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異界の古代魔道士  作者: 焔場秀
第二章 東国動乱
46/73

第四十一話 マリオネット

※二話同時投稿です

 『ご機嫌よう異国の方々。長き歴史を刻む古の都へようこそ』

 自分の髪色と同じ真紅のドレスに身を包むその女性を前に、アルテミスは彼女が「人種」に属する生物ではないことを瞬時に察した。

 物理的な障害を受けないことも含めて、その異質な存在感や場違いな言動。全てが相応しくない。

「い、一体、何なんだ……?」

 兵士が呻いた。

「この女……い、今、壁から出てきたぞっ!」

 突然目の前に現れた不特定生命に混乱して、上手く声を発することができないようである。

 非常時に怯むとは何事かと、彼らがアルテミスの部下なら叱りつけているところだが……今回ばかりは兵士たちの反応に同情せざるを得ない。この女性の姿をした「何か」に対しどう対処すれば良いか、アルテミス自身決めかねていた。

 せめてこのドレスの女が、明確な殺意を持っていたなら、まだこちらにも判断に迷う隙が生まれなかったかもしれない。だが兵士たちに剣を向けられても尚、この女は一度たりともその笑みを揺るがせることはなかったのである。そんな無防備な状態の女性がを他者を害するという可能性は、少なくともこちらから仕掛けない限りあり得ないだろう。

 それどころか、兵士たちの対応に小首を傾げて、

『剣舞はご遠慮しますわ。ワタクシは舞踏ワルツが主流ですの』

「な、何の話だ!」

『まあ……ご存知ありませんの?』

 驚いた風に口元を手で押さえてみせる。だが、そんな婦女子の動作も様になっているわけでもない。何故なら顔は笑ったままで、驚きの感情がまるで感じられなかったからだ。

 さすがに女の異変に気づいたのだろう、リディア王の護衛を任されていた五人の兵士のうち三人が、武器を構えたまま背後に後退する。  

『困りましたわね……殿方にリードしていただかなくては、ワタクシも満足に踊れませんわ』

 楽しいのか、困っているのか。

 金髪を揺らし、頬に手を当てる仕草も、仮面のような微笑に妨げられ心境が把握できない。

 やがてぽんっと手を打って目を見開き、集まった者たちを見回しながらこう声を上げた。

『そういえば、ワタクシの自己紹介がまだでしたわね! それに皆さんのお名前も! ダンスは非言語交流でしょうけれど、踊る前に名を名乗るのはお相手にとって礼儀ですもの』

 こちらの返事も待たず、ドレス姿の女性はその場で一回転すると、もう一度真紅のスカートを持ち上げてお辞儀した。

『ワタクシの名前は絡糸の狂い人形マリオネット。狂気の人形士あるじに捨てられた、劇場の踊り子です』

 絡糸の狂い人形マリオネット……。

 それが彼女の名前?

「マリオネット? 操り人形か?」

 そう呟いたのは、アルテミスの隣で影のように佇むキリヤであった。

 彼は絡糸の狂い人形マリオネットについて何か心当たりがあるのだろうか。そういえば先ほども、この城の守護者ガーディアンを妖精だと言ってリディア王を感心させていた。古代魔道士エンシェントウィザードというのは、『妖精』のような未知の生態にも精通しているのかもしれない。

 マリオネットは続ける。

『人間と言葉を交わしたのは実に30年ぶりですわ。最後に踊ったのは40年以上前かしら? 確かその時は……アーガス。あなたがワタクシのお相手でしたわよね?』

 聞き及ぶ名前がマリオネットから語られ、兵士を含む集まった面々が一斉にリディア王を振り返った。 一挙に視線を浴びせられたリディア王ことアーガス・ダン・アリギエーリ・リディアはというと、憔悴した険しい顔を余計に歪ませ、頭を押さえたまま俯いている。

 さては面識があるのだろうか。リディア王と、このマリオネットに密接な関わりがあることは間違いなさそうである。

「むぅ……いや、まさか貴女が私の呼びかけに応えるとは思わなんだ……」

『ワタクシではご不満? それなら、ダンスがお得意な“友人”たちをお呼びしても良くってよ? もちろんワタクシには及びませんけれど、皆あなたのお相手に相応しい踊り子たちですの』

 おかしい。

 兵士やリディア王との会話に繋がりがないというか、話がかみ合っていないような気がする。そもそもリディア王が妖精を呼び出したのはセレス探索の助力を妖精に頼むためであって、別にダンスをするためではない。だというのに、このマリオネットと名乗る女性は先ほどから踊りの話しかしていないのではないか?

