尋ねると、敬介は「それは」と神妙な顔をする。
「あの爆発で天井が崩れて来てしぬーって思ったら、運良く助かって、地下通路に続くドアが吹っ飛んでて、そこしか行く場所がなくて抜けたら、レジスタンスの連中と合流してね。利樹の話をしたら脱出ルートを教えてくれて、車で国境沿いまでドライブして、飯田課長と合流したって話だ」
まぁ運良く助かったわけだー、と敬介が伸びをすると萌も真似をして伸びをする。
「ヘリだから早くてね。返って来る途中にクリーチャー討伐命令が来て討伐したんだけど、セイントナイツが出張って来やがって…隣国の件も奴らが仕切るって言いだしたから丸投げしてやった」
ざまぁみろ、と敬介が言うが、外交関係もあるので特務課向きではないと判断した飯田課長の意思を尊重した、と続けた。
「クリーチャーだけどさ…。あれってなんなの?」
恵美がひょんなことを尋ねると敬介は「んー、難しいぜ?」と身を乗り出した。
「お前もアーティファクターとして覚醒したし、うちの隊に入ったから教えるけど…。ゴーストの意識集合体ってところか?」
敬介がそう言うと萌が小さく頷く。
「ゴーストになった人間って、自分で自分の身体は動かせないのに、意識はあるんだ。痛いし、苦しいんだって。まるで火あぶりにされているような感覚で、それでも生きたいと思うの。こんなに自分は苦しい思いをしているのに、どうして自分だけ苦しいの?って思っちゃって人を襲い、身体の自由が利かないほどDMに浸食されると…」
萌の小さな声に恵美が耳を傾け、萌がぱっと両手を広げた。
「切ないゴーストが…人をどんどんゴーストにしながら集まって、その集合体が変異したのがクリーチャー。友達がいっぱいいたり、仲間が集まると安心するのと一緒なんだって。一緒になった人たちがクリーチャーになると、もっといっぱい仲間を集めようとして一気に人を襲っちゃう」
萌が「怖いよね」と言うと恵美は頷く。
「生存意識が強ければ強いほど、サバイバーになる確率は上がる。だけど逆にクリーチャーになる可能性も上がるんだ。人に戻れるか、クリーチャーになるかの差はわかってないんだけどな」
「そうなんだ…」
恵美はみんな元に戻れば幸せなのに、と思うと、敬介は「うーん」と腕を組んだ。
「だけど…単体でクリーチャーになる事例がないわけじゃない。そういった個体は総じて他の個体よりも強い傾向にある。まぁ恵美や千石には戦闘前線に立ってもらう事はないと思うから安心してくれ」
「…なんで?」
返って来た恵美の言葉に萌がきょとんとする。
「それは…お前ら闘いたいのか?」
「え…」
敬介の真剣な声に恵美がたじろぐ。どうしてこう…DM関連の話になると敬介が途端に声音と態度を豹変させるのかがわからなかった。まるでいつもの人間が偽物のような感じがしてならない。
「相手は人間だぞ。姿や形が変わったとしても人間なんだ…。それを討つということがどういうことかわかってるのか?」
「わかってるよ…?誰かを守るために…闘うんでしょ?」
「わかってないよ」
萌が恵美を否定した。
「あなたはわかってるの?萌ちゃん」
「うん」
萌は頷くと本を開いてまた読み始める。
「わかったときには遅いもん」
萌の言葉に恵美はもちろん、敬介も言葉を失った。
どれほどの決意をしてこの少女がそれを言ったのか、恵美には量り兼ね、敬介には顔を伏せる事しか出来なかった。
「役に立ちたいよ、私も」
「そう言う時は頼むよ」
敬介がどれほどの言葉をその言葉に込めたのか、恵美には全く理解できずに、恵美はぎりと奥歯を噛み締める。
萌のほうが…。
千石の言った言葉がまた頭の中で反芻する。
自分だけが仲間外れにされるという三咲の気持ちがわかったような気がした。
激しく抑えきれない切なさが胸の中に広がって、胸を締め付けられるような気がする。
「その時っていつ?ずっと来ないんじゃない?」
恵美の言葉に敬介がはっとすると、恵美は「もういいよ」と立ち上がって自分の部屋に逃げ込んだ。
ベッドに倒れ込んで「あー」と胸の中のもやもやを吐き出す様に口にする。
本当はもっと言いたい事があったはずだった。
無事に帰って来てくれてありがとう、なんて口が裂けても言えない。萌にだってこれからよろしく、くらい言うべきだった。
二人は一緒に行動する事になる。
そう思うと恵美はなんだか悔しくて目を閉じても眠れそうになかった。
