第六話 これからのこと
すでに日が落ち、漆黒に包まれたラズルクの森は、不気味な程の静けさがあった。
昼間を主に活動する魔獣たちは、そのほとんどが眠りに落ちていることだろう。ヴェラは基本的に日の昇ってからではないと生成されない。つまりそれを主食とする魔獣たちは、活動しようにもできないのである。
その闇に覆われた森の一角の空き地に照らされる明かり、そこには膝を抱えて座る魔道士少女セレスがいた。
膝に顎を乗せ、その視線を目の前に焚かれた炎に向ける姿はどこか神秘的なようで、それでいてとても寂しそうでもあった。
パチパチと薪が燃える音に、少女は視線を焚き火から外さないまま横に蓄えられた薪をくべる。その火は一瞬弱まったかのように激しく波打ったが、次の瞬間にはまた今までの勢いを取り戻していた。
この火や薪は全てセレスが用意したものであった。
薪は収束の魔術で周りの小枝をかき集め、その溜まった火種に火の魔術で着火したのである。
焚き火を挟んでセレスの丁度向かいには、今だ目が覚めない漆黒の少年が横たわっていた。
彼はつい数時間前、大木から落ちたセレスを受け止めるために、未知の魔術を使って地面への直撃を防いでくれたのだが、そのすぐ後に彼は気を失って倒れたのである。
揺り起こそうとしたが目覚める気配もなかっため、仕方なくセレスが浮遊の魔術を使ってこの空き地、初めて少年と出会った森の広場まで運んできたのだ。
幸いにもその道中、魔獣に遭遇することはなかった。
セレスたちを追ってきた魔獣に怯えていたかもしれないが、それでも少年を、キリヤを魔術で運んでいる彼女には到底魔獣の相手をするのは難しく、どちらにせよ魔獣が襲ってこなかったのは不幸中の幸いと言うべきか……。
(結局あたしは……魔術を使えないと何もできない役立たずね……)
上級魔道士として、セレスはできうる限りの魔道学を学んできたつもりだった。並の人間よりも魔力の滞在量が圧倒的に多い彼女は、将来有望な魔道士になれると周りから期待と敬遠の対象として思う者が多く、それと同時に嫉みや嫉妬といった侮蔑を持つ者も少なくはなかったのである。だからこそセレスは猛勉強に励んだ。期待に答えるためにと、自分を馬鹿にする者たちを見返してやろうと、毎日を魔術の訓練や知識の発展に力を注いできたのだった。
名門の魔術育成学校であるラグナード魔術学園を主席で卒業して、ヴァレンス王国の宮廷魔道士就任の報が届いた時は、それこそまさに飛び跳ねて喜んだ程だった。これでみんなに認めてもらえる。誰も自分を馬鹿にしなくなる、と…。
(……あの頃のあたしは、ただ周りに認めてもらいたい一身でがむしゃらに足掻いていただけだった。……宮廷魔道士なんて称号も、あたしが魔術の才に秀でているというだけのもの。…あたしは……魔術のこと以外は何も知らない、ただの大馬鹿だ……)
この森に一人で調査にやって来て気づいた。
魔道士など魔術を使えなければ、普通の一般人と同じ……いや、それ以下だ。魔術を詠唱するための時間稼ぎができなければ途端に攻撃され、反撃もすることなく終わってしまう。もしこの少年、古代魔道士である彼が助けてくれなかったら、セレスは今頃こうして今晩を迎えることができて無かったはず……。
自分は死んでいたかもしれないという現実に、彼女は恐怖して身体を震わせた。
その視線の先が、少年の寝顔へと移る。
「君にはこの森で何度も助けてもらったわね……。本当に感謝してるわ……」
聞こえるはずのない御礼の呟きは、薪の燃焼音と共に闇へと消える。
セレスはもう一度、焚き火に薪を加えた。
その火は一回りも大きくなり、ふたつの人影を大きく映し出す。
その一際明かるくなった空間の中、セレスはふと、キリヤの黒くて目立つ服装に目が入った。
不意に興味心が湧いてきたセレスは、少年を起こさないように四つん這いになって近づき、その変わった容姿を改めて観察した。