「マリオネット、悪いが貴女とダンスをするつもりはない」

 リディア王が首を左右に振ると、マリオネットはがっかりした様子で静かにため息を吐いた。

『それは残念。では、一体どの子と踊りますの?』

「ああ、いや……言い方が悪かったかな。私は踊りたいがために、貴女を呼び出したわけではない」

 ぴくり。

 期待を裏切られた事に衝撃を受けたのだろうか。貼り付けたようなマリオネットの微笑に、若干の変化が表れる。

『……一体どういうことです?』

「実はある少女を探している。この異国の方々の仲間だ。この城の“守護者ガーディアン”である貴女たちならば、少女の行方について何か知っているのではないかと思ったのだが……どうだろう。何かわかるか?」 

『さぁ……?』

 肘に手を添えて腕を組み、マリオネットはリディア王から視線を逸らす。

『そんなお方、存じ上げませんわね』

「嘘だな」  

 指摘したのはリディア王ではない。

 隣で傍観していたキリヤが、マリオネットの言葉を即座に否定したのだ。

 全員の視線が、リディア王とマリオネットから、黒衣の少年へと移る。一挙に注目を浴びたキリヤはというと、その視線に一切の関心を示さず、ただ人外の女性を見つめていた。

 発言を否定されたマリオネットが、仮面のような笑顔をキリヤに向ける。

『何故……ワタクシが嘘を言っていると断言できますの?』

「あんたたち守護者ガーディアンはこの街を知り尽くしているんだろう? さっきリディア王陛下がそう言っていた」

『ええ。城下の家屋の数から道の小石一粒に至るまで、現在進行形で完璧に把握しておりますわ。……けれど、それがお探しのお嬢さんと関係しているかは別ではなくて? ワタクシはあくまでこの古都の守護妖精。人の動きを知り尽くしているとは限りませんわよ?』

「…………」

 得意満面の笑みを浮かべ、口を閉ざしてしまったキリヤを見つめ返すマリオネット。

 どこか曖昧な返答をする彼女が真実だけを述べているとは考えられない。セレスの居場所は知らないと、まだマリオネットは断言していないのだ。もしかしたら彼女は、セレスの居所を知った上でわざと疑問形で言葉を返しているのかもしれない。

 違うなら違うとそうはっきり言えばいいではないか。相手の反応を面白がって口を濁すやり方が、アルテミスには気に入らない。しかもそれをキリヤで試しているのが余計に癪である。

 普段表情を表に出さないアルテミスでも、今回ばかりは露骨に顔を顰める。

 マリオネットが気づいたかどうかわからないが、彼女が言葉を紡ぐ前に、再びキリヤが声を発した。

「なるほど……偏屈な妖精か。確かに素直じゃないところが何とも……」

『素直じゃない? ワタクシが嘘を言っていると仰りたいのかしら?』

「ああ。どうも『人の動きを知り尽くしていない』というのは本当ではないらしい……」

『“らしい”とは……はっきりしませんのね』

「あんたがそれを言うのか……?」

 キリヤの切り返しに、マリオネットはくすりと小さく笑った。

 さっきまでの意地の悪そうな笑みに比べて、今の微笑はとても楽しそうに見える。ずっと同じ表情をしているにも関わらず、態度や言動でこんなにも変わるものなのか。元々表情の変化に乏しいアルテミスにとって、マリオネットの多様な笑い顔は一種の手品に見えた。

『ふふ……わかりましたわ。いいでしょう、お嬢さんの居場所を教えて差し上げます』

「先ほどあなたは存じないと申したはずですが?」

 アルテミスがすかさず矛盾点を突き出す。

 しかしマリオネットは落ち着いた様子で、

『もちろんワタクシは存じませんわ。でも、“お友達”ならきっと知っているはずですから……。もちろん、舞踏会が終わってからですけれど』

 そう言ってぱちんと指を鳴らすと、彼女は爪先立ちで部屋の真ん中を走り出した。

『さぁ、ワタクシの劇場を彩る華麗なダンサーたち! 束縛の吊り糸に絡まって、自慢の踊りを披露する時が来ましたわ! 狂気の主はもういません! 今こそ、思う存分に踊るのです!』

