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EP64 墜落

これでこの戦いも一段落です。


Side:碧乃


 私たちに勝利に酔いしれる余裕はなかった。私たちは地上に向かって落ちる。もう魔力が少ないので地表に近づいてから、重力を変化させることにしている。


「一実。俺、言わなきゃならないことがあるんだ……」


ノクスは悲痛なほど沈んだ声で、私を抱きながら耳元で言った。そのしぐさは悪い夢を見て怯えている幼子のように見えた。


「何?」


二人きりの夜空で、私はちゃんとノクスの想いを受け止めたくて、そっと彼に密着した。


「俺な、さっきな……」


ノクスは戸惑いながら、少しずつ言葉を紡ごうとしていた。


『おい、お前ら!無事だな!?無事なんだな!?』


「うえっ!?陣屋さん。はい、二人とも無事ですが……」


インカムから怒声が聞こえる。完全に状況報告を忘れていた。


『ならとっととデカブツを拾いに行け!正直お前らの命より貴重だぞ!』


陣屋さんの叫びを聞いて、私たちは思い出す。確かに疲れたからもう放っておいていいよね♪などと気楽に見捨てられる生半可な代物じゃない。死んでも回収しなければ……!


「おい、一実!取りあえず下に加速するぞ!軌道調整は俺がやる!」


ノクスも焦った声で、提案してくる。もはや何秒猶予があるかも分からない。


「全力で下向きの重力を強化します!」


“パコン♪”


私は獣形態になったノクスに跨って、一つの雨粒になった気持ちで落ちていく。


「見えた!やばいぞ!海面が近い!飛ばすぞ!」


ノクスは残った魔力を全部吐き出す勢いで、放出して半壊した我らの巨人に近づいていく。


「取り付いた!」


なんとかインテグレーション・ボディに張り付いた。


「減速だ!上に重力を!」


“パコン!”


私も残りの魔力を使い切る気持ちで魔法を使う。しかし……。


「ごめん、ノクス!もう残りの魔力がなくて、減速しきれないー!」


作用した重力が1G分に達していないため、完全に減速できない。このままでは本当に一緒に激突してしまう。海上に落ちるとはいえ、この勢いでは鋼鉄の塊ですらひしゃげてバラバラになる。このインテグレーション・ボディは私の命ではとても足りない価値を持つ人類の宝だ。捨て置くことなどできはしない。


「おい、どうする離脱するか?」


「ううん。この子は私たちと一心同体の仲間だよ。見捨てることはできない。限界まで、粘る!」


「……!そうだな……俺は頭部に入って、飛ぶためのやつが使えないか試す!」


あと海面まで30秒ほどだと思う。間に合うか?間に合わせる!ノクスはそれから10秒ぐらいで、推力の一部を復活させる。しかし正直焼石水……でもギリギリまで耐える。この子がいないと人類は救えない。


「止まってー!」


「限界だ!離脱する……ぞ?」


もうダメだと思ったその時、下から猛烈な風……それどころではない高密度、高圧力の空気の壁が立ち上がった。それは急激に巨体を減速させ始める。さらに…。


「うわぁ……!?」


ガンッ!ッと何か重たい金属の塊がぶつかってきたような重く痺れる衝撃が走る。


「の、のの、ノクス何が……!?」


着水する前にバラバラになってしまうのではないかという、恐怖にかられる。


『分からんが、何かが下から押し上げてくれてるみたいだ』


状況を理解しきる前にその時が来る。


“ドザブーン!”


壮絶な轟音と数十mに達する水柱が上がる。インテグレーション・ボディは仰向け状態で水面の下に沈み込んでしまった。数秒間は水の下に潜っていたと思う。


「ぷはーっ!あの子はあの子は!?」


私は、水面にあがるのと同時に周囲を見回す。というかノクスはどうなった?もしかしてインテグレーション・ボディと一緒に海の藻屑になってしまったのではないか?私は不安に駆られて、叫ぶ。


「ノクス!ノクス、どこ!?」


数秒間の沈黙のあと下の方から、何かが上がってくる。


“ズパーン!”


かなりの勢いで上がってきたのは、インテグレーション・ボディの頭部だった。


「ノクス!」


私が泳いで取り付くと、すぐに頭部が展開した。


「無事か一実!」


「私は大丈夫!」


実は肩の傷がかなり痛かったりするが、魔力で止血はしているし、今はノクスとこの子の四肢が付いているかが一番大事だ。


「そうか……安心しろ!こいつの手足もちゃんとついてるぜ!」


良かった。両方とも無事なようだ。それは一安心だが、さっき私たちに干渉したのは何なのだろうか?ひょっとして早くも私たちを狙ってきた新顔の鋼魔だろうか?私は浮き上がってきたインテグレーション・ボディに乗って周囲を眺めてみる。


“ズパーン!”


