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6・ないもの①

 まだ目的地の半ばにも来てはいないらしいのだけれども、額から胸から背中から汗がジワっと出てきて身体に沿って垂れていく感覚が余計に暑さ感を増幅させる。部屋窓から入ってくる風も湿気を帯びていてねっとりと纏わり付き息苦しい。それほど暑さには強くないサンドルのサンドル車で来ることができるのは、今日の宿のあるチゴナーナヤーナが限界らしくて、明日からは暑さに耐性のある生物の引く車に乗り換えてさらに暑い場所に向かうことになるそうだ。普段は暑くもなく寒くもない丁度良い気温の地域で生活しているのに、そんな暑いところに行ったら私たちの身体の方が耐えられるんだろうか。

 寝苦しい夜が明けて眠りの浅い身体のまま朝食を摂り身支度をしてヤサニヤ車に乗りこんだ。ここからは区間サンドル車が出ておらず、ヤサニヤの車を借り切るしかないらしい。ヤサニヤ自体は暑さに強いのだろうけれども車内にいる私たちには車窓が開いていても走行中の熱風を感じ続けて体力が削られて、とても快適な旅とは言い難い。

 数日かけての移動中には野生生物にも遭遇するのだが、通常の生物程度ではヤサニヤを襲おうとは思わないのか、超怪動物も現れず、その意味では旅程は割と快適だった。


 石壁で囲まれたシュナシーネの町に到着するまで日数を数えていたけれども、途中からわからなくなってしまって、結局何日かかったんだろうか。ずいぶんと遠いところへ来たものだと思う。

 サヤニヤ車から降りてみると、空気が割と乾いていて肌に当たる光の熱がこれまでの湿った感じよりましになっている。でもピリピリと肌が焼けそうで調理肉の気持ちがわかりそうだ。廻りを見てみると大きな葉を繁らせた沢山の背の高い木が陰を作っていて、その下に入りたいけれども今日の宿を見つけなければならないので、そのまま日射しの中を歩いた。暑いよ。


 宿は割と早めに見つけることができた。木陰の中に小さな小屋が建っていて読めない字の看板が掲げられていたのだけれども、マノウがひと言「案内屋」と呟いたので入ってみることにした。こういう時にも頼りになります。中には町の宿を纏めた案内紙だけでなく、食事処の案内紙や遊興観光場所が書かれたものや、町の廻りの危険生物の分布図や地図など、シュナシーネ町のありとあらゆる情報が置かれていた。結構大きな町のようだ。案内紙は貰えるんじゃなくて買わなきゃならなかった。案内所じゃなくて案内屋だしね。宿と食事処の二つの案内紙を買って、宿はそこに書かれていたところにしたんだ。お金を取って案内しているだけあってそれなりに良さそうな宿だ。長旅で身体も疲れているし、三人部屋を取って今日は早めに休むことになった。


 そもそもなんで時間を掛けてこんな遠くて暑いところにわざわざ来たのかというと、最近のニーナの独り言というか愚痴が発端になっている。

「ファンタジー感が足りない」

「はんたじぃ感ってなんですか」

「違う!。ファンタジー!」

 ニーナが何を言っているのかわからない、という顔を私がしていたんだと思うけど、ナッシュにも理解できるようにちゃんと説明してあげるからそこに坐ってと言ってきた。そこからが長かった。まあ後は身体を洗って寝るだけだから良いんだけれども。

 剣と魔法の世界なのになんでまおう?がいないのかだとか、えるふ?やごぶりん?に出会いたかっただとか、勇者のパーティーがいないのはおかしいだとか、ニーナが何を言っているのか理解できない時間に延々と付き合わされてしまった。特に一番納得がいかないことがあって、それはウィザードが杖も持たず詠唱もなしで魔法を発動させちゃうことなんだそうだ。ウィザードが言うには、子供の頃には訓練用に手持ちの杖を使うこともあるけれど、発動のきっかけさえ掴めれば杖など持たなくとも魔法は発動するらしい。なのでニーナがなんでそのことに拘るのかが理解できないんだ。

 そんな時に、アザの町のホラウのところにガルスが返済している借金が預けられていて、それを取りに来たアタックウィザードのマノウと、化学魔法を販売してもらうためにホラウにこっそり預けにきていたニーナが久しぶりに会ってしまって、そのままホラウの食事処で食事をしながら私にした愚痴と同じような話しをマノウにしたらしい。普通の人なら私と同じような反応なんだろうけれども、ウィザードの知識のあるマノウのひと言でニーナの中で何かが弾けたようだ。それからずっと自室に籠りっぱなしになって何かやっているし、一緒についてきたマノウが空き部屋に寝泊りするしで、私の炊事洗濯掃除その他もろもろは増量してしまった。

