EP45.5 1 前編 星の影
過去編がなかなか進まないので、アメリカ出張を補完する短編を息抜きに3話ほど投稿したいと思います。よろしくお願いいたします。
Side:碧乃
「ええっ!?アメリカですか?」
陣屋さんは私とノクスに、アメリカにあるOIDO本部への出張を命じられた。
「急になんでですか?」
北米には、今4組の魔法少女とそのパートナーがいる。特に戦力的に不足しているという話は聞かない。そんなアメリカに行けとはどういう要件だろうか。
「インテグレーション・ボディの調整にあっちにしかない設備が必要だからな。お前たちも調整に参加してもらう必要がある。出発は3日後だ。準備しとけよ」
そんな、急すぎる。それにノクスは海外のような新しい環境にはなじめないかもしれないし。
「アメリカに行くのか?それは少し興味があるな。映画とか見ても言語だけじゃなくて雰囲気とかも違うんだろ?自分でも行って体感してみたいぜ」
「え……?」
ノクスは乗り気だー!
私はやめてくれよ、という感情を乗せた視線を隣にいた彼に送ってしまう。文化と社会の勉強として様々な映画を観ているが、洋画と邦画の違いとかそのへんも意識してたんだと、関心だ。でも……ノクスの好奇心は、満たしてあげたいが私としては勇んで行きますと言えない事情があった。
「なんだ……行きたくなさそうだな?ひょっとしてお前、英語喋れなかったりするのか?……養成学校で喋れるようにカリキュラムに含まれているはずだが……」
「ぎくっ!」
うわ、陣屋さんの指摘に動揺しすぎて変な声が出てしまった。そう、私は赤点だけは取らないようにテスト前に勉強して、落第を逃れてきたが言葉としてモノにできたわけではないのだ。陣屋さんの言う通り、魔法少女になれたということは喋れるという認識で、あちらの人々は接してくるはずだ。そうなればどんな恥をかいてしまうかも分からない。
「なんだ、図星か?……まあ、この科学の世の中翻訳機の一つぐらい用意できるだろ。最悪隣のやつに……ってお前は無理か……言語をインストールしてすぐ喋れる、みたいなことはないもんな」
陣屋さんの指摘にそれはそうだ、と思うとともに、一つ疑問が浮かぶ。ノクスはどうやって日本語を覚えたのだろう。
「そう言えばお前なんで日本語喋れるんだ?」
陣屋さんも同じような疑問を抱いたらしく、私よりも先にノクスに訊く。あらかじめ覚えていたとして、妖精界の言語のはずだがあっちとは言語はかなり勝手が違い、交流には翻訳魔法が使われる。ノクスがそういうのを使えたとは思えないが……。
「なんとなくだな……」
「なんとなく!?」
ノクスから衝撃の一言が聞こえ、私は驚愕の声を上げてしまう。養成学校に海外から来ていた留学生の同期が日本語難しい!と散々愚痴っていたのを覚えている。気がついてから私と出会うまで朦朧とした意識の中で数日さまよっていたらしいがそんな状況で覚えられるものだろうか。
「周りの話声を聞いたり、落ちてる雑誌を見たり、ホームレスの人に教えてもらったりでいつの間にかマスターしてた」
「へ、へー……お前もそういうとこはマシーンなんだな……」
陣屋さんは呆れたような納得したような声を上げる。
「ああ……そうなんだ……英語に関しても3日あればマスターできると思うぜ」
「……」
言葉が出ない。嫉妬に近い羨ましさが胸を包む。養成学校の地獄のような英語学習の苦しみとノクスは無縁なのだ。ああ……勉強に苦しむ中でフォトグラフィックメモリーみたいな能力に憧れたこともあった。その時のやるせなさが胸の中で再燃する。
「最悪俺が通訳するから一実はドーンと構えてろよ……ん?どうした一実……」
「う、ううん、何でもないよ。よろしくお願いするね」
俯いて黙り込んだ私にノクスが声を掛けてきたので、私は自分の中の悪感情を悟られまいと必死になった。リンクがつながってなくて本当によかった。こんな器の小さなところをノクスに知られたくない。
話が全くできないという最悪の状況だけは避けられたと思って前向きにとらえるしかない。
「なら、大丈夫だな……それと、碧乃にあとで話があるんだが……」
「はい……?」
言い方からして私一人に、する話のようだが一体何だろうか?
