第八話 大魔道士と古代魔道士
「ねぇプシュケ。転送陣使わせて、お願いっ!」
この通り、っという感じで手を合わせて頼み込むセレス嬢。
それに対して……
「駄目です! セレスさんは兎も角、身元もわからないような魔道士の方を王都行きの転送陣に乗せるわけにはいきません」
小さい身長を威張るように反らしながら腕を組む、プシュケと呼ばれるローブ少女。
その視線の先はセレス嬢の後ろに立つ俺に向けられているようで、俄かに睨まれているようだった。しかしその丸くて大きな目で睨まれても、俺にとっては怖いというより何だか微笑ましい。
「あたしが認めるわ。この人の身柄は宮廷魔道士であるあたしが保証するっ」
セレス嬢は手を胸に当てて、こちらも身体を反らした。
「たとえ国王直属の魔道士であるセレスさんが証人でも、此処はあたいたち王立魔道管理局の管轄です。王国の平和を守る守護者として、不審者をおいそれと転送することはできませんっ!」
そうして今度は立ち上がって胸を反らす受付嬢もといプシュケ。
何故か俺は『身元のわからない魔道士』から『不審者』へとグレードダウンした……。
「だからお願いしてるんでしょ! 学園時代からの級友として、頭下げてるじゃないっ」
いや全然下げてないっすよ! むしろさっきより頭反れてるし……。
「勤務に私情は厳禁なんで、友人の頼みと言えど許可できません」
さらに胸を反らすプシュケ。
……これ何の自慢大会?
「はぁ~……ドワーフ族ってどうしてこうも頑固なのかしら? 石いじりで脳みそまで固くなっちゃったんじゃないの~?」
あまりのプシュケの堅物さに肩を落とすセレス嬢。
お! ついに諦めたか? さすがのお嬢も私情厳禁とか言われたら対処のしようがないだろうからな。
それにしてもこの子がドワーフね……。外見としては普通の少女となんら変わらないんだな。
「頑固で結構…。あたいは元よりこの役職に向いていると昔から思っていましたから……。情を見せない不屈の意思! せっせと雑務をこなす巧みの手先! そして魔道具の本質を見分ける『魔眼』の能力! この全てを兼ね備えたあたいに、此処以外の職場はありましょうか、いや存在しない!」
うわ! なんか盛り上がってきたぞっ? …ってか隣の係りの人引いてるし……。
余程この仕事場に気合入ってるんだな。
「ちょっとプシュケッ! やめなさいよっ! 見てるこっちがが恥ずかしいじゃないっ!」
顔を赤くしたセレス嬢が、椅子に足を掛けて熱弁するプシュケをなだめようとする。
然るにお嬢……。俺はあなたの派手な白ローブが恥ずかしくてたまらないのですが……。
それより早く終わってくれないかなぁ……。これ以上こんな狭苦しいところで、しかも周りのローブ人(俺命名)にジロジロ見られるとさすがにローブ着込んだ俺でも頭に血が上ってのぼせそうだ。
此処で俺が倒れたならば、黒目だってことがバレるのは明々白々。
そうなったならば、俺は魔道士の研究所みたいな所に連れられて………絶対に嫌だっ! そんな無様な死に方はしたくないっ。
「し、失礼…取り乱しました。オホンッ! とにかくっ、この街の転送陣を利用したいのであれば、その怪しい魔道士の身分を証明するものを持ってきてください!」
プシュケは乱れたローブを整え、椅子に座り直すと再び俺を睨んできた。
そして俺の評価は『不審者』から『怪しい魔道士』に格下げ、と。………これ何の遊び?