魔道士であるにも関わらずローブを羽織っていないのは疑問であったが、何しろ不明の部分が多い古代魔道士である。彼らを配下に加える国家も、古代魔道士の存在は超一級極秘扱いとされ、おいそれとその正体を表に出すことはないのだ。
未知の魔道士が行使する未知の魔術。
世界中の魔道研究者たちにとって、その正体を暴くことが何よりも願うべき夢であり、魔道学の最終到達地点ともされてきている。
その大きな対象となっているのが古代魔道士であり、その謎を解明するために多額な雇用金まで出して、有能な情報屋を雇う者もいるほどである。
しかしその願望者は何も研究者たちだけに留まらない。
あらゆる魔術を習得し尽くした大魔道士や国家に属さない魔道士たちの中には、さらなる魔術の追求を求めて、古代魔道士たちの行方を自ら追っている者もいるらしい。
だが彼らの血の滲むような努力も虚しく、今だ一人もその魔術をものにした者はいない。
彼らに一度でも遭遇すると生きては帰れないとか、かの魔道士たちの使う魔術は特殊で普通の習得方法では覚えられないなど、いろんな説があるが、どれも風の噂程度で真実性には今ひとつ欠ける。
だがその噂の中で……いや、国家から正式に知らされた真実が一つある。
それが、闇のように黒い瞳を持つというたった一つの容姿であった。
なぜ知らされたのか理由は明らかになっていないが、事実その国に属していた古代魔道士が城下に集まった群集の前で自ら宣言したのだという。
それが今から五百年前の話。
宮廷魔道士として王宮に住み着いていたセレスが、図書館を利用して調べ尽くした古代魔道士の文献に載る全ての紀伝である。
何でも外見をローブで覆って姿が見えなかったため、その者の性別や人種、特徴などは一切わからなかったらしい。しかし自ら宣言したとあるのだから、その声の特徴で性別ぐらいはわかったのではないだろうか。
これがセレスが最近まで知っていた古代魔道士に関することだった。
しかし、彼女にとって今はそんな少ない情報よりも、目の前にいる本物の古代魔道士にあった。
性別は間違いなく男性。今は眠っているが文献通りの黒目。上下の服装も黒といった漆黒尽くしの少年であるが、ローブも羽織らず、目立つ双眼も隠していないということは、別段自分の正体を他者に知られても構わないらしいのか、もしくはただ不注意なだけなのかなのだろうか?
セレスは恐らく前者の方だろうと思っている。
彼は同年代の少年に比べたら、身体は痩せて、背も平均よりやや小さいぐらいなのだが、想像以上に身体能力が高く、足場の悪いこの森にも慣れているような感じだった。
きっと長い間、こういう環境に馴染んでいたためだろう。彼は一人で旅をしていると言っていた。
つまり危険な状況の時も全て一人で対処していたということなのだ。幾多の魔獣とも戦い、死を覚悟したこともあったかもしれない。
魔獣に追いつめられた時もそうだった。
セレスを脇に抱え、不敵に笑いながら言った言葉が……。
『…失せろ、化け物め』
その低い声音には恐怖は見受けられず、ただ襲われたから倒す、という一つの行動範囲内だったのではないだろうか。
きっと自分の姿を他人に見られ、襲われるようなことがあったとしても、一人で対処できる自身があったからに違いない。
安全な王宮で平凡に雑務を淡々とこなしていた自分とは大違いだ。
彼は……カンザキ・キリヤなる人物は、魔道士としてだけでなく、戦士としても戦い慣れている。
古代魔道士はみんなこうも強いのか。はたまた彼が特別なのか。
その普通の少年にしか見えない無防備な寝顔からは、彼が戦いに身を興じた魔道士だとは到底思えなかった。
しかし、次の瞬間に少年が寝返りを打った時に言った寝言が、セレスの想像を確信に変えた。
「……う…ん……ま、て………」
「え? キリヤ君……?」
「逃がさん……確実に……殺す……!」
「なっ………!」
なんということだ……!
