第四十四話 心から…
「お、おいセレス! セレスッ! しっかりしろ!」
地面に崩れ落ちたセレス嬢に向かって必死に呼びかけるが、彼女からの応答はない。いや、苦痛に呻く彼女に返事を返す余裕なんてありはしなかった。
「うぅ……ぁ、頭が……!」
自分の頭を両手で掴み、お嬢は声を絞り出す。見ていて居た堪れなかった。一体彼女に何があったというのか。混乱する俺の役立たずな頭では、到底その答えを導き出せそうにないだろう。
――――おいピロ! お嬢はどうしちまったんだ! 一体何があった!?
《落ち着いてください! そんな無闇やたらに騒いでも事態は改善しませんよ。とりあえずセレスさんを医務室に運びましょう》
――――あ、ああ。わかった……。
俺はセレス嬢を抱きかかえようと彼女の首の後ろに手を回しかけ、はっとしてすぐに引っ込めた。
そもそも俺にお嬢を運べるのか? ヘタレで他人拒絶症の俺が、そんな簡単に人に触れることが……。
「キリ、ヤくん……」
しかしその一瞬の心の迷いを振り払うように、セレスが俺の名を呼んだ。
痛みに歪むその顔に必死の笑みを浮かべ、焦点の合わない蒼い目を俺の黒い仮面に向ける。
「あ、あたしは大丈夫だから……キリヤ君が……気を遣うことなんて、ないんだから……」
「っ! セレス……!」
「あたしにも、誇りがあるもの……うっ……ま、またお荷物になるのは嫌……ぐぅッ!」
「……くそっ!」
再び痛みに悶える白ローブの少女。
もはや迷っていられない。俺は素早くセレス嬢の背中に手を差し入れると、そのまま抱き寄せてゆっくりと持ち上げた。
その軽い身体から感じられるお嬢の体温と微動が、俺の手を伝って全身に広がる。
途端、俺の身体を激しい震えと悪寒が襲った。
相手から自分に触れることがあっても、俺の方から直接他人に触れるのは久しい。慣れていないことも災いしたのか、しばらくその場から動くことができなかった。
「――――!!?」
「キリヤ君…無理しないで……! あたしの事は、いいから……」
「そ、そんな状態で放っておけるわけがないだろう。とにかくもう喋るな。あ、あとは俺が何とかする」 声が震えて上手く言葉にできない。お嬢には、説得力の欠片もない憐れな男の強がりに見えただろうか。いやいや何も考えるな! こんなときに自虐してる場合ではない。今はセレス嬢を苦しみから解放することを優先しなければ……。
「レ、レイカさん! 医務室への案内を頼む……!」
「え……? あ、はいっ! 殿下、こちらです!」
突然を名を呼ばれて飛び上がったメイドのレイカであったが、俺の慌ただしい雰囲気に飲まれてすぐに表情を引き締めた。
階下に続く階段を示し、お嬢を抱えたまま立ち尽くす俺を導こうとする。
『少し待って』
しかし、俺が不器用な方向転換をして最初の一歩目を踏み出した矢先、俺のローブの端を引っ張る何者かの手があった。
首だけ後ろに向けて見下ろしてみると、長い白髪で顔を覆った妖精のアネッタが無表情に俺を見つめている。まだ何か用事があるのだろうか。そういえばこの城の妖精たちは皆ダンスに対して硬直的にこだわっていたはず。まさかこの期に及んで、踊ってくれと俺に頼むつもりか……。
「すまないアネッタ。俺は彼女を医務室まで連れていかないと――――」
ふるふると、白髪の少女が首を左右に振る。
『違う。別の所に行きたいのなら、私がまた魔術で転送できる。その方が早い』
「あ……!」
――――そうか! その手があった!
そもそも俺がこの屋上にいるのも、アネッタが転送魔術でここまで送ってくれたからだ。その間に“回想状態”とかいう白昼夢に囚われてしまったが、結果的にセレス嬢の異変を早々に知ることができたのだからまあ良しとする。
「レイカさん」
俺は階段の前で俺を待つレイカに呼びかけた。
「やはり徒歩はやめて魔術で転送する。君もこっちに来てくれっ。一緒に移動しよう」
自分からこんなにも多く他人に話しかけたのは初めてじゃないか? 切羽詰ってるせいでもあるが、両腕にお嬢を抱えて平常心を失っていることも要因しているのかもしれない。
対して俺の願いを受けたメイドの少女は、すぐさま俺の傍に駆け寄ってきた。
おどおどしながら俺とアネッタを交互に見比べ、今から何が始まるのかわからないといった風に首を傾げる。
『一人でも離れていたら駄目。みんな触れ合うように集まって』
「は、はいです!」
言われて、レイカはすぐにアネッタの手を取った。離さないように、その小さな手を両手でしっかりと握る。
『む……別に私のじゃなくてもいいの』
「えっ? そうなんですかっ?」
レイカがきょとんとした表情になった。
どうでもいいが早くしてくれないか。さすがにこれ以上お嬢を抱え続けるのは肉体的にも精神的にもキツいぞ……。
「アネッタ、急いでくれ!」
『わかったのよ……』
仕方なく片手はレイカに握られたまま、もう片方の手を俺のローブにしっかりと固定する。
『少しキィーンってするから気をつけて』
「「え……?」」
俺とレイカの疑問の声が重なる。
次の瞬間――――
キィーン!
