EP60 喪失者
だいぶ空いてしまいした。申し訳ございません。
Side:ノクス
巨人となっているはずの俺は同じ大きさの人型と向き合っている。魔力のみなぎる敵の甲冑のスピードも、防御力も未知数だがやはり侮れないパワーがある。さっきマーシーが魔法で躱してくれなければ、大ダメージを受けていたかもしれない。
俺はこれまでにない、焦りを感じていた。一実は、マーシーはいつもよりもずっとやる気に満ちている。その気持ちは分かる。俺もあの艦隊の犠牲という現実に対して納得できなかったし、それを起こしたであろう鋼魔に対して怒りを感じている。闘志を共有してこの戦いに臨んだはずだった。しかし、どうだ?敵を前にして俺の戦意は急激にしぼみ始めている。
ヒュブリスと名乗った鋼魔人の纏う、乗っている方が正確か?と言ったインテグレーション・ボディのような鎧。俺たちに対抗するために奴が用意したものだろうか?それに俺は強烈な既視感を覚えていた。そこからくる感情は怒りでも憎しみでもない。もっとじっとりとした何か、この気持ちは何と言うのだろう?分からない。
「ノクストス……足で攻めよう」
「ああ……」
いかん、さっき集中すると言ったのに考え耽っている。俺は、身体を取り巻く感覚に集中する。相手が追撃として放った魔力弾を躱し、その勢いのままに取り落した裂光を回収する。
「魔力を増幅する機械を使っているようだが……そもそもの出力が違う……!」
接近して、斬りつけようとした俺たちを、ヒュブリスは魔力放出の衝撃だけで弾き飛ばしてしまう。
「ぐぅっ!?……負けてられない!出力上げるよ」
「ああ……!」
彼女の闘志が俺に流れてくる。俺の中の心の枷を取り除いていく。エクステンション・サーキットから出力される魔力が一気に大きくなり、それは踏み込む足に力を与える。前へ進むという意志が、無意識のうちにヘイロー・システムが起動し、その推進力も攻撃に足される。
「はああーっ!」
「うおおーっ!」
俺たちは、敵への意趣返しのように刀に高密度の魔力を纏って、それを鋭く研ぎ澄ます。
“バシュン!”
俺たちは魔力放出の防御を力まかせに引き裂いて、相手の左腕を切り飛ばす。
「んぐぅっ!?」
「……!?」
振り向いた俺の目に映った傷ついた騎士、その後ろ姿を見た時、また胸の中に粘り気のある重いものが湧く。
「舐めるなぁ!」
ヒュブリスは怒り、カウンター気味に斬撃を放ってくる。また心の揺らぎで足取りが鈍る未来が見えたが、俺の冷えた心に“熱”が注がれたから、手足が揺らぐことはなかった。
「ノクス、怖いの?」
リンクを介したその会話は情報を伝えあうというよりも感情を伝えあうもの。戦いに意識を割きながらも、相手の心の声がはっきりと聞こえた。
何かを叫びながら、ヒュブリスは腕を再生する。俺は幽体離脱したような、何処か他人ごとになった感覚で、武器を構える。
そうか、俺は怖がっていたのか。過去の記憶の扉に手をかけていることを。
「怖い、と思う」
「ヒュブリスが?」
「違う。俺が怖いのはあいつが俺に思い出させようとする過去」
そう、だから本当の敵は自分の内側にいるのかもしれない。そのせいだろうか、一実の声がもっと聞きたくなった。
「そっか、前のことはいくらでも変えられるけど、後ろにあるものは変えられないから、怖いよね」
一実は俺の心に優しく寄り添ってくれる。リンクのおかげで、彼女の心が俺の心を感覚的に温めてくれている。
そう、自分というものがどんなものなのか想像もつかない、それがとても怖い。それに、俺の過去には喪失がある、そんな予感がある。記憶を取り戻した時、俺はきっと大きなものを得て、同時にそれを失うだろう。その衝撃に耐える自信がない。ここは戦場で、心のバランスを崩してしまえば、一実を守れない。というかもう、そうなりかけている。
「ノクス、私はノクスを助けたい、ノクスが辛いなら私が支えてあげたい。初めて会ったその日に、ノクスがそうしてくれたように」
俺はあの日の彼女の泣き顔を思い出す。あの日の彼女は人生を掛けた夢を失いかけていた。そんな彼女に対して俺が、出来たことはただ話を聞いて、背中をさすってやることだけだった。
「ノクスがいてくれたから、あの日、今までのことが無駄じゃないって思えた。それが今につながってる」
そうだ、たとえ深い絶望に包まれようと、寄り添ってくれる誰かがいれば、人間は前へ進める。俺が人と同じ心を持っているのなら、きっと同じなはずだ。今の俺には一実がいる。
「だから……」
「前に進むぜ。ありがとな、一実」
悲しみが怖い、けど目をそむけたくはない。挙句にその記憶の鍵は目の前の敵だ。行くも地獄、戻るも地獄ならば目の前を見据えて、進もうだって俺には一実がいてくれる。たとえこの道の先に悲しみがあるとしても後悔しない。恐れを抱えながらそれでも進む。そういう感情を“勇気”と呼ぶのだろう。
“グゥン!”
