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EP09 問われる者

出撃シークエンスに力を入れたい。


 4日後、私は審議会に臨んでいた。OIDO日本支部の施設内にある会議室で私は裁判の被告人のように偉い人たちに囲まれて、凄まじい威圧感に襲われていた。しかし、星原先輩とアルスさんが見守ってくれている。私が気後れしていては掴める者も掴めない。


「それで、今回の命令無視と独断専行についてあなたから弁明はありますか」


 声の主はこの場で一番偉いOIDO日本支部長官、岩越美香子だ。彼女は引き締まった身体と、壮年ゆえのしわの刻まれた顔からは、肩書にふさわしい威厳を感じる。養成学校の入学式ぐらいでしか見たことはなかったが、今はその圧力が自分一人に向けられているのだからたまったものではない。


「命令無視とその他の規則違反に関する処罰は甘んじて受けます。ですが、当時取り込まれていた民間人や、取り込まれようとしていた人々のことを考えると、私の判断と行動が間違ったものであったとは思っていません」


「…………」


 私は用意していた言葉を毅然と話す。別に謹慎だろうが留年だろうが私に下る罰は重要じゃない。そうおもえば長官からの刺すような視線も受け流せる。


「星原隊員の意見も聞きましょう」


「はい」


長官の言葉で星原先輩が立ち上がる。


「あの時、私の到着まで時間がかかったので、碧乃さんが対応してなければ、より多くの人が取り込まれてしまったでしょう。その場合、件の鋼魔獣の脅威度が上がり討伐により多くの時間がかかってしまうか最悪の場合討伐不可能に陥っていた恐れがあります」


 そんなことになれば、取り込まれていた人が分離不可能になるか分離できた場合も後遺症が残ってしまう恐れがあった。それが私が避難命令を無視して戦いに出た理由だった。それを理解して肯定してもらえることは私にとってとても嬉しいことだ。



「人命の死守を最優先事項とするのが魔法少女です。それを考えれば碧乃さんはそれを目指すものとしてふさわしい行動をしたと思っています」


 私の行動を、全肯定する形で先輩は話を終える。そこまで無条件で肯定されるのは少し後ろめたい感じがした。


「分かりました。ではすでに謹慎処分を受けていることですし、今回の件は不問にします」


 長官があまりにすんなり私を無罪放免にしたので、他の偉い人たちが少しざわつく。私も拍子抜けというか手ごたえがなさ過ぎて違和感があった。


「静粛に……碧乃候補生については、次の議題いかんによってはこの組織を去ってもらうことになります。その処罰にこだわることはないでしょう」


 一同は、一気に静かになる。そうだ、私の勇者はノクスしかいない。ノクスが解体されるのなら、私は魔法少女でも何でもないただの女の子になる。多少鋼魔に耐性があるだけで命令も聞かない奴を組織の中に置いておく理由はない。


「ですが忘れないでください。なぜ候補生と正規の魔法少女が分けられているのか」


これまでで一番厳しい目を私に向けてくる。それは背筋に震えが来るほどに冷たいものであった。


「正規の魔法少女の任務遂行を行う上で生じたミスや人命の損失は、組織全体の責任として処理することが出来ます。今回は幸いにも人的損害が皆無と言っていい結果に落ち着きましたが、正規の資格のないあなたが独断で動き、人命を失う結果になった場合、その責任はあなた一人が背負うことになります」


 その通りだった。たとえ私にミスがなく、最善を尽くしていたとしても、一つでも命が失われれば、その家族の憎悪や命の責任からは逃れられなくなる。その事実は音から冷静に振り返るとうすら寒い。あの時の私はそれを背負っていく覚悟ができていただろうか、きっとできていなかっただろう。本当に私が戦士になろうというのならその業を背負う覚悟を持たなければいけない。


「続いて、詳細不明勇者、仮称ノクストスの処遇についての審議に移ります」


長官の言葉で、話はノクスのことに移る。私にとってはここからが本番だった。


「前園博士、現在の該当物に対する解析状況を教えてください」


「分かりました」


 長官の使命で立ち上がったのは白衣を着た長髪の美女、前園真理博士だ。彼女は若くしてロボット工学の権威と言われ、勇者ロイド開発の第一人者と称される才女だ。


「我々の魔法技術に関する知見は未熟なものですので、詳しい調査に妖精界からの人材派遣を待つ必要がありますが、現在我々が行える可能な限りの調査を行いました。もっとも解体調査を除いてですが……その結果をお伝えします」


 彼女は科学者らしい理路整然とした言葉と口調で、ノクスのことについて話す。おそらくノクス本人も知らない彼のことだろう。私自身も知りたいことだ。


「まず、ノクストスに存在するデマンド・サーキットと思われる機関からは、非戦闘形態時から現行のそれよりも多くの魔力が出力されています。戦闘時のデータと照合すると想定される戦闘出力は、現行機の数倍に到達すると思われます」


 それから博士はノクスを構成する素材についての説明や、彼が生体に近く部分的にだが代謝があることなどを教えてくれた。


「結論として、該当物ノクストスは勇者ゴーレムであり、それも3000年前に喪失した最初期の勇者に近しいものであると考えられます」


 博士はそう結論付けて報告を終える。教官から聞いていたことではあるが、ノクスが3000年前につくられたかもしれないという部分は、途方もない話過ぎて現実感が湧かない。


「分かりました。では対象への処置に関しての意見のある者はいますか」


「はい」


「では引き続き前園博士どうぞ」


「私は早期にノクストスを解体調査し、高出力デマンド・サーキットの開発の足掛かりにするべきと考えています」


やはり来たかと私は息を呑む。デマンド・サーキットの出力不足は組織の中でよく問題に挙げられていた話だった。


「ノクストスのデマンド・サーキットの再現が叶えば、既存戦力の増強のみならず、インテグレーション・ボディの起動も可能になると考えられます」


 インテグレーション・ボディ、それはより強大な敵が現われた時のための魔法少女と勇者の切り札だ。ハード面は完成を見ているが、魔力出力不足のせいで星原先輩でも動かせていない、難儀な代物だ。だがもし動かせたのなら人類の大いなる力になる、そんな壮大な存在でもある。


「異議あり」


 そう言って挙手をし、立ち上がったのは、高名な魔法使いの家系の出身でOIDOの魔法技術研究を統括している。メガネの男性、神名成典だった。


「魔法方面の見識から申し上げますと、ノクストスは生体に近い構造をしています。よって解体調査を行う場合、それはノクストスの死を意味します。失われた記憶から得られるかもしれない情報、そしてノクストスという強力な戦力になりうる存在を失うことはとても大きな損失です。私としては、ノクストスを戦力として運用しつつ、じっくりとした調査でデマンド・サーキットの再現を通して行うべきだと考えます」


 驚いたことに、私のノクスを殺したくないという意見に賛成してくれる先輩以外の味方が登場した。

 

「戦力として運用?馬鹿げている第一……」


前園博士の反論が始まり議論が白熱しようとしたその時……。


猛々しいサイレン音が施設中に響いた。


『鋼魔警報発令、鋼魔警報発令。鋼魔の出現を検知しました』


そのアナウンスを聞いて、部屋中の視線が星原先輩に集まる。


「星原翼、アルス両名、出撃準備に入ります!」


間髪入れずに立ち上がった彼女は長官に向かって敬礼した。


「お願いします、星原隊員」


 長官の言葉を受けた後、先輩は一度こちらに視線を向ける。私は何も言わず、行ってくださいの意を込めて頷くしかなかった。

 シンセリ―・テルスは戦場へ走っていく。


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