 大声を発しながら絡糸の狂い人形マリオネットは、狼狽する兵士たちの脇をステップですり抜け、アレクの周りを回転しながら一周した。

 いきなり迫られたアレクは、彼女の不思議な雰囲気に押されて困った表情を浮かべている。

 しかしマリオネットはそんな事を気にもとめず、そのままリディア王の傍に走り寄り、彼の皺だらけの手を取って小さくお辞儀した。

『アーガス。やはりあなたのお相手、このワタクシ以外にあり得ませんわ』

「ま、待てマリオネット。私はともかく、客人たちに手を出してはならん……! 彼らは大国の要人なのだぞ?」

 リディア王が必死の説得をマリオネットに施すが、彼女はそれに応じるつもりはないようだ。

『少しの間、ワタクシたちと踊っていただくだけです。危害を加えたりはしませんからご安心くださいな』

「そういう問題ではない! 貴女の遊び心で、他国の王族に迷惑をかけては外交問題に――――」

 だが、彼女は止まらない。

 振り返り、他の者たちに向かって合図の声を上げる。その表情に、狂気に似た歓喜の色を浮かべて。

『人と妖精が交わる久方ぶりの舞踏会ですもの。この一大行事、無駄になどできませんわ!』

 その瞬間、部屋の床、天井、壁というありとあらゆる面から、この城の住人である妖精たちが騒ぎ立てながら姿を現した。



            =======【キリヤ視点】=======



 兵士、メイド、料理人、老人、子供、貴族。

 部屋の四方八方から溢れ出した妖精たちは、別段独特な衣装に身を包んでいるわけでもなく、街を平然と歩いても疑われない普通な身なりをしていた。

 だがそれはあくまで容姿や格好がそう見えるだけである。

 でなければ、天井から落下して地面に吸い込まれたり、壁の中から現れた途端俺の身体を突き抜けたり、もしくは床から生えてきたメイドさんが俺に向かってにこにこ笑いかけたりしている現象を、ただの人間に再現できるはずがない。

 護衛の兵士さんを含め、たった八人しかいなかった俺宛の寝室は、マリオネットもといマネキンドールさんの一発の指鳴らしによって総勢二十名以上の大賑わいを見せていた。

 ――――正直な感想を言わせてくれ……こいつはある意味ホラーだ。いや冗談でも何でもなく……。

《……もしや彼らは、キリっちの後をつけていた野次馬たちでは?》

 そうわかりきった事を冷静に分析するのは、俺の頭に巣食う精神体P。

 周囲を妖精たちに囲まれ身動きが取れない状態で、例の発作を起こしかけて震える俺の心境などまったくもって気にならないんだろうなこのショタ声野郎は。

 アル姐さんのお陰で大分症状が和らいだとはいえ、この人口密度の中どこまで正気を保てるか俺自身もわからない。

 できることならこのまま部屋を飛び出して、そのままセレス嬢を探すことに専念したい。だがこのままじゃ動けないから、どうしようもない。困った……。

「い、一体何なんだぁ!?」

「こ、これは夢だ、うん……夢に違いない」

「はは、はははは……」

 妖精たちに塞がれて姿は見えないが、すぐ近くで兵士さんの上擦った声が聞こえる。

 どうやらこの奇想天外な事態に極度の混乱と現実逃避を引き起こしてしまったらしい。それにしてもこの世界の住人でない俺が兵士さんよりまだ正気でいるというのは如何なものか。

『さて、皆さんお相手はお決まりかしら?』

 この声はマネキンドールさんか?

 同じ部屋にいるはずなのに、彼女だけ声音がエコー仕様だから室内放送みたいな感覚に囚われる。いや、実際にこことは別の場所で声を発してるのかもな。壁とかすり抜けるし。

 などと、俺が変な方向に想像を傾けていれば、集まった妖精たちが突如として移動を開始した。

 目的は当然、今のマネキンさんの質問に対する答えを実行するためであろう。

 時折俺の身体を通り抜けたり、宙を浮いたりしながら、妖精たちは目当ての踊り相手パートナーを探して部屋の中を動き回る。よく観察してみれば、壁を通り抜けて部屋の外に向かう妖精の姿も見受けられた。舞踏会場ってここだけじゃなかったのか?

「キリヤ様」

 ふと聞き覚えのある声で名を呼ばれ、俺は隣に視線を向けた。

 硬く、険しい表情を作ったアル姐さんが、俺の隣にしっかりと張り付いて部屋中を厳しく監視している。

「絶対に私の傍をお離れにならないでください。彼らに腕を掴まれたら最後、人間の魂を引きずり出して冥府まで連れ去りかねませんので」 

 アルテミスさん……あなたの抱く妖精のイメージとは一体……。

 ここは誤解を解かせて、彼らが無害であることを伝えておいた方がいいだろう。何せ姐さんの剣柄を掴む利き手が物騒過ぎて怖い。俺に少しでも誰かが近づけば、その瞬間にその人の胴体を真っ二つにさせる勢いだ。

『ボンジュール、マドモアゼル。我輩と一曲踊ってはくれないかな?』

 そして、そんな瞬殺モードの姐さんに話しかける命知らずな妖精が一人。

 背後から迫るわけでもなければ、堂々と正面から登場するわけでもなく、俺たちの目の前の床からぬぅっと現れたその紳士は、黒のフロックコートに身を包み、笠の短いシルクハットを頭に被っている、貴族の真似事をした妖精だった。

 口髭の下に微笑を浮かべたその男はしかし、本物の貴族にも引けを取らない完璧な動作でお辞儀し、アル姐さんの腕に己の腕を絡ませた。

「なっ! 一体何の真似です!」

『踊りの真似、とは些か気勢のそがれる表現ではありませんか? ここはいっその事、我輩とあなたの純情な――――』

 ブゥン!!