俺は異様な空気に包まれたこの場に耐えかね、頭を抱えるセレス嬢の傍に近づいた。
「セレス……。このままでは埒が明かない。歩いて行った方がいいんじゃないか…?」
歩くのは嫌いなんだけど、こんな所で渋滞をくらうより大分マシだ。
靴擦れぐらいなら覚悟できる。それ以上は……まあ、その時の現状によるかな……。
「ええ~!? 嫌よっ! そんなの無理ッ!」
しかし俺の理に通った意見は、セレスの呆れとも言えるやる気のない顔によって否定された。
「だって此処から歩いて二週間の距離よ!? 馬車使っても最低五日はかかるのにっ!」
マジかよっ!? じゃあ俺もその案却下! 三日程度なら何とか我慢出来そうだがそれ以上は勘弁してくれ! 俺は熱血漢溢れる冒険者じゃないからな。
「それよりもキリヤ君ッ!」
「うお………!」
いきなり眼前に迫ったセレス嬢に、俺は慌てて後ず去った。
だからいきなり近づくなっての! 心臓に悪いんだからっ! どんだけ悪いと言ったら絶叫マシンとお化け屋敷を同時に体験したみたいな悪さだ! このままじゃ、寿命がいくつあっても足りないぞ!
そんな俺の胸中とはお構いなしに、さらに詰め寄って来たセレス嬢が俺に向かって手を差し出した。
「何か身分を証明できるもの持ってない? 魔道士のじゃなくてもいいわ。国と経歴が記されていればそれでいいから」
うむ。身分証明できるものか………。
あっ、そういえばブレザーの内ポケットに生徒手帳を入れていたような……ん? この世界の人たちに日本語は読めるのだろうか……?
などと、俺が取り出した生徒手帳を握りながら、見せるかやめるか迷っていると前から伸びたセレス嬢の手によって呆気なく取られてしまった。
「な~んだ。ちゃんと持ってるじゃない。どうして迷うことがあるのよ………。あれ? この手帳に描かれてる紋章って……確か、あなたの上着に……」
エンブレム? ……それって校章のことか?
「それではセレスさん。その証をこちらに……」
「あ、うん……」
「ふむ………どうやら手帳のようですね。確かに、魔道士の中にも呪文暗記に記す者もいますが……しかも表裏が革製、張も全て紙……これ程高価な物を持ち歩くとなると……。失礼ながらあなたは…キリヤ殿は、貴族の方であらせられますか?」
お! 『怪しい魔道士』から『キリヤ殿』に大出世だぜ! さすが俺の世界の私物っ!
……あれ? じゃあ俺個人としては評価されてないってこと?
「キリヤ殿…?」
「あ、いや…何でもない。…俺に聞くよりも『中身』を確かめた方が信憑性が高いんじゃないか…?」
「…まあ、それもそうですね。わかりました。しばらくお待ちください」
筆を片手に、手帳を開いていくプシュケ。
ん~……なんか事情聴取みたいで嫌だな、こういうの……。手帳に何も書いてなくてよかった~。
「なっ……!?」
おっと、早速行き詰ったな…。まあ、それもそうか……。
「うん? どうしたのプシュケ?」
プシュケの驚きに興味が引かれたのか、その横から手帳を覗き込むセレス嬢……。
…って横!?
おい、お嬢ッ! あんたいつの間にカウンターの向こうに回ったのよっ? 全然気がつかなかった。
………さ、さすが『影行動』を見破った女………。恐るべし……。
「………セレスさん、これ…何て書いてあるか読めますか……?」
「ん~……? えっ? ちょっとこれって…エリュマン語じゃないじゃないっ!?」
プシュケの掴んでいた手帳を引っ手繰るセレス嬢。
それに対してプシュケが、いきなり取らないでくださいっ、とか喚めいているが、俺が思うに怒るところはそこじゃなく、セレス嬢が勝手にカウンターに侵入している事のような気がする。
「ねぇキリヤ君ッ! あなたのいた国ってこの大陸じゃないのっ?」
興奮したように体を前に出すセレス嬢。
しかし俺とお嬢を隔てるカウンターが邪魔して、俺に迫ることはできない。助かった……。
俺はセレス嬢の質問に首を縦に振る。
もう喋らんぞ。こんなに目立つ場所じゃ、体動かすのにも一苦労だからな。
「落ち着いてください、セレスさん! あなたが大きな声を出したら、他の魔道士の方に迷惑になるでしょう? ……っていうかいつの間に『こっち』に入ってきてるんですかっ!」
プシュケさん……そういうあなたも随分と声が大きいですよ………。
「細かいこと言わないの! あたしは今大事な話をしてるんだから」
細かいことっ!? お嬢さっき恥ずかしいとか言ってなかったっけ!?
