第20話「魔導士セリアの誘い」
ギルドを出ると、一人の女性がレオンたちを待っていた。二十代半ば。黒いローブを身にまとい、腰には魔導書を下げている。眼鏡をかけた知的な顔立ちだ。
「あの、レオンさんですか?」
女性が、声をかけてきた。
「そうですが」
レオンは、警戒しながら答えた。
「初めまして。私はセリアと申します」
女性は、丁寧に頭を下げた。
「魔導士です」
「魔導士?」
「はい。古代遺跡の研究をしています」
セリアは、眼鏡を直した。
「実は、あなたにお願いがあって」
「お願い?」
「ええ。今回の遺跡調査、私も同行させていただけませんか?」
レオンは、少し考えた。
「なぜ、俺たちと?」
「あなたの力を、学術的に研究したいのです」
セリアは、真剣な表情で言った。
「再構築の力。それは、古代文明と深い関係があると思われます」
「古代文明?」
レオンの表情が、変わった。
「詳しいのか?」
「ええ。私は、十年以上、古代文明を研究しています」
セリアは、鞄から一冊の本を取り出した。
「これが、私の著書です」
本のタイトルは「古代魔導文明の謎」。レオンは、その本を手に取った。分厚く、専門的な内容のようだ。
「古代文明について、教えてほしい」
レオンは、セリアを見つめた。
「同行を許可する代わりに、俺に知識を共有してくれ」
「もちろんです」
セリアは、嬉しそうに微笑んだ。
「それが、私の望みでもあります」
四人は、馬に乗って、遺跡へ向かった。レオン、ルリア、ルーク、そしてセリア。道中、セリアは古代文明について語り始めた。
「古代魔導文明は、約三千年前に栄えました」
セリアは、馬を操りながら説明した。
「彼らは、魔力を完全に制御する技術を持っていました。天候も、大地も、すべてが彼らの手の内にあった」
「それが、どうして滅んだんだ?」
ルークが聞いた。
「暴走です」
セリアは、悲しそうな表情を見せた。
「彼らの魔力が、制御不能になったのです。その結果、文明は崩壊しました」
「制御不能……」
レオンは、呟いた。
「だが、彼らは何かを残した」
セリアは、レオンを見た。
「遺跡です。そして、再構築者を選ぶシステムを」
「再構築者を選ぶシステム?」
「ええ。古代人は、いつか世界が再び壊れることを予見していました。
その時のために、再構築の力を持つ者を選ぶシステムを作ったのです」
セリアは、真剣な眼差しでレオンを見つめた。
「あなたは、そのシステムに選ばれた一人なのです」
レオンは、セリアの言葉を反芻した。自分が選ばれた存在。それは、古代遺跡で聞いた言葉と一致する。
「他にも、再構築者はいるのか?」
「おそらく」
セリアは頷いた。
「古代の記録によれば、再構築者は複数存在するはずです。世界の各地に」
「そうか」
レオンは、遠くを見つめた。どこかに、自分と同じ力を持つ者がいる。いつか、会えるだろうか。
昼過ぎ、一行は遺跡に到着した。森の奥深く、石造りの建造物が見える。苔に覆われ、一部は崩れているが、まだ原型を留めている。
「これが、古代遺跡か」
ルークが、感嘆の声を上げた。
「でかいな」
「この規模なら、かなり重要な施設だったはずです」
セリアは、遺跡に近づいた。
「慎重に進みましょう」
一行は、遺跡の入口へ向かった。大きな石の扉が、半開きになっている。中は、暗い。
「松明を」
レオンが言うと、ルリアが火魔法で明かりを作った。炎が、掌の上で揺れている。
「便利だな、それ」
ルークが言った。
「では、行きましょう」
四人は、遺跡の中へ入った。遺跡の内部は、広い通路が続いていた。壁には、古い文字が刻まれている。
「これは……古代語です」
セリアが、壁に近づいた。
「読めますか?」
レオンが聞いた。
「少しなら」
セリアは、眼鏡を直して、文字を読み始めた。
「『ここは、再構築の聖堂。世界を直す者のみ、進むことを許される』」
「再構築の聖堂?」
レオンは、通路を見つめた。
「俺のための場所、ということか」
「そのようです」
セリアは、レオンを見た。
「あなたなら、この先に進めるはずです」
一行は、さらに奥へ進んだ。やがて、広い部屋に出た。部屋の中央には、大きな魔法陣が描かれている。
「これは……」
セリアが、息を呑んだ。
「起動の魔法陣です」
「起動?」
「ええ。何かを起動するための魔法陣です」
セリアは、魔法陣に近づいた。
「おそらく、この遺跡の中核システムです」
「触っても大丈夫か?」
ルークが、警戒しながら聞いた。
「わかりません」
セリアは、正直に答えた。
「だが、レオンさんなら、制御できるかもしれません」
レオンは、魔法陣に近づいた。手を伸ばすと、魔法陣が反応した。青白い光が、魔法陣から放たれる。
「レオン!」
ルリアが叫んだ。だが、レオンは平気だった。むしろ、魔法陣から何かが流れ込んでくる。情報。知識。そして、警告。
「これは……」
レオンは、魔法陣から手を離した。
「どうしたんだ?」
ルークが聞いた。
「メッセージを受け取った」
レオンは、三人を見つめた。
「古代人からの、メッセージだ」
「何と?」
セリアが、身を乗り出した。
「世界の衰退が、予想より早く進んでいる」
レオンは、深刻な表情で言った。
「このままでは、五十年以内に、世界は滅びる」