 残像も残さぬ高速の居合い切りが、紳士の頭部を一瞬にして両断する。いや、正確にはアル姐さんの放った斬撃は“紳士風の男の頭を通り抜けた”というべきか。

 どちらにせよ、攻撃を喰らったはずの男は平気な顔をしているから、彼に物理的なダメージを与えるには至らなかったのだろう。

 ううむ……“向こう”から腕に触れられるのに、どうして“こちら”の接触は無理なんだ?

「そんな……!」

『はははっ……そのような過激な感情表現は初めてだよマドモアゼル。ああ、ますます気に入った! このままあなたと踊り明かしたい!』

「は、放せ無礼者ッ! 私には守るべきお方が……キリヤ様!」

 だがアル姐さんの必死の抵抗も虚しく、彼女は突然現れたフレンチ妖精に腕を組まれ(捕まった?)、そのまま群集の中に消えていった。

《斬りかかられたのに物凄く喜んでましたね、あの妖精。何故かフランス語が混じってたし……》   

 お前が何で西洋の言語を知ってるのかはさて置き、姐さん助けにいった方がいいよな?

《何の脅威から助けようと言っているのかわかりませんが、命の心配なら大丈夫なのですよ。ドモヴォーイは悪戯好きの妖精ではありますが、生命を奪うような残忍な性格ではありませんから》

 その“悪戯好き”という部分が一番心配なんだが……。

 踊るのは大いに結構だが、他人の意思を尊重しないで無理矢理連れていくのはさすがに駄目だろう。アル姐さんも俺の名前呼んでたし、このまま無視できる事態じゃない。

 動き回る妖精たちを避けながら、俺は姐さんたちが消えていった場所に向かう。

 途中、放心状態の兵士さんにダンスの申し出をするメイド姿の妖精を見かけた。どう見ても兵士さんは踊れる状態ではないし、明らかに人選ミスというか、そもそも人選の基準がよくわからんから同情の余地すらない。他の兵士さんも同様に申し出を受けたようで、ニ、三人が女性の妖精に腕を引かれながら俺とすれ違った。一瞬助けを求めるような視線が兵士さんから注がれた気がしたが、たぶん俺の気のせいだろう。そういうことにしておく。

 というか、俺も早く逃げないと妖精のダンス相手にされてしまいかねない。今は何とか、持ち前の『存在感の薄さ』を利用して人目を避けてはいるが、見つかるのも時間の問題だ。パートナーが一通り決まってしまえば、やはりそこに余人が生まれるわけで、一人で行動している俺は確実にそのターゲットにされるだろう。

 他人にある程度免疫が出てきたとはいえ、今のところ平気で触れることができるのはアル姐さんくらいなものだ。もし見ず知らずの妖精のダンスに付き合わなければならない事態が発生したら、もちろん身体の一部が必ず相手と接触するわけで……ああ! 考えただけでも悪寒がっ……!

《むしろその怪しい風体のせいで誰にも声をかけてくれなかったりして……ぷぷっ》

 ――――それはそれで助かるから良い。このダサい仮面を提供してくれたアレクに最大限の感謝を送るべきだろう。ついでに何でお前が吹き出したのかの理由の如何いかんもこの際問うまい。

 とにかく、今はいち早く連れ去られたアル姐さんの奪還を優先する。

 楽しそうに手を繋いで進路を横切る妖精の男女一組をやり過ごし、俺は寝室になっている隣の部屋へと身を滑らせた。

「うおっと、キリヤか!?」

 危うく衝突しそうになった。

 視界に突然現れたアレクが、俺の姿を認めて大袈裟に後退する。

「アレク……?」

「“兄上”か“兄さん”と呼べ。ちなみに“お兄様”は駄目だぞ? この呼称はディーナ限定だし、お前にそんな呼び方されても気持ち悪いだけだしな」

「…………」

 話が飛び火し過ぎてよくわからん。よくこの状況でそんなどうでもいい話が出てくるな?

 いや、しかし、こんな状況だからこそ混乱して思考が麻痺している可能性もある。享楽主義なこの男でも、さすがに今の信じ難い光景は現実として受け止めるのに少々厄介であるのかもしれない。

 仕方ない。ここは一度アレクのペースに合わせるか……。

「アルテミス殿が何処に行かれたかご存知ですか、“兄上”」

 兄上という部分を嫌味ったらしく強調して、アルテミスの行方をアレクに訊ねる。

 するとアレクは満足そうに大きく頷いた後、次の瞬間には重要な事を思い出したとばかりに目を見開いた。

「ああ、それだ! さっきアルが野郎に引っ張られながら壁の中に消えたんだよ!」

「……は?」

 なんだそりゃ?

 妖精だけならともかく、人間のアル姐さんまで?