※
「ここが、アメリカか……!」
OIDOの用意した巨大輸送機でノクス、そしてインテグレーション・ボディは目的地の空港に着いた時、ノクスは初めてのデートの時のようなワクワクを感じさせる声を上げた。
「ノクスのためなら……私は……」
目的の施設に向かう途中、私は呟いてしまった。
「何か言ったか?」
「ううん……何でもない。ただちょっと緊張しちゃって」
私は薄暗い決意を悟られまいと笑顔を作る。私は最初から思っていた。OIDOにノクスが受け入れないようなら、反乱じみた行動をする決意すらある。その思いは、ノクスとの絆が深まるにつれ強くなっている。
立ちはだかるのが鋼魔だろうと、人間だろうと私はノクスの味方でいる。あの涙を流した孤独な夜に、寄り添ってくれたように。
「安心しろよ。この3日で英語はばっちりだ。俺のそばにいれば一実に不便はさせねえよ」
「うん。ありがとう!ノクスがいてくれて本当によかった」
あの後ネットや参考書を駆使したことで、ノクスは本当に英語をマスターしてしまった。そういう機能的なところは本当に機械なのだな、と改めて思う。(以後の会話には適宜ノクスのサポートが入っています)そんな特別な存在が、私を一番に思ってくれている。その事実に私なりに報いるようにしたい。
その覚悟が備わった私の足がよどみなく前へ進んでいく。
※
目的の施設は地下にある。空港からは、インテグレーション・ボディを光学迷彩と魔法的処理で隠ぺいしてトレーラーで施設まで向かった。私とノクスはダンプカーと見まがうその車に乗って荒野を行った。映画でしか見ないようなどこまでも続く砂と岩の大地、別の世界に来たような不思議な感じを覚えた。数時間を要するドライブだった。変わってないように見える景色が、時が止まっているように錯覚さて、私に大陸の広さを思い知らせた。
到着した施設そのものの見た目は、一般的な軍の基地と同じような感じだ。大事な部分は全部地下に備えられている。20m台の物体を運ぶ超大型の車両が地下へ沈んでいく光景はそれだけで壮観だった。
“カッカッカッ”
そして調整を行うハンガーにインテグレーション・ボディがたどり着いた。その時、それを見上げる私たちのところに、金属の床にヒールの音を響かせて茶褐色の髪の短くまとめた快活そうな女性が近づいてきた。制服の上に白衣を着て前園博士に近い雰囲気を感じる。
「キャー、あなたたちが例の魔法少女と勇者ね!」
そんな彼女は黄色い声を上げながら私とノクスの手を握ってくる。
「活躍は聞いているわ!会えてうれしい!私、マリア・マクレーンよ。今回の作業を主導してるの。よろしくね?」
手をぐわんぐわんと上下させられる。日本ではあまり遭遇したことのない距離の詰め方に私は一瞬困惑しちゃうけど、なんとか踏ん張る。これがアメリカスタイルと楽しむ気でいこう。
「よ、よろしくお願いします。私、碧乃一実、マーシー・リブラです。こっちがパートナーのノクスです」
もちろん、相手も知っているだろうがこういうのは最初が肝心だ。さすがの私も、自己紹介ぐらいはできる(練習した)。
それにしても、この人がマリア博士か。その名前は下調べで見た。なんでも前園博士と双璧を成すロボット工学の権威であるアメリカのママ博士。何でも前園博士をライバル視しているらしいけど……。
「自己紹介も終わったところで、インテグレーション・ボディの調整始めちゃいましょう」
アリアさんは手を叩いて、私たちがここに来た本懐を果たそうとしてくれる。
今回ここで行われる作業は、インテグレーション・ボディの魔力循環の調整だ。私たちと巨人の身体の一体感を高めるため、私たちが実際に搭乗しながら調整する必要があるそうだ。そのために使う魔法的な設備は日本よりも米国の方が充実していることもこちらに来た理由だ。
『ぬぐぐぐ……性能はともかくマリ製は見た目がいいのがむかつく……』
コクピットにいる私のところにマリア博士の苦々しげな声が聞こえる。性能じゃなくて見た目の方が気になるのか。欧米で稼働する勇者の多くはマリア博士製だった。性能面では負けてないという自負があるんだろうか?
