EP52 風が吹くまで 後編
Side:星原
「ギア……ァァ!」
しかしあの時のノクストスとは違い、メリュドラは命をつなぐことはできなかった。核を残して、消滅する。ドミネイターを完全に相殺することもできないようで、光線はドレッドラの頭部に命中した。
“バシュッ!ギュィーンッ!!”
想定とは違い、発射前に頭部を破壊することはできなかったが、射角を変えることには成功する。体勢を崩して倒れ込むドレッドラからレールガンは発射される。ソニックブームで周囲のビルの窓を割りながら、超音速の弾丸は戦車隊の脇をすり抜け、遠方の地面に突き刺さった。
“ゴォォォォォ!”
「キャァァァァ!」
「ぐわぁぁぁ!」
「くっ……シンセリー!」
大地が割れるような衝撃と揺れが私を吹き飛ばそうとした時、アルニギアスが私を包むように抱きしめて共に踏ん張ってくれる。
衝撃が収まった時、2台の戦車が衝撃をうけて横転、ひどい1台は完全にひっくり返っていた。高架下に落ちなかっただけ幸いというべきか。
「グッ……各員現状報告……!」
なんとか横転もせずにすんでいた指揮車の隊長さんが指示を飛ばす。
「1号車、乗員に負傷者が出ています。戦闘継続は不能のようです」
そんな報告がすべての車両から聞こえてくる。
「撤退してください!アルギニアスは脱出を手伝ってあげて!」
「分かった!」
『悔しいが致し方ない、総員脱出!この車両で戦闘区域を脱出する』
ひっくり返っているのは大丈夫なのかと思ったが、どうやら下の方にもハッチがあるようでなんとかなりそうだ。でも時間をかける理由もない、アルギニアスはその力で隊員さんたちを引っ張り出していく。
私のすべきことは全員が離脱するまであいつを見張ることだ。私は発射と同時に倒れ込んだドレッドラを見据える。そして思い出す。奴の近くに何があるのかを。
まずい……!今すぐゼロ化しないと大変なことになる。そんな焦りが背筋を駆け抜けた。
「アルギニアス!私、核を回収してく……!?」
私は一人核の回収に向かおうとするが時はすでに遅かった。弱まっていったドレッドラの魔力が急速に回復していくのを感じる。土煙でよく見えないが、メリュドラの核を吸収しているのだろう。
煙を突き破るようにドレッドラが巨体を持ち上げる。まずい、砲塔も回復している。完全に彼らが無防備な状態で狙われたりしたら……。
災厄の未来を想像してしまい、私はがむしゃらにあらん限りの魔力を込めて弓を引く。しかしミサイルならともかく、砲撃の方は迎撃しきれない。
“グググッ……!”
敵は容赦なく両腕の砲口をこちらに向けてくる。私の緊張と恐怖が最高潮に達した時……。
“ゴーッ!ゴーッ!”
先ほどの衝撃波に負けない轟音を立てながら、魔力を孕んだ暴風が目の前に吹き荒れる。それは空気の圧力とは思えないほどの力で、ドレッドラの体勢を再び崩させる。
私は、この力の持ち主を知っている!
さらに周りの炎に照らされて、黒い大きな影がドレッドラに突撃していくのも見える。それはフォルテがそうした時と同じように、巨大なパワーで、奴を殴り飛ばして後方へと吹き飛ばしてしまう。
「全く……4人も増えたって聞くからそのうち一人ぐらい借りられるかなって思ってたけど、まさか先に私の方が呼び出されるなんてね……」
その鈴の音を鳴らすようなきれいな声も、私は知っている。
「メメルク!来てくれたんだ!」
私が振り向くと、そこには頼もしい友達の姿があった。インドネシアを拠点に東南アジアを守る。風を操る魔法少女、大愛旋抱メメルク・カーリナが助けに来てくれたのだ。深海のような深い青のドレスを纏い、同じ色の髪をした彼女が、慈母のような微笑みでこちらを安心させてくれる。
「ふん……」
一拍遅れて、彼女の傍らに岩のような黒い影が現われる。彼こそが先ほどドレッドラをぶっ飛ばした張本人。メメルクの勇者ロイド、濤克勇者カムドランだ。広範囲エネルギー攻撃が得意なメメルクに合わせて、それとは真逆のフォルテのような物理的パワーによる攻撃に特化した調整がされている戦士だ。黒っぽい装甲と岩のように肥大化した巨躯はやはり威圧感がある。
二人とも担当地域が近いことにより、救援に向かったり来てもらったり、幾度も肩を並べて戦った盟友だ。
「私のところにも、鋼魔が出たんだけどね……どうも日本支部を孤立させたいっぽかったから、ちゃっちゃと片付けて助けに来ちゃった」
彼女は朗らかに余裕たっぷりな様子で言ってくれる。彼女は人呼んで神速の魔法少女。まだ日本ほどの人口密度はないため、頻度は低いものの、発展著しい東南アジアの国々では広範囲で鋼魔獣が出現する状況にある。そんな地域で彼女はいつも風のように海原を駆け抜け迅速に鋼魔獣を排除する。
二人は危機に誰よりも速く駆け付ける、そんな頼もしいヒーローなのだ。そして今回も自分の担当地域に出現した鋼魔を排除してきて、助けに来てくれた。こんな状況でなければハグしている。
「そこの兵士の人たち、ここは私たちが引き受けます。遮断フィールドの範囲に気を付けて撤退してください」
「君は、インドネシアの……あの国が救援をよこしてくれたのか。面目ないことだがお任せする。街と市民をどうか守ってください!」
「ええ、その願い、しっかりと承ったわ」
指揮車から降りていた先川さんはメメルクの返答を聞き、こちらに敬礼してくれる。そして負傷兵を収容した車両と共にその場を去っていった。
「カムドラン、よく来てくれたな!マジで助かったぜ!」
アルギニアスがカムドランに駆け寄って、その胸部装甲を拳で軽くたたく。彼はそれに静かに頷いて答えた。相変わらず彼は無口なようだ。
「メメルク、本当に来てくれてありがとう!さっきはもうダメかと思った」
「そういうことは、奴をどうにかしてから言うものよ」
二人が来てくれたことが本当に嬉しくて、つい気を緩めてしまった私を彼女がステッキを構えながら諫めてくれる。
そうだ、仲間が来てくれたのだから早くこのふざけた戦いを終わらせなくては。私がそんな風に決意を新たにした時だった。
インカムから日本支部施設に鋼魔人が侵入したという情報が聞こえてきたのは。
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