千石と行動を一緒にするのだから、少しだけ寝ようとした。何もかもが面倒でブレザーを脱ぐことも忘れて、恵美は必死に目を閉じる。
三咲ちゃんも仲間外れにすると怒ったっけなぁ。
今日の三咲の顔を思い浮かべると、恵美は携帯電話でメールを送信した。
◆◆ ◆◆
恵美の家
十九時三十分
家のチャイムが鳴って恵美が目を覚まして部屋から出ると、家の中が不思議と静まり返っていた。
「はーい?」
恵美は玄関のドアを開けると、千石とさなえが立っていて玄関先に黒いセダン車が止まっている。
「あ、少し上がって待っていてください」
恵美がそう言うと、千石は「寝起きだなぁ」と苦笑すると、車に戻ってエンジンを止め、さなえと一緒にリビングに入ってもらった。
急いで身支度をする。制服を脱いでスパッツの上に動きやすいように短めのスカートを履いてベルトを締める。寒くなるといけないので半袖の上にジャケットを羽織って弓筒を左足に装着しようとして止めた。もう矢は必要ない。
恵美は両手にアーティファクトを装備する。左手に月影弓砕覇のグローブ、右手に飛翔刀六重奏を装備して階段を下りると、リビングで千石とさなえが並んで座っていて、さなえは一度恵美を見てからテーブルに視線を落した。
恵美もその視線を追うと置手紙があり、恵美もソファに座ってそれを手に取る。
「お前をないがしろにしているわけじゃないが、仕事だ。行って来る」
恵美がその文章を口にすると、千石とさなえが哀しそうな顔をしている恵美に声をかけられずに顔を見合わせた。
「最近、お兄ちゃんと真っ直ぐ話出来てないんです」
「そっか」
千石はそれ以上何も云わずに頷く。
「助けてくれたのに…お兄ちゃんも萌ちゃんも…。だけど仕事だからなのかなぁ」
「違うと思うぞ」
千石は立ち上がって恵美の頭をぽんぽんと叩くように撫でる。
「あの人の考え方って、ちょっと人とは違うけど、やっぱり家族に対しては同じだと思う。けっこうあの人、使える者は使うタイプだからな。その点、恵美に無理をさせないためにっていうことでは正解かもしれない。俺も一緒に放置されるのは、俺と恵美が近い位置にいすぎるからかも?」
千石がそう言うとさなえも「そうかもしれませんね」と頷く。
「闘う乙女としては複雑ですか?」
さなえが冗談交じりで恵美に尋ねると、恵美は思わず笑ってしまった。
「私が闘うのはDM現象ですから」
恵美が立ち上がり、さなえも立ち上がる。
「じゃあ行きましょうか…」
さなえに促されて三人は外に出て車に乗り込むと、恵美は「駅に向かってください」と千石に伝える。
「三咲ちゃんにも来てもらいます」
「え?」
運転席に千石、助手席にさなえが座り、後部座席からそう言うとさなえが怪訝な顔をする。
「この車は一応、DM現象に対応できるようにしてはあるが…三咲はDM耐性がないだろう?平気なのか?」
「仲間外れにされるよりずっといいと思いますよ。かわいそうじゃないですか」
恵美がそう言うと、千石はとりあえず車を出した。
「もう呼んでしまっているのですか?」
さなえが尋ねると恵美は「はい」と思い詰めた様な声で返事をした。
「車の中に置いておけば安全だな。とは言え…朝までコースだ。恵美、後輩の面倒はしっかり見ろよ?」
「はい」
恵美が返事をすると、千石は納得はしていないが不承不承と言った感じで頷く。
「何があったのかはわかりませんけど…自分と三咲ちゃんが重なりましたか?」
さなえの鋭い読みに恵美が返す言葉が見つからなかった。
「やっぱり私もお兄ちゃんに適当に扱われるのが嫌なんですよね。だったら三咲ちゃんも同じなんじゃないかなって思えて…だから…」
「だから…。その気持ちもわかりますが…責任、重たいですよ」
さなえにそう言われて恵美は「はい」と返事をする。
「まぁ…同行を止めない俺たちも同罪だな。かわいい後輩二人、守り切ろうじゃないの」
千石がタンとハンドルを手で小突くと車は駅のロータリーに入った。三咲がクラクションを鳴らされて身体をびくりとさせて、更に千石が車を運転しているのを見て驚く。
「すごーい、先輩車運転出来るんですねぇ」
三咲が車に乗り込むや否や一緒に夜遊びをするという行為に胸を高鳴らせているのか、きゃあきゃあと騒ぐ。
「俺も一応十八だからなぁ。四月六日生まれ。誕生日に合わせて…免許ゲットってね」