「ナッシュ、マノウ、準備できたから出掛けるよ」

 数日ぶりに部屋から出て下りてきてこの人は何を言いだしているんだと思っていたら、テーブル向かいに坐っていたマノウが立ち上がり何かをニーナに耳打ちしてから二階に上がっていってしまった。

「臭うから先に身体を洗ってって言われた・・・。マノウは荷物を取りに行ったからナッシュも早く準備して。洗ったらすぐ出るから」

 もう有無を言わさない勢いで出掛けることになってしまった。

 マノウがニーナに「強い魔力を帯びている植物が生育している場所が遠くにある」ようなことを言ったらしいのだ。その結果で私は今ここにいるんだ。


 朝から既に肌にあたる日射しがきつかったが、町から目的の場所までは良くない足場が続いていて歩きしか移動手段がなさそうで、出発して直ぐに汗が浮かんでいる。町の石壁が見えなくなる頃に休憩を入れたいとニーナが言ってきたので、少し早いけれど暑さ対策でのこまめな休息は必要だよねと思っていたら、ゲートウィンドウを開いてテントの部品を取り出して組み立ててしまった。町からたいして進んでいないのにいくらなんでもテントは大袈裟なのではと思ったら、テントの中からニーナに中に入るように促された。テントの中でも別のゲートウィンドウが開いていて何かを取り出すとそれをマノウと私に渡してきた。

「それに着替えちゃって。下着も脱いでそのまま着てね」

 着替えさせるためにテントを出したのか。手に取ってみると布表面の手ざわりに引っ掛かりがない、今まで見たこともない素材でできていた。上下に分かれる服を肌にじかに付けてみるとほんのり身体全体がひんやりとしてきた。

「涼しいです。なんですか、これ」

 胸の真ん中とへそ下のところに魔法が注入された淡い青色の石が縫いこまれていて、化法で身体全体を包むように薄い冷気の膜ができているんだそうだ。こんな良いものがあるんならもっと早く出してくれればと思ったけれど、注入魔法の持続時間は無限ではないので目的地の近くに来るまで温存していたんだそうだ。しかしながら快適に動けても装備としては薄い布で頼りなさすぎなのではと話したら。

「水着なんだからそんなものだよ。上からいつもの服や装備を付けてもらえは涼しさそのままで大丈夫でしょ」

 みずぅぎ?、というのが水に入るときに特化した服だとニーナから説明された。水に入る用の服など聞いたことがないけれど下着代わりだと思えば良いか。自室に籠って何かしてたのはこれを作っていたんだそうだ。もっと布面積の少ない涼しいものもあるよと見せられたけど、それを付けても裸同然に思えて恥ずかしいので断ったら、「異世界冒険者にビキニは必然なのに…」とかなんとかブツブツしばらく呟きっぱなしだった。


 依然として歩きづらいところを二時間くらい進んだと思うけど、その間にも「二人を別々に呼んで渡せば良かった」とか「マノウならきっと着てくれるはず」とか、まだ小言が微かに聞こえていた。どれだけその、びぃきに?、を着せたがっていたんだかと思っていたら。ずっと一番後ろを歩いていたマノウがニーナと私を追い抜いて前に出ながら両手を広げて歩みを遮るとそのまま立ち止まった。

「水がない。マヤマサギの森もなくなっている」

 見据える先には地面がえぐられたようなドロッとぬかるんだ土になっていて、うっかり進んでいたら足がそのまま沈んでしまって抜けられないのではないかと思える泥が広がっている。

「目的の植物がある場所はここであってるの?」

「あそこに見えている建物がマヤマサギを管理して研究もしているところ。間違いない」

 マノウが指差した先には陽の光が何かに反射してキラキラと輝く建物が見て取れた。マノウが知っているここは、透明度の高い水で満たされた少し大きめの湖があって、いくつものマヤマサギの固まりがゆっくりと動きながら湖に浮かんでいる感じのものなのだそうだ。今のこの光景にはそんな面影は見て取れない。

 泥を避けてその建物に近づいてみると、建物全体が格子の枠組みでできていて、枠の中に透明な板がはめられていたので反射して輝いていたのだ。

「ガラス張りになっているんだ。植物に光をあてるための作りかな」

 ニーナが言っているがらすというものが、透明な板のことなんだろうか。近くまで来ると建物の中が良く見える。建物に沿って右に歩いていくと、これもがらすでできている扉をみつけたので中に入ってみた。

「温室のようだけど、いやいやこんな暑い場所で温室はないか。マヤマサギの実験施設なのか」

 建物の中の土も外と同じようなぬかるみで、ここにも水があったようだ。建物内部にも奥の方に石材でできている建物が見える。

「いくつかガラスが割れて地面に落ちているから気を付けて」

 廃墟というところまでの印象ではないのだが割と新しく壊れた感じを受ける。足元に気を配りながら奥の建物に続く地面を歩いていく。建物出入口の扉も透き通っているのでこれもがらすなんだろう、外からでも中が荒れているのが見て取れる。入ってすぐ右の部屋の中ではテーブルも椅子もひっくり返っていたり潰れていたりしていて、ここで何があったのか気になる。

