EP27 流される血の意味 後編
言いたいことがまとまってない気もするので後で手を加えるかもです。
Side:前園
「あなたが提出したインテグレーション・ボディの2号機の建造プラン、これどういうこと?」
前回日本に鋼魔が出現した日から数日。私、前園真理は訳あって宿敵ともいえる神名技師長の研究室に殴り込みをかけていた。
私はデスクに座る彼に計画書である紙の束を突き付ける。
「どうもこうも提出した通りだ。2号機はノクストスと碧乃一実のために調整するのが賢明だろう」
彼は眉一つ動かさずそう答えた。
「だから、何でそうなるのかって聞いてるの!2号機は真央とアーシュ用に調整するって話だったじゃない。それが何で、あの得体の知れないゴーレム用に変えようなんて言うのよ」
「どうせ現状では、どんな魔法少女と勇者でもインテグレーション・ボディを起動させることはできない。ノクストスを除いて……」
すました顔で反論してくるこの男の様子が憎たらしいことこの上ない。私の生んだかわいい子らが力不足だというのか。
「そうは言わない。むしろ彼らの完成度は、魔法少女とのコンビネーションを含め理想的と言っていい」
「じゃあなんで……」
記憶のないゴーレム勇者なんてものを充てにするのか。
「足りないのはひとえに我々の技術力だ。今我々が自前の技術で増幅できる魔力量では絶対的に足りないという話だ」
インテグレーション・ボディは、デマンド・サーキットと同様の構造を用いて魔力を大幅に増幅し、戦闘力に変換するというのがコンセプト。ただその増幅のサイクルに乗るには一定の大きさの魔力出力に到達している必要がある。それが1号機を与えられているセンシリ―・テルスですらなせないのだからみんな頭を悩ませている。
「ただ昨今の鋼魔の出現数の増加、鋼魔人の出現、核二つ持ちの鋼魔獣……本格的な侵攻の兆候と思えることが連続している。我々にはより大きな力が、一刻も早く必要だ」
だから、皆出力の高いデマンド・サーキットを望んでいる。だから解体調査の話が出たというのにそれを拒んだこの男は何を考えているというのか。
「じゃあ、とっととあの土人形をバラして大きな魔力を出力する機構を複製すればいいじゃない」
わざわざ、回りくどいことをしなくていい。センシリ―かフォルテが基準以上の魔力を出せるようになれば万事解決だ。
「……俺はあんたをもう少し心ある人だと思っていたんだがな」
がっかりしたような、軽蔑の意を孕んだ視線を彼はこちらに向けてきた。
「俺はどちらかというと魔法畑の人間だ、だからとというわけではないが、ノクストスには人間に等しい意思が宿っていると思っている」
「それは、私のつくった勇者ロイドたちも同じよ」
神名の言葉は脈絡のないものだったが、逆に勇者ロイドたちはそうではない、と言われたように感じて私は反射的にそう言ってしまう。
「そうだ。だから両者は俺にとって等しく尊重すべき存在だ」
「・・・・・・!」
思いがけない人間的な言葉に私は何を言うべきか分からなくなる。
「生まれたからには命とは尊重されるべきだ。それが、どんな形をしていても」
それは純粋に技術を磨いていく科学者とは別の顔だった。
「……ぶっちゃけると、俺は魔法少女という存在と勇者という存在も嫌いだ」
「はぁっ!?」
それはぶっちゃけすぎだと思う。
「きれいな言葉で飾ってはいても年端も行かない少女を少年兵として送り出しているのと同じだ。そんなものに頼るのは人類の倫理的な敗北だ」
ああ、そういう方面の嫌いか……それならば理解はできる。
「彼女を守るためにつくられた勇者も結局は心がある。機械的な存在だからと言ってこの前みたいな汚れ役を押し付けるのも違うと思う。結局、犠牲になる人間を二人にしているに過ぎない。戦うためにつくられた知性体などあまりに残酷な存在だ。言い方を選ばずに言えばそんなものは生まれるべきではない」
「そんなこと……彼らは必要とされて生まれてきたのよ⁉」
彼らの存在が、仮に歪であるにしても彼らが救ってきたもの、彼らの抱いているまっすぐな勇気を思えば彼らが生まれるべきではなかったなどと絶対に言わせない。
「分かっている。だからこれはきっと俺が潔癖症であるだけで、わがままだ。だが同時に俺なりの信念でもある」
この男はなぜこんな哲学者のような問答を私に仕掛けているのだろう。それが分からかった。そんな私の疑問を知ってか知らずか男は話をまとめだす。
