EP30 見えたものは少なくても
ペースが戻ってきた。
Side:碧乃
それから、今回得られたデータをもとに魔力増幅装置と消化システムの二つを、情報交換をしながら開発を進めていくということで話がまとまった。
「あ、あの……もう一つ聞いておきたいことだが、ノクスがこっちの世界のお金に違和感があるって言ってるんです。だから、妖精界の通貨がどういうものか分かればもしかしたら」
私はもう一つ聞こうと思っていたことをシデロさんに話してみる。
「なるほど、まさに印象……ナマモノとしての感覚について検証したいのだね。いいよ、ちょうどサンプルがある」
シデロ様は朗らかな笑顔を浮かべ、懐から青く光る四角いものを取り出した。掌一個分の広さの直方体だ。
「これが、妖精化全域で一般化している通貨だ、と言っても妖精の中でも文明を築けるような比較的知能の高いものが使うものだ……この世界では、紙切れと金属の玉がそれだったかな」
彼は意外と細かく丁寧に教えてくれる、私も気に入られたのだろうか?あるいはノクストスのためか……。
しかし四角く光るもの……一見しただけでは確かにお金だとは分からない。
「ノクストス、ちょっと来て」
私がノクストスを呼ぶと素直に彼は魔法陣から出てくる。
「ふむ、ちょっとこれを持ってみたまえノクストス」
シデロさんはそばに来たノクスに魔晶を渡す。
「君にはこれね」
彼は私にも物を渡してくる。羽ペンだろうか。
「じゃあ、二人向き合ってこういうのは体験が大事だからね」
体験……この通貨の使い方を実践させようというのか。なるほど、生の印象から記憶のかけらを思い出すのは理にかなった行為だ。
シデロさんは私が何を求めているのかその深いところまで見抜いている。頭の良い人であると実感する。
ふとノクストスを見ると、彼もまたこちらを見ていた。機械的な光を放つカメラのような目。さすがにその表情は分からないが、きっと今彼も欲しいものに手を伸ばしている感覚を持っているだろう。
「それじゃ二人とも向かい合って両手を前に出しなさい。そう……で、ノクストス君はその石の半分を差し出すことでペンをもらい受けるイメージ、君は石をもらい受ける代わりにペンを明け渡すイメージ、それをして欲しい。
私達は言われた通りに向かい合い、念じた。
“ヴヴヴ……”
私の手の中のペンが熱を帯びて震えだす。ノクストスの持つ四角い石も光り出すそして、医師は小さい立方体に分裂し、半分の体積を残してペンとは逆に左手に来て固まる。ペンはイメージ通りにノクスのに向かう。
「おお……スゴ……」
「これは……」
私達はいかにも魔法的な現象に驚きの声を上げていた。それを見ていたシデロさんはこの現象に関する詳しい解説をしてくれる。
「その魔晶は価値を媒介する。頭で考えた取引の条件と交渉相手の条件が合致するとき、自動的にやり取りを行ってくれるんだ。魔晶はそれ自体がエネルギーの塊であり燃料として扱われることもある。向こうの勇者たちはこれを糧として稼働しているよ。さて、何か感じるものはあるかな、ノクストス君?」
ノクストスはしばらく黙り込んだ後、口を開いた。
「……ヒトミがお金を払って見せてくれた時よりしっくりくる……そんな気がする」
「……!」
ということはやはり……。
「客観的根拠ではないが否定する理由もないね……今後の調査も、その線で進めていいかい?」
「はい……」
ノクストスはこれまで聞いたことのないようなか細い声を出す。
※
「いや~、とても有意義な時間になった」
「私どもとしても、そう思います」
調査を終え、再びゲートの前に立ったシデロさんに、神名さんが挨拶する。
「ああ~そうだ、ノクストス君の構成する旧型のミスリル、こちらでも用意して後で送ろう……形状データを入力すれば腕だろうと、頭だろうとスペアが作れる……もちろんコア以外だが……自己修復は時間がかかるからね……」
「……っ!ありがとうございます!」
神名さんが喜び声を上げた。確かに替えがあるというのは安心できる。
「礼には及ばんよ」
「本当はノクストス君を妖精界へ連れて行きたいところだが……」
「……!?それは……」
効率的かもしれないが、彼と離れるのも一緒に妖精界に行くのも不安があり、私にはおいそれと呑める提案ではなかった。
「ふふ……冗談だよ……私の子供たちもパートナーと引き離すなんて言ったら反抗するだろうね……」
息子か……神名さんよりも前園博士と気が合いそうな人だ。いつか、向こうの戦士たちにもあってみたい。
「それに、君たち2人がここで絆を紡いでいることにはきっと意味がある……ならばその流れに従うがよかろう。何より、勇者と魔法少女のあり方を決めるのは、その2人以外にいないのだから」
「2人で決めること……」
私が彼と出会ったことに何か意味があるのか、会えてよかったともこの人となら多くが救えると思える、だがそれ以外に何か……出会ったのが私とノクスであることに意味があったりするのだろうか。
「それでは、お暇するとします」
「……!」
シデロさんの声が私を現実に引き戻す。
「はっ!シデロ様も元気で」
神名さんの声と共に一同は敬礼するもちろん私を含めて。優秀で善良な人ではあるのだろう……ノクスが会いたいと思うかはまた別問題だ。
「みなさんまた会いましょう」
そう言ってシデロさんは光の中に消えていった。
※
Side:ノクス
―ダメだよノクス!人間は支え合って生きるものなんだから、ギブアンドテイクは社会の基本だよ?―
実演をしたとき、俺の中に声が反響する。一実のものではない俺の中から聞こえている声?
そうだその時は確か、自分に与えられた権力で物資を強制的に徴収しようとしていた時のこと
―大義のため?ダメダメ!そんな風にふんぞり返ってちゃいざって時助けてもらえないよ?―
そうだ、……は教えてくれたんだ。人の営みの中でのあり方を。人から何かをもらいたいなら差し出すモノが必要だと。
―そうでなくても、私達にはギブアンドギブをする覚悟が必要なんだから―
俺が……にするようにか?
―それも違うよ。少なくとも私はいつも助けてくれるあなたに何か返したいと思ってる……ううん、あなたから見返りがもらえないとしても、私もあなたに尽くすから―
素朴で誠実な心を持つ……に全て教わったんだ。だが今だ、俺の記憶にはノイズが多い。俺は何を無くしたというのか、いまだ分からない。
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