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EP43 戦士の休日 後編


Side:碧乃


「なぁ、周りの視線が痛い気がするが何かまずいことしちゃった感じか?」


 周りの空気を敏感に感じ取ることが出来るノクスは、周りからの好奇の視線に気づいたみたいだ。私たちはその場から逃げるようにして通路を足早に進む。


「う~ん……、私みたいな子供がこの金額ポンと出すのはふつうないから驚かれたみたい。ノクスは気にしないで……」


「そうか?……というか結構な金額、なんだろ?俺のために使ってもいいのか?」


「そうそれ!私のお金は鋼魔と戦って貰ったお金、つまり半分はそもそもノクスのものなの!ノクスの欲しいものがあれば何でも言ってくれていいんだよ?」


だから貢いでいるわけじゃない。正当な還元だ。


「そうなのか……欲しいものと言われても、すぐには思いつかないんだが……」


ノクスは悩みながらそう言ってくる。あまり自分の願望を言ってくることがなかった彼だ。この返答は想定内。


「大丈夫!ここに来たのも、ノクスが自分のために欲しいものを探すためだから」


私はノクスの手を引いて、入っているテナントを回ることにする。

 そのためにいろんな店の入ったショッピングモールにきた。映画を通して世界の断片を覗き見るのと同じように、ここに集った人の生活の営みの中にノクスの『好き』を見つけて欲しくて。


 音楽、スポーツ、読書、いろんなお店を回ってみる。


「ああ……!これっ!」


そのうち面白いものを見つけた。そこはホビーショップ、色んなアニメや漫画のキャラクターなんかのグッズが置いてある。その中に二人の目を引くものがあった。


「アルスの人形?」


「それもプラモデルってやつだね。パーツで売ってあって、買ってから組み立てるの」


 ノクスの視線の先の棚にはロボットアニメのプラモデルに交じって、各国の勇者ロイドたちのプラモデルが売ってあった。しかも結構な売り場面積が割かれていて、人気商品であることが分かる。そして最も陳列数が多いのがアルスさんだ。この国の勇者であり、見た目もいかにも王道のヒーローなのでそりゃあ、売れるだろというのが私の感想だ。


「そのうちノクスもここに並ぶことになると思うよ」


「……!本当かよ、それ?」


流石のノクスもこれには動揺を隠せないようだ。


「うちの組織は何かと物入りだからね、こういうところでちまちま稼いでいかないといけない、らしいよ……ノクスの変身した姿とってもカッコいいから、きっと大人気になる」


忍者と甲冑が融合したような造形は芸術的ですらある。そしてそのほとんどを覆い隠してしまうマントとフードがまたニクイ。立体化するならマント必須の要望を付けてやろう。


「こっちには隊長さんの人形もある……」


その反対の棚には、対比するように魔法少女グッズが売られている。へぇ~、今はこっちもプラモになってるのか……中途半端にデフォルメされてて微妙だな、やっぱりシンセリーは本物に限るぜ。


「一実もここに並ぶのか?」


「どうだろ?出しても売れないんじゃないかな……?」


私は何というか、みんなと違って花がない。棚の隅にいつまでも残っている未来が見える。


「……んなこと、ないと思うんだがな……」


「そう?信じてみる……」


まぁ、私の勇者サマがそういうならちょっとは人気になると期待してみますか。


「誰かを笑顔にできるなら、こういうのもいいのかもな」


その店を去る前に、ノクスはアルスさんのプラモを買ってもらってホクホク顔の少年を見て、そんなことを言っていた。


 ※


 その後も、いろんな店を回ったが、なかなかピンとくるものは見つからないみたい。しかし諦めかけていた時……。


「あの店……どんな店だ?」


声が掛かりノクスの指さす方へ眼を向けてみるとそこには、針と糸が描いてある看板の手芸店だった。


「あ~、あれは手芸店だね。針仕事?裁縫?布とか糸とかを扱うお店だよ。上手い人はあそこに売ってあるもので一から服を作ったりもできるんじゃないかな?私、不器用だから縁のない世界だと思ってたけど……気になるの?」


