EP56 奈落へ往く翼
やっと主役が来ました。
Side:前園
「ねえ、管制室が回してくれた人たちより大分早かったよね。どうして私が狙われてるってわかったの?」
私は秘密裏に設けられた地下鉄で予備の施設へ向かっている。みんなは各々持ち出した機材の確認や窮地から脱したので休憩していたり、各々思い思いの時間を過ごしている。
途中、気になっていたことを聞いてみる。もしかして、私が個人的に心配だったりしたのだろうか?
「相手の目的を推測しただけだ。確証があったわけじゃない。もしものことを考えて予防的に動いただけだ」
この男は管制室から指示が飛ぶ前から、動いていてくれた。
「まず、奴の標的の最有力候補は面識があると考えられるノクストスだ。しかし、彼らは離れたところにいる。空輸で派手に運んだからな、あいつらがここにいないと相手側にもわかったことだろう。にもかかわらず相手はまっすぐにここに来た……そうなると他のものが目的ってことになる」
彼は自分がどんな分析をしたのかを教えてくれる。
「じゃあ、ここにしかないものは何だって考えた。ここは他と比べれば大規模だが支部は支部だ。設備の重要度で言ったらそれこそ、ノクストスのいるアメリカの本部の方が重要だそこでピンときた。ここにしかない最も貴重なものはあんただとな」
「ふ~ん……」
だいたい話が見えてきた。自慢じゃないが私がいるおかげでこの国の対鋼魔戦力はずいぶん充実していると思う。魔法少女養成学校は周辺国からの留学を受けつけ、フォルテたちの同期生は祖国に戻って魔法少女として活躍している。それでだいぶ戦力が増えたがイレギュラーが混ざるとはいえ、日本の5組体制はずいぶんと充実している方だ。そうなれたのは私がここにいて星原翼という最有力の素体を早期に確保できた故である。
「あなたこそ、魔法分野ではかなり貴重な人材よ。よくあの土壇場で転送させられたわね」
神名は自分を買ってくれているようだがこの男自身もそうだ。優れた魔法知識と魔法を行使する技術。さらにはそれを科学技術と融合するための知見まで併せ持っている。この間のインテグレーション・ボディの突貫調整の手際の良さに戦慄すら覚えた。
「ああ、少し無理な手を使ったからな。普段なら俺もできない」
「無理?あなた何やったの?」
他ならぬ魔法少女と勇者の宿敵と言える存在を一介の魔法使いが転送とはいえあんなにあっさりと排除できるものだろうか?
「秘石の使い方は魔法少女と勇者を生み出すことだけじゃない。魔法少女が誕生する以前から魔法使いは秘石を使って自らの魔力と魔法を強化して鋼魔に対抗したと伝わっている。今回はそんな先人に倣った」
「じゃあ、今あなた秘石持ってるの?」
確かにこの施設にはわずかながら秘石のストックがある。それをわざわざ持ってきたのどうか?
「今はもうない。秘石は砕くと一度だけ魔法を大幅に強化できる。砕いた欠片を触媒に流用して、それを投げて魔法陣にして敵を飛ばした」
「ええっ!?それ大丈夫なの?」
秘石は貴重だ。そもそも妖精界での採掘量がわずかなうえに、その一部を人間界に分けててもらい、さらにそれを主要国で分配している。文字通り欠片も無駄にはできない。
「俺のラボにある実験用のサンプルを持ち出したんだが、これだと始末書じゃすまないだろうな」
「わたしのためにごめんなさい……」
「あんたが謝る必要はない。そもそも、たかが石ころ、命より重いものじゃない」
そうだこの男と私は違う。私はこの仕事をするうえで、もちろん正義の味方的な使命感を持っている部分もあるが、やはりベースにあるのは研究者としての好奇心、最高の技術で意思を持つロボットが作れるというロマンへの個人的欲求がある。
そんな自分が間違っているとは思っていない。むしろ自分の欲求に従っているからこそ、対外的な理想も実現できるのだと思っている。しかし、この男のスタンスは違う。徹底的に自分の知見や研究を手段として扱っている。だから、この男は鋼魔の撃退や人道に反することの場合何十年も研究していたことでも躊躇なく破棄するだろう。それでいて、まるでそれが生まれてきた目的のような極め方で研究と技術の研鑽を進めている。
そんな徹底的な滅私奉公を何故実践できるのだろうか?研究者、技術者という同じ土俵にいるからこそ、武器にも感じてしまう。
“ドーーンッ!!!”