この少年は現実の世界だけでなく、夢の中でもその手を血に染めているというのか。
彼はいったい、今までどれほどの生命を手にかけててきたのだろう。
(逃がさない、て言ってたわよね……。それは、自分の正体を相手に知られたから……)
そこまで考えてセレスは、自分も殺されるのではないだろうかと恐怖に顔を青くしたが、すぐに頭を振って考えを否定した。
まさかそんなはずがない。自分は彼の正体をいち早く見破って、しかもそのことを本人に聞き返しても何も危害は加えてこなかった。知られてまずかったのなら、自分は速攻で彼に殺されていたはずだ。
(そ、そうよ! きっとそう! それにあたしは彼に助けてもらったんだから。今更殺すなんて……)
セレスは不気味な想像を強引に中断し、再びキリヤの観察を始めた。
上着の裾を触ってみると、驚いたことに硬くて弾力性のある材質でできていることが判った。
てっきり旅をしているから皮か毛で作られているのかと思ったが、その感触からしてそうではない。
だからといって麻や絹ならもっと柔らかいはずだ。他大陸の品だろうか……。
セレスはその不思議な生地をよく調べようと、目を凝らした時だった。
その上着の襟部分と思わしきところに、炎に照らされて反射する光沢のあるものが取り付けられているのを発見した。
どうやら金属でできているらしく、そのプレートの表には何やら複雑な幾学模様な曲線と、文字のような太い線がびっしりと描き込まれている。
「も、もしかして……キリヤ君は、軍人なの……?」
もしこの紋章が軍隊の階級章なら、彼の服装の謎にも納得できる気がした。
幾重にも編みこまれた繊細な布。
その感触はずっしりと重く、伸縮がない。
これほど丹念に作られた衣服になると、上流貴族ばかりか王族でも滅多に所持していないのではないだろうか。
一介の騎士や近衛兵では無理だ。
一軍の司令官か旅団以上を率いることのできる隊長クラスの仕官、それこそ武官としては将軍か騎士団長。君主の側近あれば参謀長か軍師といったところだろう。
だが魔道士が指揮官をしているなんて話は聞いたことがない。確かに魔道士団のような軍属の魔道士もいるが、彼らの場合は例外だ。
「訳ありで出身は言えないみたいだし、もしかしてもう他の国に属しているのかな……? いや、でも一人で旅してるって言ってたから、あの場を乗り切るための嘘ってわけじゃなさそうだし……。ああもう全然わかんないっ!」
と、あまりの謎の多さに大声を上げてしまったセレスは慌てて口を塞いだ。
隣を横目で見下ろしてみたが、幸いにも少年は目を覚まさなかったようだ。あまりに鈍感というべきか、それとも余程疲れが溜まっていたのか……。
しかし、セレスはその無防備な寝顔を見てむしろ安心感を覚えた。
先ほどの鬼気迫った寝言とは違い、今は本当に睡眠という欲求を満たす純粋な少年であったからだ。
彼の表情からはとても軍人としての気配が感じられず、それが逆にセレスの緊張感を取り去ってくれた。
「ふふ……あたしと大して年も変わらないのに、 寝顔はホント子供みたいね……」
あ~あ、なんか拍子抜けしたな、とセレスは立ち上がって伸びをすると、元いた場所に戻って横になった。
(キリヤ君はあたしの命の恩人……。それ以外に何を疑うものがあるというの……?)
セレスの夢は叶った。
それも最低の依頼調査の最中に……。
今なら神が引き合わせた運命と言っても信じてもいいかもしれない。
彼女はさらに薪を数本焚き火にくべると、身体を丸くして眠りについた。
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覚醒した意識の中で俺がまず感じ取ったのは、乾いた土のにおいと肌を打つ生ぬるい風だった。
あれ? この展開前にもあった気がするぞ。はて……どこだったか?