「!?」
「きゃあっ!」
本当にキィーンってきた。
視界が真っ白になり、頭の中で音響閃光弾が破裂したような何ともいえない感覚に襲われる。いやくらったことないけど……。
反射的に瞑ってしまった目をゆっくりと開いて、再び切り替わった光景をぐるっと見回した。
「…………」
「ええ!? こ、ここは医務室!?」
うむ、どうやら転送には成功したらしい。
この薬品の香り、懐かしい印象を受ける風景。間違いなく医務室であった。
『三人一斉の転送はさすがに堪えるの……。キィーンてなるのは、負荷が掛かり過ぎたから……』
そう言いながらアネッタは、身体を左右にふらふらと揺らして宙を漂っている。
「う、浮いてる……?」
その浮遊を目撃したレイカが、驚きに目を丸くして喉を鳴らした。平時であれば彼女に何かと説明ができたものだが、腕の中の少女が大変な事態になっている以上気にしていられない。
俺は抱えたままのセレス嬢を壁際の寝台にまで運ぶと、真っ白なシーツの上に慎重に寝かせた。
「…………」
すでに意識はないのか、お嬢は苦しみに顔を歪めるだけで声を発しない。
早く対処しないと取り返しのつかない事態になってしまうのではないか。最悪の結末を予感して、俺の顔から血の気が引いた。
――――ピロ、対処法は!?
《……ううむ。症候性の頭痛であるなら命に関わりますが、生憎と小生は人の生態系に精通しているわけではないのです。ぱっと目を通したところで、セレスさんの頭痛の原因が解明するわけではありません》
――何だよそれ! 俺はてっきりお前が知ってると思って……だからこの部屋にお嬢を運んだんだぞ!
《あの硬い地面の上に寝かしつけておくわけにはいかないでしょう。ひとまずの応急処置です、後は彼女の頭痛の原因を調べなければ……》
――――魔術を使うのか? お、俺は何をすればいい?
《とりあえず、発熱してるかどうか確かめてください。いや何、額に手を当てるだけで結構ですよ》
「……少し触れるぞ、セレス」
ただ額に触れるだけの作業が、俺にとっては一大任務のような気がしてならない。他人に触れるだけで妙な発作を起こすこの体質。この世界に来てから余計におかしくなったのではないだろうか。
汗ばんだ手の平をローブで拭き、それからお嬢の額に押し当てる。
「…………」
《……どうです?》
――――い、いや。熱はない……と思う。
《本当に?》
試しに片方の手で自分の額を押さえてみるが、特に激しい温度差があるわけではない。セレス嬢の体温は至って平常だ。
《そうですか。では、次に頭の中の記憶を探ってみましょう。セレスさんの頭痛が病的なものなら小生に対処するのは不可能ですが、記憶の混乱を引き起こしているだけなら、あるいは鎮めることが可能かもしれません》
ピロ曰く、セレス嬢の異常な頭痛は記憶の混乱からきているかもしれないらしい。あくまで可能性の一つだが、もしこれが本当であれば対処にはさほど問題ないという。
《先ほど、キリっちがこの部屋で記憶改変の魔術を使ったのを覚えていますか?》
――――あ、ああ。覚えている。
『王子強姦事件騒動(仮)』で、神聖祈祷師と女医さん二名に不純交流の疑いを持たれてしまった時、それを帳消しにするために俺が使ったせこい魔術のことだ。
あれは確かに便利な魔術だが、便利過ぎるが故にいざ使うとなると何か恐ろしくて躊躇ってしまう。
何せ人の記憶を思い通りに操る魔術だ。その気になれば、一家庭の人たちの記憶をいじって、自分自身があたかも最初からその家族の一員であったかのように成り代ることだって難しくはない。
――――その話を持ち出すってことは、また記憶改変の魔術を使うのか? 今度は一体なんだ?