「それじゃあキリヤ君にズバリ質問っ! あなたのいた国ってガラティン大陸かしら?」
「それはありませんね……。かの大陸の文献は見たことはありますが、この手帳の文字を見る限り言語が著しく似通っていませんから」
「プシュケには聞いてないでしょ。キリヤ君はどうなの? ガラティン大陸の出身?」
俺は首を横に振る。
「それ見なさい。あたいの目に狂いはなかったのですよ」
「む~…。それじゃあ、ガーナ大陸なんだ」
これも否。
…っていうか当たり前だ。ここは俺の世界ですらないんだから。
俺は再び首を横に振る。
「はあ? ではあなたは何処で生まれたというのです? フィステリア中の大陸何処にも属していない国などあるわけがないでしょう」
プシュケが呆れた表情で肩をすくめた。
「島国だ……」
「え……?」
「俺のいた国は周りを海で囲まれている。故に、どの大陸にも属してはいない……」
無所属というのはもっぱら嘘だったが、島国なのは事実だ。別に間違った嘘を言った覚えはないぞ。
「へぇ~……そんな国があるんだ~。ねぇ! フィステリアのどの辺り?」
「極東にあるはずだ……」
ここが地球なら、オフィシャルワールドマップの一番右端にな。
「はず…とは、少々いい加減なのではないですか?」
「何せ小さい国だからな。地図に載ってるかさえわからない……」
「そんな島があったら、毎日高波の脅威に曝されますよね。国としての機能も維持できそうにありませんが……」
プシュケが大きな目を鋭く細め、俺のフードで隠れた顔を見据える。
やばっ…! 少しばかり調子に乗りすぎたようだ。
なんとか誤魔化さないと……。俺の魔術でどうにかできないだろうか……?
「それにあなたの出身がガーナ大陸でもないとすれば、この手帳の言語はどの大陸にも通じてないということになります。つまり、文字を解読してあなたの経歴を調べることも不可能。どちらにせよ、詳細な身元を確認できない以上、あなたを転送陣に乗せるわけにはいきません」
「そんなぁ~! キリヤ君は嘘ついてないわよ!」
ガッカリした感じと共に、すかさず俺を庇うセレス嬢。
しかしフォローになっていない。嘘ついてないという証拠がないからな。
「嘘をつくつかないの真偽が問題ではありません。証拠があるかないかの有無が結果として残るのですよ」
「また難しいことを饒舌にペラペラと……。それだからいつまで経っても管理職止まりなのよっ」
「なっ、それは関係ないでしょう! っていうかあたいはこの仕事に誇りがあるんですっ。部外者のセレスさんが余計な口を挟まないでくださいっ!」
「じゃあ転送陣使わせて」
「だ~か~ら! どうしてあなたは人の話をちゃんと聞こうとしないんですかっ!」
「プシュケ・アストルフォ!!」
「は、はいぃぃ!」
突然響いた叱責に、椅子から飛び上がって起立するプシュケ。
その横ではセレス嬢も同じように固まっている。
もちろん俺も驚いてしまい、反射的に声がした方へ振り返った。
「魔道士方公共の場で、しかもお客人を相手に大声を上げるとは管理職たる者として何たる羞恥か!
