第三話 目覚めし力
お詫びと訂正のお知らせです。
原文を読み返していて気づいたのですが、主人公の名前にふりがなを付けるのを忘れていました。すみません…。たぶん読めたと思うのですが、念のためここに記します。
主人公の名前は かんざき きりや と読みます。
後もう一つ。小説を作るにあたって、第二部までは三人称で構成していたのですが、主人公の性格上、このまま三人称で続けると次々出てくる登場人物たちに間接的な迫害を受け、主人公が影のような存在になりかねない危険性が出てきました。
よって、これまた申し訳ないのですが急遽予定を変更して、主人公視点の時のみ、一人称で文章構成を行いたいと思います。面白くするつもりですが、その影響でキャラが壊れるかもしれません(笑)
読者の皆様におかれましては、ご了承の程、よろしくお願いします。
長くなってすみません。謝りすぎですよね。はい、すみません……
では、本文をお楽しみください。
都市郊外某公立高校に在学する性格を除けばいたって普通な高校生、俺こと神崎桐也は今現在、見知らぬ薄暗い森で混乱の極みにあった。
というのは・・・・・・
「ねぇ、あなたって古代魔道士なのよね、そうなのよね!」
目をキラッキラに輝かせながら俺に向かって話しかけてくるツインテールの少女が迫ってきたからであった。
もちろんそれだけが理由ではないが……すまん、今は詳細な解説をしている状況ではない。
話は追って…いや追われながら話すとしよう。
「ん? ちょっと聞いてるのっ? あなたに話しかけているんだけど……。他に誰もいないでしょ。
あ! もしかして他に連れがいたりする? その人も魔道士なの?」
俺はこの時、執拗に質問してくる少女の話をほとんど聞いてはいなかった。たとえ聞いていたとしても、恐らく俺はその内容の半分も理解していなかったはずだ。
とにかく、俺にとっては不安要素の塊でしかないこの場をなんとしても切り抜ける必要があったのだ。
俺は素早く辺りに視線を走らせる。
何処も背丈をゆうに越える植物が繁殖しており、逃げるには少し手こずりそうだ。相手の目を誤魔化して逃げ切るという手段もあるが、この森が少女の『縄張り』だとすれば、サバイバル初心者の俺がどう足掻こうと簡単に捕まる、もしくは殺られる。最悪の場合、焼いて喰われる……
冗談じゃない。
俺はまだ十数年という短い歳月を無駄に持て余しながら生きてきたのだ。これからが人間としての本領発揮、充実した人生を送ろうという時に、訳のわからないことを暴発する機関銃のように次から次へと話しかけてくるコスプレ少女に殺され、「亡骸は何処かの薄暗い森に埋まってます、それとも跡形もなく食べられてます」とあっては残酷な運命が許しても俺は納得いかん。死んでも死に切れない。
あーくそっ! 余計なことを考えて集中力が途切れてしまった!
生きるか死ぬかの瀬戸際で別の思考に耽る俺は馬鹿なのか?
そうか。馬鹿だから混乱してるんだな。いや違うなぁ…混乱してるから馬鹿みたいなのか。
「さっきからキョロキョロしてどうしたの?」
しまった! 感づかれたか!?
この女、ただの誘拐犯だと思っていたが、まさか俺の臆病な性格ゆえに無意識に習得した秘技、名づけて影行動を見破っただと!? ……ただ者ではないな。
「……まさか、魔獣の反応でも感じたの! 嘘ッ!? あたしの感知範囲には何も感じないのに……!」
「・・・・・・・・・・」
センスエリア? 何を言ってるんだこの少女は? あんたの服装のセンスのことを言っているなら、それはダサイ以前に目を見張るものがあるよ。総合評価は規格外だ。点数はつけられん……
白いローブに身を包んだ少女は油断なく周囲を警戒しながら身構え、なぜかわからないが胸の前で指を絡めている。
俺はその少女の様子に呆気に取られてしまい、つい呆然と見入ってしまった。
何でこの少女が警戒しているんだ。俺を誘拐したのはあんただろう。しかも今目の前で逃げようとしてるんだぞ。
それとも他の天敵に|獲物(俺)を奪われるのを警戒しているのか? やはり俺は喰われるんだな。
ならなお更逃げるしかない。
すると、少女は警戒態勢?を維持したまま後ろを振り向いた。
しめた! 今なら俺の影行動は最大限に効果を発揮する。逃げるなら今しかない!
