EP38 戦士の黄昏 前編
お待たせしました。忙しかったりうまくかけなかったりで時間がかかってしまいました。
Side:ノクス
「…………!」
目を開けると白くて清潔そうな天井があった。意識がはっきりしてくる。全身が鈍く傷んでいる。首を動かすのも辛い。首を何とか引いてみると俺はベッドに寝かせられているのが分かる。自分はなぜここにいるのか……あの戦いの後、力尽きて気絶でもしてたのか……。
「スゥー、スゥー……」
寝息の音が耳に入り、頬にも風が当たる。
「…………!」
首をひねると至近距離に一実の顔があった。俺に抱きつく形で無防備に寝ている。なぜこんなことをしているのだろう。隊長さんに影響でも受けたのだろうか?俺に抱き枕として役に立つハイテク機能はなさそうなのだが……。
「スゥー、スゥー……」
それにしても愛らしい寝顔だ。本人はよく、周りと比べて自分の見かけを卑下しているが、純朴にはにかむ笑顔はずっと見ていたいと思えるもので、個人的な感想としては好きだ。ゴーレムの感性など当てにならないので、伝えたことはないが。
「…………!?」
ふとその顔を撫でたい衝動に駆られたが、叶わなかった。そもそも両腕がなかったからだ。そういえばあの鋼魔の攻撃を食らって吹っ飛んだんだった。
戦っていた時は、深く考えていなかったがこれはかなり深刻な状況ではないか?そう気づいて背筋に震えがくる。戦えない人形に価値はあるのか?一実は俺をどう思う?
「……う、ううん……」
動揺して身じろぎしてしまい、それが彼女を起こしてしまった。彼女は俺を見てどんなことを想うのか?
「……目が覚めたんだ!気分はどう?痛みとかない?」
「……痛いかどうかならまんべんなく痛い感じだ」
「そうだよね……あ、無理に動かなくていいよ。ここはOIDOの病院で安全だから、安心して寝てて……」
彼女と顔を突き合わせて、会話をすることになる。
「あ、ああ!ごめんね、くっついちゃって。暑苦しいよね!……これね、近くにいると魔力が活性化して。治りが早くなるらしいから、そ、添い寝してたの!や、やましい目的とかないから……」
その状況に気恥ずかしさを感じたのか、彼女は何か言い訳をするように、慌ててベッドから離れ、病院服姿で床に立った。よくよく見てみれば彼女も身体の至る所に包帯を巻いているようだ。
「そうか……ありがとうな。一実……」
俺のためにそばにいてくれたのか。あまり広くもないベッドでは、決して心地よいとは言えなかったはずだ。俺は温かな気持ちのままお礼を言った。
「お礼なんていいよ!おとといも言ったでしょ。魔法少女と勇者は一心同体なんだから、早く治るようにするのは当然だよ。それに……あったかくて安心できたから抱き心地も悪くなかったし」
そう言ってもらえるのは嬉しいだが俺の傷は、一実の傷……そう考えると俺はとんでもない傷を彼女につけてしまったのではないか?彼女の夢に等しい魔法少女、その価値の何割かに相当する俺がこうでは彼女にとっても大問題では?確か魔法少女と勇者はパートナーを変えられなかったはずだ。
「……あ、腕なら大丈夫!魔力の通りを良くして、時間を掛ければ再生するみたいだし、神名さんが妖精界から送ってもらった素材で腕を作ってくれてるから、それが出来たらすっかり治るよ」
彼女が興奮気味に伝えてくれた言葉は確かに救いだった。
「……そうか、良かった」
胸を安心感が満たして、ため息が出る。これで自分は文字通りのただの人形となることを避けられたのだ。それは彼女の夢を続けられるということでもある。
「うん、だから……安心して休んでて」
「……どんな感じだ?」
彼女の言葉通り目を閉じて、ベッドに意識をゆだねようとしたがその前に確認しておかなければならないことを思い出した。
「どんなって……?」
「犠牲者の数」
「…………」
俺のその言葉を聞いて朗らかだった一実の表情が、氷点下にまで冷えるようだった。戦いから丸1日以上は経っているようだ。状況も少しは分かっていることだろう。そのことは気にせずに今は休んでいて欲しいのだろうが、確かめずにはいられなかった。
「取り込まれた艦の数は5隻、乗組員は総勢1340人、分離で助けられたのは64人、艦が取り込まれた時に海に逃げた人とかもいそうだけど、例の力場の中だからおそらく……」
全滅か……勝利を喜ぶにはあまりに大きい数字だ。もちろんあのビルの犠牲者も軽く見られるものではないが桁が大きい。彼女も気にしていたのだろう、すぐに諳んじれるということは、頭の中に刻み付けているんだ。背負えるように……。
