EP15 過去の引力
大分難産だったので後でだいぶ編集するかもです。
黄色い瞳が特徴的な銀髪を短くまとめた私と同じぐらいに見える女の子。宙に浮いていることを除いても明らかに遺物であると感じる独特な雰囲気があった。ただそのドレスが魔法少女のそれに似ていると感じたのは気のせいだろうか。そしてどこか見覚えがあるような気がする。
「お前、なんだ?」
最初に口を開いたのはノクスだった。私は、後ろから寄り添ってくれている彼を下から見上げた。その顔には強烈な警戒の色が浮かんでいる。もちろん宙に浮く少女が普通なものであるはずがないが、リンクは切れているので直接伝わってくるわけではないが、それ以上のものを感じているように思える。
「覚えていないのか?3000年の時で記憶機能が劣化したのか……」
黒いドレスの少女は私たちを見下すようにして言ってくる。可愛らしい姿には似つかわしくない高圧的な声音特徴だ。3000年という言葉が出てくるということはノクスも彼女も、先代の戦いからの生きているということなのか。
「……お前は俺を知っているのか?」
少女の訳知り顔に、反応したノクスは問いただす。
「ああ、知っている……よーく、な。お前も私を知っているはずだ」
彼女は蠱惑的な笑みを浮かべて答える。
「それなら……」
「待て、たぶんこいつは俺たちの敵だ」
ノクスの言葉を遮って、アルスが彼女を敵だと断じる。そして、警戒しろと言って変身解除の時、魔法で格納されていた大剣を取り出し彼女に向ける。
「どうしたの!?アルス」
星原先輩はアルスさんの尋常ならざる様子に困惑の声を上げる。そう、まだ碌に会話をする前に、武器まで構えるとは勇敢さと同じぐらい優しさが重視される勇者に似つかわしくない行為だった。
「俺の術式……本能が言ってる、こいつは鋼魔だ」
「確かに、最初にあのイタチとあった時と同じ……いや……あの時よりずっとイライラする」
自分について分かるかもしれないという可能性に、冷静さを失いかけていたノクスは、アルスさんの言葉で、まずは警戒に徹することにしたようだ。本能で感じるということは、アルスさんの言っていることは間違いではないのだろう。
「ふふ、確かにそう。私は鋼魔人。新しい勇者にとっても私たちは問答無用で敵……というわけか……」
少女はあっさりと明かした。鋼魔人。妖精界からの情報によると、彼らはまだ封印を破り切れていないため、先に尖兵として鋼魔獣を送り込み、人を吸収することで力を蓄えようとしているらしい。しかし、鋼魔人が直々に表れたとなると奴らの侵攻が次の段階に来ているということなのかもしれない。
私はそのような考えに至って、自分がいまだ死地にいることを自覚する。けどさっきまでとは違って私に対抗する手段はない。そう思うとすさまじい恐怖が襲ってきて、私は震えてしまう。
「俺の何を知っているんだ!?俺とどういう関係だ!?」
どうしても知りたいと思っていることの手がかりが目の前にあるからか、ノクスは声を荒げて問いただす。
「さぁ?教えてやる義理はないな」
「…………」
こちらを嘲るような態度で彼女ははぐらかす。
「ふざけたやつだ。何が目的だ!?」
黙り込んだノクスの代わりをするようにアルスさんはこちらの不利を悟られぬよう、すごい剣幕で威圧を続ける。正直に言って大ピンチだ。こちらに戦闘ができる余力はない。後一匹鋼魔獣をけしかけられたりしたら完全にアウトだ。
この状況、どうしよう。ノクスのことを思うと探りを入れたいが、正直意識を保つのも辛い。とても頭を回してどうこうできる状態じゃない、隙を見て逃げるべきか……ノクスは何を望んでいる。下手に会話もできない状況で私はノクスを見る。険しい表情で少女を睨む彼は、一度は鞘に収めた刀に手をかけていた。
「そうピリピリしなくてもいい、その男とマーシーの継承者の顔を見に来ただけだ。やりあうつもりはないしすぐ帰る」
彼女はノクスを指さして言った。マーシーの継承者とは私のことだろうか?
