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EP20 日常の始まり


「そう言えば話してた違和感って具体的にどんなのなの?」


食事とその後片付けを終えた後、手もち無沙汰になった私はさっきの話の続きをしようといまだ食卓に座っていたノクスに声をかける。


「いろいろあるんだが、そうだな……あ、さっきその飯、弁当って言ってたっけそれを買うとき、『お金』出してたよな」


私は先ほどの出来事を思い出す、お店の中でノクスは物珍しそうにまわりをきょろきょろ見ていたが、それ以上は何もせずにずっと後ろをついてきてくれていた。


「うん、そうだね。ノクス、お金が何かについては分かる?」


金銭感覚のすり合わせは共同生活を送る上でも、大事なことだと思うので一石二鳥な話題だ。


「ああ……お金、物の取引をやりやすくするために間に挟むもの……みたいなもんだよな?貴重なものを手に入れたりするときは量が必要になる大事なモノ」


「大体そんな感じだね、お金の概念については分かる感じなのか……」


ならどこに違和感があったのだろう、その疑問を口にするまでもなくノクスは答えてくれる。


「その時、ヒトミは紙きれと丸っこいものを出したよな?あれがお金であってるか?」


ノクスの言葉に、財布の中から一枚の1000円札と100円玉を取り出す。


「そうだね、あってる」


「そう、それそれ……それ見た時さ、それがお金か?お金ってそんなんだったか?みたいな気持ちになったんだ」


なるほど、体が覚えているものとギャップがある的な違和感だろうか。


「じゃあ、ノクスにとってお金がどんなものか、分かる?」


「ん~、違うと言ってなんだけど、具体的には上げられない感じなんだよな~」


私はスマホを取り出して、通貨について調べてみる。歴史の授業の思い出と一緒にいろいろ出てきた。

そこからいくつか実例の見せてみる。歴史の中で大体の通貨はやはりコインとか金貨とかそういうものが多そうだ。私にとってはお金と言えば札束だが。しかし歴史の中では色んな通貨がある。スマホの画面で実例を見せ点見るが、どれもピンとこないようだ。

もしかしてと思って交通系ICでとか電子マネー的なものかもかと思ったがそれもちがうっぽい。もしかしてこの世界のお金じゃないとか?

 その考えが思いつくとその確率が高いような気がしてくる。冷静に考えると、別世界のお金ってなんだよって感じだが、魔法少女や、勇者は冷静に考えるような存在ではないと思う。


「妖精界のお金はさすがに分かんないな……」


「妖精界って鋼魔や俺みたいなゴーレムがいるっていう別の世界だっけ?」


独り言のつもりで言った言葉を彼は聞き逃さなかった。


「そう、教官がノクスはそっちで作られてる可能性が高いって言ってた。ああ……そうだ~そうなるとこっちのいろんなものに違和感あるの当然っちゃ当然だよね」


妖精界出身という情報も十分ノクスのルーツを探る手がかり、になりえるが逆にそこに行きつてしまうと掘りようがないというか……。あそこは色んな常識が違いすぎて私のような魔法使いもどきでは分析の使用もない。


