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EP24 鉄の心、鉄の胃袋


Side:ノクス


「す、スゲー!なんだこの速度と動き!」


 全開の戦いから数日、一応変身形態に変身した俺とアルスは、地下に設けられた空間で模擬戦をしていた。訓練を始めてからの日課のようなモノだ。

 アルスは凄いと褒めてくれるが、それはこちらのセリフだった。二刀流で距離や方向をバチバチに変えていきながら攻めているのに相手は全部捌いている。しかも一歩も動いてない。


 天にそびえる巌ってことか。


「記憶喪失なんだろ?何でそんな動きができる?」


アルスは武器を構えながら訊いてくる、当然の疑問だった。俺も実は知りたかったりする。


「分からん、身体が覚えてる感じなんだ。あとこの刀って武器、きっと似たようなものを握ったことがあるのかもと思ってたりする」


この二振りの刀、本格的に手に馴染んできた。烈光と斬影、そんな銘を一実がつけてくれた。


「なるほど~、そいつはいい手がかりだな~」


そんなことを言いながらアルスは武器を構えなおした。つくづくこいつは良いやつだ。


「なぁ、次は俺から仕掛けてみていいか?」


「望むところだ!」


「行くぜ!」


俺の返事から間を置かず、奴は大剣を振りかぶって突撃してくる。

ヤバい潰される!

本能的にそう感じた俺は寸でのところで斬撃を後ろに受け流すようにする。


“バギンッ”


衝撃を殺しきれない。腕や身体にダメージはないものの後ろに吹き飛ばされる。

なんつーパワーだ。あれ練習用のレプリカのはずだ、魔力の方も戦闘出力でもないのにもろに食らってたら死にかねない。


「お前、今の……」


「へへ、ちゃんといなせるって思ってた……」


「怖い先輩だよ」


次はほぼ同時に踏み込んで撃ち合う。ダメだ、あのパワーを正面から受け止めると刀が一瞬で終わる、受け止めず流し、一撃を入れるための隙を作る。

しかし、相手の体幹が全くぶれない敵はどんな方向からの攻撃も受け止められてしまう。

 だが、スピードは基本的にこちらが上だった。見てから回避もできる。おそらく相手はパワーを主軸にオールマイティーに戦うコンセプトで作られてる。

 一方俺は多分スピードを主軸に戦うことを想定して作られてる。器用貧乏そうなアルスをスピードでかく乱すれば勝てると思ったが、すでに相当な修羅場をくぐってきたらしい奴はそう甘くはない。

 その後も何十合と打ち合っていたが、互いに有効打は与えられなかった。

 

 ※


「いやー悪いなー、お前の練習相手になるはずが途中からテンションが上がって来ちゃってさー。むしろ、俺が練習させてもらった感じになっちまって」


模擬戦の後、控室でアルスが声をかけてくる。


「気にするな。俺も練習になってたし」


「お前の実際の年齢が分からんが、対等以上に感じてるんだ。周り弟みたいな後輩ばっかだから、その……フランクに接して欲しいっていうか」



アルスは恥ずかしそうに頼んでくる。最強の勇者も寂しさを感じているのだろうか、いや、だからこそなのだろうか。


「お前がその方がいいなら、そうする」


「やった……嬉しいぜ」


まただ、ヘリでも見た太陽みたいな笑顔。この顔は戦場でする顔じゃない、最強の勇者の根っこになりはしても人々が勇者に求めるものではない……気がする。むしろこんな顔をする存在を戦いに出してはいけないそんな罪悪感が湧いてくるほどの顔。

 この男も求められている姿であろうと仮面をかぶったりしているのだろうか。


「無理、してたりするのか?」


「え……ああ、対等な相手がいたらいいなとは思ってるけど、取り繕ったりはしてないから無理はしていない……と思う」


納得と疑念が半々、こいつは根っこからの勇者だ。きっとみんなが想像する勇者そのままの性根をしている。そこに裏も表もない。それでも気を張って生きていたりはしそうだ、

本人にも無自覚なプレッシャーがあったりするかもしれない。


「それで、ノクスの方は魔法少女とはうまく言ってるか?」


話題のボールがこちらに投げられる。


「俺としては順調そのものだ。一緒にご飯を食べて、俺の勉強に付き合ってもらったり、一緒に映画を観たりしてる。最近は漢字を覚えて読み書きができるようになってきた。あいつの心情は分からないが、俺としては最高以外の言葉はない」


