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EP17 星見盤

このパートにこんな文字数を割くつもりではなかったのですが。


「こ、この内容だと死人が出るぜ!?」


 真央さんは、示されたメニューに抗議するように大きな声を上げる。メニューの内容は基礎的な筋トレやランニングはもちろん、魔力量を増やす鍛錬、魔法行使の訓練、武器の扱いの訓練、戦術研究よりとよりどりみどりのもりもりだ。


「私は行けるけど、碧乃とか一日で干からびるぞ!」


 いや、あんたはいけるんかい!と私は叫びたくなった。だけど行けるんだろうな、とも思う。彼女の身体能力は文字通り規格外だ。常人なら壊れるような過酷なトレーニングも涼しい顔で乗り切りそうだ。ん?そうなると彼女は単純に私を心配してくれているともとれる?複雑だ。みくびらないで欲しいとも思うが、同時にそうなるだろうなという納得もある。


「こなせなければ、それこそ死ぬだけ」


 そういう隊長の声に私を慰めてくれた時のような優しさはなかった。いや、むしろそれも彼女の優しさの現れ方の一つだということぐらい私にも分かる。加減した訓練に意味はない。敵は手加減などしてくれないんだから。訓練でだめなら、間違いなく実戦でも駄目だ。なら私は、歯を食いしばってしがみつくだけだ。これまでと、同じように。

 

「うへ~、なんか教官みたいなもの言いっすね先輩」


「……っ!?それはちょっと嫌かも……」


真央さんが何気なく言っただろう一言に先輩は明らかに顔をしかめる。ああ、流石に先輩にとっても教官が似たくはない存在なのか。ちょっと親近感。


「……おほん、最初が肝心ということで、流石に知っているだろうけど一応、自己紹介から始めようかな」


その言葉と共に先輩の顔が引き締まったので私たち8人は、背を伸ばして彼女の顔をまっすぐに見つめる。


「私の名前は星原翼、魔法少女としての名前はシンセリー・テルス」


もうイヤというほど聞いた名前のはずだったが、なぜか聞くだけで心が熱くなるようだと、ミーハーな私は思ってしまう。


「もうかれこれ3年近くは実戦に出ている。その実績もあってこの魔法少女部隊、プラネスフィアの隊長に任命された。みんな、よろしく」


 隊長が頭を下げると同時に、私たちは誰からともなく拍手を始めた、戸惑いながらもノクスまで付き合ってくれる。

先輩は手で恥ずかしそうにしながら私たちを制し、隣にいる相棒も紹介する。


「ありがとう。こっちが私のパートナーであるアルニギアス。立場は副隊長ってことになってる」


「人間の時はアルスでいい」


アルスさんはその場で小さく頭を下げた。


「私たちは軍属ではないから堅苦しい上下関係みたいなのは気にしなくてもいい。だけど互いの命を預け合って戦う戦場ではルールが必要。そういうことだから、現場では私の命令には必ず従って」


みんなは隊長の頼みに素直にうなずいて同意した。彼女の下につけることそのものがとても名誉なことだ。異存など出るはずがない。


「そしてここからが本題、私たちのこれからについて。当分は手元に渡したメニューを当たり前にこなせるまで繰り返す。力と精神力と、そして何よりもチームワークを身につける。多分とっても辛いと思うけど、私たちは選んでここまで来た。やるしかないよ」


 隊長の言葉は自分の一つだけ上の少女のモノのとは思えないほど堂々としていて、大人びていた。どうしたらあんな風になれるのか。想像もできないけど、彼女の言う通りそうなるしかないのだと私も覚悟する。


「そして鋼魔が出たらすぐに行って、倒す。今までは私とアルスの二人だけだった。でも今はみんながいる。みんなとなら、今までよりもうまくやれる。これまでよりももっと多く人を救える。私は絶対にそうしたい」


話題が鋼魔に移ると、隊長の語気が強くなる。そうさせるものは、人々を守らなければという使命感か、それとも鋼魔への敵意か。


「先日、鋼魔人と思われる敵性個体とも遭遇した。今後、戦いは激しくなっていくと思う。だから、鍛錬を妥協している余裕は私たちにはない。明日から、みんなで頑張ろう!……えいえいおー!……う~ん……ん~……ごめん、最後のは忘れて……あっ、いや、みんなで頑張ろうって言うのはめちゃくちゃ大事だから」


