第5話「荒野への旅立ち」
第5話「荒野への旅立ち」
一団は、五十人ほどになっていた。最初の村からの二十人に加えて、周辺の小さな集落の住民たちが加わったのだ。彼らは皆、飢饉に苦しみ、王国の保護を受けることができない者たちだった。
レオンの「大地を修復する力」の噂は、辺境に素早く広がった。
「追放された貴族が、壊れた大地を直す」
その話は、希望となって、絶望に沈んだ人々の心を動かした。今、一団は、王国の領土を完全に離れ、本格的な辺境の荒野に足を踏み入れていた。
朝。一団は、小高い丘に立ち止まっていた。その先に、何も見えない。ただ、枯れた大地が、地平線まで続いていた。
「坊ちゃん」
と、リナが言った。
「ここから先は、王国の領地ではありません。完全な魔物の領域です」
「魔物の領域」
と、ミーナが呟いた。彼女の顔には、恐怖があった。
「ここまで来ると、王国の保護もなく、何も守るものがない」
レオンは、その荒野を見つめた。その景色は、二週間前に見た、古代遺跡へ向かう途中の風景と同じだ。
だが、今は違う。今のレオンには、五十人の人々がついている。
「進もう」
と、彼は静かに言った。
「どこへ?」
と、村長が聞いた。
「わかりません。だが、この荒野の中で、新しい何かを探す」
「新しい何か、とは?」
「基地です。根拠地。俺たちが、新しい国を作るための場所を」
レオンは、先へ進むことにした。三日間、一団は歩き続けた。食料は、商人から買った干し肉と、水。だが、水も徐々に減っていた。
「あと、二日で水がなくなります」
と、リナが報告した。
「では、今日中に水場を見つけねば」
レオンは、周囲を見回った。だが、荒野には何もない。ただ、枯れた地面と、時折見える黒い岩だけだ。
その時、空が暗くなった。
「嵐だ」
と、村長が叫んだ。確かに、空に黒い雲が立ち込めていた。
砂嵐だ。辺境では、突然現れる危険な現象だ。
「急いで、何か避難できる場所を探せ」
レオンが命じた。だが、周囲には何もない。やがて、砂嵐が一団を飲み込んだ。
視界が消える。砂が、顔を切り刻む。
「坊ちゃん!」
ミーナが、レオンにしがみついた。
「離すな。みんなで繋がれ」
一団は、互いに手を握り、砂嵐の中をゆっくり進んだ。数時間が、永遠に感じられた。
やがて、砂嵐は止まった。だが、一団の状況は悪くなっていた。
三人が、疲労で倒れていた。水も、砂に埋もれて、失われていた。
「これは……」
と、村長が言った。
「ここで、終わるのか……」
その時だ。地面が、何かに反応した。レオンは、それに気付いた。
「待て」
彼は、地面に手を置いた。古代遺跡で学んだ感覚が、再び発動した。
地面の「構造」が、レオンに語ってくる。ここは、かつて水が流れていた場所。川だ。
だが、今は枯れている。その川の「構造」を理解すれば——
レオンは、手を動かした。地面が、ゆっくりと割れ始めた。やがて、地下から、水が湧き出てきた。
「水だ!」
と、ミーナが叫んだ。一団は、貪るようにそれを飲んだ。その夜、一団は、その川沿いで野営することにした。
火を焚き、食事をした。
「坊ちゃん」
と、ルリアが言った。
「あなたの力は、本当に素晴らしい。世界を理解し、それを直すことができるなんて」
「素晴らしい?」
レオンは、冷たく答えた。
「これは、才能ではなく、必要性だ。俺たちが生き残るため。その為だけに、俺は使う」
ルリアは、その言葉に眉をひそめた。
「何か、違うことでも?」
「いいえ。ただ……」
ルリアは、火を見つめた。
「あなたは、変わりました。あなたが最初に村に来た時は、自分の力を試そうとしていた。だが、今は?」
「今は、人々を導いている」
「そう。でも、それは……」
ルリアは、言葉を選ぶように続けた。
「何か違う気がするのです。何か、大きな使命に駆られているような」
レオンは、答えず、ただ火を見つめていた。
確かに、彼は変わっていた。古代遺跡で聞いた、あの声。
「再構築者よ。世界を直すことができる者だ」
その言葉は、彼の中で、常に鳴り響いていた。
十日後。一団は、遂に目的地を見つけた。
高い崖。その崖の下には、古い建造物の跡があった。
「これは……」
と、レオンが呟いた。
「古代の遺跡ですか?」
と、リナが聞いた。
「いや。もっと新しい。二百年か三百年前の建造物のようだ」
レオンは、崖を降りた。古い石造りの建物。壁は、一部崩壊している。屋根も、ほぼない。だが、構造はしっかりしていた。
「この場所だ」
と、レオンが言った。
「ここが、俺たちの基地になる」
「本当ですか?」
と、ミーナが聞いた。
「ああ。この場所を修復すれば、五十人程度なら住める」
レオンは、建物の壁に手を置いた。そして、再構築を発動した。三日間、レオンは、この建造物を修復し続けた。壊れた壁は、再び立ち上がった。屋根も、復活した。窓も、扉も。やがて、古い建造物は、住める家へと生まれ変わった。一団は、その建造物の中に、新しい生活を始めた。
その夜。
レオンは、建造物の屋上に立っていた。周囲には、何もない。ただ、荒野が広がっているだけだ。
「坊ちゃん」
と、リナが上ってきた。
「休まなくていいのですか?」
「ああ。少し考え事があって」
レオンは、空を見つめた。
「ここから、どうするのか」
「どうするとは?」
「俺たちは、五十人だ。だが、この世界を変えるには、少なすぎる」
「では、もっと人を集めるのですか?」
「いや。人よりも先に、することがある」
レオンは、建造物の下を指差した。
「この場所を、町に作り替える。そして、ここを王国の外の、自由な国にする」
「それは、王国への反逆では?」
「そうだ。だが、俺たちは、もう王国の人間ではない」
レオンは、静かに言った。
「ならば、王国に束縛される必要もない。俺たちは、新しい何かを作る」
リナは、その言葉を聞いて、微かに微笑んだ。
「わかりました。では、私たちも、その為に動きます」
「ああ。みんなで、新しい国を作ろう」
翌朝。レオンは、一団を集めた。
「これからここで、俺たちは新しい生活を始める」
と、彼は宣言した。
「誰もが、王国に支配されず、自分たちの力で生きる。それが、俺たちの国だ」
一団は、歓声を上げた。ミーナは、涙を流していた。
「坊ちゃん。ありがとうございます」
「ミーナ。ここは、君たちのための国でもある。だから、感謝するのは俺だ」
レオンは、一団を見渡した。五十人の人々。彼らは皆、絶望から救われた者たちだ。そして、今、彼らは新しい希望を見ている。
「では、始めよう」
レオンが言った。
「新しい国造りを」
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