EP42 戦士の休日 前編
遅くなりました。デート回です。
Side:碧乃
弔いの日からさらに数日、結局現場に出ないままこの日を迎えた。
今日は、訓練もない完全なオフの日だ。現場に出ていないとはいえインテグレーション・ボディ関連や新装備の訓練などで結構切羽詰まっていたので、正直助かったと思っている。
でも、家でゴロゴロも正直魅力的だが、この機会を逃すといつ行けるか分からないので気を張って外出する。
「ごめんな、俺のことで休みなのに働かせて」
外出の準備をするノクスが申し訳なさそうに言ってくる。
「全然気にしないで。外をブラブラするからこそできるリフレッシュもあるし」
私は数少ない余所行き服である淡い青のワンピースを着て、持ち物確認をしつつ答えた。今日の目的はノクスの服を買いに行くこと、これから人間社会で生きていくにあったって最低限、着られる服は揃えておいた方がいい。今は支給品で、場違いにならないギリギリレベルのシャツとズボンしかない。ノクスのカッコよさが台無しだ。アルスさんもそうだったが、着るものを着ればそれだけ輝く。
もちろん他にもいろいろ目的はあるけど一番の目的はそれだ。
「それじゃ、行こっか!」
私は内心ワクワクしていたので、自然と笑みがこぼれた。これはもう、デートってことでいいはずだ。
※
駅を出た先の光景に私たち二人は声を上げた。
「人、いっぱいだね」
「そうだなぁ……こんなの初めてだ」
目的地は若者の街、渋谷。青い空の下いっぱいの人や車が行き来していて、正直圧倒される。私は普通の中学生ではなかったし、そもそも訓練と課題に追われて休日はもっぱら寝ていた。今日も正直ノクスのためでなかったら家で寝ている。
「私もこういうデ……買い物、慣れてないけどリードできるように頑張るから」
「頼りにしてる」
ノクスはニコッと笑ってくれる。彼はデートって概念をどこまで分かっているんだろう。一応、恋愛映画も一緒に見たけどなんとなく聞きづらくて、詳しい感想は聞いていない。
「ついてき……」
「一実」
「ん、何?」
目的の店へ私が先導しようとしたタイミングで、後ろから声が掛かる。
「はぐれないように、手、つないどこうぜ」
振り返ると自然なしぐさで手を差し出すノクスがいた。
「ん……!?」
心臓に悪い……この人そういう意味で言ってるのか?手を繋ぐかつながないか見たいな駆け引きがあるような映画は見ていないと思うが。どっちだ……分からん。
「……うん……そう、だね……」
ともかく、つながない理由はない。私は緊張しながら手を差しだす。ああ、やっぱり恋人繋ぎか……ドキドキする。顔、見れないな。
手をつないで、人ごみと一緒に進んでいく。私がノクスに抱いてる感情、これは恋愛感情と言っていいものなんだろうか。簡単にそうだとは言い切れない。心がつながる私たちはむしろ近すぎるところもあるから、違う気もするんだ。リンクで見えるところが互いの全てではないのだろうけど。
無理に名前をつける必要もないか。私はノクスのことが好きで、もっと彼を知りたいと思っている。そんな望みを軸に持っているなら、きっとうまくいく。
そんなことを考えながら、私はノクスの手を引いて進んでいった。
※
「趣深い感じだな」
渋谷について最初に向かったのは、郷土資料館だ。ここには、この地域の歴史に関する資料の展示が行われている。渋谷の華やかなイメージとは少しずれたマニアックな場所かもしれない。正直に言えば、渋谷の歴史に興味があるわけではない。ここを選んだのは、本命の目的地に近かったからだ。
何でもいいから、これからノクスが生きていく世界に降り積もった時間で何が起こったのか、それに思いを馳せて欲しくて、ここへ連れてきた。
ただ漠然と世界を守ると思っているより、それがどういうものか知った上で、守りたいとノクスに思ってほしい。そんな願望で選んだ場所だった。
中は石器時代から現代まで、この地域の人間の営みについての展示がされてあった。石器を使った狩りの時代、農民が作物を耕した江戸時代、科学技術の発展で変わっていく時代、そして戦争の時代、断片的であったが網羅的に人類の変遷が見て分かるようになっていた。その歴史の栄光も汚いところも全部知って欲しかった。知った上で好きになって欲しかった。
小規模なその施設を一通り見て、私達は外へ出た。
「ごめんね、最初にこんな堅苦しめな所に連れてきちゃって」
普通のデートなら2回目がない感じになりそうだ。
「そんなことない。俺は一実がここに連れてきた理由、なんとなく分かるぜ。これからの俺にとってきっと必要なことだ。胸に刻んでおくことにする。忘れねえようにな」
「へへ……」
ノクスには私の考えはお見通しだったようだ。私は気恥ずかしさで少し笑ってしまった。
「さあ!次の目的地に行こう!」
私はそれを誤魔化すように彼の手を引いて走った。
※
「これまたでかいビルだな……」
次の目的地は、渋谷のとある大型ショッピングモール。ここが本命の場所だった。見上げるばかりのビルがそびえ立っている。
「そうだね……私も気圧されないようにする……行こう!」
私にとってもこんな大きな施設はあまりなじみがない。キラキラした雰囲気になじめるか少し怖いが、ノクスのためにも頑張る。
中に入って最初にやるのは腹ごしらえだ。幸いにも家の下の食堂では色んな料理を食べることが出来ている。そんなノクスにとっても好物を見つけるのも今回の目的の一つ。