国に仕える魔道士ならば、業務に勤める限り感情的になるでないわっ!」
二階へ続く螺旋階段を、片手に松葉杖を突きながら器用に降りてくる老人が一人。
白い髭に覆われた口元を僅かに動かして、しかし大きな声を出すその姿は、いかにも賢人という風貌を兼ね備えており、こちらへと歩んでくる一歩一歩に何か意味を含んでいるかに思えた。
「も、申し訳ありませんっ! ガヌロン局長!」
プシュケが緊張しきった顔で老人へと頭を下げる。
『局長』ってことは、この建物で働いている魔道士の中で一番偉いんだよな……。やっぱ魔道士でも貫禄ある人が他を仕切るのか。だがあの年じゃ物忘れも酷かろうに………。
ガヌロンと呼ばれた老人が杖を突きながらお嬢たちの前へやって来るまで、俺は失礼なことを考えてしまった。
しかし、その老人の険しい目が俺のフードの下を捉えた時に見せた驚愕の表情が、俺の思考を一瞬に凍らせた。
老人の歩みが止まる。その驚きの眼差しは、影に隠れた俺の瞳へと注がれている。
「あの……ガヌロン局長……?」
不審に思ったのだろうか、老人を呼ぶプシュケの小さな声が聞こえた。
だが俺にはそちらを見ることができない。俺を凝視する老魔道士の動いた口が、決して告げられることのない無言の確認として、俺へと伝えられる。
『……黒い瞳……まさか、使命を背負う者なのか……』
その意味を理解した時、俺は瞬時にセレス嬢を振り返った。
「セレスッ………!」
「え? 急にどうしたのキリヤ君?」
しかし俺の反応に首を傾げるだけのセレス嬢は、カウンターの奥から動く気配はない。
馬鹿っ! 早く逃げねぇと捕まって解剖されるぞ! いや、この場合お嬢は関係ないから俺だけ逃げても問題ないわけだし…っていっても世話になった人を置き去りにできないから……けどここで俺が無理やり連れて行ったら誘拐になっちまうし、それ以前に俺は他人に触れられないし…ああもう! 俺はいったいどうしたらいいんだっ!!
「ま、待ってくだされ、魔道士のお方ッ! 私は貴殿に危害は加えませぬっ! 約束しましょう!」
俺がパニックになった頭で混乱していると、老人が慌てた様子で話しかけてきた。
「……信じられないな。なぜそう言い切れる?」
頭の中は真っ白になりながらも、声音が落ち着いていたのは幸いだった。
焦れば周囲の魔道士たちにも動揺を生み、余計にややこしくなっていたはずだ。
そうなれば俺は一環の終わり。俺の正体はこの場にいる魔道士たちに取り押さえられ、呆気なく捕まってしまうだろう。いくら俺がチート能力所持者だからといって、こんなにも大勢を相手にしかも狭い中で対抗するのはほぼ不可能と言っていい。この能力もまだ完全に操れてもいないからな。
俺が老人の言葉を待っていると、やがて意を決したように神妙に頷いた。
「転送陣の使用許可を与えましょう……」
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「局長ッ!? よろしいのですかっ?」
カウンターに身を乗り出してきたのは、ローブで全身をすっぽりと覆った小柄なドワーフの少女だった。
ガヌロンが営むソーサラー教会グィアヴィア支部の王立魔道管理局。
プシュケと呼ばれるその少女は、ドワーフ族では珍しい魔道士の役職について、この街の管理局で熱心に働いてくれている。
少々頑固なところはあるが、仕事には忠実で礼儀正しく、管理職という多雑な業務に屈することもない頑張りやなのだから、気まぐれな魔道士に比べれば非常に優秀な部類に入るだろう。
今のように感情の起伏が激しいところもあるが、それは彼女のドワーフとしての個性だと、ガヌロンは多少の騒動では目を瞑ってきたのだ。
しかし今回はわけが違った。
それも、多少の騒動では済まないほどに……。
「プシュケ。君は普段通り仕事に励みなさい。セレス殿とこの魔道士殿は、私が別室で話を伺おう」
「し、しかし……」
プシュケ、とガヌロンは重々しく、そして慎重に彼女の名を呼んだ。