逸る気持ちを抑えて、俺はピロに訊く。
《ふむ……セレスさんの頭を苛んでいる記憶を消去、もしくは改変します》
ピロは言う。お嬢の頭痛が記憶混乱からきている場合、その悩みの種である過去の記憶を“なかったことにする”ことによって根幹から原因を取り除くらしい。最もこの方法は、魔術行使者である俺が彼女のプライベートを覗き見するというけしからん事態になってしまいかねず、さらにはセレス嬢の思い出に空虚の出来事を植えつける詐欺紛いの工作でもあった。嫌な思い出がなくなって綺麗さっぱり、と言えば聞こえは良いが、果たしてそれをセレス嬢が内心認めているか否か。
《彼女の合意なしに記憶を改変するのは心苦しいですか?》
――――当たり前だろ。他人の俺に、そんな資格なんてないんだから……。いや、仮に俺がお嬢の肉親であったとしても、だ。
《まだセレスさんが記憶障害と決まったわけではありませんけど……。まぁとりあえず、一度魔術で調べてみましょう。小生が問題の記憶を検索分析いたしますので、キリっちは魔術を発動させてください》
――――お、おう。
俺は無力だ。だからこそ、自分の扱える範囲でしか彼女を助けることができない。
お嬢に両手を向け、手の平に意識を集中させていく。
すると両手がぼんやりと淡い光を放ち、その光明の一部が漏れ出してセレス嬢の頭部を覆い隠した。
「わぁ…すごい……」
後ろでレイカが感嘆の声を上げる。
『初めて見る魔術なのよ……』
アネッタも興味を持ったのか、浮遊しながら俺のすぐ傍に現れた。若干、彼女の大人しそうな表情に驚きの色が見て取れる。
「うっ……ぅあ……!」
その時、お嬢が小さい呻き声を上げた。
意識を失ってもなお声に出すということは、それほどその苦しみが耐えがたいものであるに違いない。
「セレス! しっかりしろ!」
《原因…原因……えーと……一体どの記憶層に障害が……》
――――まだかピロ! 頼む、早くしてくれ……!
《わ、わかってますよ! 今、その原因を手当たり次第探して――おお!?》
――――どうした!? 見つかったのか!?
《はい! 記憶階層の最下層に記憶断層を確認! セレスさん生誕時の記憶に異常ありです!》
――――な、何言っているのかよくわからんが……とにかく原因がわかったんだな!
よし、これでお嬢の頭痛が外傷からじゃないことがわかった。記憶に原因があるのなら、後は俺がその記憶を消せば万事解決だ。
再び神経を尖らせ、セレス嬢の脳内の奥深くに意識を潜入させる。
だが、
――やめて――
「っ……セレス!?」
さっきまで気を失っていたはずだった。
満足に言葉を発することもできないほど衰弱していたのに、何故――――
「おねが…い……やめて……!」
――――純白ローブの少女は、俺の腕をがっしりと掴んで離さなかった。
『ん? 起きていたの?』
隣でアネッタが首を傾げる。
そして俺はそれ以上に、意識を取り戻したお嬢を信じられなかった。
《これは、一体……》
ピロも上手く言葉にできず絶句する。
セレス嬢は虚ろになった瞳を俺に向けて、必死に何かを訴えるように口を動かしていた。
この距離では聞き取れない。もう少し彼女に近づいて、耳を傍立ててみる。
「……約束…忘れて、しま……」
約束? 約束を忘れるのか?
お嬢は答えない。否、反応を返すほどの気力はもう残ってないのだろう。
彼女は握った俺の手を自分の方に引き寄せ、さらに耳に顔を近づけてきた。セレス嬢が何かを伝えようとしているのはわかっている。だがそれが何なのかよく聞き取れない。
「ずっと前……知らな…記憶の断片が……約束の事…ぁ…頭の中で……」
一体何を言っているんだ?
約束とは何のことだ? 記憶の断片? それが、頭痛の原因なのか?
「わ、わたし! お医者様呼んできます!」
答えを導き出せず硬直したままの俺に不穏な空気を察したのか、背後で様子を見守っていたレイカが部屋を飛び出した。
そして彼女の慌ただしい足音がどんどんと遠ざかっていく間も、セレス嬢は色を失った瞳を薄く開いて何事か呟き続けている。その視線はずっと俺に注がれたままだった。
……異常にもほどがある。尋常じゃない。彼女は記憶障害で頭痛を引き起こしているのではなかったのか? 今のお嬢は……何かおかしい。
「あ……ああ……い、嫌ぁ……」
「――セレス?」
次の瞬間、今まで虚ろだった少女の瞳に僅かばかりの光が宿った。
それは恐怖という名の光。失念に支配され、迫り来る絶望をただ受け入れることしかできない無力者の、絶対的な恐怖の色。
「思い出したくない思い出したくない思い出したくない思い出したくないおもいだしたくないおもいだしたくないおもいだしたくないオモイダシタクナイ思い出したくないっ!!」
極限の恐怖に立たされた時、人は皆こんなにも取り乱すものなのか……。
セレスは狂っていた。鷲掴みにされた髪がビチビチと音を立て、見開かれた双眼が血走り、カチカチと打ち鳴らされた歯が凶器となって下唇を切り裂く。
傷口から滴る赤い血が強烈な印象となって俺の脳裏に焼きついた。一瞬だけ、ほんの一瞬だけだったが、お嬢が何かとてつもなく得体の知れないものに見えたのだ。セレス嬢の皮を纏ったまったく別の“何か”が、セレス嬢の不安定な意識の隙間を狙って奥底から這い上がろうとしている――そんな根拠のない馬鹿げた仮説が頭の中を駆け巡り、またそれを「気のせいだ」と完全に否定できない自分がいたことに物凄い不安感を抱かせる。
《どうするのですか、キリっち》
状況に似合わず、随分と冷めた口調のピロが俺を急かした。
《このままだとセレスさんの精神が完全に壊れてしまいますよ? そうなってはもはや手遅れです。古代魔道士のチカラを持ってしても打つ手はありませんが?》
そんな事は見ればわかる。そのためには、お嬢の記憶を消す必要があるんだろ。
だがそれを実行することにどうしても躊躇いを感じてしまう。罪悪感とか以前の問題に、それで本当にお嬢が治るのかという疑いだ。
事実、俺が記憶消去の魔術を発動しようとして彼女はそれを黙認したか? 否、苦しみのなか俺の腕を掴んでまで拒否したのはセレス嬢本人だ。単に彼女が記憶を失くすことに抵抗があるのも含めて、記憶が消えた場合に“何か”取り返しのつかない危険が潜んでいることを想定し、それを恐れて嫌がっているのだとしたら……。
俺はもしかして、とんでもない事態を引き起こそうとしていたのではないか?