上から轟音が聞こえ、列車が揺れる。止まる必要はないようだが地上ではまだ激しい戦いが続いていることが分かる。
「敵はそう簡単に倒されてはもらえないようだな」
神名君のその言葉を聞いて私も、目的地に着いた時のために自分のノートパソコンを開いて準備をした。
※
Side:フルーデ 23:30
「なになになに!?」
私は用意していた結界の中に現れたものに驚かされていた。
私は支部施設から少し離れたところでCパーツのバリアを応用した拘束用の結界を用意していた。デヴァリオンは後方で術式と魔力を強化してくれている。
事前の打ち合わせ通りその中に黒い少女の胸像が出現した。しかしなんとも珍妙な姿だ。何か階層構造の円柱の上から頭の中で想像していた黒いドレスの少女の肩から上あたりが生えているのだ。
「秘石を触媒にした転送魔法か古い手を使うものだ……」
少女にとっても予想できなかった出来事らしく少女は顔をしかめて言った。
しかし、問題はない。予定通り敵性存在を拘束できたのだ。あとは本命の攻撃が届くまでここに相手をとどめ続けるだけでいい。
「フルーデ、今行きます」
ちょうど現れた輸送機から飛び降りるイケートが敵に決定的な一撃を与えんとレイピアを構える。今のバリアは内側からの攻撃は通さず、外からの攻撃は通るように調節してある。
「あの攻撃を食らうわけにはいかないな……はぁーーー!」
黒い少女は、力む声を上げると黒い稲妻状のエネルギーを全身から発する。そのエネルギーは彼女に纏わりつく円柱は粉みじんになり、そのエネルギーは内側から結界のバリアを圧迫する。
「まずい……イケートごめんなさい!私じゃもたせられない!」
行使している魔法からのフィードバックで、バリアが破られてしまうことが分かる。
“バッシュ!!”
「ぐぅっ!」
黒い衝撃波が周囲に走り、バリア・ユニットを破壊しながら結界を破る。その余波で上か迫っていたイケートまで吹き飛ばされてしまう。
「イケートッ!」
体勢を崩して飛んでいく、彼女を駆け付けたレオリオスが空中で優しく受け止める。
「大丈夫?」
「ええ……私は大丈夫です。問題は……」
どうやら今のところ彼女にけがはないようなので、問題の元凶に意識を集中する。
「フルーデ、一端距離を取ろう……今のでバリア・ユニットの7割がやられた。接近戦は危険だ」
後ろにいたデヴァリオンが私を庇うように前に出て、交代を促してくる。絶対に逃がすまいと数を割いたことが仇になってしまった。私の力不足が悔しい。
「せっかく、分散させた戦力が集まってしまっているな……忌々しいことだ……ここからは力押しと行こう」
夜空を背にして空中に浮いていた。黒い少女は禍々しい紫のオーラを纏っている。それは強大な魔力を孕んでいる、一体どんな攻撃が来るのか。私とデヴァリオンだけではとても対抗できそうにない。
“ドガンッ!”
