EP41 戦士の黄昏 後編その2
前回の続きなので早めに投稿しました。間に合えば夜も出すかもしれません。
Side:碧乃
「どう、幻滅した?私は人助けのために魔法少女をしてるんじゃない……過去からの現実逃避のために命を張るただの馬鹿」
「そんなことっ!……いえ……今の話、アルスさんは?」
私は反射的に反論しようとした言葉を呑み込んで、先に確認しておきたかったことを聞いた。
「さすがに知ってる……じゃないと持たない……でも、みんなには内緒だよ?ブランドは守れって上に言われてるから」
「分かり、ました……」
何が地雷になるか分からないので、先に聞けて良かった。今の話を私に始めて話したとかだったら、流石に重すぎる。
「なら、なんで私に話してくれたんですか?」
「……あなたが私のなりたかったものかもしれないから、かな」
「私が……?わ、私が戦えてるのは、ノクスが強いからで……」
私自身は、トレーニングの時に気づかれた通り落ちこぼれだ。
「強さの話じゃない……あなたが初めに、立ち上がったから」
「あ……」
以前、アルスさんに教えてもらった、あの時のことで先輩は私を買ってくれていると。だから彼女は私に目をかけてくれるのか。
「私はあなたが羨ましい。あの命の保証もできない状況で立ち向かった。この胸を苦しめ続ける後悔を知ることがないんだから」
ひとしきり話しつくしたのか、彼女はため息をついて月に視線を向ける。先輩の後悔や悲しみは私には測りきれない。それでも言えることはある。
「私があの時立ち上がれたのは、私が強いからでも、特別だからでもありません。先輩がいてくれたからです」
ノクスの存在もあるが、先輩の存在も間違いなく大きい。
「どうして?」
「あの時の私にとって鋼魔は得体のしれない怪物でも、手立てのない脅威でもなかった。先輩がその身でもってその暗闇の中に道があると教えてくれたからですよ」
それは間違いなく言える私の中の真実だ。
「…………」
黙り込む先輩へ畳みかけるように言葉を紡ぐ。今度は私が話す番。
「それに、すぐに先輩が来てくれるって信じてましたから。だから、少しだけ踏ん張ろうって思えたんですよ。それで先輩はちゃんと来てくれて、私を助けてくれた。……まぁ、その時、私寝てましたけど……」
我ながら残念な女だ。
「だから、先輩は誰が何と言おうと、私のヒーローなんです」
「わ、私は……」
まだ先輩は納得していないみたいだ。けど嘘はないと胸を張って言える。たとえ先輩が否定しようと私の想いは変えられない。
「先輩を苦しめている8年前の後悔、それがどれほどのものか私は知りません。でもそんな自分は幸せなんだって分かります。そんなふうにいられるのは先輩がいたからです」
「……っ!」
私の言いたいことが分かってもらえたようだ。もしあの時逃げていたら、ノクスも失って私は何にものにもなれなくなっていたはずだ。先輩の過去は消せないかもしれないけど、
同じような後悔を抱えるかもしれなかった一人を救ったんだと伝えたかった。
「だから、ありがとうございます。そしてあなたは強くて、優しくって、とっても素敵な……人です……だから……だから……そんな悲しい顔しないでください……」
あれ?私の声が震えてる。なんか涙も出ちゃってる。いつの間にか先輩の肩掴んじゃったりしてるし……。泣く気なんてなかったのに。
「救えなかったもの、とか……たくさんあるかもしれませんけど、救えたものや、先輩が頑張ったから生まれた幸せだってあるんです!私がその証拠です!それってとってもすっごくすごいことですよ?」
何言ってんだ?私。でも自分で言ってて思った。私もそう考えたらいいのかな?って。
「大体おかしいんですよ、なんで先輩が泣かなきゃいけないんですか?先輩は頑張ってて何悪いことなんか……何一つしてないのに……」
そもそもそうだった。誰のせいでもない?いや、全部あいつらのせいじゃないか。なんで、あいつらのせいでこんな悲しい思いをする必要あるんだ!
「あのおばあさんだって泣く必要、なかったはずなんです……おかしいですよ、こんなこと……!」
いつの間にか、先輩の胸に泣きついちゃってる。きれいな喪服、汚れちゃうよ。ホント、何してるんだろう私。
「碧乃さん……ありがとう……ありがとう、ね……」
柔らかい温もりが私を包む。先輩が私を泣きながら抱きしめてくれてる。こんな幸せあっていいのか?
それから私たちは、悲しい現実を昇華するようにしばらく泣いていた。
※
「私、これからも魔法少女、頑張ります」
ひとしきり泣いてそれが落ち着いた時、最初に口を開いたのは私だった。
「こんなおかしな現実に立ち向かう手立てが、私の中にあるなら、悲しくても苦しくても立ち向かう自分でいたいって思えたから……」
優しい人たちにこんな悲しみを背負わせるやつらが許せない。そんな新しい軸が私にできた。私にも救えるものがあるかもしれないって信じる気にもなれた。もう、躊躇わない。少なくとも、今は……。
「うん……」
先輩は月を見ながら優しく相槌を打ってくれる。
「だから、先輩はやめたいな~とか休みたいな~って時は私や、みんなに遠慮なく任せてください。もっと頑張りたいなってときも言ってください。とことんまで付き合いますから」
「うん」
みんなもきっと同じ気持ちだ。
「それで、先輩の選択をとやかく言うやつがいたら、私がぶっ飛ばします!」
大胆なことを言っている自覚はある。でも覚悟もちゃんとある。他ならぬ先輩のためだから。
「うん」
「私の言いたいことはそれだけです……それじゃ私、下に戻りますね……先輩、話せてよかったです。ありがとうございました……」
私は勝手にそう言って立ち上がる。相談に乗ったのか乗ってもらったのか分かんないな。
「待って、一実さん」
階段の方へ歩き出した時。呼び止められて心臓が飛び出しそうになる。
「私からも、ありがとう。あなたこそ、ヒーローだよ」
振り返った時、先ほどまでとは違う。月の下、さっきとは逆に咲くように笑う先輩が見える。
「あ……あ……、おやすみなさいっ!」
余りの気恥ずかしさに、私は叫んで走って逃げた。
次回からもプラネスフィアの日常をもう少し描きたいです。
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