「セレス……」
「嫌! いやぁ! 言わないで! 何も教えないでぇ!」
「セレス、違う。俺は何も知らない!」
恐怖に満たされた彼女に俺の声が聞こえているとは思えないが、それでも俺は強く弁解した。そうでもしないと、お嬢の悲痛な叫びに俺まで気がおかしくなってしまうかもしれなかった。
「何も思い出さなくてもいい! 忘れるのが嫌なら、俺も君の記憶を消したりはしない! だから――」
――――自分を見失っては駄目だ。俺にはわかる。現実から目を背けてきた俺には、お嬢の苦しみが痛いほどわかるんだよ……。
俺は診療用のベッドに身を乗り出し、身体を丸めて震えるセレス嬢に近づいた。やはり俺のことは見えていないのか、彼女から抵抗らしき反応はない。
だからさらに近づいた。お嬢に触れてしまうことを気にも留めず、少しずつ前へ……。
「セレス、気をしっかり持て!」
そう声を掛けて、俺は彼女の肩に手を置いた。
悲鳴を上げて俺の手から逃れようとする少女を押さえつけ、肩を何度も揺すって言葉を投げかける。
人に触れる事が怖くてたまらない。だがお嬢の苦痛に比べれば、そんなことどうでもいいように思えてくる。
などと、俺の背負う負荷の重さを天秤に掛けて納得しようとした時――――
パァン!
「っ……!?」
乾いた破裂音と共に、セレス嬢の顔が左へと弾かれた。
「…………」
突然のことで、驚いて言葉も出ない。一体何が起こったのか? 目を見開いて硬直する俺の目に映っていたのは、赤い手形の残るお嬢の右頬。
視線をずらして隣を見上げてみれば、そこには無表情で腕を振りかぶるアネッタの姿があった。いつ間に移動したのか、彼女はセレス嬢と向かい合う形で俺のすぐ横を停滞していたのである。
「ア、アネッタ? 何を……している?」
『平手打ち。こうすると、みんなすぐ大人しくなるのよ』
「…………」
――叩いたのか、お嬢のほっぺを。
再びセレス嬢に視線を戻し、その横顔をまじまじと見つめる。
そこには確かに赤く腫れる小さな手形があった。涙の筋に混じって乳白色の頬にくっきりと残っている。
『この人はただ、記憶が混乱して興奮状態になっていただけみたい。だから、ビックリさせて正気に戻してやったのよ。うん、上手くいったみたいで良かった』
「…………え?」
マジで?
『…………』
こくり。
俺の心の声を見透かしたかのように頷いたアネッタは、袖から伸ばした白い指を前方に差し向けた。自然とそちらへ視線を送ると、呆然と俺を見つめるお嬢と目が合う。さっきまでの虚ろな瞳ではなく、はっきりとした理性を感じられる蒼い瞳であった。しばらく固まって見つめ合うこと約数秒。そのまま時が止まってしまったのかと思うほど張り詰めた緊張のなかで、最初に緊迫を破ったのはセレス嬢であった。
「キリヤ君……!」
突然、お嬢が俺に抱きついてきたのである。
=======【セレス視点】=======
声がする。
とても大切な事を教えている気がするのに、それが何なのかよくわからない。初めは確かに聞き取れた言葉は、激しい記憶の混乱と酷い頭痛に苛まれ次第に薄れていった。
(あたしに語りかけるあなたは誰? どうしてあなたはあたしを知ってるの?)