俺は腰を落として体勢を低くし、そのまま踵を百八十度返して早足で歩き出した。
馬鹿め! 俺に背を向けたのが運の尽きだったな。
このまま俺はあんたの視界から完全に消え、獣道を頼りに走り続ける。
この森で遭難しようが知ったこっちゃない。喰われるより断然マシだ。恨むなら、俺を野放しにしたあんたの手抜きを恨むん――――――
「ガァァァァアアアアアア!!!!」
「なああぁっ!?」
「ひぃぃぃぃ!!」
上から順番に、
獣の雄叫び
少女の驚き
俺の悲鳴である
瞬間、俺は振り返ることなく前方の茂みへと猛ダッシュした。
===============
セレスが感知範囲に異様な魔力を感じたのと、前方の木々の間に毛むくじゃらな巨体を見つけたのはほぼ同時だった。
その巨大生物は頭らしきものを大きく後ろに仰け反り、そして……
「ガァァァァアアアアアア!!!!」
物凄い雄叫びと共に強烈な風圧が放たれ、彼女と巨大生物を隔てる木々を根元からへし折った。
「なああぁっ!?」
セレスはその現実離れした咆哮に、恐怖よりも驚愕が勝ってしまった。
だが幸運にもそのおかげで理性を保ち、風圧で吹き飛ばされてきた樹木を防ぐことはできたが……
「ふ、不動の盾よ…マジックガードッ!」
簡略化された魔術だったが、物理攻撃を防ぐには十分な威力だ。
セレスを中心に扇形に展開した半透明の魔力の壁は、高速で飛んできた木の槍を全てはじき返す。
しかし、セレスにとってこの相手はあまりにも分が悪かった。
なぜならこの魔獣は体内に膨大な魔力を有している。感知しなくてもわかった。身体のあちこちから高濃度のヴェラが漏れ出している。
つまりそれは、この魔獣の魔力よりも上回る魔術をぶつけないとダメージを与えられないわけで、より強力な魔術を放つには、魔力を練りこむための詠唱がどうしても必要になってくる。
ようは魔術を行使するまでに多大な時間がかかり、そして気性がとても荒いであろうこの魔獣は詠唱が完成するのを待ってはくれない。というより詠唱が完成するのを大人しく待つ魔獣などいるわけがない。身体をなぎ払われて即死するのが堕ちだろう。
さっき分が悪いとは言ったが正直なところ、セレスにこの魔獣は倒せそうになかった。
よって彼女が選んだ行動は、ただ一つ。
今すぐこの場から逃げ――――――
「ねぇ! あなたならこの魔獣を倒せ…って居ないしっ!?」
――――――るのではなく、古代魔道士である黒髪の少年に助けを求めたのだがこちらもすでに行方をくらまし、となると対抗策がないので、やっぱり逃げるしかないセレスなのである。
セレスはその場で地団駄を踏んだが、悔しがっている場合ではない。
しばらくして毛むくじゃらの魔獣が再び咆哮した。
鋭い牙が並ぶ口内から吐き出された凝縮した空気の塊は、障害のなくなった少女に向かって真っ直ぐに飛んでいく。
しかしセレスはそれによって発生した風圧の軌道に乗り、そのまま後方へと飛び退った。
そして着地したと同時に踵を返し、少年が逃げていったであろう獣道へと飛び込み、走り出す。
「くぅ~~……! あの漆黒男ッ! 絶対に逃がさないんだからっ!」
なにせ英雄的存在の古代魔道士に会えたかもしれないのだ。
ここで易々と見逃すほど、セレスは落ちぶれていない。
「グルラァァァァァァアアアア!!!!」
しかし後ろからは身の毛もよだつ咆哮を凶器に、巨大な魔獣が迫ってくる。
これまた驚いたことに、その魔獣は図体のわりには脚が速く、猛然と木々をなぎ倒しながら走ってくるのだ。
その身体からは魔力の根源たるヴェラが、紫色の靄となって溢れており、毒久しい雰囲気を漂わせていた。
「あ、あんなの反則じゃないっ! 馬鹿力で脚速いってどんだけ最強なのっ! 信じらんないっ!」
さすがのセレスも焦りを感じ、走る速度を速めるが、このままでは確実にあの魔獣に八つ裂きにされてしまう。
逃げるのがもう少し早ければ、|魔獣(奴)の正体をいち早く感知できていれば、上手くいけば何処かに隠れてやり過ごせたかもしれない。しかしあの魔獣はあんなにも大量のヴェラを放出しているにも関わらず、上級魔道士であるセレスの監視網を簡単に潜り抜けたのだ。