「でもね、喜んでいいことかは分からないけど、民間人の犠牲者は出てないよ。ノクスがあの時、弾丸を受け止めてくれたから」
「そう、か……」
それは確かに良かったというべきことかは微妙だが前向きな結果として受け止めるべきなのだろう。戦士であった犠牲者のためにも。
「なんにしろ今のノクスがやるべきなのは、休むことだよ」
彼女は表情を取り直して言う。
「違いない……」
「私、魔法使いの人呼んでくるから……寝てていいよ。おやすみ……」
彼女は俺がベッドに身体を預けて目を閉じたのを見届けたのか、カーテンを閉める音と足音を残して、去っていった。
※
「はい、あ~ん」
彼女はにこにこと微笑みながらさじを差し出してくる。ベッドに寝ている両腕のない俺は、されるがままに病院食を口に入れる。
目覚めてから数日、多くなっていた鋼魔出現の頻度から警戒していたが、予想に反して穏やかな日々が続いている。組織はこれを嵐の前の静けさとみて、インテグレーション・ボディの修復を急いでいる。俺も同意見だ。
もっとも今はまだ俺も一実も戦力に数えられる状態ではないが。組織の技術者たちがかなり忙しいこともあってまだ腕は完成していない。再生の方もやっと付け根が映えた程度だ。
「世話かけちまってるな」
「気にしないで。私、ノクスの役に立ててるの嬉しいから」
彼女の気持ちは嬉しいが、申し訳なさはぬぐえない。
「そう言えば一実、前の戦いの時また思い出したことがあったんだ」
胸のもやもやを誤魔化したくて、俺は彼女に話を振る。
「そうなの!?どんなこと……?」
彼女は興味津々と言った感じで顔を寄せてくる。
「思い出したのは怒りだ」
「怒り?」
「そう、怒りの気持ち人が殺されるのは悲しいことだって俺は知ってる。それは教えてくれた人がいたからだ。その人のことをまだはっきり思い出せたわけじゃないんだけど、どの人に最後に抱いた気持ちが、怒りだったんだ」
何故それだけ覚えているのか、きっとそれがその人に最後に抱いた感情なのだろう。それも、記憶を失う直前に。
「その人は散々、命の尊さを説いたくせに投げ捨てたんだ。その命を、俺を庇って。だから、ふざけるなって……俺には一緒に死ぬぐらいの覚悟ができたのにって……」
「一緒に死ぬって……そのくらい大切な人だったの?」
「多分そうだ……」
胸の中には思い出せないことへの恐怖にも似た焦りがある。自分を構成する大きな何かが欠けているみたいだ。失ったものの輪郭が見えてくるほど苦しくなる。
俺が3000年まえから勇者だったのなら、そんな大切に思う一人とどんな関係だったのかは見当がつく。今、一実を失いでもしたら、俺は生きていけないかもしれない。そう、思うから。
「だから……町の人はもちろんだけど、一実には特に死なないで欲しい。そのためなら、俺をどんどん盾にしてくれてもいいから。俺はきっと誰かに死なれるのが、それこそ死ぬほど嫌いだ。だから、あの時、体が勝手に動いた」
死なないで欲しい。それが一実に伝えたい一番のことだった。そのためなら腕だろうと足だろうと命だってくれてやる。
「そっか……分かった。でもね、それはノクスも同じだよ」
「……?」
一実の言葉の意味がすぐには分からなかった。
「ノクスが私を庇ってボロボロになった時、すごく怖かった……ノクスが死んじゃったらどうしようって。私は死ぬ覚悟なんてできない。でもノクスがいるから鋼魔に勇気を出して立ち向かえるの。ノクスがいるから大丈夫だって思えるから……ノクスがいないと私はただの怖がりな泣き虫だよ」
「…………」
戦場に立つ限り俺と一実の命はつながっている。そう言いたげな言葉だった。
「だからノクスにも自分を大切にして欲しい。ノクスがいないと生きていけないような女がいるって覚えていて欲しい」
「分かった……忘れない」
俺が3000年前に生まれて記憶がなくて、そんな自分をいつ消えてもいい存在だなんて思ったこともある。
でもそんなことはなかった。多分、ノクスって名前をもらった日から、自分をこの世界につなぎとめてくれるような命が目の前にある。それはきっとすごく幸運なことだ。
そうはいっても戦場でその理想を通すのは難しい。それは彼女も分かっていると思う。互いに死んでほしくないと思いながら戦うのは正しい向き合い方と言えるのか?そんな疑問が胸に湧いた。
しばらく、戦闘はなく内面描写主体になると思います。
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