EP46 令嬢の牙 前編
第一部最終節のプロローグ的な回です。
Side:陣屋
「大阪に鋼魔獣1、名古屋に1、東京に3!どれもエネルギー反応が大きいです!強力な個体だと考えられます!」
ドレッドラとのプラネスフィアの戦闘からちょうど一月になる日の夜。時刻は22時、OIDO日本支部の管制室に、これまでにない緊張感が走る。モニターの地図に映る赤い点を俺は、食い入るように睨む。おそらく、大阪と名古屋の個体はこちらの戦力を分散させるための囮だ。そして本命であろう東京の3体の目的地はおそらくここだろう。
「おい!アメリカにいる碧乃とノクスは何時間で来られる?もちろん、デカい方は必ず持ってこさせたうえでの時間だ」
「は、調整作業はほぼ完了しているため、積み込みの時間を含めて3時間ほどで日本に届けられるとのことです」
管制官の一人が俺の質問に答える。よりによってインテグレーション・ボディがアメリカで最終調整を受けてるときに攻撃が起こるとは間が悪い。いや、相手も知っていたのか?5体同時の出現、それに戦力を分散させる配置、敵は決めに来ていると考えていいだろう。
近くに迫っている3体に動かせる4組全員の戦力を充てたいが、民間人を放置するわけにはいかない。犠牲を許容するにしても、めちゃくちゃ強い鋼魔が2体完成するだけだ。危険でも戦力を分散させるしかない。
「望遠映像きます!……これは!?」
モニターに東京の3体の中でも一番強力であろう個体の姿が映る。
「ドレッドラか!?」
画面に映ったシルエットは1月前に大きな傷を残した因縁の相手の姿そのものだった。その砲塔は確かに存在するが、以前の個体よりもずいぶん小さい。何らかの形で再現されたということだろうか。
「プラネスフィアに命令だ。大阪に蕨野ペアを、名古屋に鳳条ペアを向かわせろ。星原ペアは東京の3体の足止め、篠宮ペアは支部の周囲を警戒しつつ、星原たちの後方支援だ!」
手もちの戦力の中でも決定力の高いペアを遠隔地に向かわせるのがいい。俺の指示を管制官たちがそれぞれの隊員に伝える。そして隊員たちが出撃準備に入ったであろうタイミングで、管制室に勢いよく一人の女が入ってきた。
「おい、陣屋!いくら星原たちでも3体相手はきつすぎる!海外からの援軍を待って、それから戦わせてもいいだろ!?」
やはり教え子は可愛いのだろう。ミサト・ローゼリンデは俺の首根っこを掴んで脅迫じみた提案をしてくる。軍服じみた教官服を着ていることもあって大人もビビるような迫力だった。
「今放置したら、それこそ倒せない敵に成長するだけだ。深入りはさせず、時間稼ぎだけさせるようにする」
「しかし……」
ミサトは納得していない様子だ。人命救助に熱心な星原を案じているのだろう、人命が危機にさらされているなら制止も聞かずきっと突っ込んでいく。いくら最強の魔法少女と言えど、戦死の二文字がちらつくのはしょうがないことだ。それでも他に選択肢はない。
「インドネシアにも救援要請を出す。自衛隊にも魔動ミサイルでの支援を要請するつもりだ。碧乃が到着するまで、彼女に持ってもらうしかないんだ」
「……畜生、あたしらはいつも後ろで見てるしかできないんだ」
そうだなぁ、と俺は内心でミサトのボヤキに共感する。本当は俺たち大人が矢面に立つべきなのになぁ……。
「ミサト、そう気を落とすな。おそらく敵は小型戦力でも攻めてくる。そうなればお前たち魔法使いの出番だ」
ちっこいイナゴでここに攻めてくることが出来るような奴らが、馬鹿正直に正面から攻めてくるだけとは考えにくい。
「白兵戦の準備か?」
「そうだ。ここなら結界が張れる。その上で魔動火器を使えば時間稼ぎぐらいはできる。篠宮の火力はなるべく星原の支援に回したい。だから、頼むぞ……」
「分かった。メンバーを選定して迎撃部隊を編成する。篠宮の手は煩わせないさ」
微力でもやれることをやるそう決意したであろう彼女は、管制室を出て行った。