「一体どういうことだ?」

「そりゃこっちが聞きたいっての。厚着した髭のおっさんが、アルに腕を絡ませたまま壁に吸い込まれたんだ。アルたちが消えた壁を調べてみたが、仕掛けもなければ通り抜けることもできやしない。お前なら何か知ってるかもしれないって、今から会いに行こうとしてたんだが……その様子じゃそっちも困ってそうだな?」

 当たり前だ。

 エンシェントウィザードだか何だか知らないが、俺だってこの世界に来て間もない素人の魔道士だ。チートみたいな魔術使えるからって、それが知識や経験を上回って補うわけでもないし。

「あのアルを“無理矢理”動かすような奴らだからな。下克上の生々しさを見せ付けられたというか、弱肉強食の自然界の秩序が乱れたのかと思って肝を冷やしたぞ! 俺一人で何とかできる問題じゃないってことはよく理解できたぜ……」

 額に手を当てて天を仰ぐアレクを見ても、俺はあきれ返ることしかできなかった。

 なるほど、確かに“信じられない光景”を目撃してしまったのが原因で若干取り乱してはいるが、その直接的な理由に妖精は関係なく、むしろ妖精に対して絶対的支配力を発揮できなかったアル姐さんの無力な姿に驚きを禁じえないでいるように見える。

《大国の主をこうも動揺させるアルテミスさんとは一体何者なのでしょうか? 一度、キリっちと本気で手合わせ願いたいものです》

 ――――阿呆! 冗談でもそんな願望を易々と口にするな! 

 マジでそんな洒落にならない事になったらどうするんだ。胴体と首が仲良く繋がって墓穴に埋められるなら幾分もマシなくらいだ。あの目にも止まらぬ斬撃に生き残ったら宝くじで億万長者になるくらい幸運の持ち主になれるぞ、きっと。

「とにかくこうしちゃいられないな。早いとこリディア王に合流して――――いや、まずはアルの奪還だ。あのエセ貴族野郎から俺たちの騎士団長を取り返すぞ!」

 胸の前で拳を打ちつけて気合を入れるアレクに、俺は真摯の眼差しを注ぎながら慎重に頷いた。

 別に妖精に恨みがあるわけではないが、嫌がったアル姐さんを無理矢理連れて行ったフレンチ男をみすみす看過することはできない。

 よし、ではまず何から始めよう? 周りの妖精たちに手当たり次第聞きだすか? それともこの事態を引き起こした張本人に直接問い詰めるか? もしくは魔術で壁を突き破って姐さんたちを追いかけようか?


『マリーお姉さまを説得しても無駄だよ』

『あなた達にお姉さまは止められない』


 これからの対策を講じようと俺が思考を巡らしていた時だった。

 不意に、幼い少女の無感動な声が、俺のすぐ真後ろから掛けられたのである。   

「!?」

 俺は飛び上がった。

 アレクと合流した直後で油断していたということもあったが、それ以上に気づかず背後に接近を許したという事実が俺を驚愕させる。

『だって守護妖精なんだもの。ボク達よりずっと昔からこの街に住んでる守護者ガーディアン

『あなた達よりずっと長生きよ? とても強いのよ?』

 俺はその場で飛びのいて、振り向きざまに身構えた。

 かくして目の前にいたのは、瓜二つの顔をした幼い双子の少女。片方ずつ、黒と白の髪色を持ち、二人ともゴシック風のドレスを身に纏っている。モノトーンの暗い衣装が、その双子の不気味さを余計に際立たせていた。

 “時の賢者”もドレス姿であったが、彼女とはまた違う印象をその格好から判別できる。なんというか……飾り気のない銀髪少女の質素なドレスに比べて、この双子の服装は豪奢で……贅沢な装飾がふんだんに施されていてよく目立っていた。

 こういう格好をゴシック・ロリータ・ファッションと呼ぶのだろうか。俺にはよくわからんが、色彩を感じないモノクロのドレスでもそれなりに派手な印象を受ける。

「まったく気配を感じなかったぜ……ガキにしてはなかなかの隠密能力だ」

 双子を警戒してか、アレクの口調には刺々しさがあった。

 アレクは女性には皆平等に(セレスを除いて)優しい男だと思っていたが、どうやらそれは俺の思い過ごしのようだ。それとも、妖精なんて人外はその対象に含まれないのか。

『“ガキ”だってアネッタ。こんな幼い女の子のボク達に酷いと思わない?』

 黒髪の方の、少し勝気そうな印象を受ける凛々しい表情の少女が、アレクの言葉に悲しそうに眉をひそめて片割の少女の手を握る。

 その手を握り返した白髪(銀髪?)の少女は、アレクの顔を無表情で眺めながらこくこくと頷いた。顔のつくりと相まって、その器械的な挙動に生命の息吹が感じられない。“端整な顔立ちの美少女”というより、“精巧に作られた人形”と表現した方がまだわかりやすいだろう。

 皮肉が通用せず、双子から非難めいた視線を受けたアレクはというと、大して気にした様子もなく鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべた。 

