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EP26 流される血の意味 中編  

リアルが落ち着いてきたので毎日投稿を再開します。


Side:碧乃


目の前の人型の群れを、ノクストスは無言で切り裂いていく。横一文字に裂かれた彼らの胴体は足元に落ちることはなく私の脇を横切って、後ろの方へ通り抜けていく。

 おかしいのは地面に平行に立っている私の方だ。だからだろうか、ノクスが次々と鋼魔兵を斬り伏せていく光景に現実感がない。


「マーシー!あなたが本体を狙って!」


 隊長の指示で私は我に返る。鋼魔兵はビルの周りにも出現している。逃げた街の人々を狙っているのだろう。神名さんの言うように鋼魔兵がゾンビのような性質を持つなら放置はできない。だが、ビルの中にまだ取り残されている人のことを考えると攻めることを止めるわけにもいかない。隊長とイケートたちは鋼魔兵の方を抑えに行くようだ。なら、私は……やるしかない。立ち塞がる全てを排除して、ビルドーガを倒さなくては。

もう、助けられないとはいえ人だったものを殺すのは抵抗があるし、吐き気がするような不安が湧き上がってくる。

私はそれをしょうがないとすぐに割り切れるほど賢くはないけど、汚れ仕事をノクストスにすべて押し付けて平気でいられるほどバカではない。

 彼は汚れ仕事を全て被る気でいる。リンクからは動揺のようなものは感じない。

押し殺している。ノクスは心のない人形ではない。彼だけに背負わせるのは絶対に違う。一緒に背負うんだ。私は彼の魔法少女なのだから。

 忌避感からくる手の震えを、ステッキを握り込むことで、抑え込む。

 筋肉に力を入れるのと同じように魔力を流し込む。


「はーっ!」


魔力の刃の伸びたステッキを振りかぶって、鋼魔兵の列に突撃する。


「マーシー…!?」


ノクスは一言だけ驚きの声を上げるが、それ以上は何もリアクションしない。私の意思を汲んでくれている。


“ザシュ!”


 初めての手応えだった。流体を斬るいつもの感覚とは違う、確かにそこにあるもの、生命を斬る感覚。

 背筋が冷える、私は取り返しのつかない罪を犯しているのではないか、そんな重圧が私の足を重くさせる。


「……くっ!」


 でも私は止まらない、それが今しがた切り捨てた人達への責任なのだから。私とノクストスはそんな思いを推進力にして、ビルの壁を駆け上がる。


「ガアァァア!」


 敵の咆哮を足に感じる。もうすぐ相手の腕のレンジに入る。


「ノクストス、私をクレーンに投げて!」


「……!?……分かった……」


 ノクスは私の意図を完全に理解できたわけではなさそうだったが、迫るクレーンではない方の腕から私を逃がすように、上方向に投げてくれる。


“ピコンッ♪”


“ビュンッ!”


私は自分をハンマーで叩き、軌道を調整して、ワイヤーと釣り鐘を交わす。


「えいやっ!」


ビルドーガの上まで上がる直前、すれ違ったクレーンの先を叩く。


“グォン!”


「グオォォォ?」


 巨体と長大なクレーンの重みをビルに根を張ることで安定させていると見えるビルドーガ。重心から離れた位置に強大な重力がかかれば体勢を崩さざるを得ない。


“ビーンッ!ビーンッ!”


私は空に堕ちるという変則的な、動きで目からのビームを躱して、陽動を掛ける。


「ここだっ!」


ノクスが自らの重みで曲がってしまったクレーンの、曲り目を重ねた二振りの刀で斬りつける。


“ギャンッ!”