勇者は観念上兵器として作られてはいないので、危険にさらされる市民にヒーローが来た!と感じさせられるように、ヒロイックな見た目にデザインされている。一応、開発者以外にも派遣先の文化などが考慮される場合もあるので、国際色豊かでいろいろ面白い。
「えへへ、カッコいいですよね。ノクスをもとにしたプランに、私がめっちゃ口を出しましたから……」
ノクスは元が元なので勝手が違うが、でかい方には私もかなり口を出した。わがままを言って20m大の強化魔法を施したマントを作ってもらっている。スタッフの人は渋い顔をしていたがカッコいいから欲しいよなぁ……と納得してくれた。さすがに優先順位は低いので使うのはだいぶ先になってしまいそうだけど……。
『え、そうなの!?マリがデザインしたわけじゃないのね!それなら気兼ねなくカッコいいって思えるわ!』
顔は見えなくても博士がうれしそうにしていると分かる声が聞こえる。複雑に考えなくてもカッコいいものはカッコいいでいい気もするが、ライバル関係とは難しいものなのだろう。必要な調整は3日間ほどかかるけど、見た目に変化や追加武装とかはない。
こんな大仰な作業が必要になったのは、別人の手足を無理くり縫い付けて動かすような無茶をしたからだ。それも半分吹っ飛んじゃったもんで、今私たちの大きな体は内側からガタガタらしい。
それで今回改めてこの身体を私たちの魔力で馴らす必要がある……らしい。やはり私にはふんわりとしか分からない。それでも作業を通して、関節が滑らかに感じるような改善があるらしい。一見地味だがインテグレーション・ボディはシンクロ率的なのが操縦の肝なのでとても大事なことだ。特に私みたいな処理能力の低い人間には直感で動かせるか、というのは死活問題だ。
※
夕暮れ時、今日の分の調整作業が終わったので、私たちはあてがわれた部屋でのんびりしていた。
「ノクス、自由時間どうする?」
「う~ん、普通の町にも行ってみたいけどふらっと行くには遠いよな~」
私の質問にノクスは唸って悩む。3日間ずっと作業しているわけではないので、それ以外の暇な時間はある程度自由に行動できる。外の方には出ていけるが、中の方は機密があるので、あまりうろつかないようにと言われてしまった。そっちの方はどうでもいいが会ってみたい人はいる。しかし、それこそ気安い立場の人ではないので、難しいだろう。そもそもアメリカのどの辺にいるのかもわからない。
「う~ん、どうしたもんか……」
そうでなくても、遊びに来たわけではないとはいえ、せっかくアメリカに来たのだから、その空気感をもっと味わいたくはある。
“ピピッ……‼”
「なんだろ……?」
インターホンが鳴ったので、部屋にあるドアカメラの映像を出す。
『ミス・ミドリノ、少しいいですか?』
「あ、はい……!?」
画面に映ったのは基地に来た時、最初に格納庫へ案内してくれた女性スタッフの人だ。事務方のスーツっぽい制服がビシッと決まっていて仕事の出来る女な印象だ。そんな人にミスなどと言われたのは初めてでこそばゆい。
『実はあなたとノクスさんに個人的に会いたいと言っている方がいまして。施設内なのですが、ご同行願えますか?』
「私に会いたいって誰がですか?」
『エイミー・カーター……グレース・モノセールといった方が分かりやすいでしょうか……?』
「ぐ、ぐれっ……!?ほ、本当ですか?」
「……?」
思わぬところから、私が会いたかった人の名前を聞くことになった。
「誰?」
キョトンとした顔のノクスが耳打ちしてくる。
「アメリカの有名な魔法少女だよ」
純珀愛芯グレース・モノセール。シンセリー・テルスと同時期に実戦に出た最初期の魔法少女で、最強魔法女議論で先輩の対立候補として名前が上がる超強豪魔法少女だ。そんな人がわざわざ私に会いたいなんてことあるだろうか。
西海岸担当とは聞いていたが、こんな辺境の基地にいたのか……。
「わ、分かりました」
なんにしろ、拒む理由はないどころか願ったりだ。私はノクスの意志を確認するため、彼に目配せする。
「いつか一緒に戦うかもしれないんだろ?一度、顔を合わせておくのもいいだろうな」
そう言って彼は頷いてくれる。
「すぐに行きます……!」
ドアを開け、私とノクスはその人についていく。やがて私たちはエレベーターに乗って下の階へと向かう。秘密基地らしく重要な場所が深いところにあるとかで、そこに応接室があったりするんだろうか?私はそんな勝手な想像を巡らせていた。
「ここですか?」
やがて私は、トレーニングルームらしい場所へ案内された。ちょうど日本支部にあるものと同じような場所だ。
“バチンッ!!”
「え……っ!?」
背中から、大きな衝撃を感じる。スタンガンでも使われたようだ。私は衝撃に耐えられず、前のめりに倒れ込んでしまう。
ノクスの心配する声が、遠くに聞こえた。
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