 最後の最後に隊長は年相応に恥じらう様子を見せてくれる……最後の芝居がかったえいえいおーの動きと掛け声は……たぶん教官のイメージから離れたくて、取り入れたのかな。みんながどう返そうか困っている。言った本人もやった後で違うなと思っていそう。

 結論としてそんな天然さも可愛い。


「……私からはこれぐらいかな。みんな、確認しておきたいこととかある?」


「すいません、俺たち勇者ロイドはなにするんですか?」


アーシュ君が投げかけた質問に、腕組み姿勢で壁にもたれかかって待機していたアルスさんが前に出てくる。


「それについては俺が、答えよう……勇者諸君には筋トレやランニングの補助をやってももらう予定だ。訓練の中に変身状態で模擬戦をやってもらったりもする。その時はバリバリ戦ってもらうぞ……あとは、過酷な鍛錬に挑むパートナーの応援があるな……」


「……分かりました。頑張ります」


アーシュ君は納得したようだ。しかし、彼の横から声が掛かる。


「お前、ちゃんと俺を応援してくれるのか?心が籠ってなさそうで力が出せないかもしれないぞ」


いたずらっ子のような意地悪な笑みを浮かべて真央さんはアーシュ君にちょっかいをかける。


「茶化すな。基礎トレのサポートすらしてやらんぞ」


「はは、ごめんごめん。冗談だよ、冗談。お前のサポート頼りにしてるぜ」


 反抗してみる犬のようにそっぽを向いた彼に、彼女は太陽のようににこやかに笑いかける。

 そんな彼女の顔を見たのか見てないのか分からないが、彼女は前に向き直り、鼻で息を鳴らした。あれ?ひょっとして今私はものすごいイチャイチャを見せつけられているのではなかろうか、学校ではそうでもなかったはずなのにいつの間にあんなことになった。男児三日会わざれば刮目してみよ。ということなのか……いや、なんか違うか……。

 

そして私は確認しておきたいことを思い出す。


「あの、流石にノクスは周りになじむ時間が必要で……急にみんなと同じことはできないと思います」


「ああ、そうかもな」


手を上げて話した。私の意見に彼自身も同意してくれる。


「そのことについては安心してくれ、しばらくは俺がつきっきりで組織の常識とか、戦闘に関する知識のすり合わせをやる」


「おおー、羨ましいな。僕も兄貴にレクチャー受けたい」


そう言ったのはレオ君だった。


「はは、嬉しいなぁ……大丈夫だ、代わりと言ってはなんだが、ママから特別シミュレーションプログラムを用意してもうことになっている」


「ママから……」


「それは楽しみです」


「頑張らないとな」


その名を聞いたノクス以外の3人の勇者たちはそれぞれ反応を見せる。


「ママ?」


アンドロイドとママの単語のかみ合わせの悪さに、ノクスも疑問を持ったようだ。


「ああ、みんなを作った技術者の前園真理博士のことだよ。名前もあって勇者ロイドのみんなはママって呼んでるの」


私は彼に顔を寄せて耳打ちする。


「作った技術者……なるほど」


カッコいいイケメンのお兄さんの口から出てくるのは少しギャップのある言葉だけど、最古参のアルスさんでも3才ほどであることを考えると、自然なことのようにも思える。形は違うが、彼らにとって前園博士は間違いなく母なのだった。

 でも、そんな彼女はノクスの解体を推していた人物でもある。彼にとってはあまり馴れ合える存在ではないのかもしれない。もちろんそれをわざわざ伝える必要はないのだが。


「今日のミーティングは以上だよ。明日から頑張ろうね」


「はい!」


連絡事項を伝え終わったので、一同は解散しそれぞれの帰路につく。


「いろいろやることいっぱいで大変そうだけど、お互い頑張ろうね!」


「ああ、自分で決めたんだ。どこまでもヒトミに付き合う」


ノクスと一緒に決意を新たにする。


「そうだ、碧乃さんあなたは同棲するの?」


私も帰ろうとしていた時、隊長が呼び止めてくる。


「ん?どうせい?なんのことです?」


私は隊長が何のことについて聞いているのか分からなかった。


「……?正式に魔法少女になって、学生寮から引っ越すでしょう?自分の勇者と同棲するかしないかどうするのかなって」 


やっと聞かれていることを頭が理解しだして、血の気が引いていく、やらかしたことの重みを感じて膝が震えてくる。


「……………」


「……あれ?どうしたの碧乃さん?」


「あ゛ーーー!!引っ越しのこと完全に忘れてたーーー!」


篠宮さんが弄っていたスマホを取り落すほどの絶叫をしてしまう

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