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EP12 疾走する絆 前編

ここから3部作となります。


Side:星原


 私はアルニギアスと背中合わせになって、二体の鋼魔獣と対峙していた。片方はライトナーガ、もう片方は戦闘中に現れた狼とバイクが融合したような姿の、鋼魔獣。組織の命名によると、『ターベルフ』。四肢の肘とひざあたりにはそれらしいスパイクの生えたタイヤのようなモノがある。


『星原!今、碧乃とその勇者が救援に向かってる。もう少し持ちこたえてくれ』


インカムから、陣屋さんの連絡が入る。


蕨野さんでなく、碧乃さんの方なのか、司令部の方で何があったのか、救援を送れるということは何とかなったということだろうが。


「聞いたね、アルニギアス!後輩が来る前に一体ぐらい倒しとこう!」


「ああ、カッコつけたいからな!」


心を一つにしたところで撃って出る。


「ポエナティヴ・メテロミー!!」


私と彼は前後を入れ替え、本数を固有魔法で倍加した。魔力の矢をライトナーガに放つ。敵は電撃で迎撃しようとするが、こちらの攻撃はそれを飲み下して直撃する。


「んじゃ、次は俺だな。全員、掴み切って見せる!」


私と彼は再び位置を入れ替える。彼は私の魔力で人々が分離しかかっている部位を、自らも大剣に魔力を纏わせて斬りおとす。私はその間、倍加の魔法を応用してショットガンの世に拡散する魔力の矢を放ってターベルフを牽制する。


「分離、上手くいったぜ!」


私はその言葉を信用して、肉眼で確認することもなく空に拡散する魔力の矢を放ち、両方の鋼魔獣を牽制する。


「アルニギアス……回収お願い」


「あいよ」


私の牽制が効いている間に、彼はサブアームを展開し分離された人々を一気に抱えて一時戦線を離脱する。

 さて次はどうするか、牽制は効いているようだしライトナーガの方は特に弱ってきているようだ。


このまま攻勢をかけて、アルニギアスが戻る前にやってしまうか、障壁で魔力を温存しつつ時間を稼ぐか、そんなことを考えて敵の出方を伺っていると。


「ガ、アァ……」


ほとんど瀕死になっているライトナーガがうめき声をあげ、電撃を発する。私は反射的に障壁を張ったけど、そこに電撃が当たることはなかった。


「グウゥ……」


 電撃は私の脇をすり抜けて、ターベルフに向かっていきその背中のパーツに直撃する。仲間割れか?そんなある意味都合の良いことを考えてみるが、現実はそううまくはいかなかった。


「ガアァ!」


 ターベルフは電撃を受けて苦しむでもなく咆哮を上げる。その輪郭には青いオーラが見え始め、さらにその体躯そのものが大きくなってきているように見える。

 鋼魔獣が他の個体にエネルギーを供給している!?


「命ごと譲渡するの!?」


ライトナーガの方は本格的に衰弱し、萎れていく。砂のように崩れたその亡骸から光る玉が浮かんでくる。


「あれは、核!?」


私は撃ち落とすために弓を構えたが……


「ッギガオガァーーー!!」


地を揺らすほどの、方向が私を硬直させる。鼓膜が破れていないのが不思議なほどだった。

 まずい頭が揺れて、動けない!その間にライトナーガの核は、ターベルフに吸収されてしまう。その眼が青白い光を帯び始め、身体中から放電用と思われる棘と触手が生え始める。

 合体したというの!?


「ガオォンッ!!」


ターベルフは、肥大化した腕の長く鋭い爪を振り上げてくる。

まずい躱せない。背筋に冷たい感触が走るが、体は動いてくれない。


「シンセリー!!……ぐはっ!!」


 寸でのところで市民を避難させ終えたらしいアルニギアスが割って入ってくる。剣で受け止めようとしたようだが、相手の膂力が勝り、アルニギアスは振り抜いた腕と一緒に弾き飛ばされてしまう。


「くぅ……!」


しかし彼はビルの壁に叩きつけられる前に、身をよじってビルに垂直になる体勢で着地する。


「まだだっ!」


アルニギアスは大剣を振りかぶりながら、また敵に跳びかかる。


「グゥ……」


“ガギンッ!!”


しかし、右前脚のカギ爪で彼の大剣は受け止められてしまう。


「なにっ!?」


ターベルフは短い咆哮と共に、ライトナーガから受け継いだ電撃で彼を襲う。


「ぐぬぅ……さっきより、威力が……」


彼の身体を軋ませる衝撃がリンクを通して伝わってくる。


「オォンッ!!」


「ガッ……!?」


一瞬の硬直を狙ってアルニギアスを手のひらで地面にたたきつける。


「アルスッ!?お前ぇ!!」


何よりも大事な人を傷つけられ、頭がか―っと熱くなってしまう。私は怒りのままに弓を引いて放つ。倍加の魔法を、ただエネルギーを増強するために使い、最大瞬間火力をぶつける。


「グゥ……ガアッ!!」


一応効いたようだけど、すぐに反撃の電撃が来る。


“バチンッ……ジジジジジッ”


反射的に魔力障壁を張ることが出来たが、それもすぐに破られてしまいそうなほどの圧力を感じる。


「ぐあっ……!」


バリアが割れてしまい、すぐに電撃が襲ってくると思ったが、それはなかった。


「え……?」


“ギュルギュルギュル”


一泊おいてから、敵の触手が四肢に巻きついてくる。


「んっ……!放せ!」


四肢を伝ってお腹や胸にもきつく締めつけてくる。触手たちは私を空中に張り付けるように釣り上げる。

来る!本能でそう感じた私は全身に魔力を流して、身体の耐久力を上げる。


“バリバリバリバリッ!”


「キャーーー!!!」


 全身の細胞が焼かれているような苦痛が全身を襲う。魔力での身体強化が間に合わなければ一発でアウトだったかもしれない。

 完全に動きを封じられた。危機感を通り越した恐怖が手足を震わせる。腕での決定だがすぐに来ると思ったが、来ない。代わりに……


“バリバリバリバリッ!”


「アアアアァーーー!!!」


あの高電圧の電撃が私を襲う。

 何だ?手っ取り早く殺してしまわないのか?


“バリバリバリバリッ!”


「グッ……キャーーー?」


波状攻撃のように一定間隔で私を襲ってくる。まるで私をいたぶっているようだ。このように敵を排除する以外の目的を持った行為を鋼魔がしてきたことはなかった。そんな記録もなかったはずだと記憶している。


“バリバリバリバリッ!”


「……っ!……っ!」


まずい、相手がどんな目的を持つにしろこのままでは私は死ぬ。しかし、今の私になすすべはなくステッキに戻った得物を落とさないようにするだけで精一杯だった。


「くっ……ぐう!」


意識は保っているようだが、アルギニアスも動けずにいる。万策尽きたのか?このまま死ぬのを待つしかないのか?

 恐怖と苦痛……その二つが私の中でぐるぐると回る。これまでも色んなピンチを、困難を二人で乗り越えてきた。それがここで終わりなのか、これまでに命を落としてきて来た仲間たちと同じように、鋼魔の根絶をなせないまま……。嫌だ、まだ私は……。

 納得できない感情で叫びたい……けどできないそのもどかしさでおかしくなりそうだった。


“ギューーーン?”


電撃の音に交じってジェットの轟音が聞こえた気がした。私が目を開けると頭上の太陽の光が遮られ、黒い三角形が見える。あれはOIDOの緊急輸送用魔動ブースター!


「先輩にぃ!何してる!!」


三角形の後ろから、人影が飛び降りるのが見えた。その人彼はピンク色の巨大な魔力弾を放ちターベルフにぶつける。それはかなりの威力だったようで、不意打ち気味に決まったこともあってか、敵をよろめかせることに成功する。


“シュー”


続いて風を切る音が聞こえた気がした。そう思った瞬間私を縛っていた触手が、細切れになった。


「え?」


私は地面に落下していく。


「翼!ううおぉぉぉーーー!」


地面に激突する直前で、敵が怯んだ隙に拘束を抜け出した、アルニギアスが受け止めてくれる。


「大丈夫か!?」


覗き込む彼の表情は戦闘形態では表情は分からない。でもこちらがいたたまれなくなるほどの心配の感情が、リンクを通して伝わってくる。彼は今にも泣きだしそうな子供のようだった。


「大丈夫……大丈夫だから……」


「シンセリー!大丈夫ですか!?」


アルスをあやしきれぬうちに泣きそうな人が一人追加される。


「碧乃さん、来てくれたのね……」


こちらは本当に泣き出しそうになりながら駆け寄ってくる碧乃さんと、その少し後ろにあの黒い勇者が降り立つ。二人が助けてくれたのだ。そう理解した瞬間安心から、私も涙が込み上げてくる。後輩の手前泣くわけにいかず、必死に我慢してアルニギアスにおろしてもらう。


「遅れてごめんなさい」


「いいえ、時間ぴったり。戦いはこれから」


笑顔で強がってみたが、流石に隠しきれていないようだ。私の表情は引きつっているし、ひざは震えている。後輩はいたたまれないものを見る表情を一瞬したがこちらの面子を考えてか、表情を切り替えてくれる。


「じゃあ、先輩をひどい目に合わせたアイツを四人でぶっ飛ばしましょう!」


碧乃さんが、ターベルフを睨んで言う。その後ろの彼女の勇者もうなずいている。


「ああ、反撃開始と行こう」


そう言いながら、アルギニアスが大剣を構えなおしたのと同時に、私も碧乃さんたちも武器を構えた。


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