「何っ?」
乖離していた心と体が、そして二つの意志が再び一つになる。それと同時にエクステンション・サーキットの吐き出す魔力が爆増する。
恐怖を感じたのだろうか、ヒュブリスは斧槍を杖のように振って、周囲に複数の魔法陣を展開する。
「格の差を思い知れぇ!」
太い魔力の光線を、俺たちを囲むように乱射してくる。威力は大きいがよく見える。今の俺たちなら、その網をかいくぐって接近できる。
「でぇええい!」
「でぇええい!」
二人で息を合わせて、ヘイロー・システムで飛び蹴りを入れる。単純な斬撃だとすぐに再生してしまいそうだ。俺たちは打撃主体に切り替えてみる。
“ドォオオオン!!”
胸部の装甲に確実に刺し込んだ。凹む金属の感触が足にしっかりと伝わってくる。蹴りは体格の太さの関係でインテグレーション・ボディの2倍の質量がありそうなその大きな体を、吹き飛ばす。相手は数十m先にあるビルにめり込むことになる。
ダメージはありそうだ。しかし相手のエネルギー量的に生半可な攻撃ではすぐに再生されてしまいそうだ。
「共鳴の力か……しかし……ノクストス、勇者と魔法少女のつながりはそんな風に乗り換えられるものなのか?……リヴァリエが悲しむんじゃないのか?」
ビルから立ち上がろうとしながら、ヒュブリスは誰かの名前を言ってくる。
「やはり、いたんだな……3000年前、俺が契約していた魔法少女が……」
「……!?」
俺に関する情報は明かさないんじゃなかったのか?追い詰められて俺に揺さぶりをかけているんだろうが、その事実そのものは驚くことでもない。魔法少女と勇者の歴史、俺の戦闘経験、そして記憶の中にいる“誰か”。そのあたりをまとめて考えると一実と契約する以前に絆を紡いだ誰かがいたんだろう。
「そうだ!昔のお前もそいつと絆だの愛だのとのたまっていた。それが今、その女に乗り換えている。またそうなる魔法少女のつながりなど、そんなものだ!」
奴の言葉は俺に響かない。さすがに一実からすれば、思うところもあるかも知れない。でも、俺には一実に会ってからの自分に嘘も負い目もない。だから、俺たちをつなぐものを信じる。全てを思い出す、その時まで。
「私がその繋がりとやらをずたずたに引き裂いて、その無様な姿をお前の仲間たちに晒してやる!」
ヒュブリスから根のような管がその周囲に張り巡らされる。そして周囲の人工物を取り込んで、己が一部に取り込む。そして増えた体積を何本もの触手に変換し、俺たちを囲むように伸ばされていく。閉ざされた空間で、面と手数で攻める気か、厄介ではあるが……。
「行こう……!二人なら負けない!」
そう、心を一つにした俺たちなら負けない!
俺たちは、伸ばされる触手から放たれる無数の斬撃の嵐へ飛び込んでいく。
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