「あんたらが本当に幼子なら、背伸びして精一杯大人の真似事でもするもんさ。自分の事を“幼い”と自覚するのは、その変わらない姿のまま結構な年月生きてきた証拠だろうよ」

『ロッタ。あの男の人怖い……』

 白髪の、大人しい方の少女が、ロッタと呼ぶ黒髪の少女の腕にしがみ付いた。

 声音には変わらず感情の起伏を感じないが、表情に少しばかり変化が見られる。獰猛な野獣を警戒する小動物のように、つぶらな目をいっぱいに開いてとにかくアレクをガン見していた。         

『大丈夫だよアネッタ。きっと怖いのは顔だけだから』 

「んだとぉ!?」

 笑顔を浮かべてそう返すロッタという名の少女の言葉に、アレクが大袈裟に声を荒げる。

 するとアネッタと呼ばれた少女はさらに縮こまって、ついにはロッタの後ろに隠れてしまった。

 アレクのはわざとに違いないが、いくらなんでも調子に乗りすぎだと思うぞ……。

「おい、アレク……」

「わーってるよ。上手い事言いくるめて、さっさとアルたちを探しにいく……」

 いや、だからそのデカい態度をやめろ。相手が怒って攻撃してきたらどうするんだ? ピロ曰くこの城の妖精は人を殺すような事はしないようだが、それ以前に彼らは守護者ガーディアンという役目を持つ守護妖精らしいじゃないか。あまり深く挑発したら、命の心配はともかく、俺たちを戦闘不能に陥れるような強硬手段くらい使ってきてもおかしくはない。痛い思いだけはもう勘弁してくれ。

 だが白髪少女の怯えた様子を見て勝手に勢いづいたアレクに、俺の忠告を聞き入れる隙は微塵も残っていなかった。

「おいチビども、俺たちは今忙しいんだ。アルの居場所を教える気がないんなら、邪魔せずに中庭の噴水で水遊びでもしてろ」

『水遊びなら昨日やったもん。今日は舞踏会でしょ? だからマリーお姉さまが皆集めたんじゃないか』

 先ほどから聞く“マリーお姉さま”というのはやっぱり……。

「ははーん、なるほど。お前たちの言う“お姉さま”ってのは、さっきの金髪美人のことだな。確か名前が……マリアネッタだっけ?」

『“マリオネット”ね。“アネッタ”はこの子の名前。ボクの妹だよ』

 そう強く訂正して、ボーイッシュな黒髪少女ロッタが背中に隠れた白髪少女アネッタを前に押し出す。

『ちょっと人見知りなトコがあるけど、ダンスはお姉さまの二番目くらいに上手なんだから』

『っ!?』

 今度こそアネッタの表情が強張った。

 それもそうだろう。何せ彼女の正面には、大人気ない軽薄男と真っ黒仮面男という不安要素丸出し二人組が身構えて立っているのである。

 俺に至っては何もしてないのは明白だが、この容姿で子供に無実を弁明しても説得力に欠けるのは事実。その証に、アネッタは長い白髪を振り乱して俺たちを交互に見やった後、姉の腕をすり抜けて再び背中に引っ込んでしまった。

 けど、何だろう……。“人見知り”と知って、あのアネッタという少女の事を他人とは思えなくなってしまった。似たもの同士というか、他人を避ける習性に同情を誘う……。

「ったく……こんな事に時間潰してる余裕なんてないってのに。おいキリヤ! 俺がアル探してくるから、お前はこの子供たちの相手を頼む!」

「何……!?」

 ちょっと待てや。

「俺に面倒事を押し付けて、お前一人撤退するつもりかっ……」

「おいおい、撤退とか大袈裟だな……。俺はただ、アルを見つけるまでこの双子を足止めしてくれと言ってるだけだぜ? 俺よりお前の方が妖精に詳しいようだからな、こいつらの扱い方だって手馴れたもんなんだろ?」

 手馴れてねぇし!

 誰だそんな大ホラ吹いた子悪党は!

『ねぇそこの二人とも。なんかボクたちをやり過ごすための作戦でも立ててるつもりのようだけど、こっちまで丸聞こえだよ?』

 呆れた様子のロッタが、半眼になってため息を吐く。

 作戦だと? こんな一方的な押し付けが作戦の内に入ってたまるか。

「おうおう、そこの元気っ子! 俺たちの話が聞こえてたのなら好都合。アルたちの居場所知ってんだろ? 正直に教えてくれたら、隣の仮面のお兄さんが踊ってやってもいいだとさ」

