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二十二、推しの危機 2

誤字報告へのお返事は、活動報告にあります。





 


「デシ・・レア・・・」


「はい。ここにおります、オリヴェル様」




 オリヴェル様。


 どんどん身体が熱くなって、息も。


 ノア、早く戻って・・・!




 デシレアを抱き締めるオリヴェルの力が益々強くなり、呼吸の熱さが最早火傷するほどとデシレアが感じるようになったその時、デシレアは漸く待ち望んだ扉を叩く音を聞いた。


「戻りました・・っ」


 走るように急いだのだろう。


 ノアの息もあがっている。


「ありがとう・・・オリヴェル様、ノアが戻りました。調薬を始めます」


 そんなノアに心から感謝して、デシレアはオリヴェルに声をかけた。


「さ、若旦那様。こちらに」


 デシレアが調薬をするのだから、とノアがオリヴェルの身体をデシレアから離そうと、その腕にそっと触れた途端。


「うっ・・ぐぅっ・・がはっぁっ」


 オリヴェルが激しく痙攣して藻掻いた。


「オリヴェル様!」


「申し訳ありません!若旦那様っ」


 慌てて手を引いたノアの前で、オリヴェルは(おこり)の発作のように激しく震え、それを止めようとするかのように、強く自分を抱き締める。


「お前が・・・悪いんじゃな・・・ぐぅっ」


「オリヴェル様。ゆっくり呼吸しましょう」


 震えながら、それでもノアが悪いのではないと言うオリヴェルの背を優しく擦り、デシレアがゆったりとした声で促す。


「デシレア・・・」


 オリヴェルは、そんなデシレアの手を取るとしっかりと握り締めて頬刷りし、再びソファに押し倒すと、その身体にしがみ付くように抱き付いた。


「ふっ・・・うぅ」


 呻くような声をあげたオリヴェルが、二度と(のが)さないと言わぬばかりに、益々その腕の力を強くする。


「っ」


 余りにしっかりと抱き込まれているため、デシレアはオリヴェルの腕に全身すっぽりと囲い込まれた状態となり、周りからはデシレアの姿が見えないほど。


「オリヴェル様。もう少し、身体を起こしてくださいますか?この体勢だと腕が使えません」


 調薬するため腕の自由が欲しいとデシレアが言うと、デシレアからなるべく離れないようにしながら、オリヴェルがごそごそと動く。


 そして邪魔だというように、乱暴な所作で眼鏡を外した。


「っ」


 初めて見る、眼鏡を着けていないオリヴェルの素顔に一瞬息を飲んだデシレアは、無心でオリヴェルが額を擦り付けて来る様子に、愛しさが込み上げるのを感じる。


「はい。そこなら大丈夫です」


 そうしてしばらく居場所を探るように動いたオリヴェルは、デシレアの了解を聞いたその位置でしっかりとデシレアの身体に両腕を回し直し、みぞおちに頭を落ち着けた。




 オリヴェル様。


 


 初めてオリヴェルが見せる、まるで幼子のようなその動きを見守ったデシレアは、ひとつ息を吐いて硝子棒を手に取った。


「それでは、始めます」


 オリヴェルに教わった通りにしっかりと、そしてオリヴェルへの想いを込めて進める調薬。




 オリヴェル様が、苦しくなくなりますように。


 オリヴェル様が、心地よい状態になりますように。


 オリヴェル様が、安心して眠れますように。


 オリヴェル様。


 大好き、です。




 ありったけの想い、真心を込めて調薬を終えたデシレアは。




 え!?


 冷茶!?


 日本茶自体、初めて見るけど!?




 完成した中和剤を見て、大混乱に陥った。


 そこにあるのは、香りまでもが水出し緑茶。




 凄く美味しそう・・・じゃなくって!


 なんで!?


 どうして、今ここに水出し緑茶!?


 


 とても美味しそうではあるけれど、それはこれまでデシレアが作った中和剤とは、似ても似つかないもの。


「デシレア様?完成でございますか?」


「え、ええ」


 デシレアが固まってしまったからだろう。


 恐る恐るといった様子で声を掛けたノアに、調薬は終了したと答えつつ、完成は完成だけれどだがしかし、と思い悩むデシレアのみぞおちで、オリヴェルがごそごそ動いて顔をあげた。


「ああ・・・いい香りだ・・それに色も美しい・・・」


「オリヴェル様。ですが」


 心惹かれるよう、震える手で冷茶もどきの中和剤が完成した広口瓶に手を伸ばそうとするオリヴェルに代わり、冷茶仕様の中和剤をコップに入れるも、渡すのを躊躇うデシレアの手に自分の手を添え、オリヴェルはそれを一気に飲み干す。


