EP57 夜の守護者
出撃シークエンスで一話使ってしまいました。
Side:碧乃
時系列は少し巻き戻る。
22:30 太平洋上、OIDO特殊輸送機
前回の無理な戦闘で、私たちのインテグレーション・ボディは大規模な整備が必要になったため、アメリカに渡って、その整備と調整に立ち会っていた。
しかし日本時間で22時ごろに始まった東京での戦いに参戦するため、私とノクスはインテグレーション・ボディと共に太平洋上を飛んでいた。
緊急事態のため以前のように、移動しながら作業が続けられている。私とノクスは周りの人と同じような作業着姿でそれを見ていた。
20m台の人型をパーツ分解することもなく運べるほど大きな輸送機の貨物ブロックの中で、整備班の人たちがせわしなく動き続けている。初めて見た時もその大きさに驚かされたが、中の空間の広さもすごい。こんな大きさのものが並の軍用機よりずっと早く飛べるなんて信じられないほどだ
「あの!作業の進捗はどうですか?」
邪魔になると分かっていても気になってしまった私は近くにいた人にあとどのくらいで作業が終わるかを聞いてみる。日本人のスタッフが一緒に来てくれていて、よかった。一応養成学校では困らないように英語教育に力を入れてあるが、私は碌に身につけられていない。
「みんな頑張ってますからね、あと30分ほどで必要な作業は終わりそうです」
「30分ですか……」
インテグレーション・ボディが起動できるようになってからも移動に2時間はかかる。隊長たちが負けるとは思わないが、相手は確実に本腰を入れてきている。一刻も早く日本に戻りたい。そして、これは勘であるがあの黒い少女も出てくる。そんな予感がある。私に関係があるのかどうかは分からないが、ノクスとは確実に面識があるはずだ。魔法少女の使命とは別に、ノクスのために何としても接触したい。
私は貨物ブロックの天井から吊り下げられるように固定されているインテグレーション・ボディを眺める。以前の形態から追加武装を仕込んだアーマーを更に着せられ二振りの刀を携えている。
「技師さん……ご相談があります」
私には移動時間を短縮するためのアイディアがあった。多少危険で無理かもしれないが、前回の艦隊のような悲劇を2度と起こすわけには行けない。そのためにできることをやるのだ。
※
「危険です」
私のアイディアを聞いた。技師の人は反対のようだ。
「インテグレーション・ボディについている推進システムは戦闘用で間違っても巡航用ではありません……短時間なら確かにこの輸送機よりも速度を出せますが東京まではとても……」
インテグレーション・ボディには、その巨体を飛ばすことが出来るほどの大出力の推進装置が搭載されている。輸送機から降りて、それを使って飛んでいこうというのが私の考えだ。私の計算をあてにしていいかは分からないが、1時間ほど早く到着できるかもしれない。
「それについては問題ないです。私の固有魔法を使います。最悪ちょっと押してもらう程度の出力が出れば問題ないです」
「あなたの魔法は確か重力の……確かにそれなら可能かもしれませんが」
重力という枷がある空を飛ぶことは難しいことだ。でもその枷を味方につけられる私には科学と魔法の結晶である推進機も、速度の足しになる要素にしか過ぎない。よっぽどのことがなければいけるはずだ。
「分かりました……神名技師に連絡を取って相談を……」
『緊急連絡!OIDO日本支部が鋼魔と思われる敵性存在の襲撃を受けた模様!通信途絶!』
「え……!?」
ゆっくり確認を取る余裕はないと告げるようなアナウンスが貨物ブロックに響いた。
※
もはや一刻の猶予もないと分かった技師の人たちや、この輸送機の機長は私の提案を呑んでくれた。
『マーシー、2号機の魔法補正デバイスに最適な重力ベクトルの情報を送りました。それに合わせて調節してください』
「分かりましたありがとうございます」
私とノクスは変身して、共にインテグレーション・ボディに乗り込んで技師の人からの通信を受けていた。インテグレーション・ボディはうつぶせの状態だが、私はコクピットの床に垂直に立てている
『まったく、とんでもないことを考えるな』
リンクを介してノクストスが話しかけてくる。
「もうあんな悲しい思いはしたくないし、誰にもさせたくない。そのためにできることは全部やりたいんだ」
私は、無茶なことをでもやりたいと思う理由を言った。
きっと私は勇気があるというより、臆病なだけだ。合同葬儀の時に感じた悲しみと責任それを正面から受け止められるほど私は強くない。民間人だろうが軍人だろうが、出来れば一人の死者も出て欲しくない。
『理不尽に誰かが殺されるのは、やっぱり許せないからな。俺もどこまでも付き合うぜ』
「うん、ありがとう」
ノクストスは私の心に寄り添う言葉を言ってくれる。自惚れかもしれないが彼がいればきっとうまくいく。そんな予感がある。
『マーシー、外部からの最終チェック、完了しました。あとはあなたのタイミングで投下シークエンスに入ります』
「了解です。ノクストス、エクステンション・サーキットに魔力を流して。始めるよ」
『分かった』
技師さんからの報告を受けて、私とノクストスはインテグレーション・ボディに火を入れる。ゴゴゴゴッとコクピットブロックに震動が響く。
私はこの一か月で頭の中に詰め込んだ。チェックの手順を実行する。
『マーシー、こっちは問題なしだ』
「うん、私の方も問題ないみたい」
私達は両者の視点から機体をチェックして出撃に備える。
「機長、こちらは準備完了です。投下をお願いします」
「了解。乗員の貨物ブロックからの移動を確認しました。ハッチ、開きます」
機長の報告に合わせて、インテグレーション・ボディの視界と感覚を私の脳を繋げる。巨人の感じる世界が私の世界になる。
“ウィーン……ゴゴゴ……”
うつ伏せ状態で吊り下げられている。私たちの足元で、ハッチが開き風を感じる。
「ふー……」
私は一世一代のスカイダイビングに少し怖くなって深呼吸をする。
『大丈夫、何があっても俺がマーシーを守るから』
「うん」
そう、私のそばには勇者がいる。
『それではご武運を……投下!』
“ビーッ!”
通知音と共に青い信号灯が光り背中のハンガーが動き、巨人はすべるように、空中投げ出される。ここは標高9000mの高高度、月の光を受けて雲の層が下の方に見える。
「ヘイロー・システム起動!」
私は雲へ突っ込む前に、背中に取り付けられたエンジンを起動する。ヘイロー・システムと名づけられたそれはアルニギアスのテラ・ドミネイターと同じようにサーキットを加速装置として流用し、そこでプラズマ化させた魔法粒子を背部から放出、その反作用で空を飛ぶ推進システムである。推進剤や燃料がいらず、魔力の続く限り飛ぶことが出来る。加速器を兼ねる光輪が出現するのもドミネイターと同じであり、それでヘイロー・システムという名前になっている。
『想定出力突破、行けそうだ』
システムは問題なく稼働しているようだ。あとは私の魔法だ。
“バコンッ♪”
巨人の右手にハンマーを出現させ、胸を叩く。行使する魔法の効果は2つ。通常の重力の作用を遮断すること。そしてもう一つは横方向の重力を発生させること。私は事前に伝えられたベクトルと強さに重力を調節する。
私とノクストスは、横方向にダイビングするような体勢になって夜の空を進んでいく。東京に向かって。期待通りの速度が出ていて、頭上の輸送機はすぐにはるか後方に消えていく。
「みんな、今行くよ!」
四肢で風を切りながら私たちは飛ぶ。視界はほとんど闇であり、目的地など見えはしないが不安はない。私には夜の守護者が付いている。この闇こそが私の領域だ。
どうか、誰か感想をください。




