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EP29 埃の下に 後編

ぎりぎり有言実行です。


Side:碧乃


そもそも、なぜ異世界の存在である鋼魔が私たちの世界を狙うのか?そんな根っこの方の疑問がある。

私が養成校で習った経緯はこのようなものだ。

3000年前、妖精界での決戦時に最後に残った魔法少女が強力な結界を生み出し、封印したという話だ。この結界の力はすさまじく結界の周辺を時空ごと歪め『黒の牢獄』と言われたその場所は今で近づけないほどの不可侵領域になっているのだという。

そして時空を歪めるその力が世界の壁にすらほころびをもたらし、内部にいる鋼魔に人間界への介入手段を得ていることが分かったらしい。

魔法が一般的でないため、リソースとしての人間が攫いやすい場所として狙っていることが妖精界からの観測で判明したらしい。そこで人間界が無防備でいると妖精界での鋼魔の危険性も高まるとして、妖精界からの警告と技術提供が始まったのだという。

もっとも、人間界がその対策に本腰を入れ始めたのは隊長の一家が犠牲になってからになってしまった。

そしてその道の先にあるのが今私の目の前にある光景だ。


「そうそう、いいよ~そのままそのまま……」


今ノクストスはシデロさんたちが描いた。魔法陣の中心に立って調査を受けている。魔法陣からはこれまた同じ直径の光輪が出現して、ノクスの足元から頭上までを行ったり来たりしている何やら、スキャンしてるっぽい様子ではある。

その傍らに立っているシデロさんは、ブツブツと長い詠唱を続けつつ、横に立たせたゴーレムの一隊の頭に手を置いている。そのゴーレムは彼が魔法陣で読みといった情報を受け取り、記録しているのだろう。まさに機械的な性格と速度で、長い巻物に何やら書き連ねている。

 そんな様子で数分の時が経った。


「ふぅ……これで一通りの情報は読み取れた」


トランス状態から戻ってきたような様子で、表情を緩めてそう言った。


「何か、分かりましたか?」


好奇心を隠さない様子で、神名さんは身を乗り出してシデロさんに質問する。


「ふむ、まだまだ詳しい吟味が必要なことも多いが、断言できることも多い」


「おお……」


またも神名さんから声が上がる。それは魔法のさわりのさわりしか知らない私でもわかることだろうか?


「まず、デマンド・サーキットの出力は確かにすさまじい……我々が死に物狂いで復元したものに比べ、同じ意志の力を入力した場合に出力される魔力量は段違いだ」


そこまではもう知っている。重要なのはその先だ。


「そして、次にボディに関しては逆に原始的もいいところだ。構成に使われているのは魔法で疑似的に生命力を与えられている生体金属、相当昔に発明されたもので軍事用にしろ、それ以外の方面にしろ、もっと改良されたものが一般に普及している。魔力伝達の方式、関節部の構造……そんなものについても同様だ。今こんなものを使って物を作るのはよほどの馬鹿か、偏屈者だ」


「おお、では……」


推測されていた通り、大昔につくられていたものなのだろう……。


「だが……」


「……?」


シデロさんの思いがけない言葉に私は声を漏らす。


「昔のものにしては経年劣化の類が見られない」


「どういうことですか?」


意味ありげに言ったシデロさんに神名さんが疑問を呈する。

「ふむ……君たち人間より長く生きるものが多い我々だがそれでも3000年という時間は長い。それはゴーレムにとっても同じです。素材には自己修復機能がありますが、それでも年月を通して積もる歪みはある」


「その辺魔法で何とかできないんですか?」


私は凄く、単純な疑問を口にする。言ってから、笑ってしまうような質問ではないかと不安になった。


「いい質問です」


あ、そうなんだ、良かった。


「できるかできないかで言うと可能です」


ならば、当時品が良好な状態で残っていることに説明も付く……


「しかし、魔法による管理のもとにあったと考えると別の問題が浮上します」


シデロさんは若干険しい声色で言葉を続ける。


「魔法で経年劣化を防ぐことはできますが、それには人の手で働きかけ続ける必要がある。つまりは継続して人の管理のもとにあったということです。家宝のように代々継承でもしていたとして、再三の調査や関連物の提供命令に引っかからないとはどういうことなのか……それは人間界にあった場合も同様です」