「…………」

 絶対に踊らない。

「ああ、それとついでにセレスっていう噴水頭の小娘も探してくれると助かる。蒼い目で金髪、白いローブを着た魔道士の少女なんだが……」

 完全に妖精が協力すること前提に話を進めてやがるな、この自己中心野郎。

 しかもお嬢はついでかよ。元々こっちの捜索がメインだろうが……。

 と、心の中で吐露できない思いをアレクにぶつけてみる。無論、それで現状が俺たちにとって有利に進展する事はあるまい。

 双子はいよいよ、無茶苦茶なアレクに頬を引きつらせていたが、やがて気を取り直すかのように目を瞑って顔を振り、その表情に再び余裕の笑みを浮かべた。

『怖い顔のお兄さん。探しものなら後でいくらでも見つけてきてあげるからさ……今はボクたちと』

 消失。

 まるで最初からその場に何も存在していなかったように、呆然とするアネッタを残してロッタの姿が掻き消える。

 そして次に姿を現した時には、その少女の身体はアレクの眼前に存在していた。

「なっ!?」

『踊ろうよ。ねぇ……!』

 ガシャッ。

 手錠をめる音が聞こえた気がした。    

 少女の細くて小さな指が、アレクの筋肉質な手首をしっかりと掴み、その両手の自由を奪ったロッタは、そのまま壁に向かって勢い良く走り出したのである。

「ぐほぉ!」

 もちろん、腕を掴まれているアレクも例外ではない。

 咄嗟の出来事にまともな悲鳴も上げられず、それまで偉そうに威張っていた男はたった一人の小さな妖精相手に思うがままにされた。

『ロッタ!? 待って……! 何処に行くの!』

 アネッタが声を荒げる。

『ちょっとこの人とダンスするだけ。アネッタもそこの渋いお兄さんと踊ってもいいんだよ?』

 だから踊らないって言ってるだろ。あと渋い言うな! 俺を年寄り扱いするのだけは許さん!

『嫌よロッタ! 私を一人にしないで! ねぇお願い行かないで!』

 泣き顔を浮かべたアネッタが、走り去る姉を追いかけて駆け出す。

 だが五歩目に届かずして、少女は俺の隣を通過する寸前に躓いて転倒。

 するとどうしたことか。地面との接触をなくした少女の体はそのまま地面に激突ぜす、重力に逆らって宙に停滞したのである。

「…………」

 なんともシュールな光景であった。

 いや、この世界にやって来てからそんなものは嫌というほど見てきたつもりだが、今の状態はその中でもダントツに奇怪である。

 自分は床にしっかりと足で立っているにもかかわらず、少女は俺の隣で足をバタつかせながら姉の名を連呼して空中を漂っていた。

「お、おいこら離せ何をしやがるお前あとで覚えとけよぐはっ……ちょ、頼むとまってくれお願いだから後生だから腕が外れるって言ってんだろちゃんと聞こえて」

 ふと、アレクの絶叫が途絶えた。

 部屋を見回してみたが、彼の騒々しい姿が見当たらない。ロッタというボクッ子少女もいなくなっていた。

《お二人なら、さっき壁を通過して隣の部屋に移ったのですよ》

 気だるい雰囲気を感じさせる声で、ピロが俺の頭に直接話しかける。

 なるほど……つまりあいつも、アル姐さんと同じく妖精のにえにされたというわけか。まぁ、死ぬわけじゃないし今すぐ助けてやる義理はないわな。俺を妖精のダンス相手に指名した罰だ、姐さんの救出が完了するまでしばらく踊ってろ。

『…………』

「…………」

 とりあえず、この少女に姐さんの居場所を教えてほしいところだが……。

『…………』

 まるで水面に浮かぶカエルみたいに手足を投げ出して、アネッタは力なく宙を漂っていた。

 どうも姉と離れ、独りぼっちになってしまったことに酷い衝撃を受けたようである。うーむ……会話できる状態じゃないな、これは。

 といっても、このまま放ってはおけないし……何か慰めになる適当な言葉をかけられないものか。

『…………』

「……なぁ、君」

 話しかけてしまった。

 嗚呼、俺の阿呆!

 ほら見ろ、俺の低い声にビビって震えてるじゃねぇか! 何が慰めになる言葉だちくしょう! 人見知りってのは相手にしないのが一番効果的だって俺自身がよく知ってることだろう! 

 ここで口を閉ざしてしまうのはさすがにまずい。俺イコール“ただの変人”なんて印象を与えてたまるか。それだけは駄目だ、絶対に。ここは何としても会話を持続させんと……。

「その、何だ……まだ名乗ってなかったな。俺の名前は桐也だ、よろしく頼む……」

 頼む! どうか無反応だけはやめてくれ!

『…………アネッタ』

 俺の切望が天に届いたのかはわからない。    

 ただ俺の自己紹介に少女が言葉で返してくれたという真実が妙に嬉しくて仕方なかった。

 むくり。

 だらりと垂れたアネッタの頭が持ち上がる。

 前髪から僅かに覗く丸い瞳が、俺の姿を捉えた。

『キリヤ……? 今、お城の屋上で、その名前を呟いた人がいる……』

「え……?」 

 まさか、ここから中庭の声まで聞きとれるってのか?