「ギャァアアア!!」


鉄がねじ切れる破裂音と腕をもがれた怪物の慟哭が一帯に響く。

数十メートルの質量の塊、ただでは地面に落とさない。


“ピコン♪”


軌道を変えるたびにハンマー出た叩く動作が必要なのは手間だが、それだけで私は重力を味方にして飛べる。


「魔法少女には似合わない手かもだけど、やるしかない!」


“パコン♪……ゴゥン……”


落ちかけていたクレーンの腕を打ち上げるように下からハンマーで叩き、反重力を発生させる。


「くぅ……」


かなりの大質量を持ち上げるので魔力がゴリゴリと消えていくのが分かる。この攻撃を外したら一発でアウトだ。


「俺が攪乱する……!マーシーはそのままいけ!」


助けを乞うまでもなく、ノクストスは動いてくれる。体勢が完全に崩れているビルドーガの身体へ取り付いて、その体表のあらゆる場所を斬りつけている。さすがに致命傷とまではいかないが、反撃の余裕を与えないぐらいには効いている。ならば私は落ち着いてトドメを準備するだけだ。


「あなたの腕、お返しします!」


クレーンの折れて鋭利になっている方を向けて、ビルドーガに向かって斜め下にアームを動かす、作用する重力が弱いのかその杭の速度は遅い、しかしその質量は敵には致命的だった。


“ギィー!……ギギギ……‼”


「アゴオアァー‼」


アームは顎を抉り落しながら、ビルドーガの胴体をぐずぐずにかき回していく。

根を張った腰の部分も、でたらめな質量のエネルギーの前にビルの屋上部分からはがれかかっている。なぜかは分からないがビルドーガの本体には人間は取り込まれていない。その事実は遠慮が要らないことを示している。ダメ押しだ。


「えぇーい!!」


“パコンッ♪”


斜めに刺さっていく杭のお尻を更にハンマーで叩いて、刺さる力を強める。刺さる力、と言っても杭は杭の入射角度のままに落ちていると言える。


「ボゲヤーッ!!」


ついにビルの屋上と腰が繋がりを保っていられなくなり、ビルドーガの上半身はビルのはるか下のアスファルトへ墜ちていく。


“チュドーーン‼”


効き心地の悪い金属音が土煙と一緒に、あたり一帯に広がっていく。


煙が晴れて、落下地点を見た時ビルドーガはダメージ限界を超えていたのか崩壊しており、そのクレータには墓標のように刺さったアームと2つの核だけがあった。


「2つの核、だから人を直接取り込んでいないのに大きかったのか……」


隣で私を抱えるように支えてくれているノクストスが声を漏らした。ターベルフと同じ強力な鋼魔獣。強力なはずのそれを撃破できたことは自信に思っていいものか。


「まぁ、本当にあなた達で倒してしまったのですね」


「イケート、鋼魔兵の方は対応できた?」


イケートとレオリオスが大きな道の向こうから戻ってくる。ドレスの汚れから見て、彼女も鋼魔兵に対して直接手を下したのか。


「ええ、数が多いので時間はかかりましたが、しっかりと全滅させました。二次的に襲われた人も出さずに済みましたわ」


イケートは普段は見せない何か思いつめたような表情をして答えた。彼女にとっても鋼魔兵への対応は気軽にこなせるものじゃないようだ。すこし、安心してしまった。


「ねぇイケート、私さっきの攻撃で魔力を使いきったの。ゼロ化、お願いできる?」


「はーっ、せっかく私を差し置いて戦果を挙げたのに、それでは私がおいしいとこだけ持って行く女のようではありませんか」


イケートは呆れたような、張り詰めた糸が緩むような顔をして、ゼロ化を行ってくれた。


「遅れてごめん。しっかり敵に対処してくれたみたいね」


イケートとは別方面で鋼魔兵の対応に当たっていた隊長がアルギニアスと共に戻ってくる。


「鋼魔兵……厄介な性質もそうだけど、命の扱いについてもみんなで話しあわないとだね」


隊長の言い分に私とイケートは静かに頷いた。


 ※


その後の調査で、ビルの中にいたはずの人はビルドーガに取り込まれることはなく、何処かへ、連れ去られたようであると判明した。


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