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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
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86 ヴィルド北門 列に並ぶ

僕たちはようやく領都に向かって草原を歩き出す。

「町、入っても大丈夫?嫌なら帰るよ。まじで。」

『大丈夫だ。俺はこう見えても、お前より都会暮らしが長いんだぞ。』

「あー。確かに。」

ふたりでくすくすと笑う。

そりゃそうだ。僕は街どころか、人間に会うのもはじめて。シンハは以前の飼い主?のセシルと一緒に旅していたのだから。


「あ!」

ぼくはとある重大なことに気付いて、思わず立ち止まり、声をあげた。

『?どうした。』

「あのさ、今気づいたんだけど…。」

『?』

「僕が、シンハの、眷属になれば良かったんじゃない!?」

シンハを見下ろしてもう一度問う。

「ねえ、シンハ、どうなの!?もう一回やり直せる??」

するとシンハは呆れたようにふりふりと首を横に振る。

「え、やり直し、きかない?あ、でもさ、シンハ聖獣だしもしかしたら」

『サキ。あきらめろ。やり直しはきかない。』

「えーでもさあ」

『あのな。サキ。お前、自覚がなさすぎるが、おそらく『この世界で唯一』の、『世界樹の息子』だぞ。お前は。』

「へ?」

『つまり、お前は、神様の子供。どこの王族より偉いのだ。』

「!?」

ぼくは面食らって目をぱちくり。


『いくら俺が神獣だといっても、どっちがアルジになるべきか、と言ったら、たとえまだひ弱だったとしても、お前のほうが魂の格が高いのだ!そこんところ、そろそろ自覚しろ。でないと、俺がだんだんみじめになる。』

「ど、どーしてシンハがみじめになるのさ。」

ぐちぐちと反論してみる。

『あたりまえだろう。いくら言ってもお前はユグディアルの子と自覚しない。そんなお前に従うことに決めた俺の身になれ!このトウヘンボク!』

「うぐ。」


『ユグディアル、すなわち世界樹は、お前の父親であり、母親なのだ。この世界ではいっとう偉い神様なのだ!その恩寵を色濃く持って生まれたのだぞ。お前は!もう少し、気高く生きようとは思わんのか!』

「うぐ。だ、だってさあ、会ったこともないもん世界樹。そういわれても…。」

いや、なんとなく会ったような記憶が…。いやいやあれは夢??

僕が考え込んでいると、はあーとシンハはため息をつき、意外に優しく僕を諭した。

『いずれ時がくれば、お前もきちんと会うことがあるだろう。そういじけるな。』

「むう。」

『とにかく。俺はお前の眷属になった。もう離れろといっても遅いからな。離れんぞ。』

「う、うん!ありがと!シンハ!」


僕は先のことなど考えないことにした。世界樹の子としての自覚についても、今は棚上げだ。とにかく、シンハは僕と別れない!そのことだけに集中すると、それは本当にうれしいことだった。そっか。シンハ、照れてるんだ。うれしいんだ。僕とこれからも一緒だと決まって。だからわざと怒ったふりをしてるんだ。

「これからもよろしく!相棒!」

『お、おう!まかせろ!』

ふふ。シンハが照れてる。可愛いんだ。

喜んでいる証拠に、尻尾はふっさふっさと揺れている。


るんるんと、気分もアゲアゲで僕はスキップしそうなくらい、軽い足取りで町へと向かう。草原を斜めに突っ切り、街道へ出ようとした時だった。

『サキ、首輪を俺にかけろ。』

「首輪?…そんなの、持ってない。」

『ないなら作れ。』

「え、やだよ。そんなの。」

『あのな、町に魔獣が入るには、テイムされていることの証拠に、首輪や鑑札が必要なのだ。鑑札は町へ入るときにもらえばいい。だが首輪なしでは俺は野良の魔獣として退治されるかもしれん。布でもなんでもいいから、首に巻け。』

「…判った。」


僕はシンハの言う意味をようやく理解して、亜空間を探した。そして以前暇にまかせてアラクネ糸で三つ編みにした直径7、8センチくらいの太めの紐を取り出す。

「これでいい?」

三つ編み紐を見せる。

『うむ。』

シンハの首に巻いた。

虹色の綺麗な三つ編み紐は、白いシンハをおしゃれに飾った。

「苦しくない?」

『ああ。大丈夫だ。』

「うん。なかなかいいじゃん。綺麗な色に染めておいてよかった。似合うよ。素敵だよ。」

『こほん。まあ俺はなんだって似合うのだ。ダンディだからな。』

「ふふ。はいはい。」

『ふふん。…そういえば、これはアラクネ糸だな。』

「うん。」

『ならなおさら都合がいい。』

「ん?」

『アラクネ糸なら俺が大きさを変える時、俺の魔力に反応するから、一緒に大きくなる。つまり俺の首を絞めないということだ。』

「あ、そか。そうだったね。」


アラクネ糸の不思議特性だ。

魔法で変身!なんていう時、服が破れないので裸になる心配がない。

黒龍の素材でシンハ用のレインコートを作った時、素材に魔力が通れば衣服も体に合わせて大きくなる、ということを聞いていた。それができるのが高位魔物素材や、アラクネ糸製の衣服だそうだ。

自分が変身して大きくとか小さくとかならない(できない)ので、すっかり忘れていた。


「あ、そういえば…今日これから冒険者ギルドに行く訳だけど、ステイタス、そのままでいいかなあ。」

『ああ、なるほどな。隠微はできるか?』

「まあ、ちょっとなら。」

『ちなみに今、お前のいうHPとかMPはどうなっている?』

「えーと、HPは180万、MPは800万かな。」

『ほう。多いな。』

「え、そう?比較対象がないから、よくわからないや。」

『黒龍も倒したからな。HPは1万、MPは10万くらいにしておけばいいんじゃないか?』

「そう。他は見ない?」

『ああ。適性くらいしか見ないだろう。』

「そか。んー、と。あれ。これ以上できない。隠微のレベルが低くて、あまり下げられなかった。」

『いくつだ?』

「HP5万、MP100万。」

『…。まあ、MPが多いが、いいだろう。エルフならありうる数字だからな。故郷で狩人だったから数値は高いということにしておけばいい。あ、隠微ができることは絶対隠せよ。』

