大好きだった幼馴染に告白されたのに、幼馴染は違う人と付き合っていた。一体何を私は間違えたのだろう
「美優、好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
やっベー! めっちゃハズい! 勢いに身を任せて幼馴染に告白しちまったよ!
彼女――十勝美優とは幼い頃から付き合いがある。それだけに、幼馴染の友人の西元さんから、美優と最近仲のいい男子がいると聞いて、俺はじっとしていられなかった。
年頃の男子によくある嫉妬だ。普段意識していない女子が他の男と一緒にいて、ジェラシーを感じてしまうのとよく似ている。
ついつい幼馴染のことを独占したくなってしまったのだ。今まで気にしてなかったクセに。
「え……マジ……? ちょっと考えさせて」
そんな驕りを見透かすかのように、彼女は結論を先延ばしにした。
即答しないと言うことは、少なからず好意を抱いてくれているかのように思える。だが裏を返せば、俺以外に好きな男がいて、俺とそいつを天秤にかけているかのようにも見える
少し腹立たしい。俺のことが本当に好きなら悩んだりしないはずだ。それだったら潔くフッてくれた方がまだいい。
「おう。返事待ってるぞ」
そうは言ったものの、待ってはいられなかった。
俺の知っている美優は、物事を有耶無耶にしたりしない。だが言葉にして、伝えづらいことがあると途端に口数が少なくなる
もしかしたら、断る理由がとっさに思い付かなくて、ああ言ったのかもしれない。
待たされた挙げ句フラれるのでは目も当てられない。それに仮にOKをもらえたところで、幼馴染に疑念を抱くことになるだろう。
すぐにでも答えを知りたかった。だから俺は、美優の気持ちを知っているであろう彼女の友人――西元さんに聞いてみることにした。
「多分だけど、美優、宗田くんと付き合ってるよ。この間2人で一緒に帰ってたし」
宗田とは美優と仲のいい男子の名前だ。彼は美優のクラスメイトであり、西元さんも彼と同じクラスである。
ちなみに言うと俺だけ違うクラスだ。そんな俺が、違うクラスの西元さんと話すようになったのは、幼馴染の紹介だったりする。
今はそんなことどうでもいいか。しかしショックだ。いつの間にか、美優と宗田がそんな仲になっていたなんて。
結局のところ時既に遅しと言ったところだ。だがこれではっきりした。あの場で答えをもらえなかったのが悲しくはあるのだが…………。
「そういうことは先に言ってくれよ。恥ずかしい思いしちゃったじゃねーか」
「え……弥益くん、もしかして、美優にフラれちゃった!?」
「はっきりと断わられた訳じゃねーけど、西元さんの話を聞く限りそうなんだろうな。考えさせてって言ってた」
「ごめんね……」
俯く西元さんを見て、ハッとする。
ついつい強い口調で彼女を責めてしまったが、西元さんは何も悪くない。悪いのは俺だ。
事前に聞いておかなかった方が悪い。宗田と美優の仲がいいという情報だけを聞いて、先走って行動をしてしまったのは俺である。
「こっちこそごめん」
「あのさ…………いきなりなんだけど、私と付き合わない?」
「ん?? どういうこと?」
「実はね……。私前から弥益くんのこといいなぁって思ってたの。美優の代わりに、どうかな?」
普段の俺なら即断っていた。本来であれば彼女の告白に耳を傾けたりしない。だが今の俺には、西元さん対して罪悪感がある。断るに断われない状況だ、
思いの外、西元さんは強かだ。失恋直後で弱っている俺の心を狙い撃ちにきた。
何故彼女が俺のことを好きになったのかは分からない。分からないが…………俺に好意を抱いてくれているのは間違いなさそうだ。
西元さんはじっと俺のことを見つめている。さっきまでの自分が目の前にいるのではないかと錯覚してしまいそうだ。
何だか幼馴染の友人が魅力的に見えてきた。なんと言えばいいのだろう。西元さんが俺を好いている――その事実が彼女の存在を際立たせるのだ。
彼女と付き合ったら尻に敷かれそうな気がする。しかし、それがかけがえのないもののように思えて仕方がない。
失恋は誰でも経験する。それに美優に固執したところで、別に彼女と付き合える訳でもない。
なら幼馴染のことはきっぱりと諦めた方がいい。寂寥感に身を任せて、目の前の女の子を無下にするのはよくない。
「わかった。これから彼女としてよろしくね。西元さん」
俺は西元さんと付き合うことにした。幼馴染に告白したにも関わらず、彼女からの返事を待たずに――――。
☆★☆★☆★
私は友人の西元瑛瑠奈の突然の報告に愕然としていた。
彼女は私の幼馴染の弥益太一と付き合うと言うのである。
やっと彼への想いを言葉にできそうだと言うのに、どうしてそうなるか意味が分からなかった。
「美優、太一くんのことフッたんでしょ? 考えさせてって! なら別に私が付き合ったっていーじゃん!」
瑛瑠奈を問い詰めたら、逆に彼女は鋭い剣幕で言い返してきた。
私が太一をフッた? 何言ってるの? 太一のことが好きだから、それをどう言い表したらいいか分かんないから、考えさせてって言っただけだし。
太一もそれを分かってくれているはずなのに、なんで? なんで私が告白を断わったことになってるの?
「それにさ、美優は宗田くんの彼女でしょ? 2人も彼氏がほしいの?」
頭の整理が追い付かないうちに、瑛瑠奈は矢継ぎ早に捲し立ててくる。
「は? 私宗田くんと付き合ってなんかないし?」
「2人で一緒に帰ってたじゃん! 美優は何にもない人と2人きりになったりするわけ?」
「!?」
ようやく理解する。ほんの些細な行き違いでこんなことになってしまったことを。
宗田くんと私は同じ委員会に所属している。いつもあまり仕事はないのだけれど、イベントが間近に迫ると途端に忙しくなる。
たまたま、委員会が遅くまで続いた日があった。既に陽は沈んでいて、夜道を女子1人で帰るのは危ないからと、その日は宗田くんに家まで送ってもらった。
瑛瑠奈はそれを見ていた。私たちが付き合っていると勘違いした。
恐らく瑛瑠奈は太一に私が宗田くんと付き合ってると話したのだろう。だから太一も、考えさせてほしいという言葉を悪い意味で捉えた。
「ああ……もぅ……!」
拙くても、すぐに幼馴染に想いを伝えておけばよかった。太一に瑛瑠奈を紹介なんてしなければよかった。あの日宗田くんと一緒に帰らなければよかった。
無数にあった選択肢の中で、1つでも違うものを選んでいたら結果は変わっていただろう。太一の彼女には瑛瑠奈ではなく、私がなっていた。
瑛瑠奈は言った。幼馴染のことを太一くんと。雰囲気で分かる。彼女が私に太一を譲る気がないことを。
もう取り返しが付かない。今から太一に好きだと言ったところで、どうにもならない。
私は一体、何を間違えたのだろう――。
最後まで読んでいただきありがとうございました。