千石が免許証を後部座席に投げると、三咲と恵美が顔写真を見て唖然とした。
「これ…犯罪者の写真ですか?」
三咲が失礼なことを平然と言うとさなえがくすくすと笑っている。こちらを睨む様な写真は確かに前科のある罪人のようにしか見えなかった。
「失礼な事を…」
千石もさすがに多少傷ついたのかがっくりとする。
「三咲の街、案内してくれな」
千石がそう言うと、三咲は「はい、どこでも案内しちゃいますよ」と意気込む。
「話…聞いちゃってもいいんですよね?」
三咲が真剣な顔で恵美に尋ねると、恵美はゆっくりと頷いた。
三咲の明るい雰囲気が一気に緊張したものに変わって車内の空気も変わった。
ほとんど聞こえないエンジン音とロードノイズが少しだけ大きく聞こえる様な気がして、恵美は自分も緊張していることに気付いた。
決して、自分が褒められた事をしているとは思えない。
だが、仲間外れにするのも辛かった。
三咲、という存在はそんな簡単に適当に流せる存在ではない。
何度も絶望して、何度も窮地に立たされた自分を救ったのは、三咲だったのだ。
恵美はそう思うと小さく息を吸い込んで説明を始めた。
恵美の言葉に三咲は驚いたり、首を傾げたりしならがもずっと話を聞いていた。恵美の説明の足りないところはさなえや千石も口を開き説明をする。
DM現象内で人に起こるゴースト化の話、ゴーストからクリーチャーになってしまう経緯。そして…十三機関という組織の存在があること。
日曜日にあったことを話すとさすがに三咲も驚いていたようだったが、恵美は事細かに三咲に全て話した。
三咲も忍耐強い方ではないと思っていたが、ずっと自分からは口を開かずにただ理解することに努めてくれた。
「…まぁ…こんな感じ」
恵美の告白が一段落して、三咲は「うーん」と初めて声を上げた。
「先輩、すごいんですね」
思っていた事と違う言葉を聞いて恵美がきょとんとする。
「すごいですよやっぱり。怖いし、自分だったら逃げちゃうようなこと…だと思います。だって先輩、ゴースト化してからサバイバーになったんですよね?私だったら、痛かったり苦しかったりしたら…逃げちゃいますもん」
三咲の言葉に恵美は「そう…かな?」と首を傾げる。自分がどれほど強く生き残りたいと思ったのかはわからなかったが、確かに生き残ろうとした原因があるはずだった。
今は忘れてしまっている…生き残ろうとした理由。
「恵美センパイやさなえセンパイ、千石センパイは本当に何かしたくて生き残ったんですよね?」
三咲に言われて恵美はその理由が思い出せずに怪訝な顔をすると、さなえと千石は黙っていた。
「私、わからない…。なんで…生きたかったんだろう」
「実は、俺もさなえもその理由がわからなくて、知りたいんだ」
「知らないんですか?」
恵美、千石の言葉に三咲が首を傾げる。
「思い出しましょうよ、きっとすごく大切な事ですよ?」
三咲が親身にそう言ってくれるのを恵美はやっぱり三咲ちゃんは大事なことを思い出させてくれる子だ、と思った。
中体連試合で自分が最後の射手になったとき、緊張して弓が放てなかった時、静かにする、というルールを破ってまで三咲は「基本ですよ先輩っ!」とかなり遠くから大きな声で自分に叫んでくれた。その後三咲は部長と顧問に怒られていたが、三咲は「悪い事してないですもんっ!」と泣いていたのを思い出した。
彼女の心は、まっすぐで…そして自分の信じたことをやり遂げようとする。
そんな気持ちに恵美は何度も助けられ、そしてその言葉に大切な事を思い出させてもらっていた。
話して…良かったかも。
恵美はそう思うと、三咲が「今日も何か見つかるといいですね」と微笑んだ。
「怖くないのか?」
千石が尋ねる。
「ちょびっとだけ…でも、大丈夫です。知らないままより、話してくれた事が嬉しかったんです」
三咲が心底そう思っているのか、恵美は三咲に手を繋がれてドキっとした。小さく震えている手を恵美も強く握り返す。
「守ってくれるんですよね?」
「もちろん」
恵美は強く返事をすると、三咲は安心したように微笑んだ。
そうして車はDMに包まれる事になり、千石は『政府関係者両』の札をインパネの上に乗せて、車は三咲の住む街に入った。
◆◆ ◆◆
三咲の住む街 十八番埠頭集荷場
二十二時三十分
