EP36 巨人
今回でついに巨大ロボが出せました。感無量です。
Side:神名 少し前
管制室は、緊迫感に満ちていた。戦況は芳しくない。取り込んだ人間との一体化が完了したようで、ドレッドラの戦闘力は著しく向上してしまっている。
「勇者ロイドたちのダメージレベル上昇!」
「魔法少女たちも負傷しています!バイタルダウンを確認!」
管制官たちの緊迫感に満ちた声が聞こえる。
「ミサイルの火力と密度は脅威だ……イケートの毒を撃ち込む隙もつくれそうにない……どうするべきか……インドネシアの彼女は呼べないのか!?」
「ダメです。現在インドネシア国外で戦闘中……すぐに救援に向かってもらうのは難しそうです」
インドネシアには星原とも親交の深い強力な魔法少女がいる。島国を股にかけて東南アジアを一人で護る彼女に来てもらえれば助かったが難しそうだ。タイミング的にこれもあの黒い少女の差し金とみるべきか。
「どうすればいい……自衛隊からこれ以上火力支援を行っても、みんなの戦闘の邪魔になるだけだ」
「神名君!」
管制室の扉の方から、高く大きな声が俺の名を呼んだ。
「前園博士?どうしてここに?もしかして勇者に何か新たなトラブルが?」
彼女がここに来るのは、もっぱら勇者ロイドのシステム面に問題が起きた時だった。息切らして走ってきたところを見ると、相当緊急の問題なのか……。
「はぁ、みんなが……はぁ、ピンチなんでしょ……」
激しく肩を上下させながら、彼女は状況を確認してくる。
「そ、そうだが……博士、大丈夫ですか?だ、誰か、水持ってきて……」
あまりに彼女が汗をかき、息を切らしていたので俺は心配になり周りに助けを求める。
「そんなことは、どうでもいい!!」
「……!?」
彼女は俺の肩を力強くつかみ、その力強い光を放つ目をこちらに向けてくる。
「2号機を、出しましょう……」
それは思いがけない言葉だった。
「2号機って、インテグレーション・ボディのか?……だとしたら無理もいいとこだ。基礎フレームのくみ上げだって……」
「フレームなら今1号機からの移植が終わった!コアシステムが行けるなら……動く……!」
そんな力強くて頑なな声が彼女から出るとは思っていなかった。
「エクステンション・サーキットとの接続システムは基礎部分しかできていない……テストもしていない現状では……」
出来ない、そう結論付けようとした時、彼女がまた言葉をかぶせてきた。
「中枢システムはもう出来上がってるんでしょ、なら輸送中に調整すれば着くころには動かせる!」
「無茶を言うな……」
「他に方法はないでしょ!私も全力で手伝うから!天才のあんたが弱気になってどうするのよ!私たちの使命は完璧な機械を作ることじゃない!人類を守る力を、彼女たちに届けること、あなたがこの前言いたかったのはそういうことでしょ」
彼女の言葉で思い出す以前、感情的に彼女に語ってしまった時のことを。今彼女は、彼女のなりのやり方で俺の想いに答えようとしてくれているのか。
「……分かった、やってみよう。……陣屋、輸送機で2号機をコンテナごと現場に運んでくれ」
「え、マジでやるのか?」
俺の頼みに、陣屋は本気かよと引き気味の表情をしていた。
「聞いていただろ、他に手段はない。どうあっても彼女たちを死なせるわけにはいかない」
「そうだよな……一番機と二番機で吊り下げろ!」
陣屋は分かってくれたのか輸送開始の指示を出す。
「ここからは俺たちの戦いだ……あんたが言い出したんだ。付き合ってもらうぞ。脳の神経が焼ききれるまでな」
「ええ、もちろんそのつもりよ」
そう言う彼女の顔はむかつくほどに綺麗だった。
※
Side:碧乃
「……?私生きてるよね?」
気づけば目の前は真っ黒に染まっていた。見えないが手を握るとかの感触はある。生きてはいるようだ。
(ノクストス……聞こえる?)
私はリンクを通して、ノクストスに語り掛けてみる。
(ああ、よく聞こえる)
よかった。一体化は成功しているようだ。ならあとは……。
“ブゥン!”
目の前の暗黒に文字が浮かぶ。
―Yusha Extension System―
『マーシー聞こえるか?ホントはいろいろ手順が必要だが時間がない。いろいろ省略する。コツは一言、感じるんだ。新しい身体を、ノクストスを』
インカムではなく、周りの空間から神名さんの声が聞こえる。
「はい!」
神名さんの言う通り時間がない、やるしかない。
「聞いてたよね!ノクストス!行くよ」
やり方も分からない、出来るかも分からない、でもきっとできる。だって、これまでよりもずっと強く、そう、一つになったように彼を感じるから。
(ああ、行こう。マーシー!」
二つの心が重なったような気がした。力がみなぎり視界が開ける。その視界は私のものであり、彼のものであり、そして、この巨人のものでもある。
目の前には延々立ち上る黒煙。きっとさっきのミサイル攻撃のものだ。視界は判然としないが進まなければ。
(そう、進むんだ!)
彼の声、わたしのもう一つの声が聞こえたと思った時、ゆっくりだが長く大きな足が動き出す。これではだめだ。遅すぎる。私は散歩に行くわけではないんだ。
肩の方にも障害物を感じる。振り払っていかなくては。誰よりも速く、そう跳べるように。
“グォン!!”
