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追放された貴族は《再構築》の力で世界を直す  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第1章 追放の儀式

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第1話「神童と呼ばれた少年」

アーデルハイト領の領主館は、朝日に映えて輝いていた。


白亜の城壁、緑色の瓦屋根、そして中庭に咲く薔薇園——この一帯が、王国でも有数の名門貴族の居城だ。

レオン・アーデルハイトは、その城の石畳を歩きながら、早朝の庭園を眺めていた。


十七歳。

容姿は端正で、紺色の制服に身を包んだ彼の姿は、どこから見ても「優秀な貴族」そのものだ。


「レオン様、おはようございます」


と、侍女が頭を下げた。

レオンは軽く手を上げて応じる。言葉は少ないが、態度に無礼はない。これが神童と呼ばれる少年の日常だ。


本を読む。

計算をする。

剣を練習する。

魔法の理論を学ぶ。

何をやっても、何の努力もしないように見えても、レオンは完璧にこなす。


領主の次男である兄・エドガルドは、優秀ではあるが、所詮は秀才の域だ。だが、レオンは違う。本物の才能の輝きが、彼の中にある。その証拠に——


「レオン!朝食の準備ができたぞ」


太った男の声が響いた。父・アーデルハイト公爵だ。威厳に満ちた顔立ちは、息子たちにも受け継がれている。


「おはようございます、父上」


レオンは一礼した。

食卓に着くと、兄のエドガルドと、一番下の妹・エリーズがすでに席についていた。


「レオンか。今日も勉強か?」


とエドガルドが問う。


「ええ、王立魔法学院の試験対策を」とレオンは答える。


「相変わらずね。しかし、あなたの成績なら心配いらないでしょう。去年も首席だったし」


母・ラウラが、優雅にナイフを使いながら言った。


「王立学院の入試なら、レオンなら満点で合格できるでしょう」とエリーズが付け加える。


妹に甘えられて、レオンは微かに微笑んだ。


「そうだな。今年の成人式は、レオンにとって最高の日になるだろう」


と父が言う。


成人式。それは王国の全貴族にとって、人生で最も重要な儀式だ。その日、人は初めて自らの「ギフト」を授かる。神から与えられた超自然の力を。


ギフトの質と性質によって、その人物の人生が決まる。強力なギフトを持つ者は栄光を手にし、弱いギフトを持つ者は……陰に隠れることになる。


「レオンのギフトは、きっと家柄に相応しい素晴らしいものだろう」と母が言う。


全員がそう思っていた。レオン本人も含めて。


その夜、城の塔の一室でレオンは天体観測をしていた。望遠鏡を通して月を見つめながら、レオンはかすかに笑う。


明日は成人式だ。明日、自分のギフトが何であるかが明かされる。


強い力だろう。そうでなければおかしい。自分ほどの才能を持つ者に、弱いギフトなど——


窓を通して見える街並みが、夜明けに向けて徐々に色付き始めた。




朝が来た。


成人式は、王城で執行される。アーデルハイト家は、馬車で王都ヴェルモンドへ向かった。


白い絹の服に身を包んだレオンは、一家の中でも格別に目立つ。周囲の貴族たちも、その存在に気付いている。


「あれが、アーデルハイトの三男か」

「噂通りの美しさだな」

「天才だという」


賞賛の言葉が、背後から聞こえる。


王城の大広間は、金色に輝く装飾で満たされていた。円形の壇の中央に、古い石のティアラが置かれている。それが「ギフトの鏡」だ。そこに手を置けば、その者の運命が決まる。


次々と貴族の子弟たちが壇に上がり、ティアラに手を置く。「火のギフト」「剣術強化」「治癒の力」「言語の天才」……。一人また一人と、ギフトが発動される。その度に、家族たちが歓声を上げる。