「言うとおりにするんじゃ……」
「……っ! ……わかり、ました」
その一言に含まれた険しさを感じ取ったのか、プシュケは一瞬身体を震わせて渋々承諾した。
ガヌロンは彼女が大人しく椅子におさまったのを確認すると、黒いローブを覆った魔道士に向き直る。
「このガヌロン。一度決めた約束事をおいそれと破る程落ちぶれてはおりませぬ。転送陣の使用はどうぞお好きになさってくだされ」
ガヌロンは漆黒の魔道士から一切目を離さずに言い切った。
――――――目を離せば負け。
何の感情も映さない黒い瞳が、そう自分を試しているように思えて仕方なかった。目を離したその瞬間にこの場にいる全員が跡形もなく消えてしまった、なんて拍子抜けするような大惨事になった暁には、自分は死んでも死に切れないだろう。
この魔道管理局を預かる者として、命をかけても他の魔道士たちを守らなくてはならない。
それが管理局長としての使命であり、何よりも優先すべきことなのである。そして今自分にできること――――――それはこの魔道士を怒らせないことだっだ。
『鬼才の魔道士』『時の賢者の使い』『未知の魔術師』などと、世界中から畏敬の念を込めて呼ばれる謎の魔道士。
通称、古代魔道士。
その伝説的存在が今、自分の目の前にいてしかも会話している。幾多の時代が移り変わっても、その伝説魔道士の詳細を掴めた者は皆無。彼らを囲う国家の上層部たちも、完全な容姿を把握しきれていないという。
ガヌロンが魔道士の役職に就き六十余年、一時期現ヴァレンシア国王の顧問教師を勤めたこともあったが、それでも自分の代で争い事は起きることはなく、至って平凡は人生を歩んでいたはずだった。
しかし、自分は見てしまった……。
誰にも明かされたことのない禁断の姿見を――――――
唯一知られる『黒い瞳』という特徴を暗がりに見つけてしまった――――――
口に出すのがとても恐ろしかった。
喋った瞬間、これまで平凡だった自分の人生が跡形もなく砕け散るのではないかと………。
だから沈黙の確認をとった。口の動きだけで、ほとんど無意識に呆然と呟くように、一元一句ゆっくりと………。
結果その人物は考える素振りも見せず、瞬時に後ろに振り返り何事か叫んだ。
声は聞こえなかった。ただ自分はとんでもない過ちを犯したのだ、という事実に頭が真っ白になってしまっていた。
年甲斐もなく、慌ててローブの人物を説得したことに恥はない。それが自分にできた最大の役目だと自負していたからだ。
黒の魔道士が疑いの言葉を発した時は、自分はこの者と話しても言いのだろうかと、恐怖さえした。
低い声音からして、性別は男。
自分に気づかれたにも関わらず、説得の言葉に反応した声は落ち着きがあり、性格は冷静沈着。他人の言葉を信じきらない疑り深いところも兼ね備えているとなると、一人身になることが多かったに違いない。
宮廷魔道士の少女、セレスが同行しているのは理解できなかったが、彼女と一緒にいるのなら根本的に残忍な邪心は持ち合わせていないのだろうが、利用した後に使い捨てる冷徹な心を持っていないとは言い切れなかった。
ともかく、この古代魔道士に話を聞かないことには何もわからない。
だから下手に彼を刺激しないように、魔道管理局にやって来た目的と思われる転送陣の使用許可を与えた。
その上で彼と対等な立場を作り、なるべく不信感を植えつけないように話を切り出す。
「ただ、その前に話を聞かせてもらえませんじゃろうか? 王都へ赴く理由と、なぜ古代魔道士がこの国にいるのかを……」
漆黒の魔道士は黙したまま。
返答を待つ老いぼれは、頬を流れた冷や汗を拭わずにただ『黒い瞳』を注視する。
その偉大なる老人の名はガヌロン。王国に住まう魔道士でその名前を知らぬ者はおらず、またの名を『賢人のガヌロン』と呼ばれている。
魔道士階級は大魔道士。
対する向かいは古代魔道士。
あまりに違う名声の規模に、ガヌロンは初めて年下であろう魔道士に恐れを抱いたのだった。
八話目終了です。
ストーリーの展開は停滞気味……。