EP63 痛み
大幅に遅刻してしまいました。申し訳ございません。
Side:ノクス
「ぐぅ……あなた、私のことが気にくわないなら、ちゃんと訳を話してよ!」
マーシーは怒りをにじませた声で叫ぶ。心当たりのないことでキレられて殺されるなんて御免被るんだろう。
「マーシー!お前ぇ!お前だけはァ!」
ヒュブリスの方こそ怒りしか感じない叫び声を出している。荒れ狂う嵐のように乱れる魔力を見るに我を失っているのか?
『頃合いだ。マーシー、決めるぞ!』
俺はマーシーに決着を促す。俺たちは雲の上まで登っていた。
「このぉ!」
俺たちはヒュブリスを蹴って、間合いを取る。落ちているのを追撃するつもりだったが、奴は魔力を放出し、高度を保つ。どっちでもいい全力でぶつかるだけだ。
“ガンッ!ギィン!”
遮るものがない月が照らす中、俺たちは空で何度も交錯する。そのたびに刀で斬りつけ、ダメージを与えていくが、奴の魔力が増大しているのか俺たちの方も無傷とはいかない。
「ぐっ……はぁーはぁー!」
マーシーが苦しそうな声を上げている。
装甲や四肢の先を削り合う戦い、流石に緊張感とフィードバックの痛みがマーシーの精神力を削っているみたいだ。長引かせるわけにはいかない。
「私は大丈夫だよ。まだ、負ける気なんてしないもの!」
確かにマーシーの声には気力を感じた。彼女はきっと俺が守るような存在じゃない。彼女には彼女だけで危険に立ち向かっていく力がある。だから俺は肩を並べて、同じように勝利へ向かっていく。マーシーと一緒ならきっと勝てる。俺もそう信じられた。
また俺と彼女の心が近づいて、魔力がみなぎる。それを刃に送って絶対に次で倒しきると決める。相手の姿を見据えて、刃を確実に命に食い込ませるための道を探す。集中するため、斬影だけを握って一撃に賭ける。
『…………』
「がぁーーー!!!」
精神統一する俺たちに対して、ヒュブリスは怒りを更に滾らせて、魔力を膨らませる。
両者の間の緊張感が頂点に達した時、一気に接近し甲冑の胸部のあたりを袈裟斬りにする。
“ギュイン!ガシン!”
狙い通りの位置に刃があたり金属と一緒に相手の本質、命まで傷つけられている感触が腕に伝わってくる。
しかし、逆に相手のカウンターを避けることが出来ず、こちらも胴体に斧槍の斬撃を食らってしまう。
「がぁあああ!」
「きゃー!」
『マーシー!』
俺たちの攻撃は、胴体の左半分を切り飛ばすことに成功する。こちらは胸部装甲を剥がされるだけだったが、あろうことかコクピットが露出してしまう。衝撃と外気に晒され、悲鳴を上げている。
俺は反射的に腕で胸部を庇い、後ろに後退する。
「まだだー!!」
相手に刻んだ切り口の断面を見ると、少女の姿つまりはヒュブリスの本体の本体が露出している。よく見ると、右手をこちらにかざしてきて、魔力による攻撃、おそらくは斬撃が来る。
『まずい、このままだと……』
コクピットを損傷したからか、リンクとシステムが乱れヘイロー・システムはおろか、身体を動かすことすらおぼつかなくなる。
「させない……」
『マーシー!?』
俺が焦っている中、胸の中に強大な魔力を感じる。
「あなたには、何もあげない!街で生きている人たちも、ノクストスも、私の命も、何一つ!」
「マァァァシィーーー!」
ヒュブリスは、甲冑から分離して単独でこちらへ飛んでくる。俺は何とか距離を開けようともがくが、高度の維持すらできない。まずい、完全に無防備を晒してしまってる。
『なにやってる!?』
「ノクスを殺させない……!」
そんなヤバい状況で、マーシーはあろうことか自ら飛び立って、相手に向かっていく。
「お前に、私と同じ悲しみを……!」
敵の腹の底からの怒りを込めた斬撃が、マーシーに向かって放たれる。
“ビィイインッ!”
しかし、そのエネルギーの塊は、マーシーの正面から周囲に拡散される。
「あいつ……!」
後ろ姿しか俺からは見えないが、今彼女が使っているのはハンマーを使った防御だ。ハンマーと敵の攻撃の衝突時に強力な重力で時空のゆがみを発生させ、攻撃を周囲に反らすという新技だ。ここ一か月で開発したはいいものの、危ないから使わないと二人で決めた技だ……マーシーは自滅覚悟で戦っているのか!?