そして、ついにレオンの番が来た。彼は静かに壇に上がり、ティアラに手を置いた。全員の視線が一点に集中する。


光が輝き始めた。しかし——その光は、他の者たちのそれとは異なっていた。青白く、淡く、どこか不安定な輝きだ。


「これは……」


と大司祭が眉をひそめる。


やがて、光が消える。大司祭は、厳かに宣告した。


「ギフト名:『再構築リコンストラクト


評価:E級。

効果:壊れたものを修復する。

特記事項:極めて消費魔力が大きく、実用性に乏しい」


その時、大広間に静寂が落ちた。E級のギフト。最下位の評価だ。


レオンは、自分の耳を疑った。自分が、最下級?観客席から、小さなざわめきが起こった。


「アーデルハイトの天才が……E級?」

「また、『修復のギフト』か。あんなもの、何の役に立つ……」

「可哀想に。これまでの秀才ぶりが台無しだ」


レオンの顔から、すべての色が失われた。城に帰るまでの馬車の中は、完全な沈黙だった。


父は顔を真っ赤にして、何度も拳を握った。母は、息子を見つめることができない。兄のエドガルドは、複雑な表情で窓の外を見ている。エリーズだけが、レオンを案じるような視線を送っていた。


「馬鹿な……」


と父がようやく口を開く。


「あんなギフト……そんなものを持つなど……」

「父上……」


とレオンが言いかけた時、父の掌がテーブルを叩いた。


「黙れ!お前は、この家の面汚しだ!神童だと?才能だと?全て嘘だ!」

「父上、お落ち着きください」


と母が懇願する。


「我が家の三男が、E級のギフトだと?このアーデルハイト領の嗣が、ギフトの質で劣るなど……」


父の言葉は続いた。言葉の一つ一つが、レオンの胸を貫く槍のようだ。到着した城で、レオンは自分の部屋に連れられた。その夜、だれもレオンの部屋には訪れなかった。


食事も、だれかが置いていくだけだ。レオンはそれを口にしない。ただ、暗い部屋で、自分の両手を見つめていた。


「再構築」


その言葉を、何度も反復する。


壊れたものを、修復する力。


それは、確かに有用ではない。王国では、強い力ほど価値がある。戦闘に優れたギフト、領土を支配できるギフト、富をもたらすギフト——そういうものが求められるのだ。


壊れたものを直すなど、誰でもできる仕事だ。だから、E級なのだ。


レオンは、自分が何者でもないことに気付いた。天才ではなく、秀才でもなく——ただの、凡人だ。



翌日、父の呼び出しがあった。書斎に入ると、父は厳しい表情で座っていた。


「レオン。聞きなさい」

「はい」

「お前のギフトは、この家には不要だ。よってな——」


父の言葉は、冷たく、淡々としていた。


「お前は、今日限りアーデルハイト家を出ろ。貴族籍も剥奪する。お前は、もはや我が子ではない」


その言葉を聞いても、レオンは驚かなかった。何故なら、すでに覚悟していたから。


「承知いたしました」

「城を出ろ。持って行けるのは、服と、小銭程度。何か質問はあるか?」

「……いいえ」

「では、今すぐ出ろ。二度と顔を見せるな」


レオンは部屋を出た。



昼過ぎ、レオンは城の門に立っていた。背には簡単な旅装束。金は、わずか五十ゴルド。王国では、一日の食費が十ゴルドほどだから、五日分にもならない。


「坊ちゃん……」


と、一人の使用人が近づいてきた。リナという、城で十年近く仕えている女性だ。


「お去りになるのですか?」

「ああ。もう、戻ることはないだろう」


リナは、しばらく何も言わず、ただレオンを見つめていた。


「……私も、ついていきましょうか」

「何を言っている。お前はこの城の者だ」

「いいえ。貴族籍を失ったあなたを見捨てるのは、この家の者には出来ません。私は……あなたに仕えます」


レオンは、その言葉に初めて、心が揺らいだ。


「ありがとう……」


二人は、城の門を出た。


城門の向こうは、広大な荒野が広がっていた。かつては緑豊かだったその土地も、今は枯れ果て、ところどころ灰色に変色している。魔物の跋扈する、危険な領域だ。


しかし、レオンはそんなことを気にしない。むしろ、清々しさを感じていた。


「さて、どこへ向かいましょうか?」とリナが聞く。レオンは、その地平線を見つめた。


「分からん。だが……」


彼の目に、初めて光が戻ってきた。


「ここなら、王家の呪縛もない。誰も、俺を判断しない」

「そうですね」

「なら、やってみよう。このギフトが、本当に何の役にも立たないのかどうか」


レオンは歩き始めた。リナが、その後に続く。二人は、朝日に向かって歩いていく。


王国の最果て、辺境の荒野へ。そこには、何もない。だが、何もないからこそ——すべてが始まるのだ。


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