「お前は俺の何なんだ?ヒトミとも関係があるのか?」
質問をする余力もない私の訊きたかったことをノクスは聞いてくれる。
「教える義理はないと言ったはずだ。知りたければ、自分で思い出せ……」
少なくとも少女は何も答える気がないようだった。
「顔を拝んでやるだけのつもりで来たが……お前もその女も、想像通りの憎たらしい目をしている……だが、記憶がないとはいいことを聞いた。来てよかった」
少女は一人満足をした様子だった。
「では私は失礼するとしよう……次会う時がお前たちの最期だ……」
そんな模範的な捨て台詞とともに少女の姿は虚空に消えていった。余裕のない私たちから引き留める言葉は出せなかった魔力も感じない隠れている、とかではなさそうだ。
「何だったんだ……?」
脅威が去ったと自覚した私は、そんなノクスの声を聞き取る前に意識を手放した。
※
Side ノクス
俺とヒトミはヘリなる空飛ぶ乗り物に乗って、元の場所に戻る帰り道の途中にいた。息の時の目の回るような速さと違って、穏やかな移動だった。
ヒトミがぶっ倒れた時は焦ったが、赤髪の勇者によると前の時と倒れた理由は一緒だから、大人しく寝かせてやれとのことだった。ヒトミの先輩だという彼女もヘリに乗った瞬間、泥のように眠り始めた。本当に限界だったのだろう。あの謎の女も気にはなるが何もせずに退いてくれて本当によかった。
「あのさ……」
監視役として向かいの席に、座っている赤髪の勇者、アルスが遠慮がちに話しかけてくる。
「なんだ?」
「そのまずはお礼を言いたい。助けに来てくれて本当にありがとう。二人が来てくれなかったら危なかった」
アルスはまっすぐこちらを見つめて、飾り毛のない言葉で感謝を伝えてきた。
「どういたしまして。俺に記憶はないが人が傷つくのは嫌だって感覚はある。役に立てたならよかったぜ」
あまりにまっすぐな感謝に俺も素直な気持ちを話す気になれた。
「あんた、本当に勇者なんだな。あんたみたいな人が仲間になってくれるなら、すごく頼もしいなって思う。あんたの処遇についてはいい方向に動くように全力で働きかける。結果までは保証できないけど……」
「ああ頼むぜ。俺も死にたくないからな」
アルスの言動からは生真面目でまっすぐな感じがにじみ出ている。こちらに対して負わなくていい罪悪感まで背負いこんでる感じだ。
「あの時も痺れさせてすまなかったな」
「気にするなよ。そういう指示だったんだろ?」
「…………」
「…………」
アルスは最低限言いたいことを言い終わったのか、黙り込み始める。この場でどうすればいいのか、俺には分からなかった。相棒が起きていればもっと話せることもあるのだろうか。
「ああ、そうだ。変にあの黒い女の子の話を遮ったことも悪かった。自分の話、気になったよな」
目の前の男はこちらがいたたまれなくなるほど、問題の責任を自分に求めてしまっていた。どうしようもないこともたくさんあるだろうに。
「それも気にしなくていい。あのまま関わっても碌なことにならなかった気がする。あれでよかったんだ」
「あんた、俺と同じような存在のはずなのにずいぶん大人だな。尊敬する」
「そうか?何も覚えちゃいないからな、何でそう見えるのか見当もつかないが。そういうあんたは何歳なんだ?」
一方的にしゃべられるのもきついのでこちらからも話題を振ってみる。
「うん、俺か?稼働開始が3年前から3才かな~人間の感じ方で見ると変な感じかもだけど」
3才、俺にどの程度人間的な尺度が備わっているのか分からないが、ずいぶんと幼いように思える。行き過ぎて見えるほどの純真さはそれゆえだろうか。
「あんたの方は3000歳かもしれないんだよな。想像もつかない時間だ」
「どうなんだろうな……でも、お前たちと一緒に戦うことになるなら結局お前が先輩ってことでいいと思う。もしそうなったらよろしく頼むぜ」
「あ、そうか?なら頼りにしてくれよ。精一杯頑張るからさ」
俺はまだ、何も分からない。自分のことも、これからどうすべきなのかも。ただ目の前で笑うアルスを見てこいつは底抜けに良いやつなんだろうということは分かった。
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