EP28 埃の下に 前編
昨日更新できなかったので今日は2話出します。
Side:碧乃
「じゃあ、行こう!」
今日は、妖精界から技術者が来てくれる日だ。ノクスに声をかけて共にOIDO日本支部の地下へ向かう。
「…………」
家から支部へ向かう道中、隣のノクスは意味ありげな視線を向けてくる。
「……?どうしたの?」
「前の戦いで鋼魔兵を倒すことになって、辛そうだった。だから、大丈夫かなって……」
人目を避ける意味もあって、ノクスは街に出る時はパーカーを着てフードに顔を隠すことが多い。今回は気まずいのか、自分に対しても表情を隠しているみたいだけど。
「……正直、大丈夫じゃないよ……でも、やらないって選択肢はないから苦しくても現在進行形で、犠牲者が増えてる状況だった。あとではねっ返りが来るかもしれないけど、戦ってる間はやるべきことをやるつもり」
「一実は強いな……」
「あまり期待しないでね……考えないようにしてるだけな気もするから……寧ろ、あなたの方は大丈夫?」
「どうだろ?あの時、やらなきゃって思ったら心が鉛みたいに硬くなって、動揺する感じじゃなかった……俺も、何かを見ないようにしてるのかもしれない」
それはフードを深く被って自分の世界に閉じこもるようなモノだろうか?見なければないのと同じだとでもいうように。
人の命がかかっている以上、私たちに立ち止まる選択肢はない。だけど、いつか自分のやってきたことと向き合わないといけなくなる気がする。
「……なんにしろ、助けられる人を絶対に助けられるように手札を増やしたいな」
救えなかったものを一つ一つ数えるのは心が持たなくなるような気もするが、何も感じないようにして犠牲になった人間を倒していくのも何か違う気がする。そんな葛藤を抱かなくて済むように全員助けるような手段を取り続けたい、そう思った。
「だね。今回の調査もその助けになると良いな」
「ああ……」
私達はそんな希望を抱いて目的の場所に向かう。
※
その場所は講堂のように広くそれでいて暗く、独特な空気感がある。地面の方に照明があり淡い感じに部屋中を照らしているその場所は儀式に使われる空間であるため、神秘的な演出がされているようだ。
自分も初めて入った場所だ。部屋の奥、入り口から見て正面の壁には、直径6mの大きく精緻な魔法陣が描かれていた。その魔法陣が異世界とこの世界をつなぐゲートとなる。
「なんかドキドキするね」
「……?そうか?」
現実感のないような環境に心が浮足立っている私に対して、ノクスの方はいたって平然としているように見える。もしかして、むしろこういう空気感の方が故郷に近くて落ち着くなんてこともあるのか、そういうところもこういう機会に確かめておきたいな。
「おお!一実ちゃん、こっちこっち」
そう声を掛けてきたのは子供のような体躯に長く尖った耳が特徴の若い女性、レミア・コ・ネゴシウムさんだ。若いとは言うが彼女の種族は人の3倍は生きるらしく。100歳ぐらいだという。彼女は妖精界からの技術交流役としてこちらに常駐している魔法使いだ。養成学校時代から魔法の指南をしてくれたことも多々ある顔なじみだ。彼女の周りには神名さんや教官など、魔法に明るいスタッフたちがOIDOの制服姿でそろっている。私とノクスはその列の中に加わってゲートが開くのを待つ。
「それでは行きます。マエルク・エーヴェク・ムスティオ・テネック・ぺータ……」
“ブオンッ!”