ノクストスとその意識が重なったことで足にすごい力が宿り、巨人の身体は煙を突き抜け、その先の黒い怪物、怨敵に体当たりする。
「グオォォォン!?」
自分の背の半分以下の大きさとはいえ、自分の足元を揺るがす巨大な影が現われて、驚愕しているようだ。カメラを通して広がった視界に、驚いた表情でこちらを見上げている。
「グゥ……」
ドレッドラが後退するときの地面の震動がもう一つの足から伝わってくる。変な感覚だ。
(これが機械の世界、アルニギアスたちが見ている世界か……)
ノクストスもまた、巨人と一体化し新たな世界を体験しているようだ。
インテグレーション・ボディは魔法少女と勇者の力の源である両者の絆その力を、20m台の巨大ロボットの制御AIと搭乗者という形で一つにまとめて最大限に力を発揮させようというものだ。さらにデマンド・サーキットの魔力増幅機能の一部を再現したエクステンション・サーキットを巨人の側に搭載することでもう一段階大きな出力の魔力で戦おうというものでもある。
(なぁ……身体の動き鈍くないか?)
ノクストスから心配の念が伝わってくる。確かにそうだ。全力で動かしたいという気合を入れないと手足が動かない感じだし、反応も鈍い。
『悪い、インターフェイスは今リアルタイムで調整中だ。何とか戦闘できるレべルまで改善させるからその状態で一分だけ持ちこたえてくれ!』
神名さんからの通信が聞こえる。新たな身体を得た高揚感で、出来なくはない気もするが、相手は見上げるほど大きな存在だということに変わりはない。持ちこたえられるか?
私はとりあえずファイティングポーズなんか取ってみたりするが、腰が引けてしまう。
『マーシー!ノクストス!私たちがついてる!頑張って!』
通信から隊長の声援が聞こえる。前を見ると行動で示すように黄色い光弾がいくつもいくつもドレッドラにぶつかるのが見える。
そうだ、これまでと何も変わらない。私はみんなと戦っている。私が多少ミスをしてもカバーしてもらえるような頼もしい仲間が。
「ギャオォォォン!!」
ドレッドラが咆哮と共に、左腕の砲塔を向けてくる。
攻撃が来る!躱さないと!右だ!
(左だ!)
“ドオォォォン!!”
私とノクスがあべこべな方向へ動こうとしてしまい、結果的にその場から動くことが出来ずに、もろに砲撃を食らってしまう。
「きゃーーー!」
(うおぁ!)
大きくのけぞらされ、両足もかなり後退したがなんとか倒れないように、踏みとどまる。
(くぅ……完全に思考を合わせるのはまだ難しいか……今はとりあえずマーシーに従う形で試行してみる。マーシーの思うまま戦うんだ!)
「わ、私?……分かった、やってみる!」
私が主体で良いのか少し不安だったが、この巨大ロボットのパイロットは自分なのだと自らを鼓舞し、覚悟を決める。
「ガオォォォンッ!!」
ドレッドラが今度は前のめりになって、背中の特に大きな砲塔を向けてくる。
また来るっ!右に避けよう!
(右!)
私に追従する形で、ノクストスも思考する。ワンテンポ遅れて、巨人の身体が右にステップを踏む。
“パシュン!”
紙一重だったが砲弾がわきへと抜けていく。レスポンスが悪いのは気になるが、今はしょうがない。行けると思い込んで戦うんだ。意識を切り替えれば私自身の視界を見ることもできる。背中とお尻にはとりあえずのシート(透明のようだけど)。両手のところには半透明の球体がある掌の状態と巨大ロボットの状態が連動していそうだ。やってみよう。
まずはこぶしを握り込んで、前ステップからの右ストレート!
“バジュン!”
「ギャオォォォ!」
私の拳にも硬い衝撃が伝わってくる。2倍近い体格差があるにも関わらず、ドレッドラは後ろにのけぞって後退する。狙ったのはドレッドラの胸あたりだったがここまでのパワーがこのボディにあるとは……。
左でももう一発!
“ズンッ!ググ……”
しようと思ったが、2発目は相手の右手で受け止められてしまう。
「え?うわぁ!」
右手で吊り上げられた私はがら空きになった腹に強烈なパンチを逆に入れられてしまう。
「ぐ、へ……」
何十mも吹き飛ばされて息ができない、一体化しているからかダメージがそのまま伝わってくる。
(大丈夫か……?)
ノクストスが聞いてくる。ダメージがあるのはたがいに同じのはずだ。
「言わなくても、分かるでしょ……」
(そうだな、この程度じゃ勇者は倒れない)
「魔法少女もね」
私達は気合を入れなおしてまた構えを取る。その時……。
『ごめんなさい。最適化作業が今終わったわ。アップデート・プログラムを今送る』
前園博士の声が聞こえると、巨人の身体に変化が起きた。灰色だった体色が色づき始めたのだ。両腕はアルニギアスのような赤と黄色に、その他の部位はノクストスらしい黒と白に。心なしか体が軽く感じる。
『その状態なら魔法も使えるはずだ!』
神名さんが教えてくれる。
(これならいけそうだな!)
「うん!最終ラウンドにしてやろう!」
私達はそんな決意と共にドレッドラの瞳を見据えた。
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