『戻れ……!?マーシー!』
マーシーの後ろ姿を見ていることしかできない俺の胸に、これまで感じたことのない恐怖が溢れてくる。俺も分離するかとも考えたが、俺は勇者ロイドと違って単独では飛べない。このまま落ちていくしかない。
音声センサーから聞こえてくるのは、風の音だけで直接言葉を伝えることが出来ないほど離れてしまう。マーシーは空中で組みついて、ともに下へ落ちていった。
―許さない―
辛うじてつながってくるリンクから伝わっているのは激しい怒りと痛み、マーシーは今ひどく傷つけられている。
『マーシー……!』
それなのに俺はなにもすることが出来ない。嫌だ、もうあの時のような思いはしたくない。
あの時?
俺は自分の考えていることにハッとする。こんな思いをしたことが前にもある。その時はただ絶望を前に叫ぶことしかできなかった。記憶の扉から流れ出てきた後悔の激情が、俺を突き動かす。ここで見ているぐらいなら、死ね。
“ギュイン……ガオン!!”
俺は頭部を展開し、外に出る。四足形態に変形し、インテグレーション・ボディを蹴り込むのとなけなしの魔力放出で、マーシーのところへ飛んでいく。下とはいえ、届くかは全く分からない。完全な賭けだった。
※
Side:碧乃
私はステッキから出した刃と、ヒュブリスが手に出現させた大鎌を撃ち合わせる。大きな刃、怖いけどこの密着状態なら刃渡りの短いこっちの方が有利だ。射撃ならともかく格闘戦ならノクストスとの訓練でそれなりに上達している。やってやれないことはない、だから今は怖がるな!そう自分に言い聞かせ私は全力で刃を押し付ける。
「お前は楽には死なさん!散々嬲ってから、お前の仲間たちを、お前の前で殺してやる!そして私の味わった悲しみを、お前にも……!」
この人は、なぜこんなにも私に執着しているのか、分からない。
「私があなたに何をしたって言うの!?」
怒りの出所が分からなければ、対処のしようもない。
「私を一人にしただろ!」
「はぁ!?……あぐっ!」
ヒュブリスは叫びながら鎌の刃の先を私の肩にねじ込んでくる。私を誰かと間違っているのか?もしかすると、先代の魔法少女……?いやだとしたら、自分は先代とは別の人物だと知っていたはずだ。
「私、わたしはぁ!」
痛みの中、ヒュブリスから放たれた焼けるような熱さの魔力が私の全身を焼く。激しい怒りと悲しみ、それが彼女に我を忘れさせているのか。だとしたら私は……。
「私の痛みを、悲しみをぬくぬくと生きる者たちに……!」
一瞬目の前の少女に憐れみに近い感情が芽生え、闘志が鈍りかけた。
「マーシー!」
上の方から、ノクストスの声が聞こえる。何とか視線を向けると、口に刀を咥えた彼がこちらに向かってくれている。
「ぬぅ……!」
“ガシュッ!”
ノクストスはこちらを抱き込みながら、大鎌を持つヒュブリスの右腕を斬り落とした。
「あ゛ああーーー!!」
ヒュブリスと距離が広がっていく中、獣のような悲鳴が彼女から聞こえる。私は彼女に何をしたらいいのか分からなくなった。さっきまであれだけ怒りを感じていたのに。
「バカが!一人で突っ込むなお前はまだすごくないんだからな!調子に乗るな!!」
「は、はい!ごめんなさいぃ……」
これまで聞いたことのないような強い口調の怒りの声が横から掛かる。私は状況も忘れて、縮み上がって謝罪する。
私は次に何を言われるか不安だったがノクストスはすぐに怒りを収め、人型に戻って私を抱くように寄り添ってくれる。
「彼女を終わらせてやろう……もう誰も傷つけなくていいように……」
彼が、どこか憐れみを感じる声で言う。リンクを通して感じるのはかれの中に渦巻くグレーな感情、喜び、怒り、悲しみ、その全部を混ぜ合わせたようなただただ大きなもの。
「分かった」
ヒュブリスは敵であり、いまだにこちらに殺意を向けている。そしてノクストスの言葉、なら私のやるべきことは一つ。
“スッ……”
私は、ヒュブリスにステッキをかざす。ノクスも私の手に左手を重ねて魔力を流す。二人でやれば極大の一撃を放てる。
「はあーーー!」
「はあーーー!」
二人で放った魔力のビームは、テラ・ドミネイターに匹敵するのではないかと思える威力を発揮する。それが命中する直前、ヒュブリスの声が聞こえる。
「助けて……アルサクト……」
誰かに助けを求める声だった。
“ゴゴゴゴ……!”
「え……?」
その時、捨て置かれたはずのヒュブリスの巨人が、彼女を庇って間に入る。そして、諸共に消え去った。
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