魔獣の方が一枚上手だったのかもしれないが、それは同時にセレスの魔道士としての落ち度もある。
それでも、あの毛むくじゃらな魔獣に自分は負けたのだ、という真実がセレスには認めがたい敗北であり、やるせない後悔として心の内に溜まっていた。
それに比べて少年はどうだ。
彼は自分よりもいち早く付近の異常に気づき、相手が行動を起こす前に逃げ遂すことができた。それは古代魔道士としての特権か、はたまた魔道士としての実力か……。
どちらにせよ、あの少年が自分よりも優れていることは間違いないだろう。
だから、セレスは逃げることよりも黒髪の少年を見つけることに専念した。
あの少年なら、後ろから迫る魔獣を退けることもできるはずだ。もしかしたら倒せるかもしれない。 そう、古代魔道士である彼なら……
セレスは魔獣から逃亡する最中、生にすがり付く一心で黒髪の『勇者』を探し続けた……
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神崎桐也こと俺は現在、時折後方から聞こえてくる雷のような咆哮をBGMに、鬱蒼と茂る森の中を全力疾走していた。
勘違いしないで頂きたいが、決してロックミュージックを音楽プレイヤーで聞きながら空気の良い緑の中をジョギングしているのではないぞ!
俺にそんな趣味はないし、足場の悪い森の中をフルスピードで走るほどレンジャーでもない。
俺は今まさに、命がけの逃亡劇をあろうことか自宅への下校中に行っているのである。
だからといってこの獣道を走り続ければ家に着くわけでもなく、どこまで続くかもわからないこの森を脱出するまで全力で走りきることなど、一般高校生の運動神経平均以下であるこの俺に無理に決まっている。きっとマラソンランナーでも不可能だ。慣れない道に足を挫いて悶絶するのが堕ちだな。
しかし幸いにも今の俺は異様に身体が軽く、後三十分は走れそうな気がした。あくまで気がするだが、この速さを維持するなら精々五分ぐらいだろう。俺の脳内測定器が正しければな……
後ろからは相変わらず魔物みたいな咆哮が聞こえる。
いったいどんな生き物なんだ? 森と言ったらやっぱりクマか、イノシシか、それとも未確認生命体だったりな。
「…グガ…ア……ア…ア……」
「……」
それにしても俺って呑気だよな。命がけの逃避行っだていうのに、怖いって感覚があまり感じられない。
もしかしたら、一度にいろんなことが起こり過ぎて頭が麻痺してるとか。いや、だったらこんなに冷静に解説できやしないか…。
だが、頭で考えて動く俺にとっては都合がいいのは事実だ。これからの事をこんな事になった原因から整理して考えてみるか。もちろん走りながら……
まず俺が見知らぬ森にいる理由は、ある一人の少女が原因である。
あの好奇心旺盛なツインテール少女の方ではないぞ。おそらく今も後ろから俺を追ってきていると思うが、彼女は俺が目覚めた森で出会った少女だ。
それで話を戻すが、俺が学校からの帰宅中、帰り道で突然少女に道を塞がれてしまった。
しかもその少女の容姿は日本人とは遠くかけ離れていて、銀髪に紅い目を持ち、漆黒のドレスを着ていたときたもんだ。
間違いなく彼女は外国人だった。服装は兎も角として、雰囲気がどこか異邦人という感じだったからな。一種の不気味さもあったが、不思議だとも思えたのも確かだ。
…そして本当に不思議なことが起こった。
少女が手を掲げた途端、俺の身体を今まで感じたことのない激痛が走り、そのまま意識を失ったようだ。
目を覚ませば見知らぬ薄暗い森で倒れていた。
最初は夢であってほしいと思ったが、身体起こすと頭痛が酷かったから一瞬でその願いが潰えた。
それからは脳内連合会議の連続だった。格好悪く言えば『考えてもわからなかったから悩んでいた』ということだ。
だから俺は一番あり得る答えを全議席一致でまとめ上げた。否、決め込んだ。
誘拐である。
……え? 結論にたどり着くまでが回りくどいって?
そんなことはわかっている! ただ俺の境遇をもっとみんなに知ってほしくてだな……あれ? 俺誰に説明しているんだ?
「グガァァァァアアアアア!!!!」
ああもう、うるさいぞっ!
