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EP77 人形と花

 なんだか迷走中なのであとで修正するかもしれません。


 魔法少女とも縁の深い星空の下、俺とリヴァリエは2人きりで向き合っていた。俺も、そして彼女も何かを言うべきと考えながらも、どう切り出していいか分からない、そんな膠着状態に陥っていた。

 原因はつかみ切れていないが、俺は彼女を傷つけている。そんな状態でも頼みごとをしてくれたということは、多少なりとも状況が改善していると考えることができるが、それでも未熟な自分が彼女の精神に踏み込める状態なのか、大きな懸念があった……リンクしたときに彼女から感じた冷たく重い負の感情……これが不安や恐怖と言われるものなのだろうか?


「あ、あの……!……あ……」


「おい……っ!……あ……」


 恐る恐る出した両者の声が固まってしまい、出かけた言葉も引っ込んでしまった。


「な、なにか、あるならあなたから話して……?」


「いや、リヴァリエから話してくれ……俺にとってお前の意志こそが絶対なんだ」


「そんな大げさな……ううん、きっとそういう意味の分からなさを含めて、あなたに聞かないといけないんだね」


 そんなことを言う彼女の瞳からは震えが消えて、まっすぐとこちらを見つめてくるようになる。


「でも……まず言わないとなのはお礼……ありがとう……本当に……あの男から私を助けてくれたこと……お葬式を手伝ってくれたこと……私の家族のために祈ってくれたこと……」


 彼女は泣いてこそいなかったが、その表情は葬式中に泣いていた時のものと同じものだ、ダメージが抜けきっていないなら、なにもさせずに休息を取らせるべきかと思ったが、心とか、精神の領域における俺の判断がどの程度あてにできるのか、まったくと言っていいほど自信がなかった。

 だから、すぐには言葉を出せなかった。


「それに、そもそも、あなたはあの鋼魔獣から助けてくれたんだよね……お母さんたちは助けられなかったけど、私を助けてくれたってことだけで、たくさんたくさん感謝しなきゃいけないのに、あなたに当たるようなこと言っちゃった……うぅ、ほ、本当に……本当にごめんなさい……ごめんなさい……」


 リヴァリエは、張り詰めた表情の裏にためていた情動を吐き出すように、大量の言葉を吐き出して一緒に涙も流れ出した。


「いや、礼を言われるようなことはしていない。お前を守ることが、俺の存在理由だからだ。……そのはずなのに、俺は不用意な言葉でお前を傷つけてしまったようだ……むしろ謝罪が必要なのは俺の方だ……すまなかった」


 彼女の表情と声を聞いていると、彼女を守るという役目が果たせていないという、焦りと一緒に、何か痛みを伴うような、衝動……もしかしたら感情と言われるものかもしれないものが胸に湧き出している気がした。彼女を苛んでいるものを取り除かなければいけないという強い義務感のようなもの。


「どうして……?」


「……?」


彼女は張詰めた声と表情のまま、俺に問いかけてきた。


「どうして、そんな私の奴隷みたいな物言いをするの?……あなた、何もかもめちゃくちゃって感じがしてるけど、いったい何なの……?」


その疑問は、ずっと俺が彼女に伝えたかったことだから今すぐ答えたかったが、何かが俺を引き留める。自分の存在は彼女を守ることから、鋼魔と戦っていくことにつながっている。

 それはまた彼女を傷つけてしまう結果に至ってしまうのではないかという不安があった。


「なんか、気を使わせちゃってる?なら、今はもう大丈夫……さっきまでは、もう死んでしまいたいと思ってたけど、さっきあいつに襲われたとき思わずあなたの後ろに隠れちゃった……その時気づいたの、私まだ生きたいんだって……!」


確かに、生きることを放棄して、死を待っているように見えた彼女が、身を守るために俺を頼ったということ、それは彼女が失ってしまった生きることへの意志を取り戻したという証拠だろうか?