帰宅ラッシュと交通整備網から逃れるために隠れていた埠頭の中で、恵美と三咲がこくり、こくりと船を漕ぎ始め、千石は後ろで眠っている二人を見て「ふぅ」と息を吐いた。
「恵美と三咲譲ちゃんか…この二人、同じ中学出身で同じ部活動をしていたってだけじゃなさそうだな」
「そうですねぇ…。私は高校に入学して来たころの恵美さんしか知らないので何とも言えませんが…。恵美さんは三咲ちゃんのお陰で大分変ったと思いますよ」
「そうなのか?」
千石は意外だな、と窓を開ける。
「っとぉ」
霧が入って来て慌てて窓を閉めるとさなえは何をしているんだか、と苦笑する。
「煙草も吸えないな」
「…女の子三人いるんですよ?」
「あぁ…そうだな」
女性は母親として子供を宿すのだから、女性の近くではタバコを控える様に、とさんざん言われて来たことが脳裏によみがえると、千石は左手に持った煙草の箱を惜しみ深く見下ろす。
「…運転変わりますから、外で吸ってください」
「すまんね」
千石は周囲に視線を送って安全を確認してからドアを開ける。耐性はある…と言うよりゴースト化を一度してしまえば安全らしいので外に出て、素早くさなえと交代する。
千石、さなえ、恵美は安全でも後ろには三咲が乗っているのだ、油断は出来ない。
千石は助手席のドアに寄りかかって煙草に火を付ける。
恵美は三咲に隠し事をしたくないと全てを話して、三咲は全て受け入れたまでは良かった。一緒に行動する理由が理解出来なかった。
なぜ?どうして三咲はそうまでして恵美と一緒にいるのだろうか。
ふと車窓からスモークガラスの向こうで寝ているはずの三咲と恵美の顔を見る。
確かにそこにいるのに、見えない何かを感じて千石は煙を勢いよく吸ってから煙草をピンと弾いて車に戻った。
「…臭い」
「すみません…」
何気に言われて傷つく事だぞ、とさなえに無言で抗議するが、さなえは車の中の空気清浄機をオンにして不機嫌そうな顔をしている。
滅多にそういう顔をしないさなえだけあって、千石は思わず謝ってしまった。
「異常なし、か」
「ゴーストに襲撃されるようなことはないでしょうね。ここは集積貨物しかありませんし、夜間の寄港は禁止されていますし…」
「寄港禁止だと船舶はどうなるんだ?」
敬介と一緒に研究をしていたというさなえならば、少しはDM現象に詳しいだろう、と千石が尋ねた。
「沖に出るとDMは観測されていないようなんですよ。だいたいどこも、二百キロメートル以上沖合ではDM現象は観測されていないそうです。例外もありますが特定の海域のみでして、隣国との河、海沿いの場所は全てDMエリアに指定されていますね」
「なるほど、それで夜間はあの海峡を渡る橋は戦争始める直前みたいに睨み合いになるんだな」
千石はこの前渡った橋のことを思い出して呟く。
互いに他国のゴーストを入れないように警備しているのだ。いくら通常の弾丸が効果が薄いとは言えど、数を重ねればやがては倒れる。
「国交問題に発展しかねませんからね、互いに。やはりそういう面では陸と陸のかけ橋を作った事は問題なのかもしれません」
「あれは元々あったものだって聞いたけどな。石造海峡橋なんで簡単には壊れないって聞いたぜ?」
「それはそうですよ。あれは元々、戦争する前に作られたものだと言う話しですからね。元々はそこまで険悪ではなかったのかもしれません」
さなえにそう言われて千石は「へぇ」と興味なさそうに生返事をする。世界史の勉強をしたくて今一緒にいるわけではない。
「それにしても…静かなもんだな。ここまで政府関係者も調査はしないのがおかしいとは思うが…」
巡回車両がいくつか街の中で右往左往しているのを見たがここはまったくそう言う車両も近づいては来ない。
何か理由があるのでは?とさえ思えたが、すぐにその結果が分かった。
おはじきとかチャカとか呼ばれているものをさなえさんが使えるのはさなえさんも一般人ではないからですね!
正直、ごくどーさんの世界は知りません。想像なのです。
千石さんとさなえさんの二人は中学時代に二人でクリーチャーを倒している過去がありますが、それは別の話。
サブタイにかき氷の話が出てきましたが、友人の猛者はなにを考えたか、かき氷にしょうゆをかけてみたことがあるそうです。結果は言うまでもなかったけど、若き頃の過ちだったとか言ってました。当時彼は十歳前後だったとか。
それではまた次回。