魔法陣の前に備えられた祭壇に立つ神名さんの詠唱で、魔法陣から光の円盤が出現しそこから複数の人影が現われる。
世界の壁を超える大魔法、安定的に行使するには国家レベルのバックアップのいる設備とそれなりの魔力を持つ魔法使いが必要だ。そうそうみられる光景ではないという話だったか。しかし、二つの世界は偶発的につながることもごくたまーにあるらしいノクスがこちらに来た経緯はそっちだろうか。
「ようこそいらっしゃいました、シデロ・カ・フエバさん」
現われた人影の中央に、周りより背の低い一人がいた。彼が今回の客らしい。
「出迎え、ありがとうございます。人間界は私にとっても未知の世界です。よい交流ができればと思っています」
柔らかい表情でそう言う小人の顔は中年男性のようだ。レミアさんと同じ種族の人なら、200歳ぐらいだろうか。あごひげを蓄えたその顔はいかにもプライドが高そうに見えたが彼の言葉からは謙虚さがうかがえる。
「彼が例のゴーレムですか?」
シデロさんは髭をいじりながらノクスの前に近づいてくる。
そうか、この人はノクスを『彼』と呼んでくれるのか。小さなことだったが目の前のおじさんへの好感度が上がる。
「ふむ、確かに強い意志の力とそこからくる魔力が視える。我々の魔法技術でも明確な自我を持つゴーレムを作るのは不可能なのです。今回連れてきた付き人もゴーレムで自律的に行動できますが、規則的な自己判断ができるだけで自我と呼べるような複雑性は持っていません。その壁を超えて意志の力を持ちうるなら、君に搭載されている機関はデマンド・サーキットで間違いないでしょうな」
「…………」
顔を覗き込まれたノクスはどう反応していいか分からないようだ。シデロさんの方はその表情の変化に感心して笑い声をあげる。
私はシデロさんの周りに立つ衛兵姿の人型を見る。全身鎧姿で表情が見えないが、その鎧の中に心と呼ばれるものは入っていないのか。プログラム的な自己判断と自我と呼ばれるものそれにどれほどの違いがあるのだろうか、秘石は生命や自我そのものの定義に直結しうるほど根源的な物体だという。それを核としているから、勇者ロイドは単なる人工知能を超え、自我を持っていると組織的にも認識されている。それはシンギュラリティ的な高度差とは別の次元に立つ者であるという話だったか。
「ふふ、君は記憶喪失だと聞いている。言語的に君に何かを聞くことはないから安心してくれていい。身体に訊くのだから……ふふ……」
「……!?」
なんか状況的に何も間違ってない発言なのに厭らしく感じるんですが!?しかもシデロさんの視線がなんかねっとりしてる!ノクスに不埒なことをしようものなら客人だろうと吹き飛ばしますよ!
「シデロ様、調査魔法の行使に適した部屋を用意しています。そちらへ……」
私がノクスの前に割って入ろうとした時、神名さんから声が掛かる。そうですかと相手が引いてくれたので揉め事にならずに済んだ。
※
「それじゃあ、まずは変身して頂けますかな?」
一同が広く明るい部屋に移動したとき、シデロさんはノクスにそう頼んでくる。
「俺だけでいいですか?」
「ああ、それでいいよ」
ノクスは私に同意を求める視線を送ってきたので、私はただ頷いた。
「ルーセット・コンヴァース……」
ノクスは部屋の中心に立って、単独で戦闘形態になるための呪文を唱える。魔法少女は勇者がいないと変身できないので羨ましい機能だ。
やがてノクスの周りにピンクの魔力の竜巻が発生する。そしてそれが晴れて……
「影光勇者ノクストス!」
いつものモノトーンの鋼の鎧の上にマントを羽織った姿になったノクストスが一同の前に現れ、名乗りを上げる。
「おお!聞いていたよりも美しいね、君は……」
「……ど……どうも……」
にじり寄るシデロさんの圧に押され、ノクストスはのけぞって助けを求めてくる。
「ふふふ、これはつくづく中身が知りたくなった」
シデロさんはメカフェチとか、そういう感じの人だろうか?危なそうならほんとに割って入る必要があるかもしれない。
評価・感想が作者の1番の燃料です!あたたかい感想をお願いします!