まあいいや。さっさと起きねぇと学校に遅刻しちまう。
俺は制服に着替えようとベット横に取り付けられているフックに手を伸ばした。
あ、あれ? おかしいな……何でないんだ? ってか俺の手がとどいてないのか。
俺はダルイ身体を無理やり動かし、目を半眼にして制服を探そうとした。
おかしいな……なんでこんなに薄暗いんだ……? 俺の脳内規則時計は丁度八時を知らせているんだが………。カーテン締め切ってたっけ?
つーか身体痛ぇな……。全身の関節が悲鳴上げてやがるぞ。重労働した次の日の朝じゃあるまいし…
…俺はおっさんか……!
…って違うからなっ! 俺はまだ若い! ちょっとやそっと運動したからって全身筋肉痛になって堪るかっ! 断じて年寄りなんかじゃない……!
ああ! 年寄りで思い出したが、俺は今日とんでもなく最悪の夢を見たんだった。
その内容には俺の妹が絡んでいるんだが、何でもそのアホがいきなり俺の部屋にやってきてだな……『ねぇ、兄貴って年寄り臭いから洋菓子嫌いでしょ。だから兄貴のおやつのプリン、うちが貰っていいよね。いいでしょ? いいって? じゃあうちが決める。年寄り兄貴はプリンが、き・ら・い・☆』
などと光栄にも俺の怒りゲージをマックスオーバーさせる嫌味もとい侮辱を一方的に叩き付けた挙句、俺の大好物のカスタードプディングをあろう事か目の前で見せつけながらほお張りだしたのだ。
無論、その瞬間に俺の頭の中には妹に対する純潔無垢の殺意が芽生え、高速の鉄拳を愚妹の顔面に叩き込んだのだが、プリンに夢中になっていたそいつはしかし、華麗とも言えるほどの首の捻りでこれを回避、獲物を見失った俺の拳はそのまま壁に激突した。
今にすれば、本当に夢であってよかったと思う……。もし現実だったら俺の利き手は復活不可能な程砕け散り、使い物にならなくなっていたはずだ。
その後は追走劇の連続だった。
プリン片手にニヤニヤする妹は、逃げる間も常に俺を年寄り扱いする始末。既に怒りの臨界点を突破し、不気味なほど冷静になっていた俺は、妹を追いかけながら『…死ね…殺す…呪われろ…』なんて穢い言葉を呟いていた気がするが、何せ夢の中で理性が吹き飛んだものだからよく覚えていない。
というより、ここまで正確に夢の内容を思い出せる俺は相当根に持ってしまっているようだ。
よし! 今日は妹の顔を一切見ずに学校へ行こう。話しかけてきたら耳塞いでやんよ……。
しかし本当におかしいな……。
さっきから手をあちこちに伸ばしているんだが、お目当てのものどころか馴染んだものの感覚さえないぞ。俺の部屋のフローリングってこんなにゴツゴツざらざらしていただろうか?
乾いた土触ってるみたいだな。なんか風ビュウビュウ吹いてるし……。
………え? 乾いた土?
俺が目を見開いた先に、確かにそれはあった。
ひび割れた薄茶色の地面。鬱蒼と茂る雑草。背の高い無数の針葉樹……。
次に自分の格好を確認する。
それは俺の通う公立高校指定の制服であり、服装の乱れや汗ばんだ感じが、俺がこの制服を着てから大分経っていることを物語っている。
つまりそれは、俺がこの格好のままこの森で寝ていたということであって……
「おいおい……まさか……」
嫌な予感を胸に抱きつつ、俺は恐る恐る周囲を見渡す。
どうか見つかりませんように、と祈りながら焦点の合わない目で探っていたが、その対象はあっけないほどすぐに見つけた……いや、見つけてしまった。
それは薪の燃えかすと思わしき黒い物体の傍にいた。
腰までとどく透き通るような金髪を、両端で二つに括ったツインテール少女。白いローブに包まれた身体を丸く横たえ、小さい寝息を立てて眠っている。
「は、はは……夢じゃ…なかったのか……」
俺の口から気の抜けた笑い声が漏れる。
夢のわけないよな。だって今日俺が見たのって最悪の夢だったから……。
いや、この現実もある意味最悪だよ、うん……なんたって『異世界』にいるんだからな……。
俺は横たえていた身体を完全に起こすと、誰にするともなく大きく嘆息した。
結局俺は、この世界で一晩明かしたというこになるな……。たぶんそれは今日のことに限ったことでもない…。
頭に響いた銀髪少女の言う謎の使命、それを果たすまできっと俺は帰れない。
いや、この際帰れるかどうかもわからない。詳細な理由も告げず一方的に送ってきたその声は、ただ使命を果たせと言った。くそ! 俺にいったい何ができるっていうんだ。
なんか色々思い出したら、すっかり目が覚めたな……。
まあ嫌なこと思い出して機嫌悪くなるのは毎度のことだったから、そんなに落胆することはない。
しかし今回はスケールがあまりにもデカイ。
目が覚めたら異世界のとある森で倒れてましたって、それいったい何の二次元っすか……。
俺は正真正銘、現実と別世界をはっきりと隔てる生真面目高校生なんですよ。
肉体構成完全に無視した異世界召喚なんて二次元だから説明がつくの!