約束、約束と、頭の中のそれは繰り返している。
それは自分に宛てた言葉なのか、それともまた別の人物に対する言葉なのか、それすらも意識の霞んだセレスの鈍い思考に解き明かせるはずもなくて……。
(……い、いやっ。怖い……)
疑問は次第に苦悶と恐怖に塗り替えられていった。
心の殻に閉じこもって必死に気持ちを落ち着かせようとするも、“声”だけは容赦なくセレスの精神を蝕んでいく。
だがそんな折、不意にセレスを絶望の淵から救い上げる誰かの声が響いた。
――――自分を見失っては駄目だ!
(っ!? この声……!)
――――セレス、気をしっかり持て!
聞き間違いだろうか。いや、そんなはずがない。この混沌の中でも、彼の声だけは透き通るようにはっきりと聞こえていた。“謎の声”がセレスの頭をかき乱しても尚、“あの人”の声だけは塞がれた心の奥底に届いていたのである。幻聴であるはずがない。あってほしくない。
(キリヤ君……)
まどろみに沈むセレスの意識が覚醒したのは、その直後である。
暗闇から突如、現実へと引き戻されたセレスが五感に感じたのは、網膜に焼きつく強烈な光量と頬を走る鈍い痛みだった。
一体何がどうなっているのだろうか。ただでさえ寝起き時の状況認識に欠ける彼女にとって、目覚めたばかりではまともな現状把握が困難になっている。ただ一つわかるのは、自分はこうして再び目を覚まして生き続けているということ。呼吸は荒いが大丈夫だ、まだ死んではいない。
「ア、アネッタ? 何を……している?」
そして彼女の目覚めの悪さに関しても、この時は例外だった。
すぐ近くで響いた低音の男声に、麻痺していたセレスの思考は瞬く間に回復。前方に視線を向けると、そこには装飾のない黒い仮面で顔を覆った少年が寝台に上体を乗り出し、その隣にはモノクロトーンのドレスに身を包んだ少女が浮遊していた。
『この人はただ、記憶が混乱して興奮状態になっていただけみたい。だから、ビックリさせて正気に戻してやったのよ。うん、上手くいったみたいで良かった』
言葉とは裏腹、その少女の口調は淡々としていて感情が篭っていない。重力に逆らって宙に浮かんでいる事も不思議でならなかったが、今のセレスにはこの変わった少女に気を割く余裕を持ち合わせていなかった。
「…………」
彼女の視線が向かう先は黒の魔道士。
全身黒尽くめはその異様な雰囲気を醸す不気味な容姿に違和感を窺えるこそすれ、セレスにとっては今一番必要とする存在であるのに違いなかった。
キリヤの視線が自分のそれと交差する。押し寄せる感涙を止めることもできず、あとは身勝手な反応を示す身体の思うがまま。
「キリヤ君……!」
他人に触れられることを良しとしない体質であることを理解しながらも、純粋な感情に突き動かされたセレスの行動に自制がかかるはずもない。心の中でキリヤに謝罪しつつ、歓喜と罪悪感に包まれた魔道士の少女は彼の胸元に半ば倒れ掛かるように飛びついた。
=======【キリヤ視点】=======
俺の思考は今、混迷の極みにある。
というかもう何も考えられない理性不全に陥っていると言ってもいい。そしてそんな事態を引き起こした原因がなんであるかと聞かれたなら、俺は真っ先に目下鼻先ですすり泣く金髪を眼力だけで相手に示し、返答していることだろう。え? 口で伝えないのかって? 馬鹿野郎、そんな無神経なことしたら俺が人間として赤っ恥をかくことになってしまう。長年妹に注意され続けた俺の悪いところだ。人が普段しない大胆な行動(主に女性が)を取ったら、そこは退かず遠慮せず、正面から向き合うのが一番大事なのだという。まぁあくまで妹談だが、仮にも性別上“女性”に分類されるあいつの言葉を全て信じていないわけではない。神崎家長男として、そして何より臆病精神を捨てた一人の男として、ここは俺を頼って泣きついたセレス嬢の支えになるべきなのだ。
「ひっく…う、うぅ……キリヤ君――ごめん……ごめんね……! あたし……あたし……」
「…………」
と、内心強がってはみたものの、それを実行に移せているかどうかはまったくの別問題である。そもそも年の近い女の子に抱きつかれたのは生まれて初めてで、どう対応していいのかさっぱりわからない。いやそれ以前に俺の“対セレス接触耐性度”はまだ体質的に許容できていないのだ。頭では平気でも身体が異常をきたしており、すでに二の腕や首筋に湿疹が発生している。
とにかく痒い! しかしお嬢を無理矢理引き剥がすなんてできない。結局良い対策も思い浮かばず、こうして彼女のされるがままになっているというわけだ。
『…………』
じーー。
ふと、隣から強い視線を感じた。
胸元に埋まるセレス嬢を窮屈に感じながら首を左に逸らすと、半眼になったアネッタがお嬢をガン見している。何やら機嫌が悪そうだがどうかしたのだろうか? そういやビンタの件といい、アネッタのセレス嬢に対する態度が刺々しいような気がするぞ?