「五十年……」
セリアが、青ざめた。
「それは、私の研究結果とも一致します」
「そして、再構築者たちに、呼びかけている」
レオンは、魔法陣を見つめた。
「『集え、再構築者たちよ。世界を救うために』」
その瞬間、遺跡全体が揺れた。
「何だ!」
ルークが叫んだ。
「遺跡が、起動したようです」
セリアが言った。壁から、光が漏れ始めた。古い装置が、次々と起動していく。
「まずい、制御不能だ!」
セリアが叫んだ。部屋の奥から、何かが現れた。石で作られた巨大な人型。ゴーレムだ。
「古代の防衛システムが起動した!」
セリアが警告した。ゴーレムが、レオンたちに向かって歩き始めた。
「戦うしかない!」
レオンが叫んだ。ルリアが、火球を放った。だが、ゴーレムは石でできているため、炎はほとんど効果がない。
「くそっ!」
ルークが、剣を抜いた。ゴーレムに斬りかかるが、剣が弾かれた。
「硬すぎる!」
ゴーレムが、拳を振り下ろした。ルークが、飛び退く。拳が地面に叩きつけられ、床が砕けた。
「レオン、何とかしてくれ!」
ルークが叫んだ。
「わかった」
レオンは、ゴーレムに向かって走った。ゴーレムの足元に手を当てる。再構築の力を発動する。ゴーレムの構造を理解する。
動力源。制御システム。すべてが見える。
「見つけた」
レオンは、ゴーレムの胸部に手を当てた。再構築で、制御システムを書き換える。ゴーレムが、動きを止めた。やがて、ゆっくりと元の場所へ戻っていった。
「止まった……」
ルークが、安堵の息をついた。
「さすがです、レオン」
セリアが、感心した表情で言った。
「あなたの力、本当に素晴らしい」
レオンは、疲れた様子で座り込んだ。
「何とか、制御できた」
ルリアが、レオンに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「ああ。少し疲れただけだ」
遺跡の外に出ると、既に夕方だった。四人は、森の中で休憩した。
「今日は、驚きの連続でしたね」
セリアが言った。
「ああ」
レオンは頷いた。
「だが、重要な情報を得た」
「世界の衰退、ですね」
「そうだ」
レオンは、空を見上げた。
「五十年以内に、世界が滅びる。それを防ぐために、俺たちは動かなければならない」
「私も、協力します」
セリアが言った。
「私の知識が、役に立つなら」
「本当か?」
「ええ」
セリアは、真剣な表情で頷いた。
「私は、古代文明を研究してきました。その知識を、世界を救うために使いたい」
レオンは、セリアを見つめた。その目には、確かな決意がある。
「わかった。歓迎する」
「ありがとうございます」
セリアは、微笑んだ。
「では、私もリコンストラクト領へ?」
「ああ。君の知識が必要だ」
ルークが、豪快に笑った。
「仲間が増えたな!」
ルリアも、嬉しそうに微笑んだ。
「これで、四人です」
レオンは、三人を見渡した。ルリア。ルーク。セリア。それぞれが、異なる力を持っている。
「俺たちで、世界を変えよう」
レオンは、力強く言った。三人は、頷いた。新しいチームが、ここに誕生した。
ファルマに戻ったのは、夜だった。ギルドに報告すると、アイリスが待っていた。
「お疲れ様です。遺跡の調査、成功したようですね」
「はい。そして、新しい仲間を得ました」
レオンは、セリアを紹介した。
「魔導士のセリアです」
「初めまして」
セリアが、頭を下げた。
「よろしくお願いします」
アイリスは、セリアを見て、少し驚いた表情を見せた。
「もしかして、あの有名な古代文明研究者のセリア先生ですか?」
「ええ」
セリアは、照れくさそうに笑った。
「そんなに有名ではありませんが」
「いいえ、あなたの著書は、学会で高く評価されています」
アイリスは、感心した様子で言った。
「そのような方が、レオンさんのチームに?」
「はい。彼の力を研究するため、そして世界を救うために」
セリアは、真剣な表情で答えた。アイリスは、レオンを見た。
「あなたのチーム、どんどん強くなっていますね」
「まだまだです」
レオンは、謙遜した。
「これから、もっと強くなります」
宿に戻ると、リナが待っていた。
「お帰りなさい。新しい方ですか?」
「ああ。魔導士のセリアだ」
「初めまして、リナさん」
セリアが、挨拶した。
「よろしくお願いします」
リナは、セリアを見て、微笑んだ。
「よろしくお願いします。今夜は、歓迎の食事を用意しましょう」
「ありがとうございます」
その夜、五人は宿の食堂で食事をした。ルークは、豪快に肉を食べている。セリアは、上品に料理を味わっている。ルリアとリナは、楽しそうに話している。
レオンは、その光景を見つめながら、思った。仲間が増えた。それぞれが、異なる力を持っている。この力を合わせれば、きっと世界を救える。
「レオン」
ルリアが、声をかけた。
「何を考えているのですか?」
「これからのことだ」
レオンは、微笑んだ。
「俺たちで、何ができるのか」
「きっと、素晴らしいことができます」
ルリアは、自信に満ちた表情で言った。
「私たちは、一緒ですから」
レオンは、頷いた。窓の外では、星が輝いていた。
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