「それに、私が何もしなかったら、私の家族は安らげないって思ったの……だから、今はうずくまっているよりもできることを探していたいの……!だから教えて?……あなたのことを……」


 そうかだから、襲われた後すぐに葬式がしたいと言い出したのか、自分が生きることを放棄していたから、家族の安寧が犯されそうになってしまったそのことに気付いたから……我に返ってやったことが葬式だったということなのか……。

 老人の話を聞けていて、本当に良かったと思う。そうでなければこの推論は立てられなかったはずだ。

 俺は一つ筋の通った結論を得たが、それでもまだそれが正しいかは信じられない。

 ただ彼女が、暗い影のもとにいた時より、生きる力、何かを受け入れる余地を持てていることは間違いないはずだ。ならば明かそう、俺の全てを……。


「俺は、対鋼魔用自立型ゴーレム……鋼魔の殲滅を目的として作られた、魔道具だ」


パラレスによれば、それは俺にとって名前ではないらしいが、俺という存在を呼び表わす言葉として、これ以上のものはなかった。


「ゴーレム……!?ゴーレムってあの畑仕事とかを手伝ってくれる土人形のやつ!?」


リヴァリエは、さっきまでの悲痛さを忘れたのではないかと思うくらい、顔全体で驚きを表現していた。


「そうだ……道具としての分類は同じだ」


「でも、ゴーレムってあなたみたいにちゃんとは話せないし、自分で考えたりとかもできないはずだけど……」


「そう、俺は高度な錬金術と秘石の力を用いて、創造された自我を持つゴーレム」


 意志や、自我という概念の根源にすら関わるとされる、秘石をもとにしているため、俺にある自我というものは相当に確か……と、パラレスは俺のメモリーに残しているが、リヴァリエはそれをどのようにとらえるのか……?


「自我……それって心があるってこと?」


「それは分からない。俺を造った者は心を育てる余裕がなかったと言っていた。獲得する機能があるとしても、まだ成長が必要なんじゃないだろうか」


 実際、リヴァリエ本人とリンクしたときに流れてきたものを俺は理解することができなかった。


「育てる余裕がないって……あなた、生まれてどのくらいなの?」


リヴァリエはなぜか深刻な顔をして、聞いてくる。


「目覚めてから数日といったところだ」


「数日……」


何故だか分からないが、彼女は目を見開いて驚いているようだった。


「俺がさっきも言った通り、心が育っていないようだ。これからも、お前を不快にさせてしまうことがあるかもしれない。俺にお前を傷つける意思がないことは分かってほしい」


今の俺にはすぐに相手の心を理解するのは難しそうだ。ならば今の俺に伝えられるのは敵意の類がないということだけだろう。


「うん……あなたのその回りくどい話し方とか、背景みたいなものが見えてきたから、もう“怒って”はないから……」


怒ってはいない、怒りからくる嫌悪感はなくなったが、それ以外の不快感というか悪感情は消えていないとみるべきか。


「でも、これだけは分かってほしい。私は家族を失った。それは……私そのものが欠けちゃったみたいなもので……次がどうとか、ほかの家族を守れればいいとか……そんな風に割り切れるものじゃないから……!」


彼女は先ほどの言葉とは裏腹に、怒りの滲んでいるような気がする声で言った。そして、最後に家族のいないあなたには分からないかもしれないけど、と付け足したのだった。

 家族、確かに分からない。自分には一般的な生物のような遺伝的なつながりを持つ者はいない。家族というものが、彼女にとってどんな意味を持っていたのか、そしてそれを失うとはどういうことなのか、想像することも難しい。

 俺にとって、唯一家族と言える存在がいるとしたら、それは創造主たるパラレスだろう……あの人は俺のことを息子のようなものだと言っていた。それがリヴァリエの想う家族に当てはまるかどうかは分からないが、彼がそういうのならパラレスは間違いなく俺の家族なのだろう。

 もし、彼を失ったらと考えてみる。分からない、彼女のように心に傷を負うだろうか?立ち止まってどうしていいか分からなくなったりするのだろうか?そうなるとは考え難い。俺の中には彼の与えた、鋼魔の殲滅という行動指針がある。そうでなくても、俺は自分の行動を決める機能があるらしい……それらの事実を総合すると、俺はパラレスを失っても何ら変わることなく行動し続けるだろう。

 分からない。どのように傷ついているのか。それを解き明かせないことは、問題として思考の中に留め続けなければいけないだろう。

 今俺が重視しなければいけないこととしては、彼女がひどく傷ついている事実と、リヴァリエにとっての家族ということがらが、俺の立ち入れない領域にあるということか。

 


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