「陣屋さん!陸自が戦車隊を回してくれるそうです!艦隊の仇を取るために協力したいと……!」
管制官が教えてくれる。
「そうか、リスクはあるが軍事火力に星原の魔力を付与させれば有効な火力にもなる。民間人の避難が完了し次第、回してくれ」
俺は少し息を吐き、心を落ち着ける。大丈夫だ、みんながんばってる。この国の力が集まっている。だから少しだけ持ちこたえてくれ、魔法少女たち……。
※
Side:蕨野 22:30
わたしはレオと共に緊急輸送機の中にいました。最初のターゲットを撃破した後も、戦闘が予想されるため、魔力を節約できるように通常の輸送機で、現場に向かっているのです。現着までの時間がかかるのは歯がゆいですがその遅れは早期の決着で取り戻すしかありません。
「覚悟はいいですか、遊んでいる暇はありません。会敵後“アレ”を使って一気に勝負を決めます」
「うん。覚悟はできてる……!」
薄暗い機内の中、レオの姿はよく見えないが力強い返答が聞こえてくる。きっとそれで十分だ。
『蕨野隊員、降下ポイントが近い。準備はいいか?』
インカムから輸送機パイロットの声が聞こえる。私が今着ているのはダイブスーツ。敵のフィールドに入るわけにはいかないので、その手前で投下してもらうことになる。
「はい、いつでもどうぞ」
『了解、ハッチを開く。グッドラック!』
「ありがとうございます!全力を尽くします!」
パイロットの声援を推進力にして、私とレオは開いていくハッチに走って、地上へ飛び下りる。暴風が全身に当たりバラバラになるような錯覚に陥る。だが臆しはしない。私は魔法少女だ。超人でいなければいけない。私はレオの背中に張り付いて、降下していく。
そして、地面に激突する前に変身する。
「ブローミング・ドライブ!」
空中でレオリオスに秘石を嵌め、私達は変身する。そして、鋼魔の反応がする方へ、レオリオスのスラスターで落ちながら飛んでいく。
そして、大通りに堂々とたたずむ鋼魔獣の前に着地した。
敵の影を前にして、私達は名乗りを上げる。
「愛癒清徹イケート・スコーピー!」
「聖錬勇者レオリオス!」
思えば敵の前で名乗りを上げたのは初めてだ。
「あなたは……!?」
私の遮断フィールドで復旧した街灯に照らされる姿には、見覚えがあった。その大きな複眼のある昆虫のような顔、デストローカストだ。しかし、以前とは違う部分もある。その腕には丸いノコギリのような部位があった。マーシーが初めて戦ったというノコ・イタチとの融合体と言ったところだろうか。
「お前……!」
悍ましい光景にレオが怒りの声を上げる。その鋼魔獣の口元には人体のパーツの一部が咥えられている。敵の周囲にも血の海が広がっている。食事中のようだった。
「ギギィ!」
食事の邪魔をされいら立つような鳴き声が聞こえる。ふざけるな……私は沸き上がる吐き気を怒りに変えて、啖呵を切る。私たちはいつも一歩遅い。それでも私たちはやるべきことをやるのです。
「ここから生きて帰ることができると思わないことです」
「すぐに終わらせてやる」
リンクを通して、私とレオリオスの心が一つになる。敵を倒す、その断固たる意志のもとに。
「レオリオス!ビーストモード!」
「了解!ビースト・モードスタンバイ!」
最新型であるレオリオスに搭載された強化機能。今まで条件が整わず使えなかった。だが、今こそそれを使おう。一瞬で勝負を決めるために。
「グゥ……!」
唸るような声、ワタシの声だ。レオリオスから赤いオーラが立ち上るとともに、焼けつくような怒りが、戦闘衝動が私にも流れ込んでくる。それを押さえつけることはしない。この現実に怒らなければ、品性以前に人間として失格な気がするから。
今は令嬢の仮面を脱ぎ捨てて、この現実に牙をむこう、怒りのままに。
蕨野さんは構想段階でも最初の方に考えたキャラなので思い入れが深くなっている。
活躍にご期待ください。
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