「俺は魔法少女と勇者などというものに頼っている時点で、俺たちはある意味負けている。学者としては、本当は意地でも別の手段を探すべきだからな……だが、結果はこうなっている。だから、俺たちにできるのはこのクソッたれな戦いを早く終わらせられるように頭を使うだけだ。だから、あんたも色んなプライドとか思い入れとかあるんだろうが、フラットな視点であいつらを見るようにしてほしい」
言いたいことは分かった。この男はゴーレムだとかアンドロイドとか関係なく大切にしたいと思っているのだろう、一つの命として。
「あんたは鋼魔殲滅のためにノクストスを活かすのが一番効率的だと思っているのね。私の子供たちではなく」
「現状ではそうなる。理解してくれると助かる」
「いいわ、物は試しね。でも科学の粋を集めたインテグレーション・ボディを魔法の塊で動かせるの?」
「そこは俺が構築する術式で機械に寄せる。インテグレーション・ボディはデカいからな、そこら辺の構造的余裕はある」
「なら、言い出しっぺのあなたがやってみなさい」
「そのつもりだ」
目の前の男はただの夢見がちなお人よしだと分かった。
※
Side:蕨野
OIDO
「ごめん、この前は動けなくて」
ジムでの筋トレがひと段落し、休憩を取ろうとした折、意を決したような表情のレオが謝罪の言葉を掛けてきました。前のこととはビルドーガとの戦闘の折、彼が終始鋼魔兵に対応できなかったことを指しているのでしょう。
「そのことについては……しっかりと話し合う必要がありますわね」
私はジムの休憩用のベンチに座って、彼と正面から向き合う。
あの日、彼は結局鋼魔兵と戦えませんでした。それを無理やり戦わすわけにもいかず、私はレイピアで、受け持った鋼魔兵を一匹一匹排除することになりました。最後の一匹まで。
正直に言うとレオにも手を貸して欲しかった。けれど彼の頭の中で人だったものを殺したくないという想いや、助ける方法もあるのではないかという可能性への期待が渦巻いていた。そんな甘い考えでは勇者の使命を果たすことはできないと私は思いましたが、その戸惑いが彼の優しい心から生まれた物でもありすべてを否定することが出来ず、私は強制的に戦わせる指示が出せなかった。
「レオ……私は魔法少女の仕事を、裕福な家庭に生まれた私に課せられたノブレス・オブリージュだと考えています。ですから、この手を血で染めることも覚悟しています」
高貴なるものの務め、それは大義のため戦場というこの世の地獄に身を置くことをいとはない覚悟を示す言葉、と私は幼いころから家の中で課せられた英才教育から理解している。
鋼魔は倒しても心の痛まない絶対悪ではいてくれない。鋼魔兵でなくとも取り込まれた人の救出が叶わぬまま倒さざる終えなかったこともあったと隊長からお聞きした。
「じゃあ、僕もそんな風に……」
彼なら私の考えに合わせてくれるだろうそう感じていた。だけれど……
「いいえ、以前は私の意志に服従してもらわないと困るなんて思っていましたが、今はレオが一方的に私に合わせるのは違うと考えています」
「……え?」
キョトンとした顔を見せる彼に私は言葉を続ける。
「あなたの足を重くして、刃を鈍らせているのは優しさでしょう?当たり前の人間ではないあなたが命令や、プログラムの外で人に寄り添ってくれること……私はそれがとても尊いことに思えました。戦いという現実に対してはやはり手を汚す覚悟というものは必要でしょうが、私はあなたの持ってくれた優しさを踏みつけにはしたくないと思います」
「じゃあ、どうするの?」
当然の疑問だ、それに答える義務が私にはあるのだろう。
「きっと正解はありません。でも、私は考えたいのです。道理や規範に囚われない私とあなたにとって一番いいスタンスを」
鋼魔兵と戦っていた時、隊長のペアはその双方がよどみなく自分の請け負った分を処理していた。それは二人の間に確固たる信頼感と戦う上での理念の共有ができているからだろう。とても、理想的な働きぶりに思えたが、それだけが絶対の正解というわけではないはずです。
「一緒に探してくれますか?」
それはすぐに見つかることではないのだろうし、一生見つからないかもしれないものだ。それでも、レオは強くうなずいてくれました。
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