「美味しい・・・心地いい」


 そして大きく息を吐き、うっとりと言ったオリヴェルが、満足そうにデシレアの肩に頭を乗せた。


「若旦那様。汗をお拭きします」


 かなり呼吸が落ち着き、状態が安定して来た様子のオリヴェルを見、安心した様子で着替えを持って近づいたノアが、そっとオリヴェルの肩に手を伸ばす。


「っっ!」


 しかしノアが触れた瞬間、オリヴェルは身体をびくつかせ、背中を丸めて震え出してしまった。


「ノア。私がするわ」


 咄嗟に手を引いたノアにそう言ったデシレアを、ノアが頼もしく見つめる。


「お願いいたします。補助はいたしますので」


 その言葉に頷いたデシレアは、オリヴェルのシャツを、途中裂きそうになりながらも何とか脱がせ、お湯で濡らした清潔な布で、その鍛えられた身体を丁寧に拭いて行く。


「ああ・・・心地いい」


 汗で気持ち悪かったのだろう。


 オリヴェルは、安心しきった表情でデシレアに身を委ねる。


 眼鏡をしていないオリヴェルが、瞳を閉じてデシレアのなすがままにさせている。


 その無防備さに、こんなにも信頼してくれているのかと、デシレアは胸が熱くなった。


 そうして、幾度も布を替えながらオリヴェルの顔や体を拭き清めていったデシレアは、上半身を終えたところで、はたと手を止めた。




 ベルトを外すくらいなら、大丈夫。


 でもその後は?


 脱がせて、そして清める・・・のは、ちょっと、いえ、かなり・・・。




 もちろん、下半身も清めたいと思う。


 オリヴェルには、出来るだけさっぱりとして欲しい。


 だがしかし、である。


「デシレア様。まずはこちらを若旦那様に」


 途方に暮れている最中(さなか)、声をかけられ見あげれば、ノアがオリヴェルの寝衣の上を着せ掛けるよう持っている。


 それを受け、デシレアが寝衣の上を着せればノアがにこりと笑った。


「ありがとう・・・」




 お、オリヴェル様、可愛い!




「デシレア様。どうぞ、若旦那様を抱き締めておいてさしあげてください。意識が、そちらに集中しますように」


 オリヴェルの、邪気の無い可愛さに胸をきゅんきゅんさせていたデシレアは、そう言ったノアの意図が分からないままその指示に従い、流石と声をあげる。


「ノア。凄いわ」


 上半身はよくても、と逡巡したデシレアにオリヴェルの上体を抱き締めさせておいて、ささっと下半身の清拭(せいしき)と着替えを済ませてしまったノアの技術に、デシレアは感服した。


 オリヴェルの肌に直接手が触れることは無かったのだろう。


 オリヴェルも、その身を震わせることは無い。


「若旦那様。医者を手配いたしますか?」


「不要だ・・・もう・・心配ない・・・」


 先ほどよりは熱も引き、呼吸も落ち着いて来てはいるが、その動きは未だ覚束ない。


 デシレアも医師に診せた方が、と思うものの、盛られた薬の見当がついているらしいオリヴェルは、必要ないと言い切った。


「では、オリヴェル様。横になりましょう?」


 峠は越えた、と言い募るものの、体力、気力の消耗の激しさを隠せないオリヴェルを促し、デシレアはその強く長い腕に抱き込まれたまま、何とかオリヴェルの身体を支えてベッドへと向かう。


「さあ、オリヴェル様」


 なんとか、と言った風情でベッドに座ったオリヴェルの両足を持ち上げ、そっと身体を横たえれば、オリヴェルが大きく息を吐いた。


 薬の影響なのか、もう意識は飛んでいるようなのに、それでもデシレアの手は離さない。


「ノア。薬液の片づけをお願い」


「はい。何かあればお呼びください」


 ほっと一安心、といった様子でノアはデシレアへと一礼した。


「ええ。そうするわ。ノアもちゃんと休んでね。貴女もご苦労様」


 ノアと侍女に言えば、侍女が深く頭を下げ、ノアは何だか面白そうに目を細める。


「デシレア様こそ。きちんとベッドでお休みくださいませ」


「え?」


 退室間際、口元を緩めて言ったノアに問い返そうとするも間に合わず、閉じた扉を暫し見つめたデシレアは、次の瞬間気が付いた。


「椅子が無い」


 デシレアの手を握ったまま、幸せそうに眠るオリヴェル。


 そして、そのベッド脇に立つデシレア。


 ベッドは広い。


 故に、まずベッドの端へと腰掛けたデシレアは、オリヴェルの寝顔を覗き込み。


「許されて」


 誰にともなくそう言って、オリヴェルの隣へと潜り込んだ。





本編はこれにて終了です。

ありがとうございました♪

機会があれば薬を盛られた裏話として『そのころ王城では ~オリヴェル視点~』『それからの王城では ~メシュヴィツ公爵視点~』を書きたいと思っています。


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