唐突に三つ目の水柱が上がる。


「な、なに!?」


もう魔力弾一つ打ち出す魔力も残っていないが、ハッタリのつもりでステッキを構える。もう変身すら保っていられない。


「全く、日本の新人さんは世話が焼けますね!」


上がってきたのは碧いドレスの美少女とその下には大岩?のような何か……。


「魔法少女?だよな?」


ノクスは彼女の正体が分からず、困惑した声を上げる。


「メメルクさん?ですか?」


ドレスには共通した衣装である太い二本の帯もある。よく知らない魔法少女の中で、プラネスフィア以外に付近にいたのは彼女だけだった。よく見ていなかったのでその姿はうっすらとしか覚えていないが、その澄んだ青色のドレスは間違いないはずだ。


「と、相棒のカムドランよ!」


彼女は誇らしげに両腕を組み、胸を張る。彼女の立つ岩がせり上がりその岩が、勇者の上半身だと分かる。たしかカムドランさんは水中戦とパワーに特化した勇者ロイドだったはずだ。


「あなた達が助けてくれたんですか?」


「いかにも!感謝してください!」


「ど、どうもありがとうございます!」


「あ、ありがとうございます」


威風堂々とした様子で、彼女は感謝を求めてくる。実際そうなのだからそれでいいのだろうが、なんというか独特な人だ。


「もうすぐ皆さんが駆けつけるはずです。その怪我の手当てもしっかりした方がいいでしょう」


「え、ああ……そうですね。ううぅ、なんか痛くなってきた」


興奮が収まって意識したことで、本格的に痛みが出てくる。それと一緒に変身が解け、止血も効かなくなる。


“ブシュッ!ドクドクドク……”


かなりの血が出てくる。う~ん、もう魔力がないし、割とヤバいかもしれない


「だ、大丈夫か!?」


人の姿に戻ったノクスが、心配した様子で駆け寄ってくる。


「動くなよ……」


ノクスは流れるような手つきで、制服の袖を破って私の方の傷口に結んで、止血してくれる。


「あ、ありがとう……」


「一実、無理をするなとは言わない。でも無理をするときは、俺を一緒に連れて行ってくれ。頼む……」


俯いて言うノクスのその声は、怒りというより悲痛な懇願のように思えた。ひょっとして私はとても酷いことしてしまったのではないか?


「ごめんね、ノクス。私、ノクスを傷つけられたくなくて……」


「俺も同じだ。でも、そんな甘いことは言ってられない。でも、一人残されるのはもう二度とごめんだ」


そういうノクスの瞳は泣きそうに潤んで震えていた。二度と……か、やはり彼は……。


「マーシー!ノクストス!」


私がノクスに言葉を掛けようとした時、私たちを呼ぶ声が聞こえる。見上げると勇者に跨ったチームメイトたちが飛んできていた。


「二人とも無事?……!怪我してるじゃない、大丈夫なの!?」


イカダのように浮いているインテグレーション・ボディに降り立った先輩が私に駆け寄って我が子が転んだのを前にした母のように心配してくれる。


「はい、ちょっと怪我しちゃってますけど、私もノクスも健在です!」


私は任務完了を宣言するように、高らかに答えた。


「そう……!」


「わわっ!?……先輩!?」


気づけば、先輩に抱きしめられていた。私は甘いいい香りと温かい柔らかさに痛みも忘れて酔いしれてしまった。


「やっと、仲間ができて……魔法少女の仕事、前より楽しくなってきてた。今、みんなに死なれたりしたらホント、無理なの……だから無茶しないで……」


私の頭にあの月下の記憶がよみがえる。プラネスフィアのことをそんなに大切に思ってくれているのか。ノクスだけじゃなくて、先輩にも悪いことしちゃったな。


「ごめんなさい、先輩。もう、しません」


「それならいいの……それで、鋼魔人は?」


先輩は私から離れて、改まって訊いてくる。


「はい、魔力弾が直撃して、姿と魔力反応が消失しました。討伐できた確証はありませんが……」


私は戦士らしく、整然と報告する。手ごたえはあったが、あまり楽観的な見方はしない方がいい。


「おそらく、もう大丈夫だと思う」


「ノクス?」


急にノクスが前へ出て話しだす。おそらくとは言うが、ノクスの表情にはどこか確信めいたものを感じた。


「そう……二人がそう言うなら、とりあえず状況は終了でいいかな。……二人も、とってもすごかった」


「へへ……それほどでも……」


一番褒めて欲しい人から一番欲しい言葉をもらえた。嬉しいやら安心してしまったやらで、私は肩の力を抜いてしまう。


「おっと……大丈夫か?」


ノクスがふらつく私を受け止めてくれる。みんなからも歓声が上がり、勝どきでもあげたい気分だが、もう体力がない。戦闘終わりはいつもヘロヘロな気がする。戦闘後も警戒を解かず撤退できるぐらいの余裕が欲しいものだ。


「あの、碧乃さん……」


気が付くとイケートが私に近づいてきていた。


「どうしたの?イケート……」


“グサリ……”


「え?」


生々しい音が聞こえて、傷が熱くなってズキズキする。目をやると、彼女のレイピアが傷口に刺さっていた。


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