俺は今混乱した頭を正常化するのに忙しいんだ! 頼むから背後で怒鳴らないでくれ!
ん? 待てよ…何で俺の
………は、背後……?
俺は素早く後ろを振り返ると、そこには…
「グガァァァァアアアアア!!!!」
「や……やっと…追いついた……」
鋭い牙をぎらつかせながら、咆哮して突進してくる毛むくじゃらの巨大未確認生命体と
それに追われるようにこちらに走ってくる例の誘拐犯、ツインテール少女だった。
「なっ……!?」
お、俺の正常化してきた頭がさらなる未曾有の英知にぃぃぃぃぃ!!!
ジーザスッ!! もう無理だっ! 神の施しでも悪魔の悪戯でも何でもいいっ! この状況を覆す何かが起きてくれ! 俺はまだ死にたくないっ!
死の危機が眼前に迫って初めて、俺は恐怖という感情を取り戻した。
なのに意外にも俺の頭は冴え渡り、咄嗟に浮かんだ思いつきを即座に実行していた。
ザザザザザザザ………!!!!
「くっ……!」
痛ってぇぇぇぇぇぇ~!!
それは獣道を横に逸れて茂みの中を突っ走るというものであった。
愚かにも俺はその際に植物の棘で頬を切ってしまったが、後ろから追ってくる化け物の牙に噛み砕かれるのに比べたら、大したことはない。
俺は密集する木々で毛むくじゃらモンスターが足止めを喰らっていることを願い、後ろを振り返った。
バキバキバキバキ………!!
まあ大体予想はしてたよコンチクショウッ! 何だよアレ!? 反則だろっ!!
ボディプレスで木をへし折るなんてどんだけ怪力なんだよっ! クマでも無理だっつーの!
…はっ!? いかんいかん! 俺としたことがつい取り乱してしまった!
こういう時こそ落ち着くべきだ。しっかりしろ俺! 神崎桐也が底力を出し切って逃げるんだ!
俺はもう一度、脚に力を入れて走り出そうとした。
「……待ってっ! お願い行かないで!」
しかし突然かかった俺を引き止める声に、思わず後ろを振り向く。
そこには必死に俺へと手を伸ばす少女の手があった。
白いローブをはためかせ、
今にも転びそうな足を必死に前へ出し、
今にも泣きそうな顔で俺の目を見つめる引きつった少女の顔。
そのか弱い腕は俺を拘束するためのものではなく、もっと違うもののために差し出された手。
俺は一旦少女から視線を離し、その背後にいる化け物へと移す。
そいつは今にも少女に飛び掛るように身体を縮ませ、鋭い牙が並ぶ口を大きく開いている。
「……っ!?」
それを見て俺は確信した。
自分とあまり年の変わらないこの少女に、悪意など存在しないということを。
こちらに手を伸ばすこの少女は、ただ純粋に――――――
「………助けて……」
少女の口から、吐息のような言葉が漏れる。
それが全ての始まりの合図であり、俺が『力』に目覚めるきっかけでもあった。
ドクン!
『……使命を、果たして…』
ドクン! ドクン!
『……古代魔道士としての使命を…』
……刹那、俺は少女の手を取り、恐怖で震えるその身体を左腕で包んでいた。
望んでやったのかはわからない。しかし、自然と俺の身体が動いていた。
やがて俺の周りから一切の音がなくなり、手ぶらだった俺の右手は飛び掛ってきた巨大な生物へと掲げられる。
その動作に時間の概念は存在しなかった。ただ、思ったことを、望んだものを願うだけ…
そんな単純な合言葉だけが、彼女の命を助けることに繋がるのなら、俺は何度だって言ってやる。魔物でも魔王でも掛かって来いっ!
俺は唇の端が、自然とつり上がるのを感じた。はっ! とうとう俺も狂ったか…!
「…失せろ。化け物め」
瞬間、俺の右手が白く発光し、飛び掛ってきた毛むくじゃらな生物は不自然に俺たちの頭上を通過した後、背後へと消えた。
初っ端から堅苦しい前書きがあったんで、後書きは砕けます(笑)
3話目、如何でしたか?
今回は前の二作よりも少し長めに作ってあります。サブタイトルの通り、主人公がやっと異世界特殊能力たる『チート』じみた力を手に入れるわけですが、この調子だとストーリーの展開が遅めになりそうです。
何とか更新速度を早くするよう努力しますが、あまり期待しないでくださいね。
ご感想や要望がありましたら、遠慮なく言ってください。
では、また次話で…