「どうしてわかるんだ?」

『私も一応……この街の守護者ガーディアンだから。……この街で起こってることは、全部見聞きできるのよ?』

 そいつはまた……とんでもなく便利な能力だな。俺の魔術で利用できないものか……。

『ほら、また……』 

 アネッタが虚空を見つめながら呟く。

『綺麗な金髪の人。真っ白なお洋服を着てるのよ。……他にも一人……メイドさんが一緒』

 綺麗な金髪に真っ白い服……言わずもがな、誰だか検討がつく。

《ええ、妖精の能力の信憑性については不確定の部分も多いですが、彼女の言っていることが真実なら、それは間違いなく彼女でしょうね》

 ったく……なんたって屋上なんかにいるんだよ。観賞魚の次は日向ぼっこか?

 まあいいや。行方が割れたことだけでも良しとしよう。

「アネッタ。俺をその人の所へ連れていくことはできないか? ああ、いや……無理にとは言わない」

 ここからじゃ安否の確認はできないし、自分でお嬢の元に足を運ぶ必要がある。

 俺がアネッタに屋上への案内を頼むと、彼女はビクッと肩を震わせた。そして俺から顔を逸らし、そのまま宙に浮いたままくるくると横周りに回転する。

 うん、昔の俺もこうやって人を避けてきたからよくわかる(念のため言っておくが回転はしていない)。見ず知らずの人に突然話しかけられると、普段の冷めた態度とは一転、どうしてもうろたえてしまって、相手の顔を見て話すどころか正直な思いさえ言葉にして伝えられなくなるのだ。

 まだ質問に答えてくれる分、彼女の人見知りはそんなに酷くはない。きっとお喋りな姉を持ったことが幸いしたのだろう。そのお陰と言ってもなんだが、交渉の余地は十分にあった。

『その人……あなたの家族?』

 ふと、そんな問いがアネッタから掛けられた。

 慎重に言葉を選びながら、俺は答える。

「家族ではないが、俺の恩人だよ。……彼女がいなければ、俺はここにいなかった」

 この言葉は嘘じゃない。

 実際に、あの森でセレス嬢に会うことがなければ 、俺は今ごろ野垂れ死んでいたに違いないからな。

『恩人……大切な人……』

 前髪で顔を覆い隠したまま、左右にゆらりゆらりと揺れるアネッタ。

 やがて何かを決意するかのように頷くと、少女の小柄な身体は浮遊をやめて地面に降り立った。

『大切な人と離れ離れになるのは、とても辛いことなのよ。……うん、私があなたをその人の所へ連れていってあげる……』

 そう言って控えめに手を差し出してくる白髪の少女に、俺は少し拍子抜けした。

 本当はもっと長期戦を覚悟したのである。しかし一言、二言話しただけで、こんなに早く了承してくれるとは思わなかった。

《これが人の子と妖精の違いなのでしょうかね。普通の子供なら、見ず知らずの大人に話しかけられただけで泣きながら逃げ出してしまうでしょうに、このアネッタという少女はそれをしなかった。キリっちの質問の全てを拒もうとはせず、自分なりに考えて決断しているようにも窺えましたよ。いやはや、第一印象とは実に厄介な人的見地ですね》

 過度な思い込みをする人ほど、他人の本質を見極めることは困難。

 “人”と同じ観点から人見知りの度合いを考えたのが間違いだった。

 この子はとても優しい。でなければ、他人の不幸を気にして、俺にこうも簡単に手を差し出すような真似ができるわけがない。

『どうしたの? 早く手を繋いで……』

「…………」

 いや、まぁ……できることなら、アネッタちゃんに先導していただきたいというか、本音を申し上げると手を繋ぐのは俺にとって非常に繊細な問題があり――――

 くいっ。

「!?」

 言い訳を考える時間さえ与えてくれなかった。

 俺の右手人差し指を強引に掴んだアネッタが、眉をひそめて口を尖らせる。


『……少し荒っぽいから気をつけるのよ』

 

 どうやら拗ねてしまったらしい。

 などという推測をするのもままならず、俺の視界は激しいテレビの砂嵐にような乱れに覆われる。

 声を上げる暇もなかった。耳障りなノイズ音が聴覚を混乱させ、平行感覚の全てを容赦なく奪い去る。

 

 そして次の瞬間――――。


「…………なん……で……」


 再び戻った視界はすでに様変わりしていた。

 白い壁。

 硬いベッド。

 質素な勉強机。

 何もかも変わっちゃいなかった。いや、変わっていなかったからこそ、俺はその空間の正体に気づいちまった。

 うんざりするほど嫌な空間であったはずのその場所は間違いなく――――


「帰って、きたってか……?」


 俺の家の部屋だったんだから。

   

 詰め込み過ぎたかもしれませんw

 ぇ?(゜д゜)ってなった読者様はもう一度読み返すことをお勧めします。

 無茶振りな展開で申し訳ない……orz

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