荼毘
初投稿です。
よろしくお願いします。
※ご指摘いただいた箇所を修正しました。
――あなたは何を焼きたいですか?
テレビから流れてくるニュースキャスターの声。
男は、口に入れるはずだったおかずを思わず眺めた。
(……魚?)
どうやら近頃、誰でも気軽に、どんなものでも火葬することが出来る施設が話題になっているらしい。
インタビューされていた女子高生は、失恋の思いを断ち切るため、恋人にもらった指輪や二人の思い出の写真などを焼いていた。
(焼いてる最中は泣いてるくせに、焼き終わったら随分とすっきりした顔になるもんだな)
(まあ、見飽きたわな)
次の日、男は、また泣いている顔とすっきりした顔を見ている。
男は、何年も前から、毎日、人のために泣く人、人を焼いてすっきりした顔の人を見ている。
そうしているうちに、妻は子供を連れて出ていった。
――あなたは何を焼きたいですか?
(……魚)
昨夜と同じニュースに、男は、今日もおかずを見つめた。
女子高生もまた、テレビの中で泣いた顔とすっきりした顔をしていた。
――あなたは何を焼きたいですか?
(いい加減みんなこのニュース飽きないのかね)
(……俺は飽きたね)
男は、おかずを見ずに口へ運んだ。
(魚焼いてくれる奥さんでも探すかな)
相変わらず泣いた顔とすっきりした顔の女子高生がテレビに映る。
(失恋……)
男は、出ていった妻と子の思い出のものを探した。
結婚指輪もいつの間にか無くしてしまった。
少なからずあると思っていた写真も見当たらない。
(あいつらとの思い出の……)
(あいつら……!)
男は、家を出た。妻と子供のもとへ向かうために走り出した。
だが、男はすぐに走るのを止め、その場に立ち尽くしてしまった。
男は、妻と子供がどこにいるのか分からなかった。
――あなたは何を焼きたいですか?
(お前のせいでこんなことが出来るようになったぞ)
男は、焼魚を見て満足そうに食べた。
今日の女子高生は、よく泣いていた。そして、
(きれいな笑顔だな……)
――あなたは何を焼きたいですか?
男は、毎日ニュースで見た火葬場に来た。
受付で火葬するものを伝えると、受付係は微笑んだ。
男の仕事は、人を焼くこと。
お読みいただきありがとうございました!