確かにそうだ。勇者を保管していたとしてそれは、鋼魔の危機が迫るこの時のためではないのか。


「少なくともこちらの世界の指導者が連携して、具体的が伝承に乏しい中、資料や遺物を草の根分けて探したのです。それで結局できたのはデマンド・サーキットの劣化品……こんな状態のいい品があればここ数年の労力の半分は減ったものを……」


シデロは闇すらも感じさせる低い声を出す。相当大変だったのだと分かる。この人も、鋼魔という脅威に対抗しようともがいて足搔いてきたのか。


「あの……時を超えたという線は……?」


暗い雰囲気を感じながらも神名さんはシデロさんに見解を聞いてみる。


「その線もありますな、時を操る魔法は確立されていませんが、古代魔法なら可能かもしれませんね」


「はい、科学的知見からも時を遡るならともかく、未来へ飛ぶのは比較的可能な範疇です」


そうなの?落ちこぼれには分からん世界だ……というか神名さん科学も行けるくちなのか完璧超人かよ。


「ともかく今言えるのはノクストス君は先代からの存在という認識で間違いないでしょう」


シデロさんの出した結論を私とノクストスは静かに受け止める。


「あの……ノクスの記憶については何か分かりませんか?」


ノクストスが過去の存在だとするなら、ここの皆が一番知りたい情報になるはずだ。


「ふむ、補助になる記録機関にも解析を掛けたが情報の損傷が強く、具体的な情報は得られなかった」


「そんな、じゃあノクスの記憶は……!」


忘れているというより壊れているのか、だとしたら……だとしたら……。ダメだ、怖くてノクスの顔も見れない。彼が取り戻したいの手が売物はすでにこの世には……。


「まだ希望はある……ゴーレムの記録機関は補助だ。記憶は自我つまり勇者の魔力の根源に直結するものでもある。それは、核であるデマンド・サーキットに思い出として刻まれる人と同じように……それはある意味ナマモノで、機械的に読み取れるものではない」


つまり、まだ残っているかもしれないが、それは自力で思い出すしかないと……あの黒い少女に言われたことでもある。肝心なところに到達する前に足踏みさせられるようでもどかしい。


「記憶に関しては、残念ですが……デマンド・サーキットの強化は可能そうですか?」


他人ごとな神名さんは落ち込む様子もなく次の質問に移る。しかし、それも大事なことだとは分かる。


「彼のデマンド・サーキットに未知の魔力の増幅機構を見つけました。解析して再現できれば外付け強化機構が用意できると思いますよ」


シデロさんは『できる』と言い切った。解体なしにそれが叶うなら、ノクストスがバラされる必要はなくなる。安心していいものか?それとも……過去の遺物であることが確定した彼の秘密を暴くことに余計理由ができるか?

 私に今できることは……ん?できること?


「あのシデロさんノクスのお腹、消化器官の仕組みは分かりますか?」


「消化器官?」


「もし再現できるなら……勇者ロイドのみんなとご飯が食べられるかなって……絆も深まって戦力アップ……なんてことも」


私は必死に誰かを庇うようにまくしたてる。

媚びを売るような形になるが他の勇者、ないし魔法少女の好感度を稼げば、これからもノクスの立場を保証しやすくなる。

 そうでなくても、アルスさんの想いは叶えて上げたい。星原先輩にも生きることを楽しんで欲しい。なにより、ノクス自身の願いでもある。必要のないことともいえるがゴリおす。


「君は向こうの魔法少女と同じように勇者を想ってくれてるんだね。よろしい、必要のないものと後回しにしていたが……同時並行で開発を進めよう彼らのための胃袋を」




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