「う~ん、そっか……うう……」


「あ、え?どうかした?」


突然テーブルに突っ伏して呻きだした私を心配して声をかけてくれる。


「大丈夫、私が勝手に盛り上がって、勝手に盛り下がってるだけだから……気にしないで」


断片的な情報から真実を導き出す私!みたいなミステリーのワクワクを感じていたところに巨大な壁にぶつかって出鼻を挫かれた感じだ。なぜかガン萎えしてしまう。


「今度、妖精界から頭のいい人が来てノクスを調べるらしいから、その時にお金のことも聞いてみようか」


「そうなんだ。ならそうしよう」


「他に、聞きたいこととかない?」


「う~ん、その場その場ではいろいろあるんだが、とりとめがないから今はあんまりって感じだ」


「そっか、聞きたいことが出来たら、その場で何でも聞いて?」


「分かった。頼りにさせてもらう」


話がひと段落したところで、やたらデカい窓を見ると外はもう真っ暗った。


「さて、気分も変えたいしお風呂入ろっか」


「お風呂、いいね」


ノクスを構成する魔法処理された生体金属は人肌のように随時更新されているらしい。つまり、垢が出る。毎日のお風呂が無駄になることはないだろう。


「あっ!先輩と違って一緒には入らないよ!?」


私はさっきの話を思い出し先に断っておく。


「そ、そりゃあそうだろ男女の距離感は互いのためによく考えた方がいいって、認識は俺にも備わってる……まぁ、俺が男かどうかは正直微妙だけどな……先、入っていいぜ」


私一人が慌ててしまった。これじゃ私が一方的に破廉恥なこと考えてるみたいじゃん!恨みますよ先輩!


「う、うん……」


 私は逃げるように脱衣所のドアを開ける。


「ホテルかよ……」


自然に声が出るレベルの豪華なお風呂場だった。

お風呂の方はかけ流し装置とかジャグジーがあった。最高だった。


 ※


「ノクス?」


お風呂から上がり、パジャマに着替えて脱衣所を出る。すると涼しく気持ちのいい風を感じた。風の来る方向には、ノクスが立っている。あのデカい窓を上げて外を見ていた。


「くらくらするぐらいのいい景色。ホントは私みたいな凡人が眺める景色じゃないんだろうなって思うくらい」


私は彼の横に並んで彼の見るものを見てみる。高層ビルから見下ろす東京の景色は、目に刺さるほど眩しい。


「ここ、俺たちが守ったんだろ?それってすごいことじゃないのか?」


「え?」


教え諭すような、優しい声が横から聞こえた。


「こんなきれいな街がきれいなままでいられたのはヒトミが勇気を出したからだろ。それがすごいことでなかったらこの世界にすごいことなんてないんじゃないか?」


 そうか、この景色を守ったのは私とノクスでもあるんだ。


「そっかー、私って案外すごいのかー、えへへ」


そんな新しい発見と一緒に二人で過ごす初めての夜は過ぎていった。


 ※


 前言撤回、私は凄くないです。


翌日、私はランニングコースで走りながら死にかけていた。


「ひゅー、ひゅー」


息を切らしすぎて変な息が出ている。養成学校の時もそれなりに走っていたがペースも距離も比じゃない。その時もぎりぎりを責める感じだった。今は正直言って地獄だった。


「ほら、たいちょー碧乃が死にそうですー」


何で前を走ってる真央さんは、息が上がってすらいねーんだよ!化け物かよホントに!


「成績はアレって聞いてたけど……意外と本当にアレなんだ、碧乃さん。実戦ではあんなにすごかったのに……」


「ぎひっ!」


トドメを刺さんばっかりの言葉の矢が先輩から放たれる。心が痛すぎる足を止めてしまいそうだ。


「切り上げる?碧乃さん」


隊長がそう提案してくれる。しかしダメだ。魔法少女に関することなら泥水啜ってでもやり切る。それが私だ。


「走り切ります!碧乃一実はぁ!根性の女です!」


そんなことを叫んで、無理やり足を前に進める。


 ※


「で、帰りの体力がないと」


私は、帰り道でノクスに負ぶわれていた。ランニングとの訓練で本当に体力を使い果たした。彼の背は大きくて暖かい、跨った時は気づかなかった。


「ねえ、ノクスはアルスさんとの訓練どうだった?」


「組手してぼこぼこにされた」


「ウソ」


「え!?なんで分かったんだ!?」


「え?ホントにウソなんだ……」


「あ……」


私のバカ、気を使ってくれたのに。


「ホントは……結構いい勝負してイーブンになった」


「そりゃそうだよ。ノクスはすっごく凄いんだから……」


「そこまでじゃないよ……」


ノクスの背は包み込むような優しさを持っていて意識まで預けそうになる。


「ノクス……」


「なに?」


「今の私、あなたほどは凄くないけど、絶対にすごくなってみせるから、あなたと同じぐらい」


「すぐになれる……寝とけよ。明日もやるんだろ?」


「うん……」


なれなくてもなる。そんなことを思って私は意識を背中に預けた。


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