「あ、そか。」

『それと、鑑定阻害もかけておけよ。』

「あ、うん。ありがとね。」

『ふん。』


町に近づくにつれ、ちらほらと旅人を複数見かけるようになってきた。さりげなく街道に上がり、旅人風情で歩いて行く。

人々の服装は、想像していた通りの、剣と魔法の世界にふさわしいもので、中世ヨーロッパ風だった。

今、僕が着ている緑グレーの、マントのようなゆったりローブも、さほど目立つ様子がなく、少しほっとした。

剣や斧などの武器を持った男たちが多いのは、冒険者の町だからだろう。


そうそう、結界は1枚だけのソフト仕様にする。僕の結界は、もちろん上質のものなので、誰にも見えないし感知も普通はできないもの、らしい。

1枚の結界は、もし町なかで人とぶつかっても、お互い怪我などしない程度の柔らかい結界だ。それでも鉄剣くらいは余裕で弾く。


森での探索や狩り、今回の旅の間は、必ず何重かのカッチカチの結界でガードしていた。だが住処の洞窟内では1枚だけで、しかもソフト仕様。虫刺され防止用に使っていた。

この「ソフト結界」は、体にフィットした結界なので、シンハをもふもふしてもお互い違和感もない。でも、強い力が急に加わると、ちゃんとプロテクトしてはねかえすスグレモノ。町なかで急にナイフで刺されても、たぶん大丈夫。っていうか、結界なしの生活をしてこなかったから、今更0枚にはできそうにない。


それに、僕の場合は結界をしていないと、すぐに妖精の子たちが寄ってきて、光っちゃうんだ。

世界樹の気配がするらしい。誘蛾灯みたい。やだなあ。

他の人はどうなんだろうと見渡すと、魔術師っぽい人でも結界を張っているふうではない。

そうだよね。魔力には限りがあるもんなあ。便利なんだけどな。結界。


門まではまだ結構距離がある。

これから入る人たちが並んでいるようだが、午後のせいもあってか、さほどでもない。

遠くから魔法で視力を強めて確認すると、その中に人族ではない人たちもいた。そう、獣人である。


「ふおお!獣人族だあ!ファンタジー、異世界!キタコレ!」

と僕。

『…おまえなあ。教えといただろう。獣人族もいると。』

「でもでも!見るのははじめてだもの!これは…うむ。なかなか新鮮な驚きだ。」

あの大きな商人風の男性は熊族だろうか。男の子を肩車している。相当高い位置だ。その前は人族との混合冒険者パーティーのようだ。狐族だろうか。ケモ耳がずりおちたフードからのぞいた。魔術師だろう。長い杖を持っている。

弓を担いだエルフの女性もいた。


「エルフもはじめて見たぁ。」

予想通りエルフは美人さんだ。

『あまりしゃべるな。おのぼりさんめ。』

「だって仕方ないだろ。本当に人里離れたところから来たんだから。」

と、ようやくたどり着いた列の最後尾に並びながらぶつぶつ言う。

街の入り口では入市審査をしているようだ。衛兵たちが何か手続きをしている。


と、重要なことを思い出した。

「あ、シンハ、そういえば僕、パスポー…じゃない、身分証明書かな?持ってない。大丈夫かな。」

『持ってなくとも大丈夫だ。農民は持っていないものも多いのだ。』

「そうなんだ。どきどき。」

『それより、あまり口を開くな。話しは念話だけでするほうがいい。変人にみられるぞ。』

「あ、そか。」

つい癖で、言葉を口に出してしまうが、そうだった。ひとりごとと思われてしまう。

「(これからは気をつけないとね。結構これ、慣れないと難しいかも。)」

『がんばれ。おのぼりさん。』

「(ちぇ。)」

そんな会話で緊張をごまかす。少し列が進む。


僕たちの前後は馬車で、前は人族の商人さん家族、後は複数台の馬車を連ねた、少し大きな商店の一行のようだった。護衛の人達は、きっと冒険者のパーティーだろう。

皆、なんとなく僕が白い大きな犬をつれていると思っているようで、ちらちら見ている。

魔獣と思っているのかどうかは判らないが、怯えていないから、犬と思っているのだろう。

シンハはいつもどおりの大きさまで小さくなっている。それでも大型犬くらいはあるが。


「(シンハのこと、犬かなにかだと思ってるのかな。みんな怯えてないね。)」

『当たり前だ。もっと凶悪な面がまえの魔獣をつれている奴だっているんだぞ。ほら、前のほうに、いるだろう。あれは魔狼だな。』

「(あ、ほんとだ。あれはさすがに狼だってわかるよね。)」

周囲の人は恐がっているようだった。

馬も怯えている。


「(シンハ、どうして前後の馬たち、シンハがいても怯えないの?)」

『それは俺が偉いからさ。』

「?」

『ちゃんと馬たちが安心できるような雰囲気にしてやってるのさ。』

雰囲気?ああ、なるほど、魔力を抑えているんだな。

「(なるほど。殺気とか魔力を抑えてくれてるんだね。)」

『そういった気遣いができるのが、都会慣れした魔獣なのだ。』

「(ふうん。てか、みんなただの大きな犬だと思ってるだけじゃないの?)」

『こら。』

「(えへへ。)」



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