「……なんとなくだけど」


「じゃあ行こう!」


「あ、おい……!」


少し想像していなかった分野だけど、ここまでのデートが普通に楽しかったこともあって、テンションの高い私は善は急げとノクスをお店へ引っ張った。

 そのお店では店員さんに紹介してもらい、小物を作るスターターセットと入門書を買わせてもらった。せっかくだから私もやってみようかな、とも思う。多分挫折する。


 ※


「どう、出来そう?」


買った本をぱらぱらと見ながら歩くノクスに私は話しかける。彼は本に集中しているようだが足取りは確かだし前から来る人も避けている。なんというか、すごい。


「ああ、やれそうだ。明日から時間の空いてるときの暇つぶしにしてみる。ありがとうな」


私の声もしっかり聞こえているようで、ノクスは視線をこちらへ向け、答える。


「どういたしまして……ねぇ、もしかして、それも記憶のかけらだったりするの?」


「どうしてわかったんだ?」


「なんとなく……」


彼は本を読むとき、遠い目をしていた。遠い過去を懐かしむようなそんな目。彼がそういう目をするときはいつも決まって過去の手がかりに触れた時だ。


「一実も俺のこと分かってきてくれたってことか?なんかうれしいけど恥ずかしいな」


彼は笑いながらも顔を反らしてそういう。


「したことがある気がしたんだ。針仕事、誰かに教えてもらいながら」


「それって……」


「そう、例の誰かさんだと思う」


例の誰か、曖昧極まる表現だけど、他に言いようもない。ノクスの心に深く影を残す。どこかの誰か。手がかりが増えて嬉しい……はずなのになぜだろう、嫌だなって思ってしまった。


「手掛かりになるといいね……」


私は自分を呑み込んで代わりに絞り出すようにそう言った。


 ※


外も暗くなってきたころ私たちは夕食を食べて帰ることにした。ノクスが味噌というワードを出していたので、モール内にある和食の定食屋を選んだ。

 隅の方の席に二人で座った時、


「あー、最後の最後でやらかした……」


デート終わりのディナーは夜景のきれいなところが定石だろ私!何でイタリアンを昼に消費してんだよ、あそこの店景色見えてたし逆でよかったじゃねーか!


「はぁ~~~」


これまでのデートが存外順調だっただけに、最後の凡ミスはかなり心に来る。私は両手で顔を覆ってうなだれた。


「ど、どうした?」


「せっかくだから、夜景がきれいなところにすればよかったなって」


「夜景なら、家でも見られるだろ。俺としてはこの店の空気感も新鮮でいいぜ」


「そう言ってもらえると、助かります……」


全く、私の勇者はフォローが上手すぎる。

頼んだのは、サバの味噌煮定食、デート終わりに食べるには地味極まるかもだけど、すごくおいしかった。


「ねぇ、今日はありがとう。ノクス」


夕食を食べ終え、店の外に出て帰路につく前に私はノクスに声を掛ける。


「何言ってんだ?俺のために出かけてくれたんだろ?お礼を言うのは俺の方だ」


「そうかもしれないけど、今日たぶん人生で一番充実した日だったと思う。だから、お礼が言いたくって」


「お、おおげさだな~」


ノクスはそう言うけど、好きな人と時間を共有して互いを知りあえた。この時間を充実していると言わずしてなんというのか。私にとっては大げさでも何でもない。


「それなら、俺といることでそう思ってくれたんなら……一実、また……連れて行ってくれるか?俺の知らない世界に……もっとこの世界が分かるように……一実のことが分かるように」


その言葉で胸がいっぱいになった。私はかれの両手を掴んで言った。


「行こう!絶対行こう!一緒に……!」


2回目のデートの約束ができた。私の人生における初のデートは、成功と言っていいのではないだろうか。



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