どんなものが特に好きかを聞いてみると、
「う~ん、あの細長くて啜って食うやつが好きかな……へえ、麺って言うのか覚えとく……あの汁物とかも好きだな、あの茶色いやつ。へえ、味噌って言うのか」
とのことだった。
麺はともかく……味噌とは渋いな……。
ともかく、お昼は麺ということでパスタを食べることにした。自分が家族と行ったことのあるイタリアンのチェーンより高めなところを選んでみた。
「いただきます」
「いただきます」
私達は席につき習慣になってきたそれをした。選んだのは王道のボロネーゼ。
「なぁ、一実……するする……いたりあって国の名前だったか?……するする……」
「そうだよ、ここからずっと西にある国……」
「そんな……遠くの国の料理が食えるなんてな……」
食事中ノクスが話しかけてくる。その顔は嬉しそうだ。美味しいと感じてくれているのかな?だと嬉しいな。
「そんなことが出来るのは最近になってからだよ。世界のいろんなところに一日で行けるようになったのは……」
「来たのか、流れ着いたのか、来させられたのか分からないが、そうだな……いろんな、ことが、あってこうなってるみたいだからな……いい時代、なのかもな……あいつらがいる以外は……」
「……!」
そうだった、いい時代だと思って欲しかった。けどそんなことできるわけなかった。あいつらがいるんだ。あんなことが起きるんだ。そんな時代を、いい時代なんて呼べるわけがない! そう気づいて、私は手を握り込んだ。
「俺たちなら、いい時代に近づけることが出来る。そうだな?」
「あなたが望んでくれるなら、必ず……」
悪を撃つ勇者が現われるなら、きっと……できる。そして目の前の彼がその勇者だ。
「覚えておく……」
そう言って、彼はパスタを食べ終えた。
想定よりも重苦しい昼食になったがきっとこれでいい。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
食事はいつもそうして終わる。
※
次に行くのはメンズのアパレルショップ、自分では決して行ったことのない種類のお店だ。
私は養成学校時代から、こういう買い物に来たことがほとんどない。実家から送ってもらったもので間に合わせていた。お店がおしゃれだと、周りのお客さんまでオシャレに見えて自分が場違いではないかと思えてくる。ノクスは大丈夫だ。特に着飾らなくても十分オーラがある。
ファストファッションのお店で、済ませようとも考えたけどせっかくカッコいいのだからそれに見合うものを着て欲しいと思ったので少し背伸びをしてみる。
「なんかキラキラしてるな」
「そ、そうだね……」
照明に照らされたきらびやかな商品を見て、ノクスは言う。ノクスはいいのだここでは逆に場違いなくらいに輝いている。問題は私だ。こんな芋女。周りから変にみられていないだろうか?……いや、こんなところで立ちすくんでいるのは馬鹿らしい。鋼魔獣に比べればなんともないことだ。
「ノクスどんな服が欲しいとかある?」
まずは何より彼の希望を聞いてみる。
「ん~……、戦うわけじゃないけど、やっぱり動きやすい重苦しくない感じの服がいいかな……あ~、あと派手な感じの色は苦手かもな……目立つのは落ち着かないというか……」
ノクスは少し考えた後答えてくれる。何でもいいと言われることも想定していたがそのオーダーがあれば探しやすい。
これから夏になる。夏服と年中着れそうなものを一式ずつ。寒色中心で、そんな買い物にしよう。
「すみません!彼に合う服を探しているのですが……」
「はい、どのような服にいたしましょう?」
オシャレな男性店員に彼と私の要望を伝えてみる。幸いというかなんというか、私は女だ。男性のおしゃれは分からないのは自然だ。何を気後れすることなく専門家に聞けばいい。
「ふむ、お兄さんカッコいいですね!これはコーディネートのし甲斐があります!」
「は、はあ……」
テンションを上げている店員さんにノクスは困惑しているが、私は気持ちが分かる。
「どう、だ?」
店員さんのコーディネートした服を着た。ノクスが試着室から出てくる。ノクスは自信がないのか恥ずかしそうにしている。
「いい!すごくかっこいい!」
反射的に声が出た。まずは夏服、暗い紺のリネンシャツに、ベージュのチノパンを履いている。落ち着いた印象で、とてもクールだ。
「し、信じる……」
そして次は通年コーデ……こっちはネイビーシャツとスラックスだ。色は似たような寒色系。夜のような落ち着きを感じる。ノクスはやはりクールが服を着ているような男だ。
「これ、ください!」
私は即決した。
「お値段はこちらになります」
「やっぱりそれなりにしますなー」
細かい小物も合わせた結果、教えてもらった金額は10万に届いた。小学生の時の親との買い物とは比べものにならない。だが怯むことはないのだ。私は今中卒だが立派な労働者だ。しかも、高給取りだ。親への仕送りを差し引いても自由に使える金は潤沢にある。
「全部一括払いで!」
私は財布からクレジットカードを出して笑った。
「え?」
「え?」
瞬間場の空気が凍ったのが分かる。周りからひそひそ声が聞こえる。
あ、これ、もしかして端から見れば、ホストが学生に貢がせてる的な絵面に見えるのでは?
しくったな……。
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