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EP00 愛と勇気

既存作品が煮詰まって似たので気分転換に新連載始めてみます。

既存作品も遅筆ながら進めます。

初回はep0〜4まで一挙投稿です。

楽しんでいただけたら幸いです。

 僕と妹が、留守番をしているときサイレンが鳴り始めて、逃げてくださいという放送が家の外から流れる。二人で見ていたアニメの画面も切り替わって逃げなさいと見せてくる。まだ幼稚園に通っている妹は変な音や空気を感じ取ったのか泣き出してしまう。小学校の避難訓練と同じように落ち着いて逃げるんだ、お兄ちゃんがしっかりしなくては。

 僕はぐずる妹を何とかなだめて、手を引いてマンションの外に出る。途中で道が分かんなくなるんじゃないかと心配だったが町中にある画面が矢印で行くべき方向を教えてくれる。

これなら大丈夫だ。そう安心していたその時。


「う、え?」


 急に体に力が入らなくなって、僕は倒れてしまう。


「お、おにいちゃ……」


 妹も同じなようだ。早く逃げないといけないのに完全に体が動かない。


「ガオォーン!」


 後ろの方から耳が痛くなるぐらい大きな鳴き声が聞こえてくる。僕は何とか首を動かし、そちらを見る。


「あ、ああ……」


 怪物がそこにいた、僕の3倍はあるように見える何本かドラゴンの長い首が根元で繋がったような怪物、確かヒュドラとかいうのに似ている。あれが鋼魔獣?人間を食べてしまう怪物。このままこうしていたら、僕達も食べられてしまう。


「……はっ、はーっ!」


 怖くて背筋がぞぞっとする。でも碌に声も出せない。怖い、死にたくない。早く来てよ!食べられちゃうよ。どっちでもいいから……。


「え?」


 次の瞬間、急に体に力が入るようになる。僕はすぐに走り出す。


「にいちゃ……」


 一歩目で踏みとどまる。後ろを振り返るとまだ妹が上手く立てずにいる。一人で逃げるなんてだめだ。僕は後ろに戻って妹を助け起こす。


「ああ……」

 

 それが間違いだったのか、顔を上げるとあの怪物の顔が目と鼻の先にあった。遠目には分からなかったがその身体は街のいろいろなものをつぎはぎして作られているようだった。信号機なんかの部品が見えて気持ち悪い。あんなものに食べられたくない。でも動くこともできない僕は目を閉じてしまった。僕は叫びそうになる。


“ザシュッ!ドゴーン!”


「ギャァアアア!!!」


 だが先に叫びをあげたのは怪物の方だった。それと同時にすごい地面が揺れて、倒れそうになったが何か硬いものが僕の手を掴んで、支えてくれた。


「その子妹?助けようとするなんて偉いな!お前も立派な勇者だ!」


 目を開けるとそこには、地面に落ちて蠢く怪物の頭と僕の腕を掴んで笑う、ヒーローの姿があった、黄色と赤の装甲と緑のツインアイカメラ、そして彼の身体より大きな大剣が輝いている。


「アルニギアス、来てくれたんだ!」


「お、俺のこと知ってるのか。嬉しいね!俺が来たからにはもう大丈夫だ」


 彼の顔の下半分はマスクのようになっており、表情は分からないが声は嬉しそうだ。

 ニュースでよく見かけていた、鋼魔と戦うみんなの希望、天巌勇者アルニギアスが来てくれたのだ。


「ギャーーー!」


 首一つが落ちても叫びをあげるの喉はたくさんあるとでもいうように、怪物がまた雄たけびを上げる。


「おっと、こうしちゃいられない……逃げるぞ二人とも!硬いが我慢してくれ」


 アルニギアスは剣を背中に嵌めると僕と妹を優しく抱えてくれる。確かにパーツの尖ったところが少し痛かったがとっても暖かい。


「跳ぶから舌噛まねーようにな……よっ!」


 アルニギアスは階段を一段飛ばしするような軽い感じで大地を蹴って、近くのビルのハルカ上まで飛び上がった。


「うわー!」


「すっごーい!」


 猛烈な風と、エレベーターの日ではないお腹の違和感がある。妹は楽しんでいるようだが、僕は正直怖かった。


「そそ、要救助者二人、シェルターまで送るから援護頼む」


 アルニギアスは、誰かと通信しているのか一人でブツブツとしゃべっていた。町が見渡せるほどの高さに上がった時ふと後ろを見てみる。


「あ、頭が……!?」


「うわっ、生えるどころか増えてるやがる!んなのありかよっ!」


さっき斬られた傷口が二股に別れて治っている。


「あっ……なんか狙われてるよっ!」


 無事だった頭がこちらを向き、口を開き何かを飛ばそうとしている。


「ああ、そっちは大丈夫だ」


 アルニギアスは躱そうともせず、淡々とそう言う。


“ピカッ‼ズドンッ‼”