『……私はロッタのところに帰るのよ』
「え? あ、ああ」
『……ふん』
ぷいっとそっぽを向いて、アネッタは俺たちの傍を離れていく。やっぱり機嫌が悪いようだ。ううむ、お嬢とは初対面のはずだが一体何が気に食わないのだろう。妖精とはよくわからないな。
いや、その前に――――
「アネッタ」
一つ大切なことを伝えるのを忘れていた。俺は不機嫌そうに去り行くアネッタを呼び止めると、その背中に向かって言葉を投げかける。
「君のおかげで色々と助かった。本当に感謝している、ありがとう……」
『…………』
俺の感謝の言葉がちゃんと伝わったかどうかわからない。
だが数秒間足を止めていたアネッタが再び歩き出した時には既に、彼女の足取りに不快な態度は一切感じられなかった。後はそのまま壁の中に吸い込まれ、やがて医務室から妖精の気配が消失する。
どうやら機嫌を直してくれたようだ。なるほど、俺が礼を怠ったから怒ってたんだな。これからは気をつけないと……。
《いやはや、キリっちも隅に置けませんねぇ~》
なんか頭ん中で失礼な事を聞いた。むかつく。
――当たり前だ。いくら存在感が薄いからって置物に成り下がるつもりはないぞ。
《い、いえ、隅に置けないってそういう意味で言ったんじゃ……はぁ、まぁいいや》
ん? 何が言いたいんだよ、相変らず変なやつだな。ああ、首がかゆい……。
お嬢はそろそろ落ち着いただろうか。叶うことなら、今すぐにでも俺から離れてほしいんだが。
「…………」
「……セレス? 大丈夫か?」
試しに小さく声をかけてみた。
すでに泣き止んでいるが、その小柄な身体は力なく俺にもたれ掛かっている。傍から見たら寝ているように見えたかもしれないが、時折鼻をすする音と不規則な呼吸音が、彼女に意識があることを証明していた。
《精神的にかなり衰弱しているようですね。正気を取り戻すのが一歩遅かったらと思うと――――》
――――やめろ、それ以上言わなくていい。
お嬢は無事だった。それに越した事はないし、今更最悪の事態を回想する必要もないだろう。
《……わかりました、この件に関しては一切口を挟みませんよ。それよりも小生が気になることは、アネッタさんが平手打ちでセレスさんの意識を覚醒させたことです! 何ですかアレ!? 反則でしょう!》
――い、いや、反則かどうかは別として、お前は知らなかったのか? 賢者並に物知りなのに。
《む、むむぅ……かれこれ五百年はこの世界の動静を見てきましたが、妖精に会うのは今回が初めてというか……その、情報が乏しくてですね……》
――――肝心な時に役に立たないのな。危うくお嬢の思い出を抹消するところだったぜ。
《ぐっ……反論できないっ》
ほう、珍しくピロが折れたな……。俺が皮肉以外で口やかましい精神体を打ち負かす日がこようとは……明日は空から皮と肉が降るんじゃないか? いや、それはそれで怖いからナシ。
「キリヤ君……?」
うわっ、びっくりした!
突然声がしたから驚いて見下ろせば、いつの間にか顔を上げたセレス嬢が俺を見上げていた。ついでに密着したままだから物凄く顔が近い。仮面を着けていなかったら、俺の顔にお嬢の息がかかるのは必至。いろんな意味で俺の気がもっていなかったことだろう。
「セ、セレス、もう大丈夫なのか?」
さっきから同じ台詞ばかり言ってる気がする。というか他にどんな言葉を掛けていいのかわからん。下手に声を掛けてドン引きされたら、俺の方が大丈夫じゃなくなっちまう。
しかし、とりあえずお嬢は大丈夫なのだろう。首を縦に振って俺の問いかけに応答した。
「ごめんなさい……。また、迷惑かけちゃって……」
「…………」
「あたしの事、怒ってるよね? みんなを巻き込んだんだもの……ほんっと迷惑よね」
「セレス、俺は――」
「ううん、いいの。全部あたしが悪いんだから、あたしが……あたしのせいで……」
居た堪れなくなったのか、お嬢は俺から顔を逸らして俯いてしまった。よく見ると肩が小刻みに震えている。責任を感じているのはわかるが、これでは自虐もいいとこだ。思いつめ過ぎてまたおかしくなってしまったらと思うと、とてもそっとしてやることなんてできない。
彼女は俺に似ているのだ。人を殺して、途方もない罪悪感に心を閉ざして震えていた昨日の俺に。
「キリヤ君も思ってるでしょ? あたしみたいな役立たず、傍にいるだけで目障りだって……」
何だと……?