それなのに身体に激痛走って、気を失って目が覚めたら「ハイッ、異世界!」なんて認められるか!
これ何のデジャヴよ!? 魔法陣はないのか? 召喚陣は? それとも光り輝く鏡は?
よし。ないなら自分で作ればいい! さあ頭に思い浮かべるんだ! 薄く発光する複雑なルーンが刻まれた特大魔法陣をっ! そしてその手に解き放てっ!
「我が手に出でよっ! 魔法陣……!」
決めゼリフに関しては何も突っ込まないでくれ……。センスがないのは昔からだ……。
するとどうだ! 俺の掲げた右手から光が迸り、次の瞬間には俺の頭上に直径四メートルはあろう大きな魔法陣が浮かび上がったーー!
「………むにゃむにゃ……へいか~、いい加減にして……」
「………」
…想像したのより小さかったがまあいい。
結果的に『能力』をまだ使えるか試したかっただけだしな……。この魔法陣自体も特に何の意味も持たないただの光の輪っかだから……。
この『能力』は、皮肉にも俺がこの世界、フィステリアに来てしまった時に身についてしまった『魔術』という奇跡の術らしい。
いかにも魔法の世界って感じだろ?
何でも俺が想像したものやイメージしたものが、俺の身体を媒介にして現実世界に具現化させるらしい……。
……今俺普通に説明したけどこれってかなりむちゃくちゃなんだぞ。
つまり俺の頭が正常に起きている、もしくは体内のヴェラっていう魔力がなくならない限り、俺はこの世界では神にも等しいような超能力を使えるってことになる。
RPGによくあるチート主人公みたいなやつだな。
改造してバグったら最強になって無敵でした、みたいな……。
けど俺はこの世界で世界征服なんてするつもりはないからな。
臆病でヘタレな俺には勇者も魔王も似合わないだろうし、使命っての終えた暁には……いや、そもそも帰る方法が見つかった瞬間に俺はこの世界とはおさらばだ……。
俺がこれからのことをいろいろ決意していると、猫みたいに丸くなっていたセレス嬢が身じろきした。
おっと、そろそろお目覚めか。
ならこのエセ魔法陣も消さなくてはな。変に余計な勘違いでもして質問攻めにでもあったら大変だ。
俺は発光する手の平を握り、上空に浮かび上がる魔法陣のビジョンを消した。
それと同時にセレス嬢が身体を起こし、その視線をこちらに向けた。
「………」
「……ん?」
な、何だ? 俺の顔になんかついてるか?
セレス嬢は寝起きの目を細め、さらに顔を寄せてきた。
「ど、どうした……?」
「………ありゃ?」
やがてその目を驚いたように丸くすると、素早く左右に首を向ける。
……どうしたんだ?
周りをよ~く観察した後、視線を俺の正面で再び固定…。
……そして
「…あたしの部屋……いつの間に模様替えしたっけ……?」
知らないから。
つーか絶対寝ぼけてるだろ。
六話目終了です…。
ちなみに六話目のサブタイトル適当です…。意味としてはまんまですね。