勇者の使命を抜きにしても楽しい生活だ。俺は幸せ者なのだろう。


「そうか、同僚としては言うことはないな。……そういえばお前は飯が食えるんだったな」


逆に目の前の男はそんな基本的なことが出来ないのか。


「飯ってどんな感じか聞いていいか?おいしいってどんな感じか気になるんだ」


「…………言葉にするのは難しいな」


辛い甘い苦い、どんな味かを説明する手段はいくらでも考えられるが、味とは?おいしいとは?みたいな哲学的な質問に答えるのは今の俺には難しい。


「そ~だよな……質問を変えるぜ。一人よりみんなで食べた方が美味いってのは本当か?」


「それは誰かと食うかにもよるんじゃないか?」


それは忌憚のない意見というやつだった。


「そりゃ一人で食うより一実と食った方が楽しいし、いいなって思うけど、見知らぬ誰かと食べるぐらいなら一人の方がいいかなって」


「やっぱそうかぁ!?う~ん、そうなると翼は俺と食っても楽しくないってことなのかな」


何故そこで隊長さんが出てくるのか。添い寝するほどの距離感でそうなるのだろうか。まぁ、想像するに一緒に食うと言っても彼女がご飯を食べているのを見ながら駄弁る形になるんでしょうが。


「翼は俺と食事するの楽しいと思ってくれるかな」


「隊長さんとご飯食いたいのか?」


「それもそうだが、一番はあいつにちゃんとした飯を食ってほしいんだ」


アルスはい㏍っ気に神妙な表情を見せる。


「隊長碌な食事しないで、あのハードメニューこなしてんの!?」


一実が死にかけるような訓練を涼しい顔でこなしている隊長さん、よっぽど低燃費なのだろうか?


「栄養は足りてるんだよ。必要な栄養を計算して、サプリとか栄養食材で済ませてる。時間も浮かせて休息に回してる」


そのストイックさが、彼女を最強たらしめてるのか。だがアルスは現状に不満があるらしい。


「合理的っつたらそうなんだが、ロボの俺から見て必要な栄養だけ充電してるだけっつうか、人間味がないんだよ」


パートナーにそこまで言わせてしまうほど切り詰めた生活どのようなものなのか、想像もつかない。


「俺ロボットだから実感を持ってるわけじゃないけど、心の栄養的な?ご飯を食べるっていう腹を満たす以上の意味があるってことは分かってるつもりだ。だからせめて食事ぐらいは楽しんで欲しいんだ。美味しいと思いながらしてほしいんだ」


切実な願いだ。でも食事に関して妥協して欲しいなんて提案、とっくにやっているだろう。


「それ、俺に言ってどうする。一実にも説得してもらうか?後輩の言うことなら聞いてくれるかも」


「ああ、そっちじゃないんだ。あいつ、自分に厳しすぎるから自分を甘やかせって提案はあんまり聞いてくれない。だから、もし……俺が一緒にご飯食べた方が楽しいから、一緒に食べてって頼めば聞いてくれるかなって」


なるほど、大切なパートナーが楽しむためってアプローチなら聞いてもらいやすいかもしれない。


「で、ここからがノクスへのお願いなんだけど、デマンド・サーキットだけじゃなくてさ。消化器官の方も解析に出してもらえないかなって」


ああ、話が見えてきた。


「分かった。今度、妖精界の偉い人が来て隅々まで解析するんだと、その時に腹の方も見てもらえないか一実に聞いてみる」


「マジか!本当に助かる……こいつ、ノクスとも二人で飯食いたいな」


アルスはまたあの太陽の笑顔を向けてくる。

こいつ、人たらしか……。


最近忙しいので途切れ途切れになりそうです。


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