 眼の前の通路らしき空間には外光が届いておらず灯りの設備も働いていないようで奥が見えない暗闇になっている。ニーナが背負い袋から化法のシャインを取り出して照らしてみると、奥へと続く通路が見えてきた。ここにも何か壊れたものがちらばっていたので注意しながら進んでみる。

「誰かがいるような状態じゃないですね。このまま奥へ入っちゃって大丈夫でしょうか」

 外にも建物の中にもマヤマサギがなくなっているということは貴重な固有種かもしれないものが消えてしまっているのかもしれない。それではこんな暑い遠方までわざわざ来た意味もなく、どうしてもマヤマサギの手掛かりが欲しいニーナとしては先に進む以外考えていないようだ。ニーナを先頭にして奥に進む。通路はまっすぐに延びているけれどスロープのように下っていくのを足元で感じている。変わった作りの建物だな。もう地面の高さよりも下にもぐっているんじゃないかと思う。

 スロープが終わったところで眼の前と右と左に扉のようなものがシャインの灯りで照らされた。ニーナが私とマノウの顔を交互に見て右側の扉のようなものを指差した。入ってみようということだろう。ここで戻ったらそれこそ何もなく帰ることになりそうだ。横にスライドして開閉する扉だったのだが一人だけの力ではピクリとも動かず、結局三人がかりで右側にズズッと開いていった。

「うわっ!、明るくなった!」

 中に入ると視界を遮る暗い空間全体が明るい赤みをおびた光で満たされて奥の方まで見えるようになった。人に反応して灯りが勝手に点く化法なのかな。

「二人とも気をつけて!。床が割れたガラスだらけになってる」

 長細い台と通路が交互になって部屋の奥の方に続いていて、その通路にがらすが散らばっている。台の上には半球状に伏せられたような丸いがらすも見て取れるが、殆どは割れていてそれが床に落ちたのだろう。無事ながらすの中には見たこともない植物らしいものが入っているのが見える。研究をしているところだとマノウが言っていたからもしかしたら。

「あれです。あの植物がマヤマサギ」

「良かった。ちょっとでも見つかって。床のガラスを片付けないと」

 がらすが邪魔になって奥の半球状がらすに近づく床の隙間がなかったが、ニーナがゲートウィンドウを二つ開くと、空中の一つ目からはジェル状になっているネコがゲートウィンドウからこぼれ出てきて床一面に広がってがらすをその液体の身体に取り込み、床に開いた二つ目のウィンドウの中に集めたがらすを身体から分離させて落としていった。床のゲートウィンドウはどこかの火山に繋がっているやつだと思うけど、ネコという生物はこんなお掃除みたいなこともするのか。

「ネコ、しばらくこのままこっち側にいてくれる?」

 ネコはジェル状から動物の姿に変化するとニーナの肩にぽんと飛び乗り、顔の部分をニーナにこすりつけていた。このままいるよって合図かな。

 ニーナがゲートウィンドウを閉じると歩けるようになった床を進んで割れていない半球状がらすに近づく。その中に入っているのがマヤマサギなのか。

「マヤマサギ、取り出したいけれど大丈夫かな。荒れ放題の廃墟っぽいし大丈夫だよね」

 ニーナは自身に言い聞かせるように呟いてから半球状のがらすに手を伸ばしていった。建物がこんな状態じゃなかったら私も躊躇するけど誰かいるわけでもないし、まあいいでしょ。あっちを見てこっちをいじってと色々試してみてるみたいだけど。

「ダメ!。このガラス開かないし外せもしない。どこかに開けるスイッチでもあるのかな」

 辺りを見廻してみても壊れた棚や書類らしきものが散らばっていて、もしスイッチらしいものがあっても直ぐには見つけられそうにない。スロープを下って右側の扉に入ったけれど、正面か左側の扉の中に管理部屋がある可能性もあるし、この部屋の奥にも別の部屋があるかもしれないし、あるかないかわからないものを探すには厄介な作業になりそうだ。

「いっそのことガラスを割って取り出しちゃおうか」

 手に入れたいのはわかるけど割っちゃうとか言いましたよ、この人は。実際には三人で手分けをして何か仕掛けがないか探すことにしたのだけれど、それまで目を閉じて休んでいたネコが大きな弧を描いてニーナの肩から飛び降りた。降りた先には奥に続くだろう扉があるんだけれど、そちらを見たまま動かなくなった。

「ネコが警戒している。みんな気をつけて」

 耳らしき突起を右に左にとぴくぴく動かしている。私にはわからないけれど何か聞こえるのだろうか。

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