地を揺らす轟音があたりに響く。何事かと目を向けると地面に穴をあけて地下からフォルテが飛び出してきていた。緊急事態とはいえ、強引が過ぎると思ってしまった。
「ちっ、拘束を抜けやがったか!フルーデ、いったん後ろに下がって相手を解析しろ!」
彼女は穴から出て一番に敵の様子を見て、デヴァリオンを同じことを言ってきた。
「ごめんなさい、せっかく捕まえたのに……」
「謝らなくていい。こちらもまんまと騙されてしまった。それだけやっかいな相手ということだ」
自責の念に駆られた私を遅れて穴から出てきたアーシュケリアがフォローしてくれる。
「あいつの言う通りだ。早くさがって倒す方法を探そう」
「うん」
デヴァリオンの言う通り次の手を打たなければ。私は彼に捕まって彼に抱えられて離れた位置の無人の建物の屋上に後退する。
「隊長たちは……」
ふと気になって空中で、ドレッドラとの戦いの状況に目を向ける。
“ゴーッゴーッ!!”
かなり距離が離れているはずだが、空気の動く轟音が聞こえてくる。魔力のエネルギーを纏った巨大な竜巻がその巨体を包んでその全身に傷を刻んでいる。メメルク・カーリナが来てくれたという話だったが、あちらは優勢のようだ。わがままを言えば隊長の力を借りたかったが、流石にそこまでの余裕はなさそうだ。
「来たれ我が半身、クレプサー!」
そんな敵の声と共にそのオーラの勢いが高まり、それは彼女の背後の空間すらゆがめだす。
「次元震動!?何かが転移してくる!」
生き残っていた観測ユニットから情報が私に流れてくる。次元震動は空間転移の前兆だ。さっきの転移でも起こったが、今度のはもっと大規模で、震源と言える次元座標がズレている。それが示す事実は、何かヤバいものが得体のしれない場所からやってくるということだ。
やがて空に切れ込みが入り、巨大な人型が現われる。巨大な腕が空の穴をこじ開けて、上半身をこちら側に晒す。穴の向こうには形容しがたいゆがみが満たしている空間のように見えた。
「ノクストス……?」
目測だがそれは20m台のデカい人型だった。そういう意味では、私達が待っているノクストスとマーシーのインテグレーション・ボディと同じであるが、それ以前に等身大のノクストスに雰囲気が似ている。色こそ赤さびのようで違うが、甲冑のようなシルエット、と細かいディテール。どこかだぶるところがある。まるで製造元が同じロボットのような……。
「我が切り札を持ってお前たちを塵にしてやる」
巨人が、全身をこちらの世界に移すと黒い少女はその胸部に沁み込んでいく。乗り込んだ、ということだろうか?
やがて黒い少女の魔力が、巨人の全身に回る。紫の燐光が巨人を包み、甲冑部分に双眼のような2つの光が見える。
“ゴーッゴーッ!!”
その右腕に巨人の規模の斧槍の様なモノが出現し、掲げられる。その刃の部分に巨大な魔力が蓄積する。
「みんな防御態勢!私のシールドの後ろに!」
危険な一撃が来る。少し離れたところにいる私も、無事では済まないような。そう直感した私は叫んで、なけなしのシールドユニットでみんなを守ろうとする。
「無駄だ!次元が違う!」
黒い少女の楽しそうな声が聞こえる。そうかもしれないと私は思う。でも、もうこうするしか私には選択肢がない。怖いけれど逃げても結果は変わらない。そう自分を誤魔化すことにして、気張る。
「死ねぇ!!」
その斧槍が振り下ろされるとともに、魔力の斬撃が飛んでくると思ったが、代わりに聞こえてきたのは大きく鈍い金属音だった。
“ガァーン!!!”
震える瞼を何とか開き、状況を見極めようとする。そこにはタックルの後のような体勢で、後光を背にした黒い巨人がいた。ノクストスだ。
“ドーーンッ!!”
一拍遅れて吹き飛ばされた敵が地面に叩きつけられる。音と衝撃が聞こえる。ちょうど建物のないところに吹き飛ばされたようだ。
「貴様……!」
怒りの声を出しながら赤錆色の巨人は自分の背を地につけさせた。敵を見据えた。
ノクストスの黒い巨影は、夜の闇に解けながらも、そこにいると分かる存在感を放っていた。
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