「口約束ばっかりで、何一つキリヤ君のためになってないあたしなんて嫌いでしょう!?」
再び顔を上げたセレスの瞳からは大粒の涙が絶え間なく頬を伝っていた。
そんな悲しい顔して、俺を無理矢理突き放したつもりだろうか。下手過ぎるのにもほどがあるし、今の発言にはさすがの俺も頭にきた。
「傍にいるだけで目障りだと? 役立たずだから、俺が君を嫌ってると?」
「ええ、そうよ! キリヤ君からしたら、あたしなんて小者程度で――――」
「いい加減にしろ!」
「っ!?」
いきなり大声を上げた俺に飛び上がったセレス嬢が身体を縮こませる。だが俺はお構いなしに彼女の両肩を掴んで引き戻した。
「俺への罵倒は勝手だがな、そうやって自分で自分を傷つけて、何もかも背負いこもうとするんじゃない! 見ていて痛々しいんだよ、馬鹿!」
「ばっ――――!?」
俺の馬鹿発言にお嬢が絶句する。
ああ、これは怒らせたかな。まあいいや、いつまでもウジウジしてるお嬢より、ブチ切れて大声張り上げるお嬢の方が何倍もマシだ。
「確かにセレスはトラブル尽くしのお調子者で、迷惑だって感じたことも少なからずある」
「うっ……や、やっぱりあたしは」
「けどな、これだけは言い切れる。俺は君のことを目障りだとか役立たずなんてこれっぽっちも思ったことはない。むしろ感謝しているんだ」
「え……?」
理解できないといった表情のセレス嬢が眉を顰めて俺を見上げる。その蒼い瞳にはやはり困惑の色が浮かんでいた。
本当はもっとちゃんとした場面で伝えたかったが……仕方がない。
俺は仮面を外して、その全貌をお嬢の前に晒した。彼女は俺が黒目であることを知っているが、もう一度改めて見ると何か感慨深い思いでもあるのだろう。目を見開き、もの珍しげな眼差しで俺の顔を見つめている。
「かん…しゃ? 何言ってるのよ。感謝すべきなのはあたしの方じゃない……キリヤ君は命の恩人なんだから……」
「それは俺も同じだ」
「だ、だからっ、どうして――」
「行く宛もない俺に道を示してくれたから。……“あの森”で君に会わなければ、俺は今頃ここにいなかったかもしれなかった。だから、俺にとってもセレスは恩人なんだよ」
お嬢は俺に希望をくれた。異世界に召喚されて、右も左もわからない俺の支えになってくれたんだ。
「それは……あたしを助けてくれたあなたに恩返しをしたかったから……」
「何だろうと構わないさ。結果的に俺はここにいて、君の助けになれている。それでいいだろう?」
そう言って笑いかけてやると、お嬢は恥ずかしそうに目を伏せた。あれ? 言い返さないなんてらしくないな。
「だから改めて言わせてほしい。俺に居場所をくれてありがとう、セレス。そしてこれからは、俺が君を助ける立場でありたい」
「キリヤ君……」
ただでさえこの世界の人たちの世話になりっぱなしなんだ、そろそろ自分も何か助けになることをしたいって思うだろ。ああそうだよ、俺は臆病なんだ。他人に白い目で見られたくないから、自分が善人であることをアピールしようと躍起になる。ついでにお人好し過ぎるらしい。それが逆に短所になっていると、昔親父に指摘されたことがあった。お節介って思うか? いいや、こんな危険な世界には丁度良いと俺は思う。
「ふふ……やっぱりあなたって変わってるわね。それとも、古代魔道士ってみんなそうなのかしら?」
お嬢が笑った。それは自虐的な嘲笑なんかじゃなく、心から楽しいと感じられる時の笑顔だった。それでいい、やっぱりお嬢はそうでなくちゃな。つられて俺の顔にも自然と笑みが広がる。
「さぁな……一度も会ったことがないからわからない」
「“変わってる”ってことは否定しないんだ?」
「俺ってそんなに変人か?」
「変態陛下に比べたら全然そんなことはないわね」
それがきっかけになったのか、俺とセレスは声を出して笑い合った。そしてそれは、俺が初めてセレス嬢に心を許した証でもあった。下手をすれば、人生で初めて他人に素の自分をさらけ出したかもしれない。少なくとも、家族以外の人物に対して心から笑ったのはお嬢が初めてである。不思議と新鮮な感覚はなく、むしろ懐かしさを覚えていた。
バタン!
「おいセレス! 無事か!?」
しかし、そんな平和な雰囲気が出来上がりつつある矢先、騒がしい足音と共に突然医務室の扉は開け放たれた。
噂をすれば何とやら、必死の形相で部屋に入ってきたのは変態陛下もといアレクシード王。通称アレク。アネッタの片割に連れられてどうなったのかと思ったが、元気そうで何よりだ。
「へ、陛下!? そんなに慌ててどうしたんですか?」
まさかの来訪者にお嬢が目を丸くする。
俺たちを発見したアレクはというと、まずは俺を見つけて素っ頓狂な顔をして、それからセレス嬢に視線を移してその表情を険しくさせた。
「どうしたもくそもあるか! お前こそ大丈夫なのか!? レイカってメイドから聞いたぞ、突然頭を抱えて倒れたってな!」
「えっ? あ、ああいえ、その件についてはもう解決したといいますか……」
「ああん?」
いまいちはっきりした回答が得られなかったアレクは、首を傾げた末に俺へと視線を寄越した。ううむ、どう答えたら良いものか。ひとまず、お嬢の身の危険は過ぎたことを伝えた方がいいだろう。
「もう何ともないようだ」
「ちくしょう! 何だそれは! 人がせっかく心配して駆けつけてきたってのに! ああああ走って損したぜまったく!」
不貞腐れて頭を掻き毟ったアレクは、まるで王族とは思えない態度でどかっと丸椅子に腰を下ろした。 ただでさえ犬猿の仲でこの投げやりな言葉だ、お嬢も黙っちゃいないだろうと思い視線を送ってみれば意外や意外。彼女はお化けでも見るような目でアレクを凝視していた。
「な、何だその目は……。はッ! まさか、新手の魔術で俺を睨み殺そうって魂胆じゃねぇだろうな!」
ねーよ阿呆。ていうかどんだけ仲悪いんだあんたら……。
「陛下……あたしのこと…し、心配してくれたんですか……?」
「なっ……!?」
物凄くわかりやすい反応だった。
それはもうアレクの顔に「しまったぁ!」って言葉が毛筆書体で三行分くらいは埋まる勢いだった。恐らく――いや、間違いなく図星なんだろうが、金魚みたいに口をパクパクさせながら目を四方八方に泳がせている様子はさすがに絵になった。むしろここまでうろたえる方が難しいんじゃないだろうか。ある意味尊敬する。
「ば、馬ッ鹿! だ、誰がお前の心配なんか――――」
「キリヤ様! ご無事だったのですね!」
そして乱入者は彼だけにとどまらない。
挙動不審なアレクを押しのけて後ろから姿を見せたのは、どう見てもサイズの合わない仕官用の軍服をきっちり着こなす我らが騎士団長のアルテミスさん。うん、相変らずのアダルティスタイルごちそうさまです。
運悪く姐さんの進路方向の障害物になっていたアレクが突き飛ばされずに済んだのは、やはり“国王”という崇高な権力(肩書き)が働いて彼女の行動が抑制されたからに他ならない。妖精にさえ容赦ないアル姐さんのことだ、これがもし賊や不審者の類であれば……もはや言うまでもないだろう。
姐さんは文字通り一直線にこちらへ走り寄ると、俺の身体をペタペタと触り始めた。あれ? これ何のデジャヴ?
「キリヤ様お怪我は? 妖精たちに一体どのようなイタズラをされたのです?」
アル姐さん、とりあえず落ち着こう。鬼気迫るあなたのお顔が怖いです。
「お、俺は別に問題ない。それよりもセレスを診てやってくれないか? 精神的にかなり衰弱しているかみたいだから」
「ですが……」
「俺は大丈夫だ。信じてほしい……」
食い下がる姐さんを止めて、俺は無傷であることを強調する。
真剣に向き合って話すと相手は大概受け入れてくれるもので、堅物なアル姐さんも気まずそうに視線を逸らしてから小さく頷いてくれた。
「わ、わかりました。殿下がそこまで仰るのなら、御意向のままに……」
ん? 心なし姐さんの顔が赤いような……。あ、そうか。ここまで走ってきたから身体が火照っているんだな。そこまでみんなに心配をかけてしまったとは……何だか申し訳ない。
《白々しい下手な芝居を見ている気分ですよ。それが素の反応であるなら、あなたはアレク王よりよっぽど楽観主義者のようですね》
――――あ? どういう意味だよ?
《何でもありません。それよりも、いつまでその強面を周囲に見せ付けているつもりですか?》
……相変らず口の減らない野郎だな。
とか思いつつも、俺は外していた仮面を再び顔面上部に取り付けた。短い素顔生活はこれにて終了。まさか就寝時もこれで過ごさなくては駄目なのだろうか。
「セレス、一つ聞きたいんだが……」
「え、何かしら?」
「“サングラス”で目の色を誤魔化すことは可能か?」
「さ、さんぐら……? 何ソレ?」
「いや、何でもない。忘れてくれ」
「??」
はぁ……さすが魔法の世界、されど魔法の世界。文字や言葉での意思疎通ができても、文化の違いだけは一方通行だったか……。
セレス「メインヒロインの座は誰にも譲らない(`・ω・´)!」
という心意気で本話を書かせていただきました。少しはお嬢のヒロインとしての格が上がったように思うのですが、どうでしょう?