 口の中が光って攻撃が来ると思った時、怪物の横っ面に黄色い光がぶつかる。衝撃で大きくよろめき、その攻撃が僕たちを襲うことはなかった。


「あー!あれもしかして!」


 光の来た方向を妹が指さしている。その先には……。


「そう、あの子がシンセリー・テルス。俺の最高の相棒だ」


 黄色いドレスを着た人がビルの上に立っているのが見えた。魔法少女である彼女が僕たちを守ってくれたんだ。


「よっと、到着!」


 ずいぶん長い間空中にいたとは思っていたがどうやら、ジャンプ一回で目的地に着いたらしい。高いところから降りたとは思えない優しい着地だった目の前にはシェルターの入り口があった。


「君たちこっちへ来なさい」


係の人が出てきて手招きしている。


「もう大丈夫だな」


「うん、ありがとう!その……頑張って!」


「ああ、すぐ終わらせてくるぜ!」


 アルニギアスは、手を上げて振り返ってくれる。その時マスクの下の唇のようなパーツが見えた。その顔は笑っていた。もう心配ないと言葉の外で伝えてくように。ロボットのはずなのに人間みたいに温かいと思った。


 ※


 避難完了の報告を受けた。わたしは鋼魔の討伐に本格的に取り掛かる


「他の首がバックアップになってるみたい……そう、倒すには全部同時に潰さないと……」


 私は、解析班からの情報をパートナーに通信で伝える。彼は私の得意分野だから簡単だなと言ってくれる。


「うん、チャージすればできる。少し時間を稼いで。……うん、とどめも任せる」


 作戦会議を終え、私はビルの上から飛び降りて敵に気づかれないようにしつつ、距離を詰める。彼は大剣を顔モードにして付かず離れずの陽動してくれる。これならいくらでもチャージできそうだ。頼もしき我が勇者の信頼に応えるため、全力で魔力を練り上げる。私の固有魔法は攻撃の倍加、攻撃回数の調節はまさに十八番だ正直負ける気がしない。

 私は得物である弓を構えて、魔力を固めて形成する矢をつがえる。焦る必要はない、私の勇者は負けない。今は最大火力の用意に集中する。


「ふーっ、ふーっ……!」


 腕に物理的な反動を感じるほどパワフルなエネルギーの塊が完成する。


「いけるよ……アルニギアス!」


通信で準備完了をアルギニアスに伝える!


(分かった!)


 機械による通信を超え、精神のリンクが強まることで、パートナーの意志がダイレクトに伝わり、彼が相対している敵の位置が手に取るようにわかる。私はそれに従い、弓を上方に構える。


「ポエナティヴ・メテロミー!!」


 私の放った矢は、上空に出現した魔方陣を通ることで六つに分裂し、敵に雨のように降り注いだ。肉を裂く高い音が鳴り響き、すべての頭を焼失させる。敵は主要な器官を潰され、ほとんど動けなくなる。今回取り込まれている人はいないため、手加減の必要はない。


「最後は俺だ。装甲展開、加速開始!オラァァ!!」


 アルギニアスの背部と胸部の装甲が開く。胸部からは砲塔、背部からは後光のような光輪が出現する。その状態で彼は体積の減った敵を空高くに投げ飛ばす。光輪から聞こえる鈍い音が高くなっていく。戦いのクライマックスを示すように。

放たれるは、勇者の心臓と言える魔力炉、デマンド・サーキットを加速器として応用した超高出力の荷電魔力粒子砲。


「テラ・ドミネイタァァァア!」


 ツインアイを鮮烈に光らせるアルニギアスの咆哮と共にその胸から極太の光の柱が伸びる。勇者が少し後退するほどの勢いで放出されたその青白い光が、ジリジリト震えるような音を街中に響かせて、人類の敵を滅却する。


 しかし、残ったものもある。それは鋼魔獣の核だ。その手のひら台の丸い玉には邪悪な意思が残っている。完全に無害化するにはもう一工程必要だ。アルニギアスはその玉を掴んで私のところまで持ってきてくれる。


「それじゃーセンシリー、仕上げお願いしまーっす」


「アルニギアス、気を抜かない。まだ任務は終わってないんだから」


「ごめんごめん、お願いします!センシリー・テルス」


 この子は私よりずっと幼い、普段とても頼りになるから忘れてしまう。そこがかわいいから、気を抜くとつい甘やかしてしまう。


「プラッテ・アドハック・アクア」


 私は弓が変化した(というかこっちの形状がデフォルトなのだが)ステッキを玉にかざして呪文を唱える。玉の持つある種のデストルドーをゼロに戻す。ゼロ化という儀式を行う。玉が光りながら縮み、本当に無害化が完了する。最後に残ったのはレリック・ピースという歪な形の小さな残骸。これは持ち帰って研究部に提出しないといけない。


「ふーっ……」


 本当に任務が完了し、私はため息と一緒に肩の力を抜く。それと同時に変身が解け、ドレスは組織の制服に変わり、髪も黄色から茶髪に戻る。


「お疲れ、翼」


 彼が私を名前で呼んでくれる。もういない両親の代わりに私のよりどころでいてくれる。目を向けると、そこには勇者アルニギアスではなく人間の姿ではにかむ私の家族、アルスがいた。


「うん、今日もありがとう。アルス……」


 この子がくれる愛があれば、私は何とだって戦える、そんな気がしていた。


チュートリアル回でした!

評